アーカイブ: 5月 2006, 04

2006/05/04

Permalink 17:14:00, 著者: Nobuo Sakiyama Email , 1139 回閲覧   Japanese (JP)
カテゴリ: 検閲, 言論・表現の自由, 児童ポルノ問題

インターネット協会「ホットライン」は役に立たないかもしれない

インターネット協会が「ホットライン運用ガイドライン」等に対する意見の募集についてという文書を発表して以来、 さまざまな批判がネット上で起こっている。

といったところで主要な論点は出ているだろうか(鎌やん氏による批判もあるが、これは細かい論点というよりは大きな規制への動向についての批判だと思う。)

意見募集の期限が迫っているので、とりあえずは、上に挙げた意見では出てこない論点について触れておくこととしたい。

そもそも、なぜホットラインといったものを設けるのか、ということについて、インターネット協会の説明が足りないのだけれども、これには国際的な流れがある。ホットラインという違法情報通報システムを民間で設けるというのはヨーロッパ発のものなのだ。 なぜ警察でなくホットラインかといえば、通報されたものがどこにあるか、といった分析が、現在ならともかく当初は警察の手ではなかなか困難だったことや、またイギリスなどでは児童ポルノの単純所持が違法であるところ、直接警察に通報してしまうと通報者も取り調べの対象となりかねないので、通報者保護のための仲介者が通報促進のためには必要と考えられたといったことがあるだろう。 それらの国際的な連合体としてthe International Association of Internet Hotlines(INHOPE)というものが作られている。ヨーロッパ中心ではあるものの、それ以外でもアメリカやブラジル、韓国、台湾、オーストラリアと参加団体の所属する国は広がりをみせている。そういうなかで、日本にも、ということが事情としては大きいだろう。

INHOPEがネットワークとして扱っているのは、主として児童ポルノに関する通報のようだ(画像や映像のみとは限定されず、場合によってはチャットルーム等での未成年者の誘惑なども通報されている可能性はあるとは思う)。国際的にどこでも違法なコンテンツというと児童ポルノぐらいだからだろうか。いずれにせよ、ここで重要なのは、INHOPEの国際的な通報メカニズムが「違法」なコンテンツや利用についてのみ機能する、ということ。A国において通報された内容がA国内において違法である場合に、コンテンツ等の所在がA国内であれば、そこで閉じるが、別のB国にある場合に、A国にあるホットラインはB国にホットラインがあればそこに通報する。今度はB国では独自に違法かどうか判定して、違法なら処理する、という形だという。

INHOPEの各加盟団体のホットラインがカバーする範囲はさまざまであって、児童ポルノ限定の団体も多いが、オーストラリアや韓国のように、幅広いコンテンツを対象とするところもある。ただし、オーストラリアや韓国にしても、是非はともかくとして、コンテンツの中身に応じた提供範囲(年齢などによる)について法的規制が存在するなか、それに違反している状況を扱うものだ。

こういう前提をみると、インターネット協会のホットラインが、「違法」の枠を越えて問題を扱おうとすることのあまりの独自性が浮かびあがる。また、いろいろな問題を盛り込もうとすれば、「何のため」に、事業を行うのかというところが、ずれていくことになる。INHOPEはその説明文のなかで、価値として最初に「インターネットの自由」を掲げた上で、子どもを守る、という話をしている。しかし、インターネット協会のホットラインセンター関連の文書は、むしろ社会的法益を全面に出す言葉遣いが目立ち、ネットの自由や子どもの保護、といったことがあまり見えない。現実に通報を多数受けようとするのであれば、児童ポルノについての情報が現れがちとなる、アダルトサイトの利用者や、あるいは出会い系サイトを成人を対象として利用する成人などからの通報が欠かせないはずだが、インターネット協会のスタンスは彼らからの信頼を得られるものなのか、疑問が生じる。

もうひとつ、より問題になりうる点、それはデータのフィルタリング事業者への提供だ。それは、通報メカニズムからその外へ情報が出ることを意味する。フィルタリングソフトで扱われるデータは、Cyber Patrol で前例があったように、エンドユーザのディスクに書かれた照合用データベースがクラックされてその内容が明らかとなる場合もあるし、また、個別のURLについてラベリングデータを提供するサービスを透明性の観点から行う場合もあり、フィルタリング事業者へのデータの提供を行う場合、通報されたデータの機密性を保てるとはいえない。これが、日本国内で閉じている話なら、そういうものだと割り切ればいいのかもしれないが、INHOPEの会員資格を得て国際的な通報ネットワークに参加する場合、

  • make a commitment to maintain confidentiality

という条件がある。問題は、インターネット協会の枠組では他国の団体から通報された情報の機密を保てないのではないか、ということだ。「違法でない」コンテンツを対象とする場合、そのコンテンツが当該URLのところから消される可能性が低いので、この問題は重要だろう。単にフィルタリング事業者への情報提供、ということでは、例えばINHOPEの主要団体のひとつである、イギリスのInternet Watch Foundation(IWF)でも行っているが、ここで扱う範囲は違法なものに限定されていること、Web上の理事会議事録を読む限りでは、フィルタリング事業者への情報提供は「通報されたがコンテンツがイギリス国内にないため独自対処ができないもの」に限定されているということなので、国際的な通報を受けて問題を生じる可能性はない。しかし、インターネット協会の運用上の説明図では、国際的な通報を受けたものが違法でないと判定される一方でフィルタリング事業者へ提供されて流出する可能性が残る。これで参加実績を積んだ後にINHOPEに参加できるのだろうか、疑問が残る。

ホットラインの必要性そのものは、110番通報やICPOによる国際通報に至らない領域(例えば、Googleのイメージ検索で、一般紙含めマスコミ報道で有名になった児童ポルノタイトルを検索すると大量のサムネイルがひっかかる現状は、適切な通報さえあればほとんど削除されてChilling Effects Clearinghouseのエントリが増えると思うのだが、今のところは IWF から若干の通報があったのみのようだ) を補完するような意味で必要だとは思うが、インターネット協会が現状提案の枠組に固執すると、それは役立たないものになるのではないかと思うが、どうだろうか。

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