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情報社会における自由の維持には何が必要か

2003/11/06

Permalink 04:17:44, by Nobuo Sakiyama Email , 21 words   Japanese (JP)
Categories: プライバシー, 住基ネット, 情報社会

情報社会における自由の維持には何が必要か

11月3日に、「『監視のユートピア/自由のディストピア』−情報管理社会とリベラリズムのゆくえ」と名付けられた宮台さんと東さんの対談イベントを見にいって、打ち上げにもお邪魔させてもらった。

イベントの内容自体は非公式のログがnetwork styly* の濱野さんによるもの対談コーディネータとして壇上にいた鈴木謙介さんによるものが出ているし、また宮台さん東さんその他の方々との個人的会話の内容そのものは晒すべきものでもないので、単に私の問題意識を述べてみようと思う。

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ひとつは、環境管理型権力の問題。環境管理型権力が私達の自由を奪っていく、ということの問題について、環境管理型権力というのは現前しているものであり、かつ東さんが以前から述べるように「リトル・ブラザー」的なものを含んでいるから、「革命」的(あるいはハリウッド映画クライマックスシーン的)な打倒というのはそもそもありえない。とはいえ、アーキテクチャによって自由(そしてその前提となるプライバシー)が奪われることについてはなんとかしたい。

私の考えでは、環境管理型権力そのものをアーキテクチャで規制する必要がある。ただ、これは複合的なアプローチが必要になる。まず、民間の競争が適切に働く世界。これは環境管理的な手段に対して規律訓練的な規制を求めていくだけで十分だし、そのうちのある程度の部分は法規制でなく規範規制でよいだろう。ただし、規制へのコンプライアンスコストを劇的に下げる要素としてアーキテクチャによる規制手段が提供される必要がある(プライバシー強化技術の民間利用のあり方というのはそういうところだろう)。市場は構成員への不十分な規律訓練によって問題をひきおこす企業より、アーキテクチャによる規制を導入してうまくやる企業を歓迎するだろう。

一方、行政機関や、民間でも競争が適切に働かない領域、そういうところでは、市民的な自由やプライバシーの保護は、それ自体を「コスト」と感じて「規律訓練やったふり」という問題がおきるし、そもそも市場の圧力が存在しないので不適切な行為を問題と感じる感受性を持てない場合が多いと考えられる(こういう領域こそが「ビッグブラザー」的なものとなる)。したがって、ここには法的な規制が必要だ。そこでは規律訓練的文言を重ねたところできちんとしたチェックは期待できないから、直接的にアーキテクチャによる規制が導入される必要がある。この意味において、21世紀の政治家には行政の情報システムをアークテクチャで規制し、侵犯がないことをシステム監査の水準でチェックできるようなメカニズムを作り上げる能力が要求されるのではないかと思う。

住民基本台帳の住民票コードの問題はこういう視点からみれば明解だ。共通番号としての利用についての規制は、規律訓練的にしか行われておらず、アーキテクチャレベルの規制が番号システムのなかにない。従って、濫用を防げない。だから、一部の自治体で行われている、あるいは行われつつある選択制は「住民票コードを要らないと考える人が現実に多い」とアピールする機会が設定される、という意味の重要性はあるにしても、「選択できること」が解決であることのように見なされてしまうのは問題であると思う。

もうひとつ、というか住民票コードの話にも関連するが、東さんが対談で述べた、イギリスでの国民IDカード計画でのカード名称がentitlement cardだという話と Nozickentitlement の対比に関係して。私はNozickを読んだことがないので、その文脈での話は分からないが、分散システムとか情報セキュリティ技術とかの文脈で考える場合、そもそも AuthenticationAuthorization は独立した要素として扱われるし、IdentificationAuthentication もまた別の話だ。これは、実世界でもそう。途中退出者の手に(同一の)スタンプを押すクラブイベントではIdentificationはやってないし、居酒屋に入るときは風貌でなんとなく未成年でないらしいと Authenticationされているだけ。
IDカード的entitlementの問題の多くは、この独立性が保たれないということだろう。しかし、これは情報技術を用いるうえでの必然ではない。Chaumにはじまるブラインド署名の発明、そして現代版であるStefan Brandsの研究がそれを示している。やはり、こういうことはもっと広く知られるべきなのだろう。誰か、第一人者と認められるひとが新書の易しい解説を書いてくれないかなぁ、と思う。(暗号からはずれるけど)一年ぐらい前に、住基ネット反対運動の関係者に邦訳が出版されたばかりの『情報セキュリティ技術大全』(Ross Anderson著)をすすめた結果、何人かのキーパーソンには読んで頂けてそれは間違いなく住基ネット反対運動の議論に深みを与える結果となったことは確実だと考えているけれども、同じぐらいの射程をもちつつ非技術者むけに必要な範囲で易しく述べた本があったらどんなにいいかと思う。