2009/08/30

Permalink 16:07:36, 著者: Nobuo Sakiyama Email , 1420 回閲覧   Japanese (JP)
カテゴリ: プライバシー, 検閲, 情報社会, 著作権

高木さんがMIAU非難にノリノリな件

高木浩光さんがMIAUについての所感という日記記事を書いていて、その前後からはてなブックマークでも、ノリノリでMIAU叩きをしていて、そもそもMIAUとして何も意見表明していない楽天ad4Uの件までもMIAU叩きに使っているという状況になっている。ブックマークの件はとりあえず置いておくとしても、日記記事については、誤解や、人が組織を作って活動するということについての根本的な無理解があるのではないかと思うので、コメントしておく。

まず、「ダウンロード違法化」の件。一般には簡単に「ダウンロード違法化」と呼ばれているけれども、中身は、著作権の制限としての私的複製から(音楽と映画について)「著作権を侵害する公衆送信からの私的な複製」を除外するという話だ(実際にはもう少し限定する条件がつく)。そもそも著作権というのは有体物の所有権と比べると非常に人工的に作られてきた権利で、権利者と利用者の間でどうバランスをとるかという問題がそもそもある。ダウンロード違法化というのは、「私的複製」という、個人の利用者にとっては非常に大きな、かつ長らく確立されてきた領域を犯すものだから、利用者立場の団体が、それ以上の「具体的な弊害」に言及することなく批判するというのは、ポジショントークとしては当たり前だと言える。法案審議に関係したロビイングの中で具体的な修正案も用意したけれども、与野党の交渉に乗ることすらなく消えたものを具体的に公表することが、今まさにフェアユースなどの利用者側の利便を高める方向の検討が行われている状況で適切かどうかどうかという問題がある。まぁ、それでも、先日の小倉弁護士との勉強会で口頭で言っちゃっているので簡単にふれておけば、国外サイトの判断について日本の著作権法をあてはめて判断する(=現地では著作権の制限の範囲で合法でも違法公衆送信として扱う場合がある)という点と、権利者団体によるLマークの普及で「合法と信じられるサイト」のホワイトリスト的なものが形成されそれ以外のサイト(必ずしも違法ではない)の利用を抑制・抑圧するような社会規範が作られかねないという点から、それぞれの弊害を低減するような修正案を書いた、というぐらいのことは述べても問題ないのかな。

児童ポルノ単純所持の問題だけれども、そもそも、Winnyはそんなに大きい問題なのだろうか。もちろん、個々の被害者にとってみれば甚大な被害であることは間違いないけれども、現状、ググるだけで児童ポルノDVD販売サイトや児童ポルノ動画配信サイト、そしてそれらの広告ブログが大量にみつかり、それらのサイトでサムネイル画像という形で児童ポルノ画像が公衆送信されている。インターネットホットラインセンターへの通報で摘発につながっていると思われるケースもあるけれども、少なくとも、警察主導で根こそぎ摘発・閉鎖に追い込んでいるという状況はない。動画配信サイトで摘発されて大きく報道されたケースもあるけれども、摘発当時の報道からこれと推測されるサイトは、予告をしてから名称とドメインを変更する、ということを複数回行うという形で存続しているし、ドメイン変更が決済業者による規約違反に基づく契約解除だとされている点や、サムネイル画像未公表の「VIP専用」コンテンツの説明文に児童ポルノと疑わしい内容があることから、問題の摘発は末端の人間を捕まえただけに終わった可能性が高い。高木さん自身が公表されている Winny利用者数を考えても、Winnyのほうが深刻、と断言できる状況でもなく、技術的にも法的にも(撮影者が特定・検挙され児童が特定され有罪判決で確定しているものに該当性判断の上の困難はないはず)難しい点は何もないであろう Web ベースの児童ポルノ公衆送信を、まずは物量かけてきっちり取り締まれ、という議論をすることは、Winny を持ち出して非難されるいわれはないと思う。

ストリートビュー問題について。まず、プライバシー問題一般については、単純に現状のMIAUにリソースがないという問題はあり、いったいよちよち歩きの小規模団体に勝手な期待をしたあげくにそれをはたせないからと非難というのは、なんだかなという感じがする。極端な話、高木さんがネットのプライバシー問題をやりたいからとMIAUにコミットするという手はあったと思うよ。ノリノリに叩くポジションをとられた今となっては無理に見えるけどね。

そして、ストリートビューの問題だけれども、そもそも、MIAUというのは「インターネットユーザー」の利害を政策に反映させようということで作られた人工的な組織だ。当たり前のことだけれども、全生活がインターネット利用そのものであるという「純粋インターネットユーザー」というのはどこにもいない。人は、禄を喰むための仕事をしたり、あるいは学生なら勉強をしたり、ネットとは別に生活空間の暮らしというものが当たり前にある。そして、ネット以外の部分の利害反映については、既存の団体がいくらでもある。ストリートビューのプライバシー問題というのは、そのほとんどはインターネット利用ではなく生活空間上の問題だから、そもそもMIAUという枠組で何か言うべきなのかというと、言うことがないというのは、ごく自然なことだ。それでも、MIAUはストリートビューのシンポジウムを開いて注意喚起の火付け役の一翼を担った。その結果として、中川氏が総務省のWGに呼ばれた。彼と私ではストリートビューそのものの評価は異なり、たぶん私のほうがネガティブだが、中川氏は「ネットユーザー目線」を期待されて呼ばれたのであって、期待された役割は果たしたのだと思う。

ストリートビュー問題を含むパブリックコメントには、結果としてストリートビューへの批判が集まり、それを受けて総務省が対応を要請へ、という流れになっているけれども、それはそれで、「ネットユーザー目線」以外の意見が集まってよかったですねというところだと思う。細かくいえば、総務省に権限あるのかとか、権限が仮にないとして権限を持たせるのが適切かどうかというのは、別途検討が必要だろうし、あるいは、グーグルが要請に対応するとして、パブコメで強く指摘されていた差別や誹謗中傷目的のグーグルマップサービス(ストリートビューに限定されないだろう)の二次利用について、利用規約で制限をかけ、規約違反二次利用による著作権侵害としてあちこちの CGMサイトに削除依頼を出していくということになった場合、その運用が行き過ぎにならないかどうかは、気になるところではある。

2009/06/28

Permalink 14:30:30, 著者: Nobuo Sakiyama Email , 6256 回閲覧   Japanese (JP)
カテゴリ: プライバシー, 検閲, 通信傍受, 言論・表現の自由, 児童ポルノ問題

あなたにも分かる児童ポルノ単純所持処罰化の未来

前ふたつのエントリ、児童ポルノ禁止法改正に関して、 ブロッキングが拡大する危険性と、通信の秘密が大幅に侵される危険性について書いてみたのだけれども、長くて読みにくいよ、ということらしいので、両方合わせてもっと簡単に書くことにした。簡単に書くので仮定が入ってるってことやロジックの飛躍が出るけど、それはそういうものだと思ってね。あと、微妙に新しく気づいたネタも少し入れます。


児童ポルノ禁止法の自公案は、附則で「インターネットを利用した児童ポルノに係る情報の閲覧等を制限するための措置」の技術の開発の促進というのに言及して、三年後改正で技術開発の状況をみて、「必要な措置」つまり義務化を法改正で盛り込みたいっていっていて、これがトンでもなくヤバい。この技術的制限、というのが、一般には「児童ポルノブロッキング」と呼ばれている。

それから、国会質疑であきらかになったように、自公案の目的は、児童の被害を防ぐことではなく、「ペドファイルとのたたかい」だ。これもヤバい。

まず、自公案でも民主案でも同じなのだけれども、改正後の摘発には、必ず「ケータイ児童ポルノサイトの利用者の摘発」が含まれてくる。だって、ケータイってドコモとかAUとかソフトバンクのシステムの中に、Web閲覧履歴が残ってるんだもの。これをURLベースで総ざらいするのって、技術的には簡単だし、令状はきっと出るよ。

次は、「ケータイだと徹底して取り締まれるのにPCだと取り締まれない」という不満の声が警察から出るよ。一部マスコミも同調するよ。そのころには、ブロッキングが現実の日程に入ってきているので、「PCからのWebアクセスも全部ISPでログ取れ」という話になっていたりするだろうよ。ブロッキングのシステム構成によっては、これは簡単。

同時に、「ペドファイルとのたたかい」の「国際標準」にあわせろという声として「未遂・予備」を取り締まれという話になるよ。「自己の性的好奇心を満たす目的」が認定できれば、例えばブロッキングされてばっかりで一枚も児童ポルノを入手できていなくても、逮捕すべき、という議論だ。FBIおとり捜査とかって、そういうことだし。そういう面も、「全部ログ取れ」の主張を補強するし、ブロッキングされて児童ポルノを入手しなかったからといって安心できず、むしろブロッキングされたらそのうち警察から人が来て捜索・逮捕がおかしくない、ぐらいになるよ。

そして、そもそも、ブロッキングって憲法的にどうなの、みたいな話、推進派のひとたちは、問題だと思ってないみたいだよ。「児童ポルノはとっても悪いからやれ」とは言っていても、「原則ダメだけど、児童ポルノだから例外」とは言ってないみたいだよ。

ブロッキング推進派のひとたちは、被害児童の人権だけじゃなくて、「社会的法益」もよく言っているよ。でも、社会的法益でブロッキングしていいなら、児童ポルノだけじゃなくて、創作物はもちろん、あちこちのオトーサンが楽しんでいたりするカリビアンコムとかの海外無修正ポルノサイトだってブロッキングしていいっていう話になるよ。海外無修正ポルノサイトを見たりそこからダウンロードしたりすること自体は、今は違法性を帯びないけれども、刑法改正でそのへん微妙になってくるし、その延長の法改正が提案される可能性もあるよ。

で、今の関税法の輸入禁制品の一覧をみるとわいせつ物輸入を禁止しているのは「公安又は風俗を害すべき」物品というカテゴリーだから、そもそも、「違法コンテンツ」ですらないものだって、法的に海外からの流入を阻止してもいいっていう議論は必ず起きて、エロ以外にもブロッキングの対象は広げられる危険はあるよ。

ここまで全部の話、憲法の表現の自由とか通信の秘密とか、いったいどこへ行ったんだ、って感じだけれども、暴走されたら日本の裁判所が「法令違憲」と言って仕組を全部吹っ飛ばす可能性は、たぶんないよ。コンテンツ単位の「適用違憲」はありうると思うけどね。

Permalink 02:28:24, 著者: Nobuo Sakiyama Email , 1813 回閲覧   Japanese (JP)
カテゴリ: プライバシー, 検閲, 通信傍受, 児童ポルノ問題

児童ポルノブロッキングで黄昏ていくであろう通信の秘密

いよいよ始まった児童買春・児童ポルノ禁止法改正案の審議、いきなり最初から、自公案の提案者の葉梨議員が、いろいろと飛ばした発言をして話題となっているけれども、ここで注目したいのは、彼が連呼した「ペドファイルとのたたかい」という言葉。枝野議員が軽くツッコミを入れていたけれども、これはとても重要なポイント。実在の児童への人権侵害という「罪」を憎むだけでは足りず、内心において「ペドファイル」であれば、外部にいかなる影響を与えていなかろうと、社会から排除していこうという姿勢だ。これは、日本のみの話ではなく、米国や英国で先行している話であり、「創作物規制」の検討というのはそういう文脈で出てきていることは、この問題に一定の関心があれば、規制強化に賛成側であろうが反対側であろうが、気づいている人が多いのではないかと思う。

で、「ペドファイルとのたたかい」の強化の方向性は、もちろん、禁制品の定義の拡大だけではない。米国刑法典の児童ポルノ処罰の条項では、未遂・予備や共謀も、既遂と同等の罰則が定められている(連邦法では「単純所持」を問えるのは管轄上ワシントンD.C.やその他の直轄地域などの特別な場合に限られるが、州間ないし外国からの取得はカバーされている)。参考人質疑で保坂議員が共謀罪に言及したのはこれが念頭にあったと思われるが、いまいち参考人の前田教授に伝わりきらずにピントが定まらない返事が返ってきた。今回の改正の範囲ではなくとも、罪を憎むのではなく人を憎む方向を肯定するのであれば、将来の改正において、共謀はともかくとして未遂・予備を対象に含める動きは出るだろう。関税法による児童ポルノ輸入罪では、すでにこれらはカバーされている。こういうありうる将来がいかなる結果をもたらすか、というのがこのエントリーのテーマだ。

自民党案であれ民主党案であれどちらでもいいのだが、改正が成立したとして、いかなる児童ポルノ取得が実際に摘発されていくのか、ということを考えた場合、そのうちのひとつには、間違いなく、携帯電話向けサイトが含まれるだろう。摘発例として、「さくらんぼ女学院」という名称のサイトに関するものが報道されたが、そういう類のものだ。

そもそも、携帯電話でのWeb閲覧は、通信の秘密というものが非常に弱い。いわゆるケータイの世界では、Webのアクセスはすべてゲートウェイ経由となっている。そして、アクセスしたURLは、すべてログに残る。例えば、NTTドコモの「iモードアクセス履歴検索サービス」は、要申し込みのサービスだが、申し込んだ時点で「31日前まで」の履歴を閲覧することができる。つまり、申し込んでいなくても最低限それだけの履歴は蓄積されているということだ。こうした履歴は、もちろん契約者本人以外に開示されることは原則としてないが、警察が捜査令状を持ってくれば、もちろん開示する。NTTドコモの場合、プライバシーポリシーにも明記されている。報道でも、事件がらみで携帯電話のサイト閲覧履歴に言及されることは、少なくない。

ここに、仮に携帯電話向け児童ポルノ配信サイトがひとつあって警察がその存在を認知し、配信元が国外などで強制捜査やそれに基づく情報入手にやや困難があったり、あるいは配信元の摘発前に閲覧者情報を集めておきたいと考えたら、どうするかといえば、「被疑者不詳」の児童ポルノ単純所持、ないし有料・反復取得の事件として、サイトURL閲覧者一覧を得るような捜査令状を請求するのではないか。そういう網羅的な令状を許可する裁判官はおそらくいるだろうし、携帯電話事業者も、最初こそ問題視して不服申し立てをするかもしれないが、おそらく通らず、次からは素通しということになるだろう。そして、必要な一覧を生成するデータベース操作は、難しくない。そうして得た一覧から、例えば有料エリアのURLをアクセスしているとか、あるいは繰り返しアクセスしているとか、そういう端末の利用者を摘発していくということになる。萎縮効果を狙って、捜査手法は捜査の差し障りにならない程度に発表され、そして「ケータイからの児童ポルノサイトアクセス」は激減していく。

ここまで、まだ児童ポルノブロッキングは出てこない。しかし、発表のタイミングは、まさにブロッキングの導入の是非の議論が本格的になっている段階で行われるだろう。それは、児童ポルノブロッキングの「方式」をめぐる議論に影響を与えるためだ。

児童ポルノブロッキングで、すでに外国で導入されているものでメジャーなのは、DNSポイズニングと、ハイブリッドフィルタリングだ。DNSポイズニングは、ホスト名単位で児童ポルノサイトについて嘘のIPアドレスを返すようにする方式。ハイブリッドフィルタリングは、まずはホスト名からIPアドレスを返すところまでは真正のもので、その後、児童ポルノサイトや画像を含むホストへの経路を曲げ、透過プロキシーサーバを通し、そのプロキシーサーバでURL単位でフィルタリングを行う。DNS単位のブロッキングは、無関係なものもブロックしてしまうオーバーブロッキングが起こりやすい。しかし、DNSの問い合わせは、通常の運用ではログは残らない。また、残ったところで、それと「児童ポルノサイトへのアクセスの意図」との結びつきを証明するとも言い難い。一方、ハイブリッドフィルタリングの場合、プロキーシーサーバを通ったものは、通常の運用でログが残る。ただし、事前にIPアドレスで振り分けられている。

ハイブリッドフィルタリングが用いられている背景は、対象サイトが少数という前提の場合、全ユーザーの全HTTPトラフィックをプロキシーサーバーに通すよりも、設備投資の面で合理的だということにある。しかし、やっていることは複雑だから、例えば3号児童ポルノが現行法どおり残ることになって海外合法サイト多数をブロッキング対象から外せなくなり、さらに創作物が加わって、ということになって対象サイトが多くなりそう、ということになった場合、どこまでコスト面の優位性があるかは不透明だ。ISP内で経路をルーティングするルータ上に、細かいIPアドレス1つずつをプロキシーサーバに通す経路情報を加えていくと、性能上の問題が出る場合がある。IPアドレスをブロック単位でまとめるようにすれば、プロキシーサーバの性能強化が必要になる。いっそのこと、ユーザーのアクセス線から近いところに比較的安価な機器をたくさん置いて、全トラフィックをフィルタリングしたほうが楽、という話が出てくるかもしれない。そうしたタイミングで「全トラフィックのログがあったほうがペドファイルとのたたかいに望ましい」という議論が出てくる可能性がある。 全トラフィックのログがあれば、例えばサイト通報でブラックリストにサイトを追加したさい、今後のアクセスをブロックするだけではなくて、遡及的にログと突き合わせてアクセスした人物を特定していくことができる、といった議論だ。もちろん、「スマートフォンやPCが、ケータイから逃げたペドファイルの居場所になっている」という掛け声がついてくる。また、「未遂・予備」が処罰対象になると、ブロッキングの意味合いも異なってくる。そうしたものが処罰対象でなければ、ブロッキングには、「ユーザが違法行為を犯してしまうことから守る」というパターなりスティックな効果もあるのだが、未遂・予備罪のある状況では、ブロッキングされたということは、自らが捜査対象となる覚悟をしなさい、という話になる。

そして、ユーザーの全HTTPトラフィックがプロキシーサーバ経由となり、すべてログをとられるようになれば、そのログの捜査令状が児童ポルノ捜査目的のみということはおそらくなく、あらゆる犯罪捜査目的に「活用」されていくだろう。こうして、私たちの「通信の秘密」は、大幅に損なわれていく。これは、ありうる未来のひとつだと、私は思っている。

2009/06/26

Permalink 04:07:42, 著者: Nobuo Sakiyama Email , 2237 回閲覧   Japanese (JP)
カテゴリ: 検閲, 通信傍受, 児童ポルノ問題

Great Firewall of Japan が構築される可能性について

今回書く内容には、あえて物騒なタイトルをつけた。これは、ひとつの論理的な可能性であって、私が具体的な動きを認知しているわけではない、というのは念のために冒頭で述べておく。

6月26日から、児童買春・児童ポルノ禁止法改正案の審議が始まる。与党案と民主党案の間に大きな開きがあり、明らかに衆議院解散が近く、その後の議会構成が大幅に変わることが分かりきっている状況、そして、犯罪を新設する重い法案であり、かつ、憲法上の問題もクリアにしておく必要がある、ということを考えれば、強行採決→再可決による与党案成立、というのを、反対運動の人々の力で「今国会で」阻止することは不可能ではないだろうし、与党と民主党との修正案を含めた妥協の成立を時間切れに持ち込むこともまた、可能性はなくはないだろう。ただ、ざっくり言って、それを永続化できるかといえば、結構厳しいんじゃないかとは思っている。

ネットの問題を考えるさいに本当に悩ましいのはその先、で、すでにいろいろ話題となっている「児童ポルノブロッキング」の問題だ。ブロッキングは、ユーザの HTTP でのISP外への通信すべてについて、根こそぎ調べて「児童ポルノとして登録されたサイト/URLか」を判断するわけで、児童ポルノに関係あろうがなかろうが事実上すべてのネットユーザに関係する問題であり、個人的には、そのような通信への介入は基本的人権という面で到底受け入れがたいし、技術的にも問題が多く、無関係のはずの多数のユーザの利用に悪影響を与えると思っている。後者については、MIAUからの総務省報告書へのパブコメでかなりの内容を突っ込んだかいもあり、「ブロッキング」のフィージビリティが今後調査されるさいのハードルをかなり上げることができたのではないか、と思っている。とはいえ、ブロッキング導入派の熱心さはおそるべきものがあり、はたして、数年後の日本のISPがおしなべてブロッキングを導入するはめに陥っているか、あるいは一部ISPにとどまるか、はたまた「無かったこと」になるかは、まったく読めない。ここで重要なのは、ブロッキングが導入されるかどうか以上に、ブロッキングとユーザの権利との関係が、いかなる形で決着されるかだ。

日本の憲法には「通信の秘密」があり、また電気通信事業法にも「通信の秘密」があり、これらは篤く保護されてきた。もっとも、例外はあり、1999年に通信傍受法が成立して実際に使われている。私自身は、通信傍受法は違憲だとずっと思っているけれども、最高裁判所が違憲判断を出す現実的な可能性はない。ただ、通信傍受法の成立に至る過程で、これは極めて例外的な基本的人権の制限だということから、実施は厳格な制限のもと行われる枠組となっているし、適用犯罪の拡大も、今のところはないとは言える。

ところが、ブロッキングについての推進派のここらへんへの主張はというと、ゆるゆる、だ。単純所持禁止などの法案が国会に出て成立、というのを待たずに話が出ていることもあり、現行法のもとで可能、という議論をしている。そして、児童ポルノ拡散の害悪がブロッキングの必要性として縷々語られるが、ユーザの権利との関係について、「原則ダメだが児童ポルノという特別なものだから例外的に優先」というロジックは、見られない、ないし希薄だ。「原則ダメ」とは言っていない。とくに、児童ポルノ拡散の害悪について、社会的法益の面が強く語られるというのが問題で、それなら児童ポルノでブロッキングできるのなら、他の「重大な社会法益」を理由としたブロッキングもできるだろう、という議論が、児童ポルノ関係以外のところで起こる。そういう話を始めている人達はいるらしい。単純所持規制の導入を前提に、児童ポルノに架空の創作物を足したいという議論が広く行われているが、ことブロッキングについてはそれで止まるのかね?ということだ。

ポルノといえば、児童ポルノや「児童を描いた創作物ポルノ」に限らない。犯罪の国際化及び組織化並びに情報処理の高度化に対処するための刑法等の一部を改正する法律案という内閣提出法案がある。これは巨大な法案で、その一部が「共謀罪法案」ということで、野党の大反対があり、過去の国会では審議が行われたこともあったが、「ねじれ国会」を反映して実質審議が止まっている。法案の性質上、衆議院再可決で強行するのは無理筋で、普通に考えて、衆議院解散で廃案になるだろう。ただ、与野党で意見対立があるのは、共謀罪のほか、サイバー犯罪条約関連での電磁的記録の保全や差し押さえ、通信ログの保全などで、サイバー犯罪条約関連での野党の要求は手続きの厳格化やログ保全日数の短縮で、完全反対論ではない。総選挙後の国会で、共謀罪を切り離した法案が提出されれば、遠からず成立するだろう。この法案に、次のような条項がある。

第百七十五条中「図画」の下に「、電磁的記録に係る記録媒体」を加え、「、販売し」を削り、「又は二百五十万円以下の罰金若しくは科料に処する」を「若しくは二百五十万円以下の罰金若しくは科料に処し、又は懲役及び罰金を併科する」に改め、同条後段を次のように改める。

電気通信の送信によりわいせつな電磁的記録その他の記録を頒布した者も、同様とする。

第百七十五条に次の一項を加える。

2 有償で頒布する目的で、前項の物を所持し、又は同項の電磁的記録を保管した者も、同項と同様とする。

犯罪の国際化及び組織化並びに情報処理の高度化に対処するための刑法等の一部を改正する法律案

「情報処理の高度化」に対応するために、刑法のわいせつ物頒布、公然陳列の罪について、現在は「物」有体物にこだわっているところ、「電磁的記録の頒布」という概念を持ち込もう、というものだ。この法案が最初に出たころ言われたのは、「メールマガジンでのポルノ画像の頒布を対象にできる」といったことだ。現在の法解釈では、例えば「Webサーバのハードディスク」が公然陳列されている、という判断となっている。電子メールの場合、個々のメールは個別のユーザに送られていて、公然陳列されているハードディスクはない。物を送ってないから、頒布でもない。これが、「電磁的記録の頒布」となれば取り締まり可能だと言われている。もっとも、すでに取り締まられて法解釈を争ってないケースは世の中あるのかもしれないが。

で、それで止まるかというと違う可能性がある、と考えている。海外にWebサーバを設置して、日本では「わいせつ物公然陳列」となるような映像配信サービス、というのを日本に対して行っている事業は現実にある。これを、日本在住の人間とか日本法人がやれば罪に問われるが、そこは迂回して「合法的」にやっているというやつだ。ビデオリサーチインタラクティブのデータの上位にも、そういうサイトはある。これは、今は国外の会社が国外で勝手にやっているものを、日本在住者が見に行っているだけ、だ。「公然陳列」の場所は日本の主権の及ばない国外であって、実行行為のどこも日本に関係なければ、日本が犯罪に問う対象ではなく、それを日本在住者が電気通信で受信しているだけだ。これが、刑法が改正されると、「わいせつな電磁的記録が日本国外から日本国内に頒布されている」という形で、問題化しやすくなるのではないだろうか。次のステップは、「わいせつな電磁的記録の輸入の禁止」だ。現在、「わいせつな写真集」や「わいせつなDVD」を、貨物として国内に輸入しようとして税関検査で発覚すれば、よくて放棄させられ、悪ければ罪に問われる。これは、関税法の「輸入してはならない貨物」に「公安又は風俗を害すべき書籍、図画、彫刻物その他の物品」とあるからだ(児童ポルノは別扱い。なお、昔は関税定率法だったので、そちらで覚えている人も多いと思う)。関税法の枠組は貨物という有体物のためのものだから、その中で「電気通信の受信によるわいせつな電磁的記録の輸入の禁止」を行うことは、およそ考えられない。しかし、輸出入の規制を行う法律は関税法に限らない。外国為替及び外国貿易法(外為法)では、対象となる貿易取引は有体物に限定されていない。外為法にわいせつな電磁的記録の輸入の禁止を入れるのは無理筋のようにも思うが、国境を越えたデータのコピーを輸出入として扱う法的枠組はすでにあるのだから、「わいせつな電磁的記録の輸入の禁止」を定める法律を技術的に作れないとは思われない。なお、最近のWIRED VISION記事にあるように、アメリカではわいせつなデータの州をまたぐやりとりは違法であり、これは条文をみると国境をまたぐ場合も同様だ。

ここまで想像を広げて話を戻すと、社会的法益を理由として「わいせつな電磁的記録の輸入の禁止」が定められた場合、すでに「児童ポルノブロッキング」が導入されていて、そこに「原則ダメだが児童ポルノという特別なものだから」というロジックが欠けていた場合、「わいせつな電磁的記録」もまたブロッキングの対象に加えるという提案に、抗することができるのだろうかというと、難しいだろう。また、関税法をいま一度見れば、そういう拡大が「公安又は風俗を害すべき」電磁的記録へとさらなる拡大を呼び込むこともまた、可能性としてはあるだろう。また、詳細はここまで論じていないが、ブロッキングを実施するとなれば、方式によって程度は異なるが、ユーザの閲覧履歴がISPのサーバにログとして残る。このログは、捜査当局の保全・差し押さえ対象となることにも留意したい。ここまで至れば、「児童ポルノブロッキング」と呼んでいたものは、Great Firewall of Japan へと変貌をとげる。

ここまでの話、ワーストケースとして考えてみたのだが、しかし、ブロッキング対象の拡大という話は、すでにブロッキングが導入されているヨーロッパの国では現実のアジェンダとしてあがり始めている。児童ポルノブロッキングは、こうした全面的な検閲体制への一里塚になる可能性が十分にあるから、なるべくなら阻止すべきだし、仮に阻止できなくとも、きっちりと児童ポルノに限定されるような形にする必要がある。

2009/05/16

Permalink 22:12:14, 著者: Nobuo Sakiyama Email , 2491 回閲覧   Japanese (JP)
カテゴリ: 検閲

「レイプレイ」叩きに見るポリシーロンダリング(3、止)

長いので分けて書いてきた本記事ですが、 その1その2ときて、この記事はその3になります。

ここまでの要約: 「レイプレイ」が最初にイギリスで叩かれたタイミングは、児童の性描写を含む創作物のうちわいせつなものの単純所持を禁止する法案の集中審議の直前で、同時に暴力ポルノの一部の単純所持禁止も開始され、かつ範囲拡大に向けた動きがあり、後者に深く係わった法学者はラディカル・フェミニズム系の反ポルノ運動の系譜にあり、ラディカル・フェミニズム系の反ポルノ運動の代表的な存在のCatharine MacKinnonや、Equality Nowともつながりがある。

さて、Equality Now のそもそものスタンスなのだけれども、まず、Equality Now ではThe Lawyers’ Alliance for Women (LAW) Projectというのをやっていて、「女性の平等権の推進」のために、法改正を求めることを含めて「法を使っていく」というのをやっている。このプロジェクトの共同代表のひとりに、前述のCatharine MacKinnonが就いている。また、LAW Project自体は 2001年からだそうだが、その活動のひとつとされるAmicus Curiae Briefs提出の項の先頭で書かれているのは、LAW Project開始から遡る2000年、カナダのLittle Sisters Book and Art Emporium v. Canadaという最高裁判決への貢献となっている。この判決について説明するには、さらに1992年に遡って R. v. Butler(バトラー判決)という別のカナダ最高裁判決から説明する必要がある。この判決は、わいせつ物規制を「モラル」を理由として行うことは表現の自由を侵害するものとして違憲としつつも、わいせつなポルノは平等権侵害となるのでそれからの保護としての規制は合憲である、というロジックで、わいせつ物規制を肯定したものとされている。ただ、バトラー判決では、具体的には異性愛ポルノについての事件となっていて、直接には「男女平等」を害するという話になっていた。一般に、この判決は、わいせつ性判断において性暴力を大きく考慮する傾向をもたらしたこともあり、反ポルノのフェミニズムのうち、法的規制を肯定する立場の人々にとって、大きな勝利とみなされている。さて、次に Little Sisters Book and Art Emporium v. Canada である。こちらは、同性愛者向けの書店が、アメリカからの書籍輸入を税関で(しばしば)差し止められたものについて、表現の自由を侵害していると国を訴えたものだ。同性愛者むけ書店なので、ここで問題になるのは女性むけのレズビアンポルノグラフィや、男性むけのゲイポルノグラフィになる。より具体的には、SMポルノグラフィが問題となった。判決は、バトラー判決はジェンダー中立だとして規制を合憲だとした。この裁判でEquality Nowは国側を支持する Amicus Curiae Brief を出した。提出されたものそのものは探し出せていないのだが、Equality Nowの年次レポートの2000年版には次のようにある。

From Equality Now’s Factum to the Supreme Court of Canada: Equality Now submits that lesbian and gay male pornography, including sadomasochistic pornography, promotes inequality-based harms, no less than does hetereosexual pornography. Specifically, this material advances and promotes self-hating, aggressive, violent, non-consensual behaviour as positive, normal and liberating. In so doing, it reinforces those social attitudes and behaviours that create systemic inequality on the basis of sex and sexual orientation— misogyny and homophobia alike—by sexually conditioning lesbian women and gay men to those attitudes and practices. The result is harm to individuals who are rendered inferior, vulnerable and unequal on the basis of their gender.

EQUALITY NOW: ANNUAL REPORT 2000

私には、「同性愛者が自身の性的指向に沿ったポルノグラフィを閲覧すると、それがよからぬことを助長して、その結果として社会の同性愛嫌悪が強化されるから有害である」という主張は、およそ転倒したロジックにしか読めないし、そもそもこれ自体が同性愛者をかなりバカにした主張のように読めるのだが、とにかくこの主張のほうをカナダの最高裁は採用した、ということになる。そして、Equality Nowが、行為者の合意にかかわらずSMポルノグラフィをどのようにみているか、よく分かる内容でもある。彼らにとって、「性暴力ポルノ」は、強姦描写にとどまらず、十分な合意があっても、SMポルノグラフィは性暴力ポルノとなる。というか、もっと言えば彼らのスタンスでは、BDSM自体が性暴力として否定されるべきなのだろう。英語版 Wikipedia で Sex-positive feminismや、Anti-pornography movementといった項目に、フェミニストの間でのスタンスの違いについて簡単に書いてあるが、詳しい話は書籍にあたることになるのだろう(たぶん、Macskaさんとかは専門なので詳しい)。

さて、で、レイプレイ叩きの話に戻ると、Equality Nowはニューヨークが本部だけれども、ロンドンにも事務所がある。Wikipediaによれば国際研究センターとヨーロッパでの拠点だそうだが、こういう場所を持っていることで、イギリスの規制強化の流れとの連携も可能だろうし、ネットや一般的な報道以外にもいろいろ聞いて自分達のアクションにつなげた可能性もあるだろう。Equality Now の幹部の一人が角田由紀子弁護士だからって、彼女とAPP研のジサクジエン説をとなえて安心する人達は、ややポイントを外しているのではないかと思ったよ。

Permalink 20:02:38, 著者: Nobuo Sakiyama Email , 2797 回閲覧   Japanese (JP)
カテゴリ: 検閲

「レイプレイ」叩きに見るポリシーロンダリング(2)

前の記事の続き。

イギリスでレイプレイについて騒いだ国会議員の発言をみると、「子ども」よりも「性暴力」に重点があるようにも見える。イギリスではextreme pornography という形で、過激な暴力ポルノなどの単純所持が違法化されたことは施行直前の去年の時点でも言及したのだけれども、それが今年に入って施行されている。ところが、ここで付け加えるべきことがあって、この文章では、ここまで「イギリス」と書いていて、これは日本語の通常の意味ではUnited Kingdom全体を差すのだけれども、イギリスは名前のとおり「連合王国」なので、法体系が複数あったりする。一般論では、イングランドとウェールズでひとつ、北アイルランドでもうひとつ、スコットランドで三つめ、となっている。詳しくはWikipedia英語版の記事をみてもらうとして、とりあえず、ここで話題にしているような刑罰法規については、北アイルランドはイングランド・ウェールズとほとんど一緒(両方とも連合王国議会が決めるので、新しい法律は基本的に一本の法律で書く)なのに対して、スコットランドは独自性が高い(スコットランド議会が別途決めているし、そもそも大陸法の要素が強いそうだ)。ということで、スコットランド版の extreme pornography 禁止は、今年の3月にスコットランド議会に提出された法案、Criminal Justice and Licensing (Scotland) Billの34条になっている。この中身は、ややイングランド版とは異なる。イングランド版では

63 Possession of extreme pornographic images
(7) An image falls within this subsection if it portrays, in an explicit and realistic way, any of the following—
(a) an act which threatens a person’s life,
(b) an act which results, or is likely to result, in serious injury to a person’s anus, breasts or genitals,
(c) an act which involves sexual interference with a human corpse, or
(d) a person performing an act of intercourse or oral sex with an animal (whether dead or alive),
and a reasonable person looking at the image would think that any such person or animal was real.

Criminal Justice and Immigration Act 2008 (c. 4)

となっているところ、スコットランドの法案は

(6) An image is extreme if it depicts, in an explicit and realistic way any of the following—
(a) an act which takes or threatens a person’s life,
(b) an act which results, or is likely to result, in a person’s severe injury,
(c) rape or other non-consensual penetrative sexual activity,
(d) sexual activity involving (directly or indirectly) a human corpse,
(e) an act which involves sexual activity between a person and an animal (or the carcase of an animal)

Criminal Justice and Licensing (Scotland) Bill

となっている。まず、怪我を負わせる、もしくは負わせうる場合の程度が serious から severe に上がっている一方で、怪我の部位がイングランド版のように「肛門、胸、性器」と限定することはなくなっている。もっとも大きい違いとされるのが、c節にある強姦等の描写の導入で、これは暴力的なものに限らないし、日本で言う準強姦も含まれている。また、イングランド版の "a reasonable person looking at the image would think that any such person or animal was real" という限定がスコットランド版にはない。ただし、これについては "an explicit and realistic way" で実質カバーされるような解説が Explanatory Notes にあり、どの程度の違いかは専門家でない私には判断できない。

イギリスでのextreme pornographyの禁止を大きく後押ししたのは一件の殺人事件だということが広く知られている。事件は、男性が女性をベッドの上で絞殺したもの。この男性が、これを合意の上での「窒息プレイ」で起きた事故だと主張し、男性のコンピュータの閲覧履歴に同種のポルノのWebサイトがあったという(女性がその種のプレイの愛好者であるという証拠はない)。男性は殺人罪(murder)で起訴され有罪となったが、控訴後、殺害の意図が無かったということで故殺罪(manslaughter、日本の傷害致死に近いが同一ではない)に格下げになっている(刑期自体は変わらず)。この女性の遺族が、extreme pornographyの禁止の運動の先頭に立っていた。

問題は、禁止対象が必ずしも現実の殺人や傷害の記録である必要がないこと、同意の上での性行為の描写が少なからず対象になるという点だ。前記の男性が閲覧していたという「窒息プレイ」ポルノにしても、危険な行為であることは否めないにしても両者の合意の上で行っている人達が少なからずいて、また、性器等への傷害についても、BDSMの文脈では、特に「身体改造」のジャンルで合意の上で行われることはある(実際の傷害に至っていない場合を含めればさらに広がる)。また、屍姦的な要素は、ゴス文化の文脈に少なからずある。イギリス国内ではBacklashという、広範なグループからなる反対運動の組織が作られた(Wikipediaでの解説)。BDSM方面の著名人では、Fakir Musafarが、彼自身はアメリカ人だけれども、イギリスでの公演・ワークショップなどの関係でつくったMySpaceのページのブログでBacklashへ加入して反対運動に参加することを呼びかけた。

その一方で、規制賛成派はどういう見解かといえば、まず、政府は、extreme pornographyを「見ること」の有害性を主張して規制を正当だとし、従来の出版規制で合法とされているものは対象でないのだら BDSM コミュニティ抑圧にはあたらないとしている。しかし、単純所持規制は、出版などを予定していない、行為に参加したもの自身の所有が問題になる。この点は、「合意の上」のものについては、行為者自身の所有は処罰対象外(屍姦や獣姦は合意不能なので自己所有の免責はない)。しかし、合意だということと自身が参加者だということの挙証責任は訴追する側ではなく、所持した側にあるとされる。また、現場でいただけの人物は免責対象にはなっていない。一方、Durham大学ロースクール教授のClare McGlynnという人がいて、彼女は規制派として法案作りにも参加したと言われていて、賛成派と反対派の双方が参加した会議のコーディネーターでもあったりするのだが、Northern Echoという新聞系ニュースサイトの記事で、彼女は

Professor McGlynn said: "The conviction of Graham Coutts does not show that there is a casual link between looking at extreme pornography and sexual violence.

"Nevertheless, the prevalence of extreme pornography sustains a culture in which rape and sexual violence are normalised and legitimated; in which a woman's 'no' is not taken seriously, as evidenced by the low conviction rate for rape.

"It is not clear that the horrific rape websites, which are widely and freely available on the internet, are covered by the measures contained in the new Bill.

"We consider that these websites should clearly be covered."

Action urged to tackle extreme internet porn 8:27am Friday 6th July 2007, The Northern Echo

と、個々のextreme pornographyを見ることと実際の性暴力との間の、直接の因果関係は否定しつつ、それは問題ではなく、そういうものを許容する文化が問題だとし、イングランドの法案で強姦描写がカバーされていないことに不満を表明している。彼女はその後、今年に入ってからのスコットランドの法案についての記事で、強姦描写が対象となったことを歓迎している。

ここで注目したいのは、強姦描写が加わったことではなく、因果関係ではなく文化それ自体を問題としている点。これは、今後、実在の人物についてのものだという限定を外す方向を彼女が主張する可能性があると同時に、このロジック自体、彼女がラディカル・フェミニズム系の反ポルノ運動の系譜にあるということを言っているようなものだからだ。実際、昨年彼女が大学で開催したRethinking Rape Law: Akayesu 10 Years Onという国際会議では、招待講演者の一人に、かの Catharine MacKinnonの名があり、それと並んで Equality Now の代表の Jessica Neuwirth の名前もある。

Equality Nowの名前がやっと出てきたところで、以下は別記事にします。

Permalink 15:59:17, 著者: Nobuo Sakiyama Email , 8910 回閲覧   Japanese (JP)
カテゴリ: 検閲

「レイプレイ」叩きに見るポリシーロンダリング(1)

「レイプレイ」という、ひとつの、おそらくはマイナーなエロゲーが猛烈な勢いで叩かれた件について、今さらながら書いてみたいと思う。表面的な流れについては、セキュリティmemoの小島さんが手際よくまとめているので、もうちょっと背景的なものを。

単純に追っていくだけでも、抗議を行ったEquality Nowは、一貫して「女性に対する性暴力ゲーム」の禁止を求めており、ゲームで児童の年齢のキャラクターが扱われていることへの言及は、描写されている性暴力の程度を強調するだけのものにすぎないし、日本の児童ポルノ禁止法への言及も、APP研の見解を紹介する形になっている。しかし、読売新聞のキャンペーン支持的な報道では「児童ポルノ」(と言っているが実在の児童と関係しないもの)と強く結びつけられていることがわかる。Equality Nowのメッセージそのままでは広範で強すぎるので、昨年来の日本ユニセフ協会などのキャンペーンと結びつけるように、あえてメッセージを狭めたものだ。しかも、読売新聞では

インターネットで国を越えて情報が流通するなか、子どもを性的に描写した児童ポルノの扱いが国際的な問題になっており、米国や英国などは漫画やコンピューターグラフィックス(CG)の画像なども含めて製造や販売を禁止している。

性暴力ゲーム、規制議論を 読売新聞 2009年5月13日

という、明らかな嘘まで書いている(この点は後述)。

ここから今回の背景に。まず、「レイプレイ」を最初に槍玉に上げたイギリスの事情から。イギリスではこのところ、刑事法規の改正が急ピッチで行われていて、そうした中で、性犯罪や性表現規制が強化されている状況にある。まず、現行の単純所持禁止の「児童ポルノ」の対象を確認すると、「写真」や「擬似写真」、そして、それらのトレース画などとなる。CGが問題となる場合、それはほぼ写真のように見えるリアルなもの。立法目的は描写された児童の存在を刑事訴訟のレベルで証明するという重荷から検察を解放することであって、実在でない描写を取り締まるものではない。トレース画など、実在のものからのトレースなどの「由来物」は、やはり実在児童の被害を前提にするから取り締まろう、ということで追加されたものであって、やはり創作物を取り締まるものではない。それ以外は、従来からのわいせつ物取り締まりの法律であるObscene Publications Act 1959が適用され、deprave and corrupt test と呼ばれるもので判断される。映像の頒布については、Video Recordings Act 1984 により、政府から独立している British Board of Film Classification (BBFC)による事前審査とレイティングが必須とされ、ゲームは映像に含まれているが、子どもを性的に描写したアニメやゲームが発禁になるのは結局のところ obscene と判断される場合で、レイプレイがもし審査されていれば発禁とされた可能性はあるが、全ての子どもを性的に描写したアニメやゲームが当然に発禁になるものではない。また、これらはいずれも出版や頒布を規制するものであって、単純製造を規制するものではない。従って、前述の読売新聞の記述は、現時点では明確に嘘である。なお、米国の場合は、「わいせつ」であることを前提にして視覚的創作物で児童描写の単純所持を禁止している。わいせつかどうかが問題になるので、やはり「子どもを性的に描写した漫画やアニメ」全ての製造販売が禁止されているわけではない。

さて、実のところ、イギリスでは、創作物に関する禁止は、現在の話ではなく、近い未来の話だろう。現在、イギリスの国会には、政府からCoroners and Justice Billという法案が提出されていて、審議経過をみると、すでに下院は通過し、貴族院の審議に入っている。法案の内容 (下院通過バージョン)はかなり幅広いのだが、第52条以下58条までの内容(政府原案では49条以下、となっていて若干ずれる)が、まさに創作物に関する禁止(prohibited images of children) になる。米国の場合、従来のわいせつ物頒布罪などと同一の定義を含めるなどして、従来公表が禁止されていないものをあらたに処罰対象とすることがないようになっていたが、この点、Coroners and Justice Billでは処罰対象を

(2)A prohibited image is an image which—
(a) is pornographic,
(b) falls within subsection (6), and
(c) is grossly offensive, disgusting or otherwise of an obscene character.

としていて(b節の参照先は具体的な描写内容の列挙)、最後のc節は従来のわいせつ物罪を定めた Obscene Publications Act とは異なる書きぶりで、そこのobscene は辞書通りの意味であって Obscene Publications Actを参照するものではない、ということになっている(ただ、どうやら、a,b,c併せてObscene Publications Actの範囲内、ということは前提されているらしい)。そして、55条での「子どもの画像」の定義で、画像に描かれた人物の全体としての印象が18歳未満の子どもであれば、「肉体的特徴」のいくつかが子どものものでなくても、それは子どもとみなす、とされていて、はっきりとある種の漫画をターゲットにしている。ちょっと詳しく立ち入り過ぎたけれども、いずれにせよこの法案はまだ審議中であって、前述のように読売新聞が嘘を書いたことは動かない。

ここで、ひとつ見るべきなのかもしれないのは、ゲームがイギリスで問題にされたタイミングは Coroners and Justice Billの審議が始まったすぐ後だったということだろう。委員会質疑の開始が2月3日で、その日と5日に参考人質疑がまとめて行われていて、Internet Watch Foundationからも参考人が出ていた。イギリスでの「レイプレイ」報道は2月12日から。そして、prohibited images of childrenの条項の集中審議は3月3日に行われている(リンク先は議事録)。イギリスでは Coroners and Justice Bill に問題の条項があることは大きく報道されているから、イギリス国内では法案と関連付けて受け取られた可能性は高いだろう。しかし、日本の報道からはそれは見えない。ただ、prohibited images of childrenは、まさに読売新聞のいう「子どもを性的に描写した児童ポルノの扱いが国際的な問題になっており」という文脈のものではある。

しかし、冒頭に書いたようにEquality Nowは児童描写に限定した話をしていない。ということでさらに続けるのだけれども、この記事はもう十分に長いのでいったんここで切って別記事で続けます。

2009/04/23

Permalink 10:45:38, 著者: Nobuo Sakiyama Email , 2217 回閲覧   Japanese (JP)
カテゴリ: 検閲, 情報社会, 児童ポルノ問題

「ネットは検閲をダメージと解釈し、それを回避する」

タイトルは有名な1993年のジョン・ギルモア(EFFの創設者の一人)の言葉だけれども、うん、楠さんが日経で書いた出会い系規制でSNSを標的にした警察の動きに対しても、そういう事態が現在進行形で起きているようだ。

4月2日に警視庁が出会い系の書き込みの削除を要請したSNSなどという6社のうち、社名が報じられた4社のサイトはEMA認定サイトだけれども、他の2社は名前が出ていない。口頭要請だったとはいえ、関係する内部文書を情報公開請求でもすれば分かるかな、という気はするが、それはおいておく。数日して、これは神奈川県警なのだけれども、「児童買春:25歳消防士逮捕」という記事があり、

2人は「エスタ」と呼ばれる携帯電話のコミュニティーサイトを通じて知り合ったという。

児童買春:25歳消防士逮捕 神奈川県警 - 毎日新聞 2009年4月6日 21時52分
「エスタ」とサイトの名前が出ている。エスタ(ケータイからのみアクセス可能)は、携帯電話コンテンツの事業を行っている株式会社アブサンが運営する「コンテンツ搭載型SNS」で、当初は掲示板サイトだったらしいが、2007年にリニューアルして会員数をそこそこ増やしてきていたということらしい。簡単に言えば、モバゲータウンやグリーと同類サービスということになる。エスタの特徴は、同業他社の多くがアバターを使っているところ、各利用者が携帯電話で撮ってメールで送る写真、「写メ」を積極的に利用してもらおう、という点にあった。

株式会社アブサンは、2006年設立の資本金1000万円の企業で、本社所在地を検索してみると、レンタルオフィスで間取りをみる感じ、数人がやっとという感じになる。スタートアップ企業がネットサービスをやるというとこんな規模というのは珍しくないだろうが、とりあえず、「健全化」のために大手企業のような人海戦術をやる、というのはどう見ても無理、という状況で、事実として、野放しに近い運用だったようだ。ユーザー登録しなくても登録利用者のメンバー検索や、そこから日記を見るなどはできるので覗いてみると、友達数の多いユーザーのかなりの割合が自分の裸をさらしていらっしゃっていて、18歳未満の年齢も多い。「出会い」的な自己紹介も見ることができる。前記の事件は、そういう環境で起きている。で、その結果、「健全化」をものすごい勢いで警察から要求された、ように見える。が、前述のように、運営者はそのリソースがある企業ではない。

ということで、株式会社アブサンは、一度、エスタを4月末日で「運営終了」するというアナウンスをエスタの中で出したそうだ(これ自体は私は直接みていないが、後述するように現在もそれが事実であることは分かる。登録利用者にはメールも送られたかもしれない。私は運営終了がサイト外で話題になっていたのに気づいて追いかけている)。結果、何が起きたか。

SNSのユーザーは、利用者同士の結びつきがあって、継続的なコミュニケーションをとっている。サイトが無くなるということは、この結びつきを壊すことになる。ということで、実のところ、ゲームとかマンガとかのコンテンツはどうでもいいがコミュニケーションは続けたいユーザーの考えることは、他のSNSへの移動だ。ただ、前記のようなフリーダムすぎるコミュニケーションぶりを、例えばモバゲータウンに移ってやろうとしても無理なことは自明だ。ということで、以前のOpenPNEブームのころに作られた「アダルトSNS」のうち、招待制でないところを、誰かが移転先として選んで広まった。移転先SNSについて調べてみると、OpenPNEの開発元の手嶋屋のASPサービスを利用していた。ということで捨てアカウントを作って検索をかけてみると、相変わらずフリーダムすぎて18歳未満で登録して性器無修正の写メを大量投稿して運営者に通報されてアカウント削除されるといった具合。しかしそのうち学習して、年齢はとりあえず18歳未満でも18歳にするとか、自己紹介欄を修正するとか、そうやって定着していきそうな雰囲気になっていた。

一方、株式会社アブサンのほうだが、事業の買い手でもついたのか、

過日より今月末日をもって運営停止の告知をさせていただきましたが、このたび、来月5月1日より運営を株式会社デジタルマートに移管することとなりました。

(略)

来月以降も今までと変わらず運営を続けて参りますのでご安心下さい。

なお、今後はユーザーの皆様に快適にご利用いただくために、悪質な投稿により一層、監視体制を強化して参ります。携帯を巡る未成年の事件が頻発する世相に鑑み、不可欠の措置ですのでご理解賜りますようお願いいたします。

このたびは、まぎわらしい終了告知の件、皆様にはご迷惑をおかけして申し訳ございません。

今後とも変わらぬご愛顧をいただきますよう、引き続きよろしくお願い申し上げます。

というアナウンスをサイト内に出した。これで登録ユーザーの移転騒ぎはいったん落ち着いたようにも見える。問題は移管先だ。「デジタルマート」という商号、検索すると家電量販店が複数ひっかかるのは関係ないとして、アダルトサイト関係でひとつ同じ商号の会社がある。ただ、よくある名前なので同一かどうかは分からないし、既存事業が何であろうと「監視体制を強化」できればそれでいいとは言える。ただ、これで疑念をもったという状況ではある。ということで、上で略したところ、「株式会社デジタルマート」の住所と電話番号、FAX番号があったので、これを調べてみることにした。住所は「東京都千代田区九段南4-7-22」。Googleで検索すると、上位にバーチャルオフィス九段南・南青山というサイトが出てくる。バーチャルオフィスということで、電話転送や郵便物受け取りをして、登記も置かせてくれるが机はない、という形態のサービスだ。もっとも、同じ住所で店舗などもあるので、これだけでは断定できない。ということで、FAX番号で検索したところ…、同じFAX番号の企業が少なからずあり、上記のバーチャルオフィスを利用していると明記しているところが含まれていた。ということで、移管先の企業の実態が公表された住所にないことは確実だ。その後、エスタ内の告知は更新され、電話番号とFAX番号は削除された。この状況で「監視体制を強化して参ります」という言葉を額面どおりに受け取れるかというと、無理だろう。そして、多分ユーザーもそれを望んでいないし。

ユーザーの動き、事業者の動き、両方とも、素直に警察の過剰な要請を受け入れる話にはなっておらず、今はまだ稚拙な動きに見えるが、遠からず、海外流出は現実のものになるのではないだろうか。

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