「ネットvs.リアルの衝突-誰がウェブ2.0を制するか」(佐々木俊尚)を、献本頂いたので、早速読んだ。ということで感想を。
この本は、佐々木氏の本が常にそうであるように、コンピュータ技術やネットビジネスを専門としない人達をも大きく想定読者に取り込みつつ、わかりやすい形で書かれていて、ネットの現況をジャーナリスティックに伝えている、というレイヤにおいては、好まれるタイプの本ではあると思う。ただ、個人的には、結構違和感が出る本でもあった。
最近一審判決も出たWinnyの問題(これについてはまた項を改めてそのうち書く。まだ判決全文も広く公開されていない状態だし)にドライブされて、それに大きくページを割きつつ、他の問題も網羅的に書かれているのだが、「ネットvs.リアル」の「衝突」の構図に多くを落とし込み過ぎているように思う。
Winny作者の金子氏を過大に「ネット」側からの価値破壊者として描いている部分については他の方からの批判もあると思うが、それだけに留まらない。
インターネットガバナンスに関する対立構図は、佐々木氏の描いたものよりも実態はもっと複雑であるし、あるいは、ICANN一般理事選挙のアジアでの組織動員問題はかなり的を外していると思われる。なぜか佐々木氏はこれが主として日中政府それぞれの仕掛けた問題であることを明示していない。これはそもそも地域選挙における集票だったので、アジアが他地域に対して覇権をとろうとしたというよりは、アジア内部で覇権狙ったっぽいのがまるみえになって大恥かきましたね、という話。さらに、中国の事情は分からないまでも、日本のほうは、「覇権」狙いというのは、いわばネタだったと思う。理事に選出された加藤幹之氏が理事になったところで、「ネットの覇権」がとれるという話でもないことはまともにかかわれば見えていたことで、そういう文脈とは違うところで、例えば会津泉氏は加藤氏を推していた。が、「産業界からの日本人理事候補」ということで、ある種の勘違いから、日本社会の中であれば極めてよくある組織的選挙運動のスイッチが入り、法規制もないところで暴走して、蓋をあけてみればいかにも暴走していて馬鹿でしたね、という話でしかない。万一、覇権を本当にとりにいこうとしていたのだと仮定すれば、それは最悪の戦略だったとさえいってよい。さらに、ICANNにおけるLynn報告での国家主導への揺り戻し的な動きについては、ネタとはいえ9.11テロが口実に使われ、テロ後しばらくの閉塞感(この空前絶後の航空機テロがICANNモンテビデオ会合の直後であり、アメリカ以外からの参加者もその多くが帰国途中に空港などでテロの第一報を聞き、場合によっては帰国が遅れたり安否を心配されたり、という形で巻き込まれていたことは無視できない要素だろう)がそれを裏打ちしてしまっていたということについて、言及がないというのはいかがなものだろうかとも思った。
また、デジタル家電に関する話も、「iPodの衝撃」自体は事実であるにしても、業界構図はやや単純化のきらいはあるし、また、この章でDRM(の違い)についての言及が全くないというのは、どんなものなんだろうか、という気がした。Winnyに大半を割いたこの本で、そこへの言及と「衝突」構図への落とし込みがないのは、むしろ書き足りないのではないかという気がする。
最後の、ウェブ2.0の章でも、書き割りとしては楽しめるが、世論形成についての議論、とくに2005年総選挙については、テレビなどの従来型主流メディアの分析がないままにネットの影響について語っているあたり、実証的にどうなのか、かなり疑問が残るところ、というか、主流のメディアの強力なアジェンダ設定にネット言論も従っていただけにしか私には見えないんで。
といった感じで、面白く読めるけど、でも、ね。
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現在、ネットワーク障害により、メールを受信できない状態なのでおしらせします。このWebサーバと同一のマシンがメールサーバなのですが、何故か外部からのメール配送について、TCPのセッションが確立できない状態です。私の管理下のルータの障害の可能性もありますが、私が利用しているISPが「動的割り当てのIPアドレス」を対象に OP25B 導入を完了するのと同日にこの障害が発生したので、問い合わせ中です。私の利用しているサービスは固定割り当てのIPアドレスを利用するものであり、また、中から外へのSMTPセッションは正常に動作していることも確認しています。
追記: 急遽、別のサービスの契約を結んでメールの受信を始めました。マルチホームによる対処です。
さらに追記: 原因はISP側の設定ミスで、すでに復旧しています。
先日、バーチャル社会のもたらす弊害 から子どもを守る研究会が、ついに表現規制に言及し始めた、として話題となっている(例えば山口貴士弁護士のところなど)。
たしかに、山口さんが言及しているように前田雅英座長の発言に極めて問題が多いことには、完全に同意する。ただ、危機ばかりを見つめるだけでは、果実は得られないような気がしている。
この研究会は、あくまでも警察庁の研究会に過ぎないので、携帯電話フィルタリングの件で見られるような自主規制強化のプレッシャーをかける場として使われることはあっても、法務省の法制審議会のように法制化に直結させる場とは、本来されていない。そのかわり、やや「ぶっちゃけた」と言っていい話もされていて、前田座長のさまざまな問題発言も、全てではないにしてもかなり強力に反論されていたりはする。そういう意味では、単なるセレモニーの場ではない。そういう強力な反論をできる人々を委員にもってきた事務局の意図というのを想像すると興味深い。警察庁生活安全局長である竹花豊委員も、その領域は確実にアウトだろ、という案も出しているが、この段階では、憲法的制約も忘れたふりをしてあらゆる選択肢をあげてみたよ、ということをやっているだけにも見える。たとえば、共謀法案を含む刑法・刑事訴訟法の改正議論をやっていた法制審議会刑法部会のサム(くならざるをえな)い議事録に比べれば、かなり生き生きした議事録だと思う。
この議事録を読むと、はっきりそうは言っていないのだけど、もう警察は「わいせつ」表現を取り締まることに「厭き」があるのではないか、そう思わざるをえない。「わいせつ」表現の概念は、彼らは刑法にそれがある以上は、その領域を見極めて法執行していく立場にある。USのように実質的にフリーな状況に判例上なるのならともかく、日本の判例はそうはなっていない。そして、「わいせつ」表現かどうかを問題にしたところで、それは、(ある種の性的な)表現の流通が規制されていてほしいという人々の要望とズレてしまっている。それが「創作物規制」と山口さんが表現しているものへの検討になっているのではないだろうか。 とはいえ、「もうわいせつ表現取り締まりなんていらないんじゃね?」とは、警察庁からは言い出せない話ではあるし、性的表現の自由化が気に入らない前田座長なので、規制強化の方向の議論になってはいるが、事務局説明などからは、現状の判断基準が国民のスタンダードに照らして緩すぎるか厳しすぎるかのどちらの方向にも判断できるものがないことについて問題意識がある、という状況が伺われる。
ここでいったん、別の話に移る。境真良氏の「中国の消費者を海賊版から救いたい」という話。中国の厳しいコンテンツ規制が正規版供給を拒む結果、海賊版が横行する原因のひとつとなっている、という話で、
日本政府は、単に中国政府の海賊版対策不足を責めるのではなく、同時に、正規版商品の流通規制を行っていることの海賊版保護効果を指摘しなければならないと私は思う。
境真良(実名登録)の“とりあえず、前進!” - 中国の消費者を海賊版から救いたい
としている。実は、この議論とまったくパラレルな議論が「エロの敵」(安田理央・雨宮マミ)に載っている。いわゆる裏ビデオの話で、藤木TDC氏の議論を引用して、いわゆる逆輸入物(日本から海外向けに制作・輸出されたポルノビデオが、日本国内に再輸入・不許諾複製されて裏ビデオとなるもの)や輸入物の裏ビデオがメーカーなどの権利を侵害しているため、すでに抗議の声があがっている、という話が紹介されている。中国に正規版流通に向けて規制の「調整」を求めるのであれば、日本も当然、規制の「調整」を求められるだろう。
こういう議論をまじめにすることで、刑法175条のわいせつ物頒布罪をなくしていく、という方向を考えることができるんじゃないかと思うのだがどうだろう?この場合、単に条文を削除して流通を自由にする、という議論にはならないと思う。少なくともゾーニング(法規制なのか自主規制なのかはともかく)によって、既存の生活空間の秩序が崩れない担保が求められることは間違いない。また、「被写体が18歳未満かどうかよくわからない」がゆえに児童ポルノ禁止法ではなくわいせつ物頒布で摘発されてきたような領域について、2257 Regulationsのような規制を用いてカバーしていく必要があるかもしれない。いずれにせよ、「今まで通りか、強化か」ではなくて、表現規制の状況全体を変えていけるチャンスが実はあるのではないか、と思ったりするのだが、これはあまりに楽観的だろうか?
ギリシャで開かれているインターネットガバナンスフォーラムに関して、「協力企業に国連サミットで批判相次ぐ」といった記事が出ています。で、各社非難されているところです。ただ、これら各社は中国の人にとってのネットの価値を増やすサービスを提供するがために、その種の検閲に対応しなければならない状況になっている、とも言えるわけで、各社の反論もそこのところにあるように思われます。
ところで、こういった議論でおそらくほとんど言及されていないのですが、中国のネット検閲には、ある日本の企業も関係があります。それも、堂々と発表されているのですが、まだ特に批判されていないようです。むしろ、称賛さえされているようにも見受けられますね。
次のような報道があります。
海外でも、中国向けに文化や習慣を考慮したURLフィルタリングソフト(法輪功、反共産党の規制などを追加)『InterSafe(中国版)』が中国公安の販売許可を日本企業で初めて獲得し、中国の教育基幹ネットワーク“CERNET(サーネット)”に採用されるなど、実績を挙げているという。
ASCII24 2006年6月1日: ALSI、ウェブフィルタリングソフトの最新版『InterSafe ver.5.0』を7月3日に発売
ということで、ALSIのリリースを見ると次のようなリリースが出ています。
アルプス システム インテグレーション株式会社(本社:東京都大田区、代表取締役社長:大喜多晃、以下ALSI〔アルシー〕)は、北京先進数通信息技術有限公司(本社:中国北京市海淀区、以下ADTEC)を通じ、中国国家教育基幹ネットワーク「中国教育和科研計算机网(CERNET)」の事業運営会社、賽尓寛帯网絡有限公司(CERNET BROADBAND CORPORATION)の家庭向けISPサービスとして、日本市場シェアNo.1※フィルタリングソフト「InterSafe(インターセーフ)」が採用されたことを発表いたします。
ALSI News Release 平成17年12月22日: 中国教育基幹ネットワーク「CERNET(サーネット)」の家庭向けISPサービスとして、ALSIのURLフィルタリングソフト「InterSafe」が採用
海外においても、ADTECとの業務提携により、インターネット利用規制の動きが強まっている中国市場にて、安全で快適にインターネットを利用していただくために「InterSafe」の販売を強化、グローバル展開を進めております。
ALSI News Release 平成17年12月22日: 中国教育基幹ネットワーク「CERNET(サーネット)」の家庭向けISPサービスとして、ALSIのURLフィルタリングソフト「InterSafe」が採用
アルプス システム インテグレーション株式会社(本社:東京都大田区、代表取締役社長:大喜多晃、以下ALSI〔アルシー〕)は、2005年に中国公安部の製品安全認可を取得し、中国におけるフィルタリングソフトの販売認可を受けている唯一の日本企業として、日本での市場シェアNo.1(※)Webフィルタリングソフト「InterSafe」の販売活動を行っております。
ALSI News Release 2006年7月27日: ALSI Webフィルタリングソフト「InterSafe」 NTTCom Asia Limited(香港)マネージドサービスに採用 −中国の法律や文化に合わせたデータベースにより、 安全なインターネット環境を実現−
ALSIは2000年より日本国内でWebフィルタリングソフト「InterSafe」の販売を開始し、学校、企業、官公庁、自治体、家庭などを中心に販売を行っておりますが、インターネット利用規制の動きが強まっている中国市場に早くから注目し、2005年6月には中国公安部の製品安全認可を得て、販売活動を行っております。
ALSI News Release 2006年7月27日: ALSI Webフィルタリングソフト「InterSafe」 NTTCom Asia Limited(香港)マネージドサービスに採用 −中国の法律や文化に合わせたデータベースにより、 安全なインターネット環境を実現−
当サービスを利用する企業は、中国国内で規制すべきサイトと、日本企業として規制したいサイトへのアクセスを同時に制限することができ、安全にインターネットを利用する環境が整います。
ALSI News Release 2006年7月27日: ALSI Webフィルタリングソフト「InterSafe」 NTTCom Asia Limited(香港)マネージドサービスに採用 −中国の法律や文化に合わせたデータベースにより、 安全なインターネット環境を実現−
中国向けに提供している「InterSafe」では、中国での利用を考慮し、管理画面等全面的に中国語化しております。規制カテゴリも中国文化、法律等を反映した独自の規制カテゴリを提供しています。
ALSI News Release 2006年7月27日: ALSI Webフィルタリングソフト「InterSafe」 NTTCom Asia Limited(香港)マネージドサービスに採用 −中国の法律や文化に合わせたデータベースにより、 安全なインターネット環境を実現−
ところで、InterSafeという最終製品はALSIの製品ですが、このフィルタリングソフトのエンジンと更新されつづけるURLデータベースはネットスターという別会社になっています。ここは、ALSIとトレンドマイクロが半分ずつ出資した会社で、もとはALSIでやっていた事業を外に出したものです。
このブログのちょっと前のエントリーをみれば分かりますが、ネットスターはNTTドコモとボーダフォン(そして現在はソフトバンクモバイル)のフィルタリングサービスのフィルタ提供会社、ということで、日本では極めてメジャーな存在です。かくして、警察庁の「バーチャル社会のもたらす弊害から子どもを守る研究会」の第5回でもゲストスピーカーとして呼ばれて話をしています。
私ども国内では、この手の企業では最大規模ということで、東京と宮城県の仙台市にこのリサーチセンターを設けておりまして、合計で35名の専任のリサーチャーというものを持っております。パソコンのサイトを見るチーム、それから最近、携帯電話のサイト、携帯電話にデザインされたサイトを見る専門のチーム、それから一部パートナー様の方で、中国マーケット向けにフィルタリングソフトを輸出というか販売を始めているところがございますので、そういったところ向けということで中国語のネイティブの方をスタッフとして迎えて、中国語のサイトを見る専門のチームみたいなものに分かれて活動をしているということになります。
バーチャル社会のもたらす弊害から子どもを守る研究会 第5回 議事要旨
つまり、中国で法輪功サイトや反中国共産党サイトの閲覧を阻止するためのデータベース化作業は、日本企業によって日本国内で行われています。
さて、ここで、最初に紹介したCNET記事から、Ciscoの幹部の反論を引用しておきましょう。
しかしCiscoのある幹部は、同社のルータは特定のインターネットアドレスを遮断するように設定することも可能だが、同社が中国政府のために同社製ルータをカスタマイズしたことはないと語った。Ciscoの戦略的技術ポリシー担当シニアディレクターのArt Reilly氏は、「これは、われわれが販売活動を行っている世界の国々で販売しているルータと同じものだ」とし、さらに「何の違いもない」と付け加えた。
CNET: 中国ネット検閲問題:協力企業に国連サミットで批判相次ぐ--グーグルの対策も明らかに
前のエントリについて、今時間がないのでとりあえず来たものをそのまま掲載するにとどめます。一行が長くて表示が崩れるかもしれませんが、ブラウザでフォントサイズを調整したりCSSを解除したりして頂ければいいかと。
崎山 伸夫 様 平素は、弊社製品・サービスをご愛顧いただきまして誠にありがとうございます。 この度は、ご連絡が大変遅くなりましたことを深くお詫び申し上げます。 8月31日に弊社ホームページへご質問いただきました件につきまして、 次のとおりご回答申し上げます。 キッズiモード(アクセス制限機能)は、 iモードメニューサイト以外へのアクセスを制限する「キッズiモード」、 ネットスター株式会社が一定のカテゴリーに該当するものとして提供している URLデータベースに登録されているサイトへのアクセスを制限する「キッズiモードプラス」、 および22時から翌朝6時までの間のアクセスを制限する「時間制限」の 三つの機能から成り立っております。 このうち、キッズiモードプラスについては、 従来よりご提供していましたキッズiモードでは、 学校、地域コミュニティ、PTAなどのサイトへのアクセスが制限されてしまい、 使い勝手が悪いというお客様のご要望が多くございましたので、 そのようなご要望に応え、iモードメニューサイト以外のサイトでも、 一定のカテゴリに該当しないサイトへのアクセスは許容することを可能とする目的で 提供させていただいている機能になります。 弊社としては、キッズiモードプラスにおいてアクセス制限の対象となっているサイトの全てが、 お子様にとって有害なサイトであると考えているわけではなく、 どのサイトについてお子様のアクセスを制限させるべきかについては、 ご利用になるお客様それぞれにより価値判断が異なることと考えております。 従って、個々のお客様毎にカテゴリを自らご選択いただいて アクセス制限機能をご利用いただくという方法が採用できれば良いのですが、 電気通信システムへの負荷などの関係から、現状では、弊社で一定のカテゴリをお示ししたうえで、 当該カテゴリに従ったアクセス制限機能をご利用になるかどうかを お客様にご判断いただく方法を採用しております。 カテゴリの決定にあたりましても、お子様にとって有害であるかどうかではなく、 携帯電話をご利用のお子様の親御様のニーズにより近いカテゴリは何かという観点で決定しております。 弊社としては、今後とも、お客様に安心して携帯電話をご利用いただくために、 弊社として取り組むべき課題に正面から取り組んで参る所存ですので、 何卒ご理解をいただきたくよろしくお願いいたします。
前のエントリに関連して、次のような問い合わせをNTTドコモのWebサイトの問い合わせ機能から送ってみた。
キッズ iモード プラスとボーダフォンの同種サービスを比較したところ、キッズ iモードプラスではボーダフォンのサービスとは異なり「ライフスタイル(同性愛)」「宗教(伝統的な宗教、宗教一般)」「政治活動・政党(政治活動・政党)」をアクセス制限の対象にしているとありました。御社グループのCSRにおけるキッズ iモードプラスの位置づけとあわせて考えると、御社は、同性愛者等の生活スタイルの情報、伝統的なものを含めた宗教の情報、国会に議席をもつ政党の活動を含めた政治の情報について、子どもの健全な育成を妨げるおそれがある有害なものとしてアクセスを制限するサービスを提供することを企業の社会的責任と認識している、ということでよろしいのでしょうか。また、これはドコモグループ倫理方針に沿うものだと考えてよいでしょうか。
文中の「ドコモグループ倫理方針」には、送信したものではリンクを設定していない(その機能もない)。
前のエントリに続き、バーチャル社会のもたらす弊害 から子どもを守る研究会の資料がきっかけなのだが、全然違う話を。研究会の第2回資料が公開されたとき、そこをみて、携帯電話でのネットサービスについてのコンテンツフィルタリングサービスが実運用に入っている、ということに、今さらながら気がついた。その話は、第4回でも再び登場している。
まず話の前提として、NTTドコモとボーダフォン(もうすぐソフトバンクにブランドが変わるけど)が、類似のサービスを行っていて、auは異なる、という状況がある。NTTドコモとボーダフォンは、いずれも、インターネット上のサイトへのアクセスを提供しつつ、これにフィルタリングを適用する、というサービスを行っている。一方、auの場合は、いわゆる公式サイトのうち一部のみへのアクセスを提供する、というサービスになる。auの場合、例えば、公式サイトのなかでも、例えば酒・煙草に関するものへのアクセスは提供しないようなサービス、といったものではないかと想像される。いずれにせよ、他社と比較できないので、以後の議論の対象からは除外する。
NTTドコモのキッズ iモード プラスと、ボーダフォンのウェブ利用制限と、いずれも、ネットスター株式会社のデータベースを利用したフィルタリングであると明記してある。つまり、両者の違いは「どのようなものを対象とするか」という設定のみである。ここで、両者の対象カテゴリを比較すると、NTTドコモのほうが対象カテゴリが多い。何かといえば、
である。これらは、ネットスター社の分類基準によれば、
といった内容である。ちなみに、NTTドコモはフィルタリングサービスの提供開始にあたってのプレスリリースで
フィルタリング機能により、出会い系サイトやギャンブル系サイトなど特定のカテゴリに該当するiモードメニューサイト以外のサイトへのアクセスを制限することで、お客様にさらに安心してiモードをご利用いただくとともに、モバイルインターネットの健全な普及を推進することを目的とします。
とうたい、さらにドコモ「あんしん」ミッションというCSR(企業の社会的責任)の主要な内容のひとつとして、
子どもが利用する場合を想定して、健全な育成を妨げるおそれのあるサイトへのアクセスを制限することができます。
と唱っている。これらをつなげた論理的な帰結は
NTTドコモは、ゲイ・レズビアン・トランスジェンダーの生活スタイルに関する各種情報の提供や、 キリスト教、仏教、イスラム教、ヒンズー教、ユダヤ教、神道など、伝統的な宗教に関わる情報の提供や、伝統的宗教に分類されない宗教や、宗教全般に関する情報の提供や、宗教を巡る議論・論争の情報の提供や、政党・議員・それらの支援団体を含む、政治活動や政党に関わる情報の提供を、子どもの健全な育成を妨げるおそれがあるとしてこれらへのアクセスを制限することがモバイルインターネットの健全な普及を推進することに資するものであり、それを実施することが企業の社会的責任と認識している。
というものである。もっと簡単にいえば、「NTTドコモは同性愛と宗教と政治は有害だと宣言している」ということになる。
こういうのは「いちゃもん」のように思われるかもしれないが、そうではない。フィルタリングソフトのビジネスというのは、既に紹介したネットスター社の分類基準のページの注に
ネットスター株式会社は、URLフィルタリング製品等で利用いただくためにURLデータベースの収集・分類とお客様へのご提供を行なっており、その分類について、倫理的道徳的な価値判断をおこなったり推奨したり、厳密な司法的判断を提供するものではありません。製品を用いたURLフィルタリングやアクセス分析等の実施にあたっては、それぞれの組織の定める基準に沿ったかたちで、アクセスポリシーの制定と組織内への適切な告知・教育等を実施されることをお勧めします。
とあるように、データベース会社は「あくまで分類しているだけだよ」というスタンスを貫くことで、価値判断に関する責任問題を回避する一方で、典型的には、それを利用する機関では、私的自治として、ある価値判断に基づいたフィルタリングを実施するものだ。だから、スポーツやレジャーといったカテゴリもあるし、企業内利用では、単に「業務外だから」というフィルタリングをしたりもする。その基準は、一般論としては公共的な議論の対象とならなくなる。アメリカなどでは、Privatized Censorshipなどと呼ばれたりする所以である。
しかし、逆にいえば、こういったものを利用して公衆サービスを提供する場合、とくに末端利用者が設定を制御できないサービスの場合は、まさに価値基準をプロバイダが提供することになり、公共的な議論の対象となりうる。まして、これはマイナーなISPのサービスではなく、免許制度によって参入制限があり、事業者の数が極めて限られている携帯電話事業におけるサービスについての話であり、しかもそのシェア1位企業のサービスについてである。そして、NTTドコモほどの大企業がこのようなサービス提供をするのであれば、当然、そのポリシー決定がどのような意味をもつのかは、十分に事前の検討が行われているのであろうから、うっかりしているということは考えなくていいだろう。確信をもってやっていると考えていいだろう。
警察庁のバーチャル社会のもたらす弊害 から子どもを守る研究会がすでに数度の会合を重ねている。委員が表現の自由をはじめとする憲法規範を無視したような規制を渇望する意見を重ねて述べていたりすることは、委員の顔ぶれからはいわば想定内なのでそこはとりあえずおいておいて、事務局、つまりは警察庁の態度にあまりに頭を抱えてしまったので。
問題は、第4回会合。ここで、事務局からのネタふりで資料4 関西援交シリーズと称する児童ポルノ製造・販売・氾濫状況についてといったものが提供されている。これをふまえた議論は議事要旨の48ページ目以降、終わりまでに見られる(事務局説明というタイトルのみの項と、それに続く自由討議)。
資料では
「関西援交」と「DVD」で検索すると、118,000件のサイトがヒット」
という説明とともに、GoogleのWeb検索のスナップショットをぼかしたものが出ている。これについて、自由討議中の事務局説明では
【事務局】 この場合は、完全にこれは、刑法のわいせつ物公然陳列なり、児童ポルノ法の児童ポルノ公然陳列に当たります。これは捜査の対象になりますので、警察としてのアクションは捜査をやっていると。ただ、雨後の筍のようにどんどん出てくるので、それが追いついていないという状況です。
としている。なるほど、懸命にやっているけれどもおいつかない、というのは、さらに強力な規制を包括的に求めるには効果的な言い方だろう。しかし、実態はどうなのだろう?
ひとつは、GoogleのWeb検索ではなくて、イメージ検索の問題。文字列のみのWeb検索の場合と違って、イメージ検索の場合は、Googleがサムネイル画像を提供している。ここに違法なものがあれば、それ自体を問題にするべきだが、現状はそういう取組が積極的に行われているようには見えない。Googleのイメージ検索は、デフォルトではフィルタつきの検索だ。Googleの検索には SafeSearch と呼ぶフィルタリングがあり、strict filtering (文字と画像の両方を対象)と moderate filtering (画像のみを対象)、そして完全にフィルタをオフにする機能がある。Google.com ではこれらの設定を変更する機能が提供されているが、Google.co.jp では、moderate filtering のデフォルトから変更する UI は提供されていない。とはいえ、URLのなかに引数を指定してやれば、フィルタリングをオフにすることはできる。日本の警察の管轄内のみを考えるとして Google.com の状況を無視するにせよ、Google.co.jp でもフィルタをオフにした状況で問題を評価する必要があるだろう。こうして「関西援交」のみでイメージ検索を行うと、約1850件、という数が表示されることとなる。ただし、実際にはデフォルトで132件、同等結果のフィルタを外した全件表示で946件となる。現実には、これらの画像全てが「関西援交」と関係あるとはいえない。すでにその単語はその方面のSEOキーワード化しているだろうから、無関係と思われるサイトもひっかかっているようである。とはいえ、問題のものであるような画像もひっかかっている。サムネイル画像であっても、これはストレートに疑いなく児童ポルノ禁止法違反ではないのだろうか。
もうひとつは、「おいついていない」というのがどこまで事実なのだろうか、ということ。懸命にやっている、という事実があるのかどうか、ということだ。たしかに、上記のイメージ検索の結果からたどろうとして、すでにサイトが存在していないケースも多い。だから、「何もやっていない」というつもりはないし、また、新規サイトが存在するのも事実だろう。しかし、検索結果のサイトのひとつをWay Back Machineでチェックしてみると、遅くとも2004年には存在していて、その当時から問題の作品群を扱っていたことがわかる(そして、サンプル画像も当時から現在に至るまで存在している)。こういうのをもれなく摘発してサイト閉鎖に至らせることを徹底して、はじめて「おいつかない」ほどに児童ポルノを扱うサイトが増加しているか否かを論じうる状況になるのではないだろうか?
東北大学大学院情報科学研究科の浜田良樹講師の「情報法律制度論」の授業資料のひとつに
ネットでの言論にネットで反論してはいけない
と赤字で力強く書かれていた(70ページ目)。とりあえず批判は削除依頼か訴訟で潰すのが正しい、と教えていると解釈していいのだろうか?(疑問形)。
まぁ、こういう疑問をここで書いても、その中身のとおりに、無視されるかいきなり訴訟を起こすと脅されるかのどちらかになるかもしれませんね。以前もそういう脅しをした人だし(無視したけどさ。だいたい、私が出てない研究会で彼がでっちあげの中傷をした上にその後も中傷を繰り返していたのが先だったし。あれからもう10年か)。
なお、この資料の存在は同研究科の情報基礎科学専攻 シラバスとして公開されているページからのリンクで存在を知ったものであるので、その入手に全くやましい点はないし、プライベートな資料でないことは自明。
Blogを書かないまま2ヵ月が過ぎて、久しぶりに書いてみることにした。今回の話題は、白田秀彰氏による新著、「インターネットの法と慣習ーかなり奇妙な法学入門」(ソフトバンク新書)について。
献本頂いたのが昨日届いたのだが、実のところ出版記念パーティに招待頂いたのでその場で先に購入してようやく読み終わったところだ。献本頂けるのがわかっている状況ではあったのだが、担当編集のかたにすすめられて「ダブっちゃうなぁ」と思いながら買ったのだけど、買って先に読んでよかった、というのが端的な感想。正直、もとになったHotWiredの連載の内容をちょっと直したぐらいで出てきたら、内容に不満は無くても読み捨てる感じだなぁ、と思っていたのだけど、意外にも、感動的な出来映えと言えるぐらいの名著だった。
書かれている内容についての範囲と射程は、レッシグのCODEと同様だと思う。もちろん、CODEはかなり厳密な議論をしようと考えて実例を豊富に引用し、そして後に幾度となく参照されることとなる法・(慣習的)規範・市場・アーキテクチャによる規制構造の提示などのパイオニア的な本である一方、「インターネットの法と慣習」は、くだけた文体の新書で、例のひきかたも学術的とは言えず(「どこかで聞いた」というのが多い。ググれば厳密な引用が出来たものもあるように思う)、強烈な新しさがあるというわけでもない、という意味では、両者は比較できるものでもない。にもかかわらず、「インターネットの法と慣習」は、少なくとも日本に住むネットが大事な人にとっては、CODEと同様に重要な本だ。
CODEは、なんといってもアメリカの法の伝統の中で書かれている本だ。英米法的な考え方が絶対的な前提としてあり、そして、「憲法の伝統」を臆面もなく召喚できる環境のなかで、CODEは書かれている。CODEの内容を日本社会における問題を考えるための処方箋としてそのまま使えるかというと、かなり無理がある。法体系の違いもあるが、伝統として憲法を呼び出すことでほとんどの人に対して説得力を持ち得る議論ができるかというと、それが厳しいのが日本の現実だ。何よりも、「憲法改正」によって、日本国憲法、というより近代国家の憲法の原則そのものを毀損しよう、ということを言っている党が与党であり、多数の支持を得ている現実がある。理性的・専門的な議論はともかく、日常的な価値基準として、憲法の理念をネガティブなものとしてしか参照できない人々が少なくない現実、そういう状況がある。白田氏もまた英米法に軸足を置く人だが、しかし、それが日本の法体系ではないことに自覚的であるし、またそのことによって、日本の現実に立脚しながらも、日本法や大陸法に軸足のある人よりも幅広い視点からものをみることができていると思う。さらに、インターネットのこととなると一国で充足しがちであり、また政治的にも一国で全てを決めてしまいがちなアメリカで書かれたCODEと異なり、ポリシーロンダリングへの言及を含めて、国際的な視点が確保されている。また、根源的なところからものを考える、という意味では、憲法を強く出すCODEよりもさらに深い部分もあると思う。憲法が参照軸となりにくい国において、これは重要だ。
最後の政治参加・変革について、CODEと「インターネットの法と慣習」は、一見、全く逆の結論を述べているようにも見える。しかし、これは立脚する前提の違いがあるからで、相補的なものと考えるべきだろう。そして、CODE程度の処方で済む国と違って、日本における現実は「インターネットの法と慣習」が提示する、一見明るい未来にみえつつ、実のところ茨の道を選択することを我々に強いることになる可能性は、やはり高いのだろうなぁ。
先月、
ただ、私の意図は「個人情報を除く」ことにあるのではなく、「重要情報」というネーミングで別の要素が入ってくることについて、どうなんだろうか、ということでもある。この点、後日別のエントリで書きます。
と書いて放置していたのだが、武田氏がまさにちょうどいいエントリを書いていたので、これに反論する形で書いてみようか。
武田氏は朝日新聞の報道について次のように述べている。
このような報道は必要以上に情報の拡散を広め、国民に対する有事のリスクを高めることにつながらないだろうか。より詳細な情報が一般にも報じられていることで何らかの対応施策が必要となった場合、そのための費用は結局国民が担うことになる。このような報道で流出当事者である政府官庁だけが困ると思われがちだが、実際にはそのしわ寄せは一般国民にも及ぶ。
国家が秘密としてきたものは、漏洩・拡散が広がるとその対処で税金が使われるぞ、という形で国家の秘密保持には民間も協力するのが筋で、いわんや漏洩したものを晒し上げるのなどけしからん、という御趣旨のようだ。なるほど、一見納得させられてしまいそうだ。この報道だけでは。
しかし、これは朝日新聞も説明不足だと思うのだが、この記事は単独で出てきたものでは決してないと思われる経過がある。というのは、この記事は、Winnyで流布している「有事演習計画」の中身が偽ファイルじゃなくて本物だったということを防衛庁側から裏をとれた、という面をもつからだ。そして、Winnyで自衛隊の「有事演習計画」が流布しているということについての報道は初めてではなく、すでにその詳細な内容は「スクープ」として報道されていたりする。
月刊現代6月号の『自衛隊 (秘) 作戦計画 「憲法違反」の核心』(斎藤貴男、取材協力 瀬下美和)がその記事だ。この記事によると、問題の有事演習計画では、そのフェーズ1において「周辺事態」だということで公海上で自衛隊が米軍と共同で「船舶検査」(=臨検)を行うということだ。さらにフェーズ2においては陸から100海里(=領海のはるか沖)を作戦領域としての兵力の配備や「不法行動等の兆候を察知した場合」の、速やかな兵力の集中による対処といったことが基本方針とされているという。さらに、前田哲男氏の解説として、自衛隊が戦端が開かれる前に行動を起こしている、といった話も出ている。そういったことをまとめると、記事表題の「憲法違反」という評価になるのだろう。
さて、こういう情報が加わると、武田氏の文章だけを読んだ場合とは、何か違った光景が見えないだろうか。私は、武田氏がこういった事情を知った上でそれを隠して朝日新聞を非難した、とは思わないが、しかし、国家が秘密にしていること、というもののなかには、往々にしてこういった、国民全てが必ずしも国家と利害を同じくするとはいえない情報があり、報道というのは、そういうものをえぐっていくことに存在価値があると見なされている、ということぐらいはおさえてほしいと思う。
私としては新ネタが無かったのでふれていなかった共謀罪審議の動向ですが、いよいよ今週、衆議院法務委員会でまずいことになりそうな状況。日弁連の法務省への反論にもあるように、与党修正案では、結局のところ団体について限定をかけることができていないということで、私がこのblogで過去に提示してみた具体例は、すべて、ほぼそのまま有効です。企業活動への影響について、大企業全体を該当する団体とすることは難しくなっても、新規事業のために設立された部門等は、まさに共謀罪の団体要件を満たしてしまうでしょう。ある事業を行おうとして部門を設立し、その事業が共謀罪の対象になる違法性を帯びていることが事業開始の前に判明して止めた、とすると、その部門はまさに「当該犯罪を実行する目的のために」設立されているわけですから。企業内組織だけではなくて、例えば具体的なアイデアをもとに起業しようとしてベンチャー企業を設立したりしても同じですね。
さて、世の中のほとんどは共謀罪の攻防と考えているわけですが、これは一括の大きな法案の一部に共謀罪がある形で、じつはサイバー犯罪条約がらみの刑法・刑事訴訟法の改正法案でもあるわけです。で、そのなかのひとつ、不正指令電磁的記録作成罪の問題について高木さんが以前から言及していることについて、これが問題であるという点については私も全くそのとおりで、説得力ある具体例を使った説明に、とりたてて付け加えることはないのだけれども、やはり、こういう水準の議論が国会で行われないまま法案が可決されていくというのは、非常に拙速なのではないかと思う。
ぶっちゃけてしまうと、「作成罪」部分を法案から削ったところで、また、さらに「供用罪」部分をも削ったところで、サイバー犯罪条約は留保つきで批准可能だ。留保できない部分は、すでに不正アクセス禁止法で担保されている。「不正指令電磁的記録」に関する問題は全く議論が足りてないから、いっそいったん全部削除し、十分な議論を行った上で別途法案化するむねの付帯決議をつける方向にするべき、といったぐらいのことを野党は言い出してほしい。
以下、「ホットライン運用ガイドライン」等に対する意見を述べます。
私は、ホットラインの枠組そのものに重大な欠陥があると考えますので、 まずはホットライン全体についての意見を述べ、その中で、及び次いで、 募集要項にある
に関する提案、意見を述べることとします。
1. ホットラインの目的・背景などについて
ガイドライン案では、おもに国内事情を中心として、ひろく「違法・有害情報」 への対応を推進するためにホットラインセンターを設置するとしている。しか し、広汎な情報規制を意図した通報窓口の設置は、有効な通報の動機付けとな らない上、一方で無効な通報により有限なリソースが浪費される可能性がある。
インターネットはその国際的越境性から、国内において違法であると考えられ る内容が、かならずしも別の国ではそうではないわけで、それゆえ、一国にお ける対応が困難で、そのことは多くのインターネットユーザーが知っている。 そして、現実にそのような形で国内で違法とされるコンテンツを、多くのイン ターネットユーザが亨受しうる環境が存在している。
そのような中で、いわば国内サーバ提供コンテンツにかかる「ネット浄化」を 思わせるような形で通報窓口を設置しても、そもそも問題となるようなコンテ ンツに接する可能性が高いユーザの支持を得られそうにもないし、また一方で、 正義感からなされる多くの通報が国外サーバ提供コンテンツにかかるものとな り、多くの通報が無駄となる一方で、調査に人的・計算機的リソースが余計に かかる、ということが考えられる。
一方、国際的な背景をみれば、INHOPEを中心として、「インターネットの自由」 を価値として掲げつつ、おもに児童ポルノなど、児童への直接の人権侵害とな るコンテンツへ対応するホットラインが主流であり、このような流れへの国際 的な対応が必要である。児童ポルノは、被写体の年齢や単純な裸体写真の扱い などにおいて国によって扱いの異なる境界事例が存在するにしても、その中核 となる要素においては多くの国でその提供が違法とされるのであり、かつ児童 への重大な人権侵害であることから、積極的な対応が必要である。さらに、国 際的な児童ポルノ通報は、国内サイトに関するものでも、Googleをはじめとす る画像検索サイトや Way Back Machine などの Web アーカイブからの画像・ 映像除去の観点からも必要であろう。
ホットラインの目的・背景としては、このような部分を中心として掲げて、現 実のインターネットユーザ、とくに疑われる情報に接する可能性のある人々の 支持を得る必要がある。そのためには、重大な人権侵害である児童ポルノにつ いての通報以外は、インターネットで情報を受発信するユーザの利益を考慮し た、自主規制の枠組であることが明確であるようにする必要がある。法的秩序 の完徹をめざす法執行機関と一体化した下請け的組織に見えることことはマイ ナスである。
児童ポルノを中心課題とすることは、他の違法情報についてホットラインで取 り扱うことを否定するものではないが、情報の種類にかかわらずひとつの枠組 で扱うべきとは思えず、それぞれの情報に適した枠組を作るべきではないかと 考える。
2. フィルタリング事業者に対する情報提供に関する問題
ホットラインは扱う情報の性質上、機密性が求められる(INHOPEの会員資格で も明記されている)。
一方、フィルタリング事業者への情報提供は、通報されたサイト情報が、ホッ トラインの外に出ることを意味する。フィルタリングソフトの種類によっては、 ブラックリストの情報が暗号化されてエンドユーザのパソコンに格納されるも のがあり、これはエンドユーザによって解読される可能性がある。実際、米国 のCyber Patrol について、解読プログラムがオープンソースとして流通し、 Cyber Patrol の権利をもつ会社が 解読プログラム作者を訴え、和解により作 者が会社側にプログラムの権利を譲渡し公開を停止した、という事件もあった。 公開されない形でこのような解読行為が行われる可能性は常にある。また、フィ ルタリング事業者によっては透明性の観点からユーザにブラックリストを公開 することもあるだろう。
INHOPE への加盟は国際的な児童ポルノコンテンツの流通抑止への対応として 必要なことであるから、このような機密性を毀損する可能性は排除しておく必 要がある。少なくとも、INHOPE経由で通報されたサイト情報がフィルタリング 事業者に提供されることは避けるべきである。
この点、INHOPEの主要団体のひとつである英国の IWF は、フィルタリング事 業者への情報提供を行っているものの、それは、IWF に通報され、英国法で違 法だと判断されるものの英国外のコンテンツである場合に限定されており(英 国内の場合は違法であれば警察とISP等への通報で対処され、違法でない情報 については扱わないため)、INHOPE経由の通報はサイトが英国内の場合に限ら れることから、問題がおきない形となっている。
INHOPE 経由で通報された情報がフィルタリング事業者に渡らないためには、 専用のフラグを用意して扱う方法も考えられるが、そもそも違法情報のみに限 定して扱うこととすれば、問題は起こりえない。
3. 扱うべき情報の範囲について
すでに述べたように、ホットラインは児童ポルノなど児童への重大な人権侵害 を中心として扱う必要がある。このような観点からみると、ガイドライン案 「第3」「第4」は、違法・有害といった線のひきかた、児童ポルノについて 「わいせつ情報」とまとめるまとめ方など、あまりに問題が大きいと考える。
まず、概念として、「違法コンテンツ」と「違法利用」を分ける必要がある。 「違法コンテンツ」は、そのコンテンツを引用・複製してもやはり違法コンテ ンツだが、違法利用は、使い方の問題であって、内容を第三者が引用・複製し た場合、文脈によって必ずしも違法なものではない。
ガイドライン案では、「わいせつ物公然陳列」と「児童ポルノ公然陳列」が違 法コンテンツに該当し、その他の広告的な情報は違法利用に該当する。
3.1 違法コンテンツ
違法コンテンツについて、「わいせつ物公然陳列」と「児童ポルノ公然陳列」 は大きな差がある。「児童ポルノ」は、表現ではなく、表現において実在の児 童を性的に虐待して用いているという問題であり、その要件は客観的なもので あり、重大な人権侵害であり、徹底かつ迅速な対応が迫られるものである。こ の場合、警察への通報が基本的な手続きとなり、送信防止措置依頼手続きなど は捜査の妨害とならない形で行われるべきである。
その一方、「わいせつ物」は、表現の問題であるため、規制は常に表現の自由 と拮抗し、歴史的にも何がわいせつ物に該当し、あるいは該当しないのか、争 われ続けてきた。ホットラインが自主規制機関であり、また、従来メディアの ように限られた数の企業が明確な合意において自主規制機関を利用しているわ けではないため、ホットラインが情報発信者に対して行いうるのは、あくまで 「わいせつ物」に該当する疑いがあるという指摘に留まるはずであり、それを 受けて該当すると判断するか、判断しないかは情報発信者と法執行機関の間の 問題であり、刑事裁判においても常に情報発信者は該当性について争う余地が あるところである。従って、違法情報であることが確かであるかのような通知 を情報発信者に対して行うことは問題がある。さらに、自主規制機関としては、 表現に関する警察への通報は行うべきではないと考える。
3.2 違法利用
一方、広告的な違法情報は、インターネット上で散見されるものの多くは、単 に管理されないまま放置されている掲示板やブログなどへの迷惑コメント(コ メントspam)がそのままになっていて、spam業者は放置サイトに既に集積して いるspamコメントの内容に応じて自動投稿し、あたかもサイトが違法広告に乗っ 取られたような形になるものが少なくない。これらについて、ホットラインの 送信防止措置依頼手続が行われると、サイト管理者とホットラインの双方にとっ て過大な負担となると考えられる。従って、コメント spam についてはホット ラインとは別に、より簡便な、自動化・半自動化された対処が可能となるよう な枠組やシステムの普及を図ることとして、送信防止措置依頼手続の対象とし ないこととしておくべきである(コメントspam対処のシステムから、違法情報 を抽出してまとめあげてホットラインに通報する連携は検討されてもよい)。 送信防止措置依頼手続などは、サイト管理者と違法情報発信者が等しいと考え られる場合やサイト管理者が積極的に違法情報流通に関与していると考えられ る場合に、捜査の妨害とならない形で行われるべきである。
4. 判断基準について
4.1 児童ポルノ
児童ポルノに該当するかどうかの判断として、まずは前提として児童ポルノ禁 止法の定義する児童ポルノであることを明確にするべきである。これが明確で ないため、18歳以上の俳優のみを用いたフィクションやアニメなどの架空のも のが該当するのではないかという誤解が存在している。ガイドライン案 第 3(2)(2)「児童ポルノ公然陳列」に記述されている判断基準は、児童ポルノ 禁止法の要件を前提とした作業上の基準であると定義すべきである。
つぎに、個々の判断基準について。児童に該当するかどうかの判断基準である が、対象者の外見のみからの判断については、小児科医などの専門家による鑑 定を基準とすべきである。担当者・責任者のみの判断では、担当者や責任者の 専門性についての規定がガイドライン中にないため、適切な判断がなされるか どうか不明であり、疑似児童を誤って児童と判断する可能性を否定できない。
附随情報を用いた該当性判断も、摘発逃れのための虚偽、あるいはフィクショ ンとしての疑似と両方の面で誤った情報がつく可能性があるため、あくまで参 考にとどめ、いずれにしても専門家鑑定を必要とするべきであると考えられる。
専門家鑑定を基準とする場合、ホットラインの処理能力の低下が容易に予測さ れるが、そもそもデジタルデータが複製容易であることなどから、インターネッ ト上の多くの画像・映像は複製されたものであることや、現実の児童ポルノの 摘発事例などを考慮すると、既知の児童ポルノ作品、および、18歳以上の俳優 のみを用いた非児童ポルノであるがまぎらわしいポルノ作品についてのデータ を蓄積し、これらと照合することで、専門家鑑定は未知の画像等のみを対象と することができるため、問題ないと考えられる。既知データとの照合は、判断 が難しい、画像等からのみの判断が一般に困難であると考えられる16〜17歳の 被害児童の画像等を判別するためにも有効であろう。
もちろん、児童ポルノ作品そのものをホットラインセンターが蓄積して視認照 合作業のベースとすることは妥当ではないと考えられるが、作品タイトルや児 童の作品中の呼び名、作品と照合可能な顔画像、過去の通報や警察の押収で得 られた児童ポルノ画像・映像ファイルのハッシュ値などを機密の保たれる環境 でデータベース化し、通報された画像等と照合するなどの方法が考えられる。 警察から機密保持契約に基いたデータ提供を受ければ、ホットラインセンター 稼働初期の段階から、十分なデータは保持できると考えられる。
また、児童ポルノ禁止法では公然陳列のみではなく提供が犯罪とされているの で、通報内容に基いてホットラインセンターが画像等にアクセス可能であれば、 公然陳列は必ずしも満たす必要がないと考えられるため、公然陳列は該当性判 断の基準から削除してよい。
なお、ガイドライン案では違法情報該当性が「明らかである」情報と「疑いが 相当程度認められる」情報とで扱いを分けているが、既に述べているように警 察への通報を基本とする場合は、その判断は警察に期待することとして、とく に区別せずに扱ってよいと考える(警察に先行して送信防止依頼を行うと、相 手によっては証拠隠滅の機会を与えてしまうことになる)。その場合でも、 「明らか」あるいは「疑いが相当程度認められる」といった判断は、未知のも のについては専門家鑑定に拠るべきである。
4.2 わいせつ物公然陳列
すでに述べたようにそもそも単なるわいせつ物についてホットラインで扱う積 極的な意義は存在しないと考えるが、児童ポルノとして通報されたものが児童 ポルノでないもののわいせつ物に該当する可能性が高いと考えられるケースに 無視もできないであろうから、扱いを定める必要は存在するとは考える。
しかし、これもすでに述べたようにわいせつ物については表現の自由との関係、 自主規制機関としての性質を考慮した場合、違法情報であると决めて通報・送 信防止依頼を行うのは適切ではない。あくまで、違法情報に該当する可能性が あるとしての対応依頼に留めるべきであり、違法性が明らかかどうかの判断を 行うべきではない。
そのような前提をおくにしても、ガイドライン案はあまりに単純な該当性判断 であり、合法のものとして一般に解されているもの(例えば、医学的な学術情 報として性器が確認できる画像、芸術作品として合法のものと一般に判断され ている写真・絵画・彫像などにおける性器の描写など) が含まれてしまう可能 性が高く、不適切であり、もっと細かい基準をつくるべきである。
4.3 出会い系サイト規制法違反
実際の出会い系サイトの多くが会員制サービスの形態をとっていることから、 該当性判断をホットラインセンターで行うことができるとは必ずしもいえない。 出会い系サイト規制法では事業者が義務を負っているので、該当性はサイト内容 ではなくホットラインへの通報内容のスクリーニングに用いることとして、 事業者への対応依頼は通報に基くのみで内容を現認していないことを前提とした 固有の形式とするべきである。
4.4 広告
売春防止法違反の広告、規制薬物の広告、預貯金通帳等の譲渡の誘引等、携帯 電話の匿名貸与業等の誘引等が違法情報とされ、けん銃等の譲渡の請負等、公 文書偽造の請負等、児童ポルノの提供、殺人・障害・脅迫・恐喝の請負等が公 序良俗に反する情報とされて扱いが異っているが、これらはいずれも、いわゆ るコメントspam など掲示板等への迷惑書き込みとして多くの場所でみられ、 対応依頼が過大なものとなりかねない一方、現実に問題となるのは情報そのも のではなく広告への応募の結果として重大な違法行為が行われる可能性である (売春広告は一般に単純売春であるとは限らず、刑事罰のある管理売春や売春 斡旋の可能性がある)。
従って、対応は情報そのものの違法性によって扱いをかえるのではなく、いず れも警察への通報を基本とするべきである。その上で、ガイドライン案にある ような書式での対応依頼は、サイト運営者が情報発信者であると判断できる場 合のプロバイダへの依頼や、掲示板への書き込みについて同様のものが集積し て、もっぱらそのような情報を掲示する場と化している場合に一括した対応を 依頼することを前提としたものに限り、散発的な迷惑書き込みがたまたま該当 しているようなケースについてはホットラインでの対応外とするべきである。
4.5 爆発物の製造
ガイドライン案は、学術的な言論や、リアリティを求めた文学的記述をも対象 とする表現規制に踏みこみかねない広汎さをもっている。爆発物の製造には販 売が規制されている原材料の入手が必要になることを考えると、規制されてい る原材料入手のための不正手段の明示など、より限定的なものとなる内容を加 える必要があると考える。
4.6 自殺勧誘・誘引
単なる情報発信の事後抑制が問題を解決するとは思われない。状況によっては 警察への通報が必要であり、また別の状況によっては自殺防止の技術をもった 専門家のコミュニケーションへの介入が必要とされると考えられる。ホットラ インセンターとは別の専門性の高い組織を用意し、ホットラインセンターは通 報の仲介をするにとどめるべきである。
5. 書式
送信防止措置依頼、対応依頼とも、人間がそのまま目を通すマニュアル対応前 提の書式が示されている。しかし、多くの通報を受けるプロバイダなどとの連 携を考慮した場合、個別の内容はマニュアル対応が必要となるとしても、定型 的な情報まで「依頼書」からマニュアル処理で抜き出す必要があるとすれば、 それは大きな負担となりかねない。
従って、依頼書の書式をXML-Schema や Relax-NG などのスキーマ言語で明確 に定義することを前提とし、ガイドライン案にあるような書式例は可読性を考 慮した変換結果であるとするべきである。そのようにしておけば、大規模プロ バイダでは多くの依頼をXML文書として電子的に受け取り、電子署名の認証を 行った上でデータベースに自動的に入力することができ、迅速な対応ができる ようになる。
6. 「違法情報の送信防止措置依頼」についての意見
判断基準については、4.1, 4.3, 4.4 で述べた通りである。そして、「わいせ つ物」については4.2で述べたように「違法情報の送信防止措置依頼」の対象 から外すべきである。
書式については、5. に述べた通り。
7. 「公序良俗に反する情報に関する対応依頼」についての意見
判断基準については、4.2、4.5, で述べた通りである。「わいせつ物」はこち らで扱うべきであると考える。また、4.1 で述べたように、児童ポルノについ ては警察の判断を待つことで「違法情報」に扱いを一本化し「公序良俗に反す る情報に関する対応依頼」の対象からは外すべきである。自殺勧誘・誘引につ いては 4.6 で述べたように専門性の高い別の組織に委ねるべきである。
書式については、5. に述べた通り。
以上。
前エントリで問題点を述べた「ホットライン運用ガイドライン」などについて、意見を書いているのだけど、最後まで書いて仕上がるまでもう一日かかるかな、というところ(体調の都合で一日中パソコンの前に居られないのだ)なのだが、〆切も近いので他の方の参考になるかな、と書きかけのところでとりあえず公表しときます。まだ募集要項の本題にもたどりつかないものであることに注意。なお、これを書くにあたっては、山口貴士弁護士の意見も参考にした(ただし、山口弁護士の論点に細かく立ち入る部分は未了)。
以下、「ホットライン運用ガイドライン」等に対する意見を述べます。
私は、ホットラインの枠組そのものに重大な欠陥があると考えますので、 まずはホットライン全体についての意見を述べ、その中で、及び次いで、 募集要項にある
に関する提案、意見を述べることとします。
1. ホットラインの目的・背景などについて
ガイドライン案では、おもに国内事情を中心として、ひろく「違法・有害情報」 への対応を推進するためにホットラインセンターを設置するとしています。し かし、広汎な情報規制を意図した通報窓口の設置は、有効な通報の動機付けと ならない上、一方で無効な通報により有限なリソースが浪費される可能性があ ります。
インターネットはその国際的越境性から、国内において違法であると考えられ る内容が、かならずしも別の国ではそうではないわけで、それゆえ、一国にお ける対応が困難で、そのことは多くのインターネットユーザーが知っています。 そして、現実にそのような形で国内で違法とされるコンテンツを、多くのイン ターネットユーザが亨受しうる環境が存在しています。
そのような中で、いわば国内サーバ提供コンテンツにかかる「ネット浄化」を 思わせるような形で通報窓口を設置しても、そもそも問題となるようなコンテ ンツに接する可能性が高いユーザの支持を得られそうにもありませんし、また 一方で、正義感からなされる多くの通報が国外サーバ提供コンテンツにかかる ものとなり、多くの通報が無駄となる一方で、調査に人的・計算機的リソース が余計にかかる、ということが考えられます。
一方、国際的な背景をみれば、INHOPEを中心として、「インターネットの自由」 を価値として掲げつつ、おもに児童ポルノなど、児童への直接の人権侵害とな るコンテンツへ対応するホットラインが主流であり、このような流れへの国際 的な対応が必要です。児童ポルノは、被写体の年齢や単純な裸体写真の扱いな どにおいて国によって扱いの異なる境界事例が存在するにしても、その中核と なる要素においては多くの国でその提供が違法とされるのであり、かつ児童へ の重大な人権侵害であることから、積極的な対応が必要です。さらに、国際的 な児童ポルノ通報は、国内サイトに関するものでも、Googleをはじめとする画 像検索サイトや Way Back Machine などの Web アーカイブからの画像・映像 除去の観点からも必要でしょう。
ホットラインの目的・背景としては、このような部分を中心として掲げて、現 実のインターネットユーザ、とくに疑われる情報に接する可能性のある人々の 支持を得る必要があります。そのためには、重大な人権侵害である児童ポルノ についての通報以外は、インターネットで情報を受発信するユーザの利益を考 慮した、自主規制の枠組であることが明確であるようにする必要があります。 法的秩序の完徹をめざす法執行機関と一体化した下請け的組織に見えることこ とはマイナスです。
児童ポルノを中心課題とすることは、他の違法情報についてホットラインで取 り扱うことを否定するものではありませんが、情報の種類にかかわらずひとつ の枠組で扱うべきとは思えず、それぞれの情報に適した枠組を作るべきではな いかと考えます。
2. フィルタリング事業者に対する情報提供に関する問題
ホットラインは扱う情報の性質上、機密性が求められます(INHOPEの会員資格 でも明記されている)。
一方、フィルタリング事業者への情報提供は、通報されたサイト情報が、ホッ トラインの外に出ることを意味します。フィルタリングソフトの種類によって は、ブラックリストの情報が暗号化されてエンドユーザのパソコンに格納され るものがあり、これはエンドユーザによって解読される可能性があります。実 際、米国のCyber Patrol については解読プログラムがオープンソースとして 流通し、Cyber Patrol の権利をもつ会社が 解読プログラム作者を訴え、和解 により作者が会社側にプログラムの権利を譲渡し公開を停止した、という事例 もあります。公開されない形で、このような解読行為が行われる可能性は常に あります。また、フィルタリング事業者によってはユーザにブラックリストを 公開することもあるでしょう。
INHOPE への加盟は国際的な児童ポルノコンテンツの流通抑止への対応として 必要なことですから、このような機密性を毀損する可能性は排除しておく必要 があります。少なくとも、INHOPE経由で通報されたサイト情報がフィルタリン グ事業者に提供されることは避けるべきです。
この点、INHOPEの主要団体のひとつである英国の IWF は、フィルタリング事 業者への情報提供を行っているものの、それは、IWF に通報され、英国法で違 法だと判断されるものの英国外のコンテンツである場合に限定されており(英 国内の場合は違法であれば警察とISP等への通報で対処され、違法でない情報 については扱わないため)、INHOPE経由の通報はサイトが英国内の場合に限ら れることから、問題がおきない形となっています。
INHOPE 経由で通報された情報がフィルタリング事業者に渡らないためには、 専用のフラグを用意して扱う方法も考えられますが、そもそも違法情報のみに 限定して扱うこととすれば、問題は起こりえないはずです。
3. 扱うべき情報の範囲について
すでに述べたように、ホットラインは児童ポルノなど児童への重大な人権侵害 を中心として扱う必要があります。このような観点からみると、ガイドライン 案「第3」「第4」は、違法・有害といった線のひきかた、児童ポルノについ て「わいせつ情報」とまとめるまとめ方など、あまりに問題が大きいと考えま す。
まず、概念として、「違法コンテンツ」と「違法利用」を分ける必要がありま す。「違法コンテンツ」は、そのコンテンツを引用・複製してもやはり違法コ ンテンツですが、違法利用は、使い方の問題であって、内容を第三者が引用・ 複製した場合、文脈によって必ずしも違法なものではありません。
ガイドライン案では、「わいせつ物公然陳列」と「児童ポルノ公然陳列」が違 法コンテンツに該当し、その他の広告的な情報は違法利用に該当します。
3.1 違法コンテンツ
違法コンテンツについて、「わいせつ物公然陳列」と「児童ポルノ公然陳列」 は大きな差があります。「児童ポルノ」は、表現ではなく、表現において実在 の児童を性的に虐待して用いているという問題であり、その要件は客観的なも のであり、重大な人権侵害であり、徹底かつ迅速な対応が迫られるものです。 この場合、警察への通報が基本的な手続きとなり、送信防止措置依頼手続きな どは捜査の妨害とならない形で行われるべきです。
その一方、「わいせつ物」は、表現の問題であるため、常に表現の自由と拮抗 し、歴史的にも何がわいせつ物に該当し、あるいは該当しないのか、常に争い があるものです。ここで、ホットラインが自主規制機関であることをさらに細 かく考えると、従来メディアのように限られた数の企業が明確な合意において 自主規制機関を利用しているわけではないため、ホットラインが情報発信者に 対して行いうるのは、あくまで「わいせつ物」に該当する疑いがあるという指 摘に留まるはずであり、それを受けて該当すると判断するか、判断しないかは あくまで情報発信者の問題であり、刑事裁判においても常に情報発信者は該当 性について争う余地があるところです。従って、違法情報であることが確かで あるかのような通知を情報発信者に対して行うことは問題があります。さらに、 自主規制機関としては、表現に関する警察への通報は行うべきではないと考え ます。
3.2 違法利用
一方、広告的な違法情報は、インターネット上で散見されるものの多くは、単 に管理されないまま放置されている掲示板やブログなどへの迷惑コメント(コ メントspam)がそのままになっていて、spam業者は放置サイトに既に集積して いるspamコメントの内容に応じて自動投稿し、あたかもサイトが違法広告に乗っ 取られたような形になるものが少なくありません。これらについて、ホットラ インの送信防止措置依頼手続が行われると、サイト管理者とホットラインの双 方にとって大きな負担となると考えられます。従って、コメント spam につい てはホットラインとは別に、より簡便な、自動化・半自動化された対処が可能 となるような枠組やシステムの普及を図ることとして、送信防止措置依頼手続 の対象としないこととしておくべきです(コメントspam対処のシステムから、 違法広告を抽出してまとめあげてホットラインに通報する連携は検討されても よい)。送信防止措置依頼手続などは、サイト管理者と違法情報発信者が等し いと考えられる場合やサイト管理者が積極的に違法情報流通に関与していると 考えられる場合に、捜査の妨害とならない形で行われるべきです。
4. 判断基準について
(以下未完)
インターネット協会が「ホットライン運用ガイドライン」等に対する意見の募集についてという文書を発表して以来、 さまざまな批判がネット上で起こっている。
といったところで主要な論点は出ているだろうか(鎌やん氏による批判もあるが、これは細かい論点というよりは大きな規制への動向についての批判だと思う。)
意見募集の期限が迫っているので、とりあえずは、上に挙げた意見では出てこない論点について触れておくこととしたい。
そもそも、なぜホットラインといったものを設けるのか、ということについて、インターネット協会の説明が足りないのだけれども、これには国際的な流れがある。ホットラインという違法情報通報システムを民間で設けるというのはヨーロッパ発のものなのだ。 なぜ警察でなくホットラインかといえば、通報されたものがどこにあるか、といった分析が、現在ならともかく当初は警察の手ではなかなか困難だったことや、またイギリスなどでは児童ポルノの単純所持が違法であるところ、直接警察に通報してしまうと通報者も取り調べの対象となりかねないので、通報者保護のための仲介者が通報促進のためには必要と考えられたといったことがあるだろう。 それらの国際的な連合体としてthe International Association of Internet Hotlines(INHOPE)というものが作られている。ヨーロッパ中心ではあるものの、それ以外でもアメリカやブラジル、韓国、台湾、オーストラリアと参加団体の所属する国は広がりをみせている。そういうなかで、日本にも、ということが事情としては大きいだろう。
INHOPEがネットワークとして扱っているのは、主として児童ポルノに関する通報のようだ(画像や映像のみとは限定されず、場合によってはチャットルーム等での未成年者の誘惑なども通報されている可能性はあるとは思う)。国際的にどこでも違法なコンテンツというと児童ポルノぐらいだからだろうか。いずれにせよ、ここで重要なのは、INHOPEの国際的な通報メカニズムが「違法」なコンテンツや利用についてのみ機能する、ということ。A国において通報された内容がA国内において違法である場合に、コンテンツ等の所在がA国内であれば、そこで閉じるが、別のB国にある場合に、A国にあるホットラインはB国にホットラインがあればそこに通報する。今度はB国では独自に違法かどうか判定して、違法なら処理する、という形だという。
INHOPEの各加盟団体のホットラインがカバーする範囲はさまざまであって、児童ポルノ限定の団体も多いが、オーストラリアや韓国のように、幅広いコンテンツを対象とするところもある。ただし、オーストラリアや韓国にしても、是非はともかくとして、コンテンツの中身に応じた提供範囲(年齢などによる)について法的規制が存在するなか、それに違反している状況を扱うものだ。
こういう前提をみると、インターネット協会のホットラインが、「違法」の枠を越えて問題を扱おうとすることのあまりの独自性が浮かびあがる。また、いろいろな問題を盛り込もうとすれば、「何のため」に、事業を行うのかというところが、ずれていくことになる。INHOPEはその説明文のなかで、価値として最初に「インターネットの自由」を掲げた上で、子どもを守る、という話をしている。しかし、インターネット協会のホットラインセンター関連の文書は、むしろ社会的法益を全面に出す言葉遣いが目立ち、ネットの自由や子どもの保護、といったことがあまり見えない。現実に通報を多数受けようとするのであれば、児童ポルノについての情報が現れがちとなる、アダルトサイトの利用者や、あるいは出会い系サイトを成人を対象として利用する成人などからの通報が欠かせないはずだが、インターネット協会のスタンスは彼らからの信頼を得られるものなのか、疑問が生じる。
もうひとつ、より問題になりうる点、それはデータのフィルタリング事業者への提供だ。それは、通報メカニズムからその外へ情報が出ることを意味する。フィルタリングソフトで扱われるデータは、Cyber Patrol で前例があったように、エンドユーザのディスクに書かれた照合用データベースがクラックされてその内容が明らかとなる場合もあるし、また、個別のURLについてラベリングデータを提供するサービスを透明性の観点から行う場合もあり、フィルタリング事業者へのデータの提供を行う場合、通報されたデータの機密性を保てるとはいえない。これが、日本国内で閉じている話なら、そういうものだと割り切ればいいのかもしれないが、INHOPEの会員資格を得て国際的な通報ネットワークに参加する場合、
- make a commitment to maintain confidentiality
という条件がある。問題は、インターネット協会の枠組では他国の団体から通報された情報の機密を保てないのではないか、ということだ。「違法でない」コンテンツを対象とする場合、そのコンテンツが当該URLのところから消される可能性が低いので、この問題は重要だろう。単にフィルタリング事業者への情報提供、ということでは、例えばINHOPEの主要団体のひとつである、イギリスのInternet Watch Foundation(IWF)でも行っているが、ここで扱う範囲は違法なものに限定されていること、Web上の理事会議事録を読む限りでは、フィルタリング事業者への情報提供は「通報されたがコンテンツがイギリス国内にないため独自対処ができないもの」に限定されているということなので、国際的な通報を受けて問題を生じる可能性はない。しかし、インターネット協会の運用上の説明図では、国際的な通報を受けたものが違法でないと判定される一方でフィルタリング事業者へ提供されて流出する可能性が残る。これで参加実績を積んだ後にINHOPEに参加できるのだろうか、疑問が残る。
ホットラインの必要性そのものは、110番通報やICPOによる国際通報に至らない領域(例えば、Googleのイメージ検索で、一般紙含めマスコミ報道で有名になった児童ポルノタイトルを検索すると大量のサムネイルがひっかかる現状は、適切な通報さえあればほとんど削除されてChilling Effects Clearinghouseのエントリが増えると思うのだが、今のところは IWF から若干の通報があったのみのようだ) を補完するような意味で必要だとは思うが、インターネット協会が現状提案の枠組に固執すると、それは役立たないものになるのではない