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『ハイテク犯罪捜査入門 ―基礎編―』のもつ問題(3)

2004/09/02

Permalink 03:50:20, by Nobuo Sakiyama Email , 30 words   Japanese (JP)
Categories: セキュリティ, , 著作権

『ハイテク犯罪捜査入門 ―基礎編―』のもつ問題(3)

『ハイテク犯罪捜査入門 ―基礎編―』(大橋充直、東京法令出版、2004年3月、ISBN:4809010813)のもつ問題について、
前回に続いて3回目。前回、手をつけなかった "The Shadow Penguin Security - Special Archive -" (P.258)についてである。

...

これには

出典: 某書籍 (省略) 添付CD-ROM

というキャプションがついている。

これでは、引用元がオンラインのものではないので容易には分からない。そこで、著作権法上の問題の存在に最初に言及した小島肇さんに教えて頂いた。引用元の書籍は最初の回でも登場した「スーパーハッカー入門」(Vladimir、データハウス、2000年5月、ISBN:4887185243)だという。そして、引用箇所を含むファイルは /unyun_web/index.htmlであるという。

そこで、「スーパーハッカー入門」を8月17日に購入してみた。なるほど、小島さんの指摘通りだ。さらに、『ハイテク犯罪捜査入門』P.258における引用では

<Tools & Exploits>
…… (以下省略:ハッキングツールのリストと実物を掲載)

と終わっているのだが、最後の省略された部分は一部の伏字と表のコラム名の翻訳のうえ、ほぼそのまま、「資料3 本邦で過去に公開された主なハッキング・ツール一覧」として掲載されている(P.272〜P.276)。ここもまた、

出典: 某書籍 (省略) 添付CD-ROM

である。これも小島さんに教えて頂いた。

さて、この事実はどう評価すべきなのだろう。すでに紹介した二つの例と異なり、ここでは日本国内で正規の商業出版物として完全に合法的に流通している書籍について、引用の形式が著作権法の求めるものと異なっているといえる。ただ、「資料3」などは引用というよりは、単に転載だ。従って、単純に転載許諾を転載元を明記しない条件で得ている可能性が、前の二者よりも高そうではある。なお、「スーパーハッカー入門」自体については、『ハイテク犯罪捜査入門』P.27にて

(注28) backrs編「コンピュータ悪のマニュアル2」データハウス社(1998年), Vladimir「スーパーハッカー入門」データハウス社(2000年)等を参照。

と、紹介されていたりするので、なんらかの配慮が働いているのかもしれない。

以上で、これまでに私が把握している『ハイテク犯罪捜査入門』の問題点は全てである。ただ、途中で繰り返しているように、あくまでこれは「著作権法違反の可能性」の指摘でしかなく、実はきちんと権利処理が行われている可能性がないとはいえないし、まして「著作権侵害」の指摘でもない(この点を誤解した人達が少なからずいるようだ)。しかし、非常に強い疑問を抱かざるをえない状況であり、この本が警察や検察でテキストとして使われるのであれば、なおのこと改善されるべきではないかと思う。

なお、「犯罪を誘発する危険性」を防ぐためには、出典の省略をやむをえないのではないか、という意見もあるかもしれないのでそのことについて。たとえば、前回登場の "Cellular Secrets" は、冗長にいろいろ書かれているものの、クラッキングの対象はアメリカのアナログ携帯電話のみに限定されている。たしかに、アメリカではいまだに AMPS という第一世代のアナログ携帯電話ネットワークが広く使われているので、犯罪誘発の危険がないとはいえない。しかし、日本ではアナログ携帯電話は方式が異なった上にすでに停波しているのだし、アメリカで携帯電話の不正利用を計画しうる人物がわざわざ『ハイテク犯罪捜査入門』で学ぶかというとそのような可能性は極めて低いと思われる。また、「スーパーハッカー入門」はすでに述べたようにその名が他の箇所で明記されているので、隠す意味がない。率直にいって、自称の「ハッカー検事」的な虚像を読者の心のなかに膨らませることを意図しただけではないか、という気すらする。

ここで、3回にわたって綴ったこのシリーズは一旦終了する。今後、大橋氏や版元の反論や問題解消のアクションなどが行われることを期待したい。

謝辞: 今回の内容は、最初に問題提起を行い、さらに詳細な情報提供をしてくださった小島肇氏、小島氏の問題提起を紹介したところ、私の予想以上に問題があることを教えて頂き、私が調査を行う直接のきっかけを作ってくださった野田敬生氏のふたりの存在なくしてはありえなかった。お二人に深く感謝する。なお、私が二人とこの件についてやりとりを行ったのは6月中旬から下旬のことであり、8月になってから公開する方針に決めたのは、もっぱら私個人の判断である。