インターネット協会「ホットライン運用ガイドライン」等に対する意見

2006/05/08

Permalink 05:00:35, 著者: Nobuo Sakiyama Email , 1318 回閲覧   Japanese (JP)
カテゴリ: 検閲, パブリックコメント, 言論・表現の自由, 児童ポルノ問題

インターネット協会「ホットライン運用ガイドライン」等に対する意見

以下、「ホットライン運用ガイドライン」等に対する意見を述べます。

私は、ホットラインの枠組そのものに重大な欠陥があると考えますので、 まずはホットライン全体についての意見を述べ、その中で、及び次いで、 募集要項にある

  • 第3 プロバイダや電子掲示板の管理者等に対する違法情報の送信防止措置依頼
  • 第4 プロバイダや電子掲示板の管理者等に対する公序良俗に反する情報に関する対応依頼

に関する提案、意見を述べることとします。

1. ホットラインの目的・背景などについて

ガイドライン案では、おもに国内事情を中心として、ひろく「違法・有害情報」 への対応を推進するためにホットラインセンターを設置するとしている。しか し、広汎な情報規制を意図した通報窓口の設置は、有効な通報の動機付けとな らない上、一方で無効な通報により有限なリソースが浪費される可能性がある。

インターネットはその国際的越境性から、国内において違法であると考えられ る内容が、かならずしも別の国ではそうではないわけで、それゆえ、一国にお ける対応が困難で、そのことは多くのインターネットユーザーが知っている。 そして、現実にそのような形で国内で違法とされるコンテンツを、多くのイン ターネットユーザが亨受しうる環境が存在している。

そのような中で、いわば国内サーバ提供コンテンツにかかる「ネット浄化」を 思わせるような形で通報窓口を設置しても、そもそも問題となるようなコンテ ンツに接する可能性が高いユーザの支持を得られそうにもないし、また一方で、 正義感からなされる多くの通報が国外サーバ提供コンテンツにかかるものとな り、多くの通報が無駄となる一方で、調査に人的・計算機的リソースが余計に かかる、ということが考えられる。

一方、国際的な背景をみれば、INHOPEを中心として、「インターネットの自由」 を価値として掲げつつ、おもに児童ポルノなど、児童への直接の人権侵害とな るコンテンツへ対応するホットラインが主流であり、このような流れへの国際 的な対応が必要である。児童ポルノは、被写体の年齢や単純な裸体写真の扱い などにおいて国によって扱いの異なる境界事例が存在するにしても、その中核 となる要素においては多くの国でその提供が違法とされるのであり、かつ児童 への重大な人権侵害であることから、積極的な対応が必要である。さらに、国 際的な児童ポルノ通報は、国内サイトに関するものでも、Googleをはじめとす る画像検索サイトや Way Back Machine などの Web アーカイブからの画像・ 映像除去の観点からも必要であろう。

ホットラインの目的・背景としては、このような部分を中心として掲げて、現 実のインターネットユーザ、とくに疑われる情報に接する可能性のある人々の 支持を得る必要がある。そのためには、重大な人権侵害である児童ポルノにつ いての通報以外は、インターネットで情報を受発信するユーザの利益を考慮し た、自主規制の枠組であることが明確であるようにする必要がある。法的秩序 の完徹をめざす法執行機関と一体化した下請け的組織に見えることことはマイ ナスである。

児童ポルノを中心課題とすることは、他の違法情報についてホットラインで取 り扱うことを否定するものではないが、情報の種類にかかわらずひとつの枠組 で扱うべきとは思えず、それぞれの情報に適した枠組を作るべきではないかと 考える。

2. フィルタリング事業者に対する情報提供に関する問題

ホットラインは扱う情報の性質上、機密性が求められる(INHOPEの会員資格で も明記されている)。

一方、フィルタリング事業者への情報提供は、通報されたサイト情報が、ホッ トラインの外に出ることを意味する。フィルタリングソフトの種類によっては、 ブラックリストの情報が暗号化されてエンドユーザのパソコンに格納されるも のがあり、これはエンドユーザによって解読される可能性がある。実際、米国 のCyber Patrol について、解読プログラムがオープンソースとして流通し、 Cyber Patrol の権利をもつ会社が 解読プログラム作者を訴え、和解により作 者が会社側にプログラムの権利を譲渡し公開を停止した、という事件もあった。 公開されない形でこのような解読行為が行われる可能性は常にある。また、フィ ルタリング事業者によっては透明性の観点からユーザにブラックリストを公開 することもあるだろう。

INHOPE への加盟は国際的な児童ポルノコンテンツの流通抑止への対応として 必要なことであるから、このような機密性を毀損する可能性は排除しておく必 要がある。少なくとも、INHOPE経由で通報されたサイト情報がフィルタリング 事業者に提供されることは避けるべきである。

この点、INHOPEの主要団体のひとつである英国の IWF は、フィルタリング事 業者への情報提供を行っているものの、それは、IWF に通報され、英国法で違 法だと判断されるものの英国外のコンテンツである場合に限定されており(英 国内の場合は違法であれば警察とISP等への通報で対処され、違法でない情報 については扱わないため)、INHOPE経由の通報はサイトが英国内の場合に限ら れることから、問題がおきない形となっている。

INHOPE 経由で通報された情報がフィルタリング事業者に渡らないためには、 専用のフラグを用意して扱う方法も考えられるが、そもそも違法情報のみに限 定して扱うこととすれば、問題は起こりえない。

3. 扱うべき情報の範囲について

すでに述べたように、ホットラインは児童ポルノなど児童への重大な人権侵害 を中心として扱う必要がある。このような観点からみると、ガイドライン案 「第3」「第4」は、違法・有害といった線のひきかた、児童ポルノについて 「わいせつ情報」とまとめるまとめ方など、あまりに問題が大きいと考える。

まず、概念として、「違法コンテンツ」と「違法利用」を分ける必要がある。 「違法コンテンツ」は、そのコンテンツを引用・複製してもやはり違法コンテ ンツだが、違法利用は、使い方の問題であって、内容を第三者が引用・複製し た場合、文脈によって必ずしも違法なものではない。

ガイドライン案では、「わいせつ物公然陳列」と「児童ポルノ公然陳列」が違 法コンテンツに該当し、その他の広告的な情報は違法利用に該当する。

3.1 違法コンテンツ

違法コンテンツについて、「わいせつ物公然陳列」と「児童ポルノ公然陳列」 は大きな差がある。「児童ポルノ」は、表現ではなく、表現において実在の児 童を性的に虐待して用いているという問題であり、その要件は客観的なもので あり、重大な人権侵害であり、徹底かつ迅速な対応が迫られるものである。こ の場合、警察への通報が基本的な手続きとなり、送信防止措置依頼手続きなど は捜査の妨害とならない形で行われるべきである。

その一方、「わいせつ物」は、表現の問題であるため、規制は常に表現の自由 と拮抗し、歴史的にも何がわいせつ物に該当し、あるいは該当しないのか、争 われ続けてきた。ホットラインが自主規制機関であり、また、従来メディアの ように限られた数の企業が明確な合意において自主規制機関を利用しているわ けではないため、ホットラインが情報発信者に対して行いうるのは、あくまで 「わいせつ物」に該当する疑いがあるという指摘に留まるはずであり、それを 受けて該当すると判断するか、判断しないかは情報発信者と法執行機関の間の 問題であり、刑事裁判においても常に情報発信者は該当性について争う余地が あるところである。従って、違法情報であることが確かであるかのような通知 を情報発信者に対して行うことは問題がある。さらに、自主規制機関としては、 表現に関する警察への通報は行うべきではないと考える。

3.2 違法利用

一方、広告的な違法情報は、インターネット上で散見されるものの多くは、単 に管理されないまま放置されている掲示板やブログなどへの迷惑コメント(コ メントspam)がそのままになっていて、spam業者は放置サイトに既に集積して いるspamコメントの内容に応じて自動投稿し、あたかもサイトが違法広告に乗っ 取られたような形になるものが少なくない。これらについて、ホットラインの 送信防止措置依頼手続が行われると、サイト管理者とホットラインの双方にとっ て過大な負担となると考えられる。従って、コメント spam についてはホット ラインとは別に、より簡便な、自動化・半自動化された対処が可能となるよう な枠組やシステムの普及を図ることとして、送信防止措置依頼手続の対象とし ないこととしておくべきである(コメントspam対処のシステムから、違法情報 を抽出してまとめあげてホットラインに通報する連携は検討されてもよい)。 送信防止措置依頼手続などは、サイト管理者と違法情報発信者が等しいと考え られる場合やサイト管理者が積極的に違法情報流通に関与していると考えられ る場合に、捜査の妨害とならない形で行われるべきである。

4. 判断基準について

4.1 児童ポルノ

児童ポルノに該当するかどうかの判断として、まずは前提として児童ポルノ禁 止法の定義する児童ポルノであることを明確にするべきである。これが明確で ないため、18歳以上の俳優のみを用いたフィクションやアニメなどの架空のも のが該当するのではないかという誤解が存在している。ガイドライン案 第 3(2)(2)「児童ポルノ公然陳列」に記述されている判断基準は、児童ポルノ 禁止法の要件を前提とした作業上の基準であると定義すべきである。

つぎに、個々の判断基準について。児童に該当するかどうかの判断基準である が、対象者の外見のみからの判断については、小児科医などの専門家による鑑 定を基準とすべきである。担当者・責任者のみの判断では、担当者や責任者の 専門性についての規定がガイドライン中にないため、適切な判断がなされるか どうか不明であり、疑似児童を誤って児童と判断する可能性を否定できない。

附随情報を用いた該当性判断も、摘発逃れのための虚偽、あるいはフィクショ ンとしての疑似と両方の面で誤った情報がつく可能性があるため、あくまで参 考にとどめ、いずれにしても専門家鑑定を必要とするべきであると考えられる。

専門家鑑定を基準とする場合、ホットラインの処理能力の低下が容易に予測さ れるが、そもそもデジタルデータが複製容易であることなどから、インターネッ ト上の多くの画像・映像は複製されたものであることや、現実の児童ポルノの 摘発事例などを考慮すると、既知の児童ポルノ作品、および、18歳以上の俳優 のみを用いた非児童ポルノであるがまぎらわしいポルノ作品についてのデータ を蓄積し、これらと照合することで、専門家鑑定は未知の画像等のみを対象と することができるため、問題ないと考えられる。既知データとの照合は、判断 が難しい、画像等からのみの判断が一般に困難であると考えられる16〜17歳の 被害児童の画像等を判別するためにも有効であろう。

もちろん、児童ポルノ作品そのものをホットラインセンターが蓄積して視認照 合作業のベースとすることは妥当ではないと考えられるが、作品タイトルや児 童の作品中の呼び名、作品と照合可能な顔画像、過去の通報や警察の押収で得 られた児童ポルノ画像・映像ファイルのハッシュ値などを機密の保たれる環境 でデータベース化し、通報された画像等と照合するなどの方法が考えられる。 警察から機密保持契約に基いたデータ提供を受ければ、ホットラインセンター 稼働初期の段階から、十分なデータは保持できると考えられる。

また、児童ポルノ禁止法では公然陳列のみではなく提供が犯罪とされているの で、通報内容に基いてホットラインセンターが画像等にアクセス可能であれば、 公然陳列は必ずしも満たす必要がないと考えられるため、公然陳列は該当性判 断の基準から削除してよい。

なお、ガイドライン案では違法情報該当性が「明らかである」情報と「疑いが 相当程度認められる」情報とで扱いを分けているが、既に述べているように警 察への通報を基本とする場合は、その判断は警察に期待することとして、とく に区別せずに扱ってよいと考える(警察に先行して送信防止依頼を行うと、相 手によっては証拠隠滅の機会を与えてしまうことになる)。その場合でも、 「明らか」あるいは「疑いが相当程度認められる」といった判断は、未知のも のについては専門家鑑定に拠るべきである。

4.2 わいせつ物公然陳列

すでに述べたようにそもそも単なるわいせつ物についてホットラインで扱う積 極的な意義は存在しないと考えるが、児童ポルノとして通報されたものが児童 ポルノでないもののわいせつ物に該当する可能性が高いと考えられるケースに 無視もできないであろうから、扱いを定める必要は存在するとは考える。

しかし、これもすでに述べたようにわいせつ物については表現の自由との関係、 自主規制機関としての性質を考慮した場合、違法情報であると决めて通報・送 信防止依頼を行うのは適切ではない。あくまで、違法情報に該当する可能性が あるとしての対応依頼に留めるべきであり、違法性が明らかかどうかの判断を 行うべきではない。

そのような前提をおくにしても、ガイドライン案はあまりに単純な該当性判断 であり、合法のものとして一般に解されているもの(例えば、医学的な学術情 報として性器が確認できる画像、芸術作品として合法のものと一般に判断され ている写真・絵画・彫像などにおける性器の描写など) が含まれてしまう可能 性が高く、不適切であり、もっと細かい基準をつくるべきである。

4.3 出会い系サイト規制法違反

実際の出会い系サイトの多くが会員制サービスの形態をとっていることから、 該当性判断をホットラインセンターで行うことができるとは必ずしもいえない。 出会い系サイト規制法では事業者が義務を負っているので、該当性はサイト内容 ではなくホットラインへの通報内容のスクリーニングに用いることとして、 事業者への対応依頼は通報に基くのみで内容を現認していないことを前提とした 固有の形式とするべきである。

4.4 広告

売春防止法違反の広告、規制薬物の広告、預貯金通帳等の譲渡の誘引等、携帯 電話の匿名貸与業等の誘引等が違法情報とされ、けん銃等の譲渡の請負等、公 文書偽造の請負等、児童ポルノの提供、殺人・障害・脅迫・恐喝の請負等が公 序良俗に反する情報とされて扱いが異っているが、これらはいずれも、いわゆ るコメントspam など掲示板等への迷惑書き込みとして多くの場所でみられ、 対応依頼が過大なものとなりかねない一方、現実に問題となるのは情報そのも のではなく広告への応募の結果として重大な違法行為が行われる可能性である (売春広告は一般に単純売春であるとは限らず、刑事罰のある管理売春や売春 斡旋の可能性がある)。

従って、対応は情報そのものの違法性によって扱いをかえるのではなく、いず れも警察への通報を基本とするべきである。その上で、ガイドライン案にある ような書式での対応依頼は、サイト運営者が情報発信者であると判断できる場 合のプロバイダへの依頼や、掲示板への書き込みについて同様のものが集積し て、もっぱらそのような情報を掲示する場と化している場合に一括した対応を 依頼することを前提としたものに限り、散発的な迷惑書き込みがたまたま該当 しているようなケースについてはホットラインでの対応外とするべきである。

4.5 爆発物の製造

ガイドライン案は、学術的な言論や、リアリティを求めた文学的記述をも対象 とする表現規制に踏みこみかねない広汎さをもっている。爆発物の製造には販 売が規制されている原材料の入手が必要になることを考えると、規制されてい る原材料入手のための不正手段の明示など、より限定的なものとなる内容を加 える必要があると考える。

4.6 自殺勧誘・誘引

単なる情報発信の事後抑制が問題を解決するとは思われない。状況によっては 警察への通報が必要であり、また別の状況によっては自殺防止の技術をもった 専門家のコミュニケーションへの介入が必要とされると考えられる。ホットラ インセンターとは別の専門性の高い組織を用意し、ホットラインセンターは通 報の仲介をするにとどめるべきである。

5. 書式

送信防止措置依頼、対応依頼とも、人間がそのまま目を通すマニュアル対応前 提の書式が示されている。しかし、多くの通報を受けるプロバイダなどとの連 携を考慮した場合、個別の内容はマニュアル対応が必要となるとしても、定型 的な情報まで「依頼書」からマニュアル処理で抜き出す必要があるとすれば、 それは大きな負担となりかねない。

従って、依頼書の書式をXML-Schema や Relax-NG などのスキーマ言語で明確 に定義することを前提とし、ガイドライン案にあるような書式例は可読性を考 慮した変換結果であるとするべきである。そのようにしておけば、大規模プロ バイダでは多くの依頼をXML文書として電子的に受け取り、電子署名の認証を 行った上でデータベースに自動的に入力することができ、迅速な対応ができる ようになる。

6. 「違法情報の送信防止措置依頼」についての意見

判断基準については、4.1, 4.3, 4.4 で述べた通りである。そして、「わいせ つ物」については4.2で述べたように「違法情報の送信防止措置依頼」の対象 から外すべきである。

書式については、5. に述べた通り。

7. 「公序良俗に反する情報に関する対応依頼」についての意見

判断基準については、4.2、4.5, で述べた通りである。「わいせつ物」はこち らで扱うべきであると考える。また、4.1 で述べたように、児童ポルノについ ては警察の判断を待つことで「違法情報」に扱いを一本化し「公序良俗に反す る情報に関する対応依頼」の対象からは外すべきである。自殺勧誘・誘引につ いては 4.6 で述べたように専門性の高い別の組織に委ねるべきである。

書式については、5. に述べた通り。

以上。

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トラックバック: 弁護士山口貴士大いに語る [訪問者]
【わいせつ】財団法人インターネット協会 「ホットライン運用ガイドライン」の問題点について
財団法人インターネット協会というところが、ホットラインセンターの設立準備をしてい
Permalink永続的リンク 2006/05/08 @ 15:15
トラックバック: 闇 ノ 覇 者 [訪問者]
緊急事態発生!!
「子供を守る」名目で言論弾圧を図る違憲組織"ホットラインセンター"を弾劾せよ!!
Permalink永続的リンク 2006/06/03 @ 17:23

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