先月、
ただ、私の意図は「個人情報を除く」ことにあるのではなく、「重要情報」というネーミングで別の要素が入ってくることについて、どうなんだろうか、ということでもある。この点、後日別のエントリで書きます。
と書いて放置していたのだが、武田氏がまさにちょうどいいエントリを書いていたので、これに反論する形で書いてみようか。
武田氏は朝日新聞の報道について次のように述べている。
このような報道は必要以上に情報の拡散を広め、国民に対する有事のリスクを高めることにつながらないだろうか。より詳細な情報が一般にも報じられていることで何らかの対応施策が必要となった場合、そのための費用は結局国民が担うことになる。このような報道で流出当事者である政府官庁だけが困ると思われがちだが、実際にはそのしわ寄せは一般国民にも及ぶ。
国家が秘密としてきたものは、漏洩・拡散が広がるとその対処で税金が使われるぞ、という形で国家の秘密保持には民間も協力するのが筋で、いわんや漏洩したものを晒し上げるのなどけしからん、という御趣旨のようだ。なるほど、一見納得させられてしまいそうだ。この報道だけでは。
しかし、これは朝日新聞も説明不足だと思うのだが、この記事は単独で出てきたものでは決してないと思われる経過がある。というのは、この記事は、Winnyで流布している「有事演習計画」の中身が偽ファイルじゃなくて本物だったということを防衛庁側から裏をとれた、という面をもつからだ。そして、Winnyで自衛隊の「有事演習計画」が流布しているということについての報道は初めてではなく、すでにその詳細な内容は「スクープ」として報道されていたりする。
月刊現代6月号の『自衛隊 (秘) 作戦計画 「憲法違反」の核心』(斎藤貴男、取材協力 瀬下美和)がその記事だ。この記事によると、問題の有事演習計画では、そのフェーズ1において「周辺事態」だということで公海上で自衛隊が米軍と共同で「船舶検査」(=臨検)を行うということだ。さらにフェーズ2においては陸から100海里(=領海のはるか沖)を作戦領域としての兵力の配備や「不法行動等の兆候を察知した場合」の、速やかな兵力の集中による対処といったことが基本方針とされているという。さらに、前田哲男氏の解説として、自衛隊が戦端が開かれる前に行動を起こしている、といった話も出ている。そういったことをまとめると、記事表題の「憲法違反」という評価になるのだろう。
さて、こういう情報が加わると、武田氏の文章だけを読んだ場合とは、何か違った光景が見えないだろうか。私は、武田氏がこういった事情を知った上でそれを隠して朝日新聞を非難した、とは思わないが、しかし、国家が秘密にしていること、というもののなかには、往々にしてこういった、国民全てが必ずしも国家と利害を同じくするとはいえない情報があり、報道というのは、そういうものをえぐっていくことに存在価値があると見なされている、ということぐらいはおさえてほしいと思う。
私としては新ネタが無かったのでふれていなかった共謀罪審議の動向ですが、いよいよ今週、衆議院法務委員会でまずいことになりそうな状況。日弁連の法務省への反論にもあるように、与党修正案では、結局のところ団体について限定をかけることができていないということで、私がこのblogで過去に提示してみた具体例は、すべて、ほぼそのまま有効です。企業活動への影響について、大企業全体を該当する団体とすることは難しくなっても、新規事業のために設立された部門等は、まさに共謀罪の団体要件を満たしてしまうでしょう。ある事業を行おうとして部門を設立し、その事業が共謀罪の対象になる違法性を帯びていることが事業開始の前に判明して止めた、とすると、その部門はまさに「当該犯罪を実行する目的のために」設立されているわけですから。企業内組織だけではなくて、例えば具体的なアイデアをもとに起業しようとしてベンチャー企業を設立したりしても同じですね。
さて、世の中のほとんどは共謀罪の攻防と考えているわけですが、これは一括の大きな法案の一部に共謀罪がある形で、じつはサイバー犯罪条約がらみの刑法・刑事訴訟法の改正法案でもあるわけです。で、そのなかのひとつ、不正指令電磁的記録作成罪の問題について高木さんが以前から言及していることについて、これが問題であるという点については私も全くそのとおりで、説得力ある具体例を使った説明に、とりたてて付け加えることはないのだけれども、やはり、こういう水準の議論が国会で行われないまま法案が可決されていくというのは、非常に拙速なのではないかと思う。
ぶっちゃけてしまうと、「作成罪」部分を法案から削ったところで、また、さらに「供用罪」部分をも削ったところで、サイバー犯罪条約は留保つきで批准可能だ。留保できない部分は、すでに不正アクセス禁止法で担保されている。「不正指令電磁的記録」に関する問題は全く議論が足りてないから、いっそいったん全部削除し、十分な議論を行った上で別途法案化するむねの付帯決議をつける方向にするべき、といったぐらいのことを野党は言い出してほしい。
以下、「ホットライン運用ガイドライン」等に対する意見を述べます。
私は、ホットラインの枠組そのものに重大な欠陥があると考えますので、 まずはホットライン全体についての意見を述べ、その中で、及び次いで、 募集要項にある
に関する提案、意見を述べることとします。
1. ホットラインの目的・背景などについて
ガイドライン案では、おもに国内事情を中心として、ひろく「違法・有害情報」 への対応を推進するためにホットラインセンターを設置するとしている。しか し、広汎な情報規制を意図した通報窓口の設置は、有効な通報の動機付けとな らない上、一方で無効な通報により有限なリソースが浪費される可能性がある。
インターネットはその国際的越境性から、国内において違法であると考えられ る内容が、かならずしも別の国ではそうではないわけで、それゆえ、一国にお ける対応が困難で、そのことは多くのインターネットユーザーが知っている。 そして、現実にそのような形で国内で違法とされるコンテンツを、多くのイン ターネットユーザが亨受しうる環境が存在している。
そのような中で、いわば国内サーバ提供コンテンツにかかる「ネット浄化」を 思わせるような形で通報窓口を設置しても、そもそも問題となるようなコンテ ンツに接する可能性が高いユーザの支持を得られそうにもないし、また一方で、 正義感からなされる多くの通報が国外サーバ提供コンテンツにかかるものとな り、多くの通報が無駄となる一方で、調査に人的・計算機的リソースが余計に かかる、ということが考えられる。
一方、国際的な背景をみれば、INHOPEを中心として、「インターネットの自由」 を価値として掲げつつ、おもに児童ポルノなど、児童への直接の人権侵害とな るコンテンツへ対応するホットラインが主流であり、このような流れへの国際 的な対応が必要である。児童ポルノは、被写体の年齢や単純な裸体写真の扱い などにおいて国によって扱いの異なる境界事例が存在するにしても、その中核 となる要素においては多くの国でその提供が違法とされるのであり、かつ児童 への重大な人権侵害であることから、積極的な対応が必要である。さらに、国 際的な児童ポルノ通報は、国内サイトに関するものでも、Googleをはじめとす る画像検索サイトや Way Back Machine などの Web アーカイブからの画像・ 映像除去の観点からも必要であろう。
ホットラインの目的・背景としては、このような部分を中心として掲げて、現 実のインターネットユーザ、とくに疑われる情報に接する可能性のある人々の 支持を得る必要がある。そのためには、重大な人権侵害である児童ポルノにつ いての通報以外は、インターネットで情報を受発信するユーザの利益を考慮し た、自主規制の枠組であることが明確であるようにする必要がある。法的秩序 の完徹をめざす法執行機関と一体化した下請け的組織に見えることことはマイ ナスである。
児童ポルノを中心課題とすることは、他の違法情報についてホットラインで取 り扱うことを否定するものではないが、情報の種類にかかわらずひとつの枠組 で扱うべきとは思えず、それぞれの情報に適した枠組を作るべきではないかと 考える。
2. フィルタリング事業者に対する情報提供に関する問題
ホットラインは扱う情報の性質上、機密性が求められる(INHOPEの会員資格で も明記されている)。
一方、フィルタリング事業者への情報提供は、通報されたサイト情報が、ホッ トラインの外に出ることを意味する。フィルタリングソフトの種類によっては、 ブラックリストの情報が暗号化されてエンドユーザのパソコンに格納されるも のがあり、これはエンドユーザによって解読される可能性がある。実際、米国 のCyber Patrol について、解読プログラムがオープンソースとして流通し、 Cyber Patrol の権利をもつ会社が 解読プログラム作者を訴え、和解により作 者が会社側にプログラムの権利を譲渡し公開を停止した、という事件もあった。 公開されない形でこのような解読行為が行われる可能性は常にある。また、フィ ルタリング事業者によっては透明性の観点からユーザにブラックリストを公開 することもあるだろう。
INHOPE への加盟は国際的な児童ポルノコンテンツの流通抑止への対応として 必要なことであるから、このような機密性を毀損する可能性は排除しておく必 要がある。少なくとも、INHOPE経由で通報されたサイト情報がフィルタリング 事業者に提供されることは避けるべきである。
この点、INHOPEの主要団体のひとつである英国の IWF は、フィルタリング事 業者への情報提供を行っているものの、それは、IWF に通報され、英国法で違 法だと判断されるものの英国外のコンテンツである場合に限定されており(英 国内の場合は違法であれば警察とISP等への通報で対処され、違法でない情報 については扱わないため)、INHOPE経由の通報はサイトが英国内の場合に限ら れることから、問題がおきない形となっている。
INHOPE 経由で通報された情報がフィルタリング事業者に渡らないためには、 専用のフラグを用意して扱う方法も考えられるが、そもそも違法情報のみに限 定して扱うこととすれば、問題は起こりえない。
3. 扱うべき情報の範囲について
すでに述べたように、ホットラインは児童ポルノなど児童への重大な人権侵害 を中心として扱う必要がある。このような観点からみると、ガイドライン案 「第3」「第4」は、違法・有害といった線のひきかた、児童ポルノについて 「わいせつ情報」とまとめるまとめ方など、あまりに問題が大きいと考える。
まず、概念として、「違法コンテンツ」と「違法利用」を分ける必要がある。 「違法コンテンツ」は、そのコンテンツを引用・複製してもやはり違法コンテ ンツだが、違法利用は、使い方の問題であって、内容を第三者が引用・複製し た場合、文脈によって必ずしも違法なものではない。
ガイドライン案では、「わいせつ物公然陳列」と「児童ポルノ公然陳列」が違 法コンテンツに該当し、その他の広告的な情報は違法利用に該当する。
3.1 違法コンテンツ
違法コンテンツについて、「わいせつ物公然陳列」と「児童ポルノ公然陳列」 は大きな差がある。「児童ポルノ」は、表現ではなく、表現において実在の児 童を性的に虐待して用いているという問題であり、その要件は客観的なもので あり、重大な人権侵害であり、徹底かつ迅速な対応が迫られるものである。こ の場合、警察への通報が基本的な手続きとなり、送信防止措置依頼手続きなど は捜査の妨害とならない形で行われるべきである。
その一方、「わいせつ物」は、表現の問題であるため、規制は常に表現の自由 と拮抗し、歴史的にも何がわいせつ物に該当し、あるいは該当しないのか、争 われ続けてきた。ホットラインが自主規制機関であり、また、従来メディアの ように限られた数の企業が明確な合意において自主規制機関を利用しているわ けではないため、ホットラインが情報発信者に対して行いうるのは、あくまで 「わいせつ物」に該当する疑いがあるという指摘に留まるはずであり、それを 受けて該当すると判断するか、判断しないかは情報発信者と法執行機関の間の 問題であり、刑事裁判においても常に情報発信者は該当性について争う余地が あるところである。従って、違法情報であることが確かであるかのような通知 を情報発信者に対して行うことは問題がある。さらに、自主規制機関としては、 表現に関する警察への通報は行うべきではないと考える。
3.2 違法利用
一方、広告的な違法情報は、インターネット上で散見されるものの多くは、単 に管理されないまま放置されている掲示板やブログなどへの迷惑コメント(コ メントspam)がそのままになっていて、spam業者は放置サイトに既に集積して いるspamコメントの内容に応じて自動投稿し、あたかもサイトが違法広告に乗っ 取られたような形になるものが少なくない。これらについて、ホットラインの 送信防止措置依頼手続が行われると、サイト管理者とホットラインの双方にとっ て過大な負担となると考えられる。従って、コメント spam についてはホット ラインとは別に、より簡便な、自動化・半自動化された対処が可能となるよう な枠組やシステムの普及を図ることとして、送信防止措置依頼手続の対象とし ないこととしておくべきである(コメントspam対処のシステムから、違法情報 を抽出してまとめあげてホットラインに通報する連携は検討されてもよい)。 送信防止措置依頼手続などは、サイト管理者と違法情報発信者が等しいと考え られる場合やサイト管理者が積極的に違法情報流通に関与していると考えられ る場合に、捜査の妨害とならない形で行われるべきである。
4. 判断基準について
4.1 児童ポルノ
児童ポルノに該当するかどうかの判断として、まずは前提として児童ポルノ禁 止法の定義する児童ポルノであることを明確にするべきである。これが明確で ないため、18歳以上の俳優のみを用いたフィクションやアニメなどの架空のも のが該当するのではないかという誤解が存在している。ガイドライン案 第 3(2)(2)「児童ポルノ公然陳列」に記述されている判断基準は、児童ポルノ 禁止法の要件を前提とした作業上の基準であると定義すべきである。
つぎに、個々の判断基準について。児童に該当するかどうかの判断基準である が、対象者の外見のみからの判断については、小児科医などの専門家による鑑 定を基準とすべきである。担当者・責任者のみの判断では、担当者や責任者の 専門性についての規定がガイドライン中にないため、適切な判断がなされるか どうか不明であり、疑似児童を誤って児童と判断する可能性を否定できない。
附随情報を用いた該当性判断も、摘発逃れのための虚偽、あるいはフィクショ ンとしての疑似と両方の面で誤った情報がつく可能性があるため、あくまで参 考にとどめ、いずれにしても専門家鑑定を必要とするべきであると考えられる。
専門家鑑定を基準とする場合、ホットラインの処理能力の低下が容易に予測さ れるが、そもそもデジタルデータが複製容易であることなどから、インターネッ ト上の多くの画像・映像は複製されたものであることや、現実の児童ポルノの 摘発事例などを考慮すると、既知の児童ポルノ作品、および、18歳以上の俳優 のみを用いた非児童ポルノであるがまぎらわしいポルノ作品についてのデータ を蓄積し、これらと照合することで、専門家鑑定は未知の画像等のみを対象と することができるため、問題ないと考えられる。既知データとの照合は、判断 が難しい、画像等からのみの判断が一般に困難であると考えられる16〜17歳の 被害児童の画像等を判別するためにも有効であろう。
もちろん、児童ポルノ作品そのものをホットラインセンターが蓄積して視認照 合作業のベースとすることは妥当ではないと考えられるが、作品タイトルや児 童の作品中の呼び名、作品と照合可能な顔画像、過去の通報や警察の押収で得 られた児童ポルノ画像・映像ファイルのハッシュ値などを機密の保たれる環境 でデータベース化し、通報された画像等と照合するなどの方法が考えられる。 警察から機密保持契約に基いたデータ提供を受ければ、ホットラインセンター 稼働初期の段階から、十分なデータは保持できると考えられる。
また、児童ポルノ禁止法では公然陳列のみではなく提供が犯罪とされているの で、通報内容に基いてホットラインセンターが画像等にアクセス可能であれば、 公然陳列は必ずしも満たす必要がないと考えられるため、公然陳列は該当性判 断の基準から削除してよい。
なお、ガイドライン案では違法情報該当性が「明らかである」情報と「疑いが 相当程度認められる」情報とで扱いを分けているが、既に述べているように警 察への通報を基本とする場合は、その判断は警察に期待することとして、とく に区別せずに扱ってよいと考える(警察に先行して送信防止依頼を行うと、相 手によっては証拠隠滅の機会を与えてしまうことになる)。その場合でも、 「明らか」あるいは「疑いが相当程度認められる」といった判断は、未知のも のについては専門家鑑定に拠るべきである。
4.2 わいせつ物公然陳列
すでに述べたようにそもそも単なるわいせつ物についてホットラインで扱う積 極的な意義は存在しないと考えるが、児童ポルノとして通報されたものが児童 ポルノでないもののわいせつ物に該当する可能性が高いと考えられるケースに 無視もできないであろうから、扱いを定める必要は存在するとは考える。
しかし、これもすでに述べたようにわいせつ物については表現の自由との関係、 自主規制機関としての性質を考慮した場合、違法情報であると决めて通報・送 信防止依頼を行うのは適切ではない。あくまで、違法情報に該当する可能性が あるとしての対応依頼に留めるべきであり、違法性が明らかかどうかの判断を 行うべきではない。
そのような前提をおくにしても、ガイドライン案はあまりに単純な該当性判断 であり、合法のものとして一般に解されているもの(例えば、医学的な学術情 報として性器が確認できる画像、芸術作品として合法のものと一般に判断され ている写真・絵画・彫像などにおける性器の描写など) が含まれてしまう可能 性が高く、不適切であり、もっと細かい基準をつくるべきである。
4.3 出会い系サイト規制法違反
実際の出会い系サイトの多くが会員制サービスの形態をとっていることから、 該当性判断をホットラインセンターで行うことができるとは必ずしもいえない。 出会い系サイト規制法では事業者が義務を負っているので、該当性はサイト内容 ではなくホットラインへの通報内容のスクリーニングに用いることとして、 事業者への対応依頼は通報に基くのみで内容を現認していないことを前提とした 固有の形式とするべきである。
4.4 広告
売春防止法違反の広告、規制薬物の広告、預貯金通帳等の譲渡の誘引等、携帯 電話の匿名貸与業等の誘引等が違法情報とされ、けん銃等の譲渡の請負等、公 文書偽造の請負等、児童ポルノの提供、殺人・障害・脅迫・恐喝の請負等が公 序良俗に反する情報とされて扱いが異っているが、これらはいずれも、いわゆ るコメントspam など掲示板等への迷惑書き込みとして多くの場所でみられ、 対応依頼が過大なものとなりかねない一方、現実に問題となるのは情報そのも のではなく広告への応募の結果として重大な違法行為が行われる可能性である (売春広告は一般に単純売春であるとは限らず、刑事罰のある管理売春や売春 斡旋の可能性がある)。
従って、対応は情報そのものの違法性によって扱いをかえるのではなく、いず れも警察への通報を基本とするべきである。その上で、ガイドライン案にある ような書式での対応依頼は、サイト運営者が情報発信者であると判断できる場 合のプロバイダへの依頼や、掲示板への書き込みについて同様のものが集積し て、もっぱらそのような情報を掲示する場と化している場合に一括した対応を 依頼することを前提としたものに限り、散発的な迷惑書き込みがたまたま該当 しているようなケースについてはホットラインでの対応外とするべきである。
4.5 爆発物の製造
ガイドライン案は、学術的な言論や、リアリティを求めた文学的記述をも対象 とする表現規制に踏みこみかねない広汎さをもっている。爆発物の製造には販 売が規制されている原材料の入手が必要になることを考えると、規制されてい る原材料入手のための不正手段の明示など、より限定的なものとなる内容を加 える必要があると考える。
4.6 自殺勧誘・誘引
単なる情報発信の事後抑制が問題を解決するとは思われない。状況によっては 警察への通報が必要であり、また別の状況によっては自殺防止の技術をもった 専門家のコミュニケーションへの介入が必要とされると考えられる。ホットラ インセンターとは別の専門性の高い組織を用意し、ホットラインセンターは通 報の仲介をするにとどめるべきである。
5. 書式
送信防止措置依頼、対応依頼とも、人間がそのまま目を通すマニュアル対応前 提の書式が示されている。しかし、多くの通報を受けるプロバイダなどとの連 携を考慮した場合、個別の内容はマニュアル対応が必要となるとしても、定型 的な情報まで「依頼書」からマニュアル処理で抜き出す必要があるとすれば、 それは大きな負担となりかねない。
従って、依頼書の書式をXML-Schema や Relax-NG などのスキーマ言語で明確 に定義することを前提とし、ガイドライン案にあるような書式例は可読性を考 慮した変換結果であるとするべきである。そのようにしておけば、大規模プロ バイダでは多くの依頼をXML文書として電子的に受け取り、電子署名の認証を 行った上でデータベースに自動的に入力することができ、迅速な対応ができる ようになる。
6. 「違法情報の送信防止措置依頼」についての意見
判断基準については、4.1, 4.3, 4.4 で述べた通りである。そして、「わいせ つ物」については4.2で述べたように「違法情報の送信防止措置依頼」の対象 から外すべきである。
書式については、5. に述べた通り。
7. 「公序良俗に反する情報に関する対応依頼」についての意見
判断基準については、4.2、4.5, で述べた通りである。「わいせつ物」はこち らで扱うべきであると考える。また、4.1 で述べたように、児童ポルノについ ては警察の判断を待つことで「違法情報」に扱いを一本化し「公序良俗に反す る情報に関する対応依頼」の対象からは外すべきである。自殺勧誘・誘引につ いては 4.6 で述べたように専門性の高い別の組織に委ねるべきである。
書式については、5. に述べた通り。
以上。
前エントリで問題点を述べた「ホットライン運用ガイドライン」などについて、意見を書いているのだけど、最後まで書いて仕上がるまでもう一日かかるかな、というところ(体調の都合で一日中パソコンの前に居られないのだ)なのだが、〆切も近いので他の方の参考になるかな、と書きかけのところでとりあえず公表しときます。まだ募集要項の本題にもたどりつかないものであることに注意。なお、これを書くにあたっては、山口貴士弁護士の意見も参考にした(ただし、山口弁護士の論点に細かく立ち入る部分は未了)。
以下、「ホットライン運用ガイドライン」等に対する意見を述べます。
私は、ホットラインの枠組そのものに重大な欠陥があると考えますので、 まずはホットライン全体についての意見を述べ、その中で、及び次いで、 募集要項にある
に関する提案、意見を述べることとします。
1. ホットラインの目的・背景などについて
ガイドライン案では、おもに国内事情を中心として、ひろく「違法・有害情報」 への対応を推進するためにホットラインセンターを設置するとしています。し かし、広汎な情報規制を意図した通報窓口の設置は、有効な通報の動機付けと ならない上、一方で無効な通報により有限なリソースが浪費される可能性があ ります。
インターネットはその国際的越境性から、国内において違法であると考えられ る内容が、かならずしも別の国ではそうではないわけで、それゆえ、一国にお ける対応が困難で、そのことは多くのインターネットユーザーが知っています。 そして、現実にそのような形で国内で違法とされるコンテンツを、多くのイン ターネットユーザが亨受しうる環境が存在しています。
そのような中で、いわば国内サーバ提供コンテンツにかかる「ネット浄化」を 思わせるような形で通報窓口を設置しても、そもそも問題となるようなコンテ ンツに接する可能性が高いユーザの支持を得られそうにもありませんし、また 一方で、正義感からなされる多くの通報が国外サーバ提供コンテンツにかかる ものとなり、多くの通報が無駄となる一方で、調査に人的・計算機的リソース が余計にかかる、ということが考えられます。
一方、国際的な背景をみれば、INHOPEを中心として、「インターネットの自由」 を価値として掲げつつ、おもに児童ポルノなど、児童への直接の人権侵害とな るコンテンツへ対応するホットラインが主流であり、このような流れへの国際 的な対応が必要です。児童ポルノは、被写体の年齢や単純な裸体写真の扱いな どにおいて国によって扱いの異なる境界事例が存在するにしても、その中核と なる要素においては多くの国でその提供が違法とされるのであり、かつ児童へ の重大な人権侵害であることから、積極的な対応が必要です。さらに、国際的 な児童ポルノ通報は、国内サイトに関するものでも、Googleをはじめとする画 像検索サイトや Way Back Machine などの Web アーカイブからの画像・映像 除去の観点からも必要でしょう。
ホットラインの目的・背景としては、このような部分を中心として掲げて、現 実のインターネットユーザ、とくに疑われる情報に接する可能性のある人々の 支持を得る必要があります。そのためには、重大な人権侵害である児童ポルノ についての通報以外は、インターネットで情報を受発信するユーザの利益を考 慮した、自主規制の枠組であることが明確であるようにする必要があります。 法的秩序の完徹をめざす法執行機関と一体化した下請け的組織に見えることこ とはマイナスです。
児童ポルノを中心課題とすることは、他の違法情報についてホットラインで取 り扱うことを否定するものではありませんが、情報の種類にかかわらずひとつ の枠組で扱うべきとは思えず、それぞれの情報に適した枠組を作るべきではな いかと考えます。
2. フィルタリング事業者に対する情報提供に関する問題
ホットラインは扱う情報の性質上、機密性が求められます(INHOPEの会員資格 でも明記されている)。
一方、フィルタリング事業者への情報提供は、通報されたサイト情報が、ホッ トラインの外に出ることを意味します。フィルタリングソフトの種類によって は、ブラックリストの情報が暗号化されてエンドユーザのパソコンに格納され るものがあり、これはエンドユーザによって解読される可能性があります。実 際、米国のCyber Patrol については解読プログラムがオープンソースとして 流通し、Cyber Patrol の権利をもつ会社が 解読プログラム作者を訴え、和解 により作者が会社側にプログラムの権利を譲渡し公開を停止した、という事例 もあります。公開されない形で、このような解読行為が行われる可能性は常に あります。また、フィルタリング事業者によってはユーザにブラックリストを 公開することもあるでしょう。
INHOPE への加盟は国際的な児童ポルノコンテンツの流通抑止への対応として 必要なことですから、このような機密性を毀損する可能性は排除しておく必要 があります。少なくとも、INHOPE経由で通報されたサイト情報がフィルタリン グ事業者に提供されることは避けるべきです。
この点、INHOPEの主要団体のひとつである英国の IWF は、フィルタリング事 業者への情報提供を行っているものの、それは、IWF に通報され、英国法で違 法だと判断されるものの英国外のコンテンツである場合に限定されており(英 国内の場合は違法であれば警察とISP等への通報で対処され、違法でない情報 については扱わないため)、INHOPE経由の通報はサイトが英国内の場合に限ら れることから、問題がおきない形となっています。
INHOPE 経由で通報された情報がフィルタリング事業者に渡らないためには、 専用のフラグを用意して扱う方法も考えられますが、そもそも違法情報のみに 限定して扱うこととすれば、問題は起こりえないはずです。
3. 扱うべき情報の範囲について
すでに述べたように、ホットラインは児童ポルノなど児童への重大な人権侵害 を中心として扱う必要があります。このような観点からみると、ガイドライン 案「第3」「第4」は、違法・有害といった線のひきかた、児童ポルノについ て「わいせつ情報」とまとめるまとめ方など、あまりに問題が大きいと考えま す。
まず、概念として、「違法コンテンツ」と「違法利用」を分ける必要がありま す。「違法コンテンツ」は、そのコンテンツを引用・複製してもやはり違法コ ンテンツですが、違法利用は、使い方の問題であって、内容を第三者が引用・ 複製した場合、文脈によって必ずしも違法なものではありません。
ガイドライン案では、「わいせつ物公然陳列」と「児童ポルノ公然陳列」が違 法コンテンツに該当し、その他の広告的な情報は違法利用に該当します。
3.1 違法コンテンツ
違法コンテンツについて、「わいせつ物公然陳列」と「児童ポルノ公然陳列」 は大きな差があります。「児童ポルノ」は、表現ではなく、表現において実在 の児童を性的に虐待して用いているという問題であり、その要件は客観的なも のであり、重大な人権侵害であり、徹底かつ迅速な対応が迫られるものです。 この場合、警察への通報が基本的な手続きとなり、送信防止措置依頼手続きな どは捜査の妨害とならない形で行われるべきです。
その一方、「わいせつ物」は、表現の問題であるため、常に表現の自由と拮抗 し、歴史的にも何がわいせつ物に該当し、あるいは該当しないのか、常に争い があるものです。ここで、ホットラインが自主規制機関であることをさらに細 かく考えると、従来メディアのように限られた数の企業が明確な合意において 自主規制機関を利用しているわけではないため、ホットラインが情報発信者に 対して行いうるのは、あくまで「わいせつ物」に該当する疑いがあるという指 摘に留まるはずであり、それを受けて該当すると判断するか、判断しないかは あくまで情報発信者の問題であり、刑事裁判においても常に情報発信者は該当 性について争う余地があるところです。従って、違法情報であることが確かで あるかのような通知を情報発信者に対して行うことは問題があります。さらに、 自主規制機関としては、表現に関する警察への通報は行うべきではないと考え ます。
3.2 違法利用
一方、広告的な違法情報は、インターネット上で散見されるものの多くは、単 に管理されないまま放置されている掲示板やブログなどへの迷惑コメント(コ メントspam)がそのままになっていて、spam業者は放置サイトに既に集積して いるspamコメントの内容に応じて自動投稿し、あたかもサイトが違法広告に乗っ 取られたような形になるものが少なくありません。これらについて、ホットラ インの送信防止措置依頼手続が行われると、サイト管理者とホットラインの双 方にとって大きな負担となると考えられます。従って、コメント spam につい てはホットラインとは別に、より簡便な、自動化・半自動化された対処が可能 となるような枠組やシステムの普及を図ることとして、送信防止措置依頼手続 の対象としないこととしておくべきです(コメントspam対処のシステムから、 違法広告を抽出してまとめあげてホットラインに通報する連携は検討されても よい)。送信防止措置依頼手続などは、サイト管理者と違法情報発信者が等し いと考えられる場合やサイト管理者が積極的に違法情報流通に関与していると 考えられる場合に、捜査の妨害とならない形で行われるべきです。
4. 判断基準について
(以下未完)
インターネット協会が「ホットライン運用ガイドライン」等に対する意見の募集についてという文書を発表して以来、 さまざまな批判がネット上で起こっている。
といったところで主要な論点は出ているだろうか(鎌やん氏による批判もあるが、これは細かい論点というよりは大きな規制への動向についての批判だと思う。)
意見募集の期限が迫っているので、とりあえずは、上に挙げた意見では出てこない論点について触れておくこととしたい。
そもそも、なぜホットラインといったものを設けるのか、ということについて、インターネット協会の説明が足りないのだけれども、これには国際的な流れがある。ホットラインという違法情報通報システムを民間で設けるというのはヨーロッパ発のものなのだ。 なぜ警察でなくホットラインかといえば、通報されたものがどこにあるか、といった分析が、現在ならともかく当初は警察の手ではなかなか困難だったことや、またイギリスなどでは児童ポルノの単純所持が違法であるところ、直接警察に通報してしまうと通報者も取り調べの対象となりかねないので、通報者保護のための仲介者が通報促進のためには必要と考えられたといったことがあるだろう。 それらの国際的な連合体としてthe International Association of Internet Hotlines(INHOPE)というものが作られている。ヨーロッパ中心ではあるものの、それ以外でもアメリカやブラジル、韓国、台湾、オーストラリアと参加団体の所属する国は広がりをみせている。そういうなかで、日本にも、ということが事情としては大きいだろう。
INHOPEがネットワークとして扱っているのは、主として児童ポルノに関する通報のようだ(画像や映像のみとは限定されず、場合によってはチャットルーム等での未成年者の誘惑なども通報されている可能性はあるとは思う)。国際的にどこでも違法なコンテンツというと児童ポルノぐらいだからだろうか。いずれにせよ、ここで重要なのは、INHOPEの国際的な通報メカニズムが「違法」なコンテンツや利用についてのみ機能する、ということ。A国において通報された内容がA国内において違法である場合に、コンテンツ等の所在がA国内であれば、そこで閉じるが、別のB国にある場合に、A国にあるホットラインはB国にホットラインがあればそこに通報する。今度はB国では独自に違法かどうか判定して、違法なら処理する、という形だという。
INHOPEの各加盟団体のホットラインがカバーする範囲はさまざまであって、児童ポルノ限定の団体も多いが、オーストラリアや韓国のように、幅広いコンテンツを対象とするところもある。ただし、オーストラリアや韓国にしても、是非はともかくとして、コンテンツの中身に応じた提供範囲(年齢などによる)について法的規制が存在するなか、それに違反している状況を扱うものだ。
こういう前提をみると、インターネット協会のホットラインが、「違法」の枠を越えて問題を扱おうとすることのあまりの独自性が浮かびあがる。また、いろいろな問題を盛り込もうとすれば、「何のため」に、事業を行うのかというところが、ずれていくことになる。INHOPEはその説明文のなかで、価値として最初に「インターネットの自由」を掲げた上で、子どもを守る、という話をしている。しかし、インターネット協会のホットラインセンター関連の文書は、むしろ社会的法益を全面に出す言葉遣いが目立ち、ネットの自由や子どもの保護、といったことがあまり見えない。現実に通報を多数受けようとするのであれば、児童ポルノについての情報が現れがちとなる、アダルトサイトの利用者や、あるいは出会い系サイトを成人を対象として利用する成人などからの通報が欠かせないはずだが、インターネット協会のスタンスは彼らからの信頼を得られるものなのか、疑問が生じる。
もうひとつ、より問題になりうる点、それはデータのフィルタリング事業者への提供だ。それは、通報メカニズムからその外へ情報が出ることを意味する。フィルタリングソフトで扱われるデータは、Cyber Patrol で前例があったように、エンドユーザのディスクに書かれた照合用データベースがクラックされてその内容が明らかとなる場合もあるし、また、個別のURLについてラベリングデータを提供するサービスを透明性の観点から行う場合もあり、フィルタリング事業者へのデータの提供を行う場合、通報されたデータの機密性を保てるとはいえない。これが、日本国内で閉じている話なら、そういうものだと割り切ればいいのかもしれないが、INHOPEの会員資格を得て国際的な通報ネットワークに参加する場合、
- make a commitment to maintain confidentiality
という条件がある。問題は、インターネット協会の枠組では他国の団体から通報された情報の機密を保てないのではないか、ということだ。「違法でない」コンテンツを対象とする場合、そのコンテンツが当該URLのところから消される可能性が低いので、この問題は重要だろう。単にフィルタリング事業者への情報提供、ということでは、例えばINHOPEの主要団体のひとつである、イギリスのInternet Watch Foundation(IWF)でも行っているが、ここで扱う範囲は違法なものに限定されていること、Web上の理事会議事録を読む限りでは、フィルタリング事業者への情報提供は「通報されたがコンテンツがイギリス国内にないため独自対処ができないもの」に限定されているということなので、国際的な通報を受けて問題を生じる可能性はない。しかし、インターネット協会の運用上の説明図では、国際的な通報を受けたものが違法でないと判定される一方でフィルタリング事業者へ提供されて流出する可能性が残る。これで参加実績を積んだ後にINHOPEに参加できるのだろうか、疑問が残る。
ホットラインの必要性そのものは、110番通報やICPOによる国際通報に至らない領域(例えば、Googleのイメージ検索で、一般紙含めマスコミ報道で有名になった児童ポルノタイトルを検索すると大量のサムネイルがひっかかる現状は、適切な通報さえあればほとんど削除されてChilling Effects Clearinghouseのエントリが増えると思うのだが、今のところは IWF から若干の通報があったのみのようだ) を補完するような意味で必要だとは思うが、インターネット協会が現状提案の枠組に固執すると、それは役立たないものになるのではないかと思うが、どうだろうか。
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