先日、バーチャル社会のもたらす弊害 から子どもを守る研究会が、ついに表現規制に言及し始めた、として話題となっている(例えば山口貴士弁護士のところなど)。
たしかに、山口さんが言及しているように前田雅英座長の発言に極めて問題が多いことには、完全に同意する。ただ、危機ばかりを見つめるだけでは、果実は得られないような気がしている。
この研究会は、あくまでも警察庁の研究会に過ぎないので、携帯電話フィルタリングの件で見られるような自主規制強化のプレッシャーをかける場として使われることはあっても、法務省の法制審議会のように法制化に直結させる場とは、本来されていない。そのかわり、やや「ぶっちゃけた」と言っていい話もされていて、前田座長のさまざまな問題発言も、全てではないにしてもかなり強力に反論されていたりはする。そういう意味では、単なるセレモニーの場ではない。そういう強力な反論をできる人々を委員にもってきた事務局の意図というのを想像すると興味深い。警察庁生活安全局長である竹花豊委員も、その領域は確実にアウトだろ、という案も出しているが、この段階では、憲法的制約も忘れたふりをしてあらゆる選択肢をあげてみたよ、ということをやっているだけにも見える。たとえば、共謀法案を含む刑法・刑事訴訟法の改正議論をやっていた法制審議会刑法部会のサム(くならざるをえな)い議事録に比べれば、かなり生き生きした議事録だと思う。
この議事録を読むと、はっきりそうは言っていないのだけど、もう警察は「わいせつ」表現を取り締まることに「厭き」があるのではないか、そう思わざるをえない。「わいせつ」表現の概念は、彼らは刑法にそれがある以上は、その領域を見極めて法執行していく立場にある。USのように実質的にフリーな状況に判例上なるのならともかく、日本の判例はそうはなっていない。そして、「わいせつ」表現かどうかを問題にしたところで、それは、(ある種の性的な)表現の流通が規制されていてほしいという人々の要望とズレてしまっている。それが「創作物規制」と山口さんが表現しているものへの検討になっているのではないだろうか。 とはいえ、「もうわいせつ表現取り締まりなんていらないんじゃね?」とは、警察庁からは言い出せない話ではあるし、性的表現の自由化が気に入らない前田座長なので、規制強化の方向の議論になってはいるが、事務局説明などからは、現状の判断基準が国民のスタンダードに照らして緩すぎるか厳しすぎるかのどちらの方向にも判断できるものがないことについて問題意識がある、という状況が伺われる。
ここでいったん、別の話に移る。境真良氏の「中国の消費者を海賊版から救いたい」という話。中国の厳しいコンテンツ規制が正規版供給を拒む結果、海賊版が横行する原因のひとつとなっている、という話で、
日本政府は、単に中国政府の海賊版対策不足を責めるのではなく、同時に、正規版商品の流通規制を行っていることの海賊版保護効果を指摘しなければならないと私は思う。
境真良(実名登録)の“とりあえず、前進!” - 中国の消費者を海賊版から救いたい
としている。実は、この議論とまったくパラレルな議論が「エロの敵」(安田理央・雨宮マミ)に載っている。いわゆる裏ビデオの話で、藤木TDC氏の議論を引用して、いわゆる逆輸入物(日本から海外向けに制作・輸出されたポルノビデオが、日本国内に再輸入・不許諾複製されて裏ビデオとなるもの)や輸入物の裏ビデオがメーカーなどの権利を侵害しているため、すでに抗議の声があがっている、という話が紹介されている。中国に正規版流通に向けて規制の「調整」を求めるのであれば、日本も当然、規制の「調整」を求められるだろう。
こういう議論をまじめにすることで、刑法175条のわいせつ物頒布罪をなくしていく、という方向を考えることができるんじゃないかと思うのだがどうだろう?この場合、単に条文を削除して流通を自由にする、という議論にはならないと思う。少なくともゾーニング(法規制なのか自主規制なのかはともかく)によって、既存の生活空間の秩序が崩れない担保が求められることは間違いない。また、「被写体が18歳未満かどうかよくわからない」がゆえに児童ポルノ禁止法ではなくわいせつ物頒布で摘発されてきたような領域について、2257 Regulationsのような規制を用いてカバーしていく必要があるかもしれない。いずれにせよ、「今まで通りか、強化か」ではなくて、表現規制の状況全体を変えていけるチャンスが実はあるのではないか、と思ったりするのだが、これはあまりに楽観的だろうか?
ギリシャで開かれているインターネットガバナンスフォーラムに関して、「協力企業に国連サミットで批判相次ぐ」といった記事が出ています。で、各社非難されているところです。ただ、これら各社は中国の人にとってのネットの価値を増やすサービスを提供するがために、その種の検閲に対応しなければならない状況になっている、とも言えるわけで、各社の反論もそこのところにあるように思われます。
ところで、こういった議論でおそらくほとんど言及されていないのですが、中国のネット検閲には、ある日本の企業も関係があります。それも、堂々と発表されているのですが、まだ特に批判されていないようです。むしろ、称賛さえされているようにも見受けられますね。
次のような報道があります。
海外でも、中国向けに文化や習慣を考慮したURLフィルタリングソフト(法輪功、反共産党の規制などを追加)『InterSafe(中国版)』が中国公安の販売許可を日本企業で初めて獲得し、中国の教育基幹ネットワーク“CERNET(サーネット)”に採用されるなど、実績を挙げているという。
ASCII24 2006年6月1日: ALSI、ウェブフィルタリングソフトの最新版『InterSafe ver.5.0』を7月3日に発売
ということで、ALSIのリリースを見ると次のようなリリースが出ています。
アルプス システム インテグレーション株式会社(本社:東京都大田区、代表取締役社長:大喜多晃、以下ALSI〔アルシー〕)は、北京先進数通信息技術有限公司(本社:中国北京市海淀区、以下ADTEC)を通じ、中国国家教育基幹ネットワーク「中国教育和科研計算机网(CERNET)」の事業運営会社、賽尓寛帯网絡有限公司(CERNET BROADBAND CORPORATION)の家庭向けISPサービスとして、日本市場シェアNo.1※フィルタリングソフト「InterSafe(インターセーフ)」が採用されたことを発表いたします。
ALSI News Release 平成17年12月22日: 中国教育基幹ネットワーク「CERNET(サーネット)」の家庭向けISPサービスとして、ALSIのURLフィルタリングソフト「InterSafe」が採用
海外においても、ADTECとの業務提携により、インターネット利用規制の動きが強まっている中国市場にて、安全で快適にインターネットを利用していただくために「InterSafe」の販売を強化、グローバル展開を進めております。
ALSI News Release 平成17年12月22日: 中国教育基幹ネットワーク「CERNET(サーネット)」の家庭向けISPサービスとして、ALSIのURLフィルタリングソフト「InterSafe」が採用
アルプス システム インテグレーション株式会社(本社:東京都大田区、代表取締役社長:大喜多晃、以下ALSI〔アルシー〕)は、2005年に中国公安部の製品安全認可を取得し、中国におけるフィルタリングソフトの販売認可を受けている唯一の日本企業として、日本での市場シェアNo.1(※)Webフィルタリングソフト「InterSafe」の販売活動を行っております。
ALSI News Release 2006年7月27日: ALSI Webフィルタリングソフト「InterSafe」 NTTCom Asia Limited(香港)マネージドサービスに採用 −中国の法律や文化に合わせたデータベースにより、 安全なインターネット環境を実現−
ALSIは2000年より日本国内でWebフィルタリングソフト「InterSafe」の販売を開始し、学校、企業、官公庁、自治体、家庭などを中心に販売を行っておりますが、インターネット利用規制の動きが強まっている中国市場に早くから注目し、2005年6月には中国公安部の製品安全認可を得て、販売活動を行っております。
ALSI News Release 2006年7月27日: ALSI Webフィルタリングソフト「InterSafe」 NTTCom Asia Limited(香港)マネージドサービスに採用 −中国の法律や文化に合わせたデータベースにより、 安全なインターネット環境を実現−
当サービスを利用する企業は、中国国内で規制すべきサイトと、日本企業として規制したいサイトへのアクセスを同時に制限することができ、安全にインターネットを利用する環境が整います。
ALSI News Release 2006年7月27日: ALSI Webフィルタリングソフト「InterSafe」 NTTCom Asia Limited(香港)マネージドサービスに採用 −中国の法律や文化に合わせたデータベースにより、 安全なインターネット環境を実現−
中国向けに提供している「InterSafe」では、中国での利用を考慮し、管理画面等全面的に中国語化しております。規制カテゴリも中国文化、法律等を反映した独自の規制カテゴリを提供しています。
ALSI News Release 2006年7月27日: ALSI Webフィルタリングソフト「InterSafe」 NTTCom Asia Limited(香港)マネージドサービスに採用 −中国の法律や文化に合わせたデータベースにより、 安全なインターネット環境を実現−
ところで、InterSafeという最終製品はALSIの製品ですが、このフィルタリングソフトのエンジンと更新されつづけるURLデータベースはネットスターという別会社になっています。ここは、ALSIとトレンドマイクロが半分ずつ出資した会社で、もとはALSIでやっていた事業を外に出したものです。
このブログのちょっと前のエントリーをみれば分かりますが、ネットスターはNTTドコモとボーダフォン(そして現在はソフトバンクモバイル)のフィルタリングサービスのフィルタ提供会社、ということで、日本では極めてメジャーな存在です。かくして、警察庁の「バーチャル社会のもたらす弊害から子どもを守る研究会」の第5回でもゲストスピーカーとして呼ばれて話をしています。
私ども国内では、この手の企業では最大規模ということで、東京と宮城県の仙台市にこのリサーチセンターを設けておりまして、合計で35名の専任のリサーチャーというものを持っております。パソコンのサイトを見るチーム、それから最近、携帯電話のサイト、携帯電話にデザインされたサイトを見る専門のチーム、それから一部パートナー様の方で、中国マーケット向けにフィルタリングソフトを輸出というか販売を始めているところがございますので、そういったところ向けということで中国語のネイティブの方をスタッフとして迎えて、中国語のサイトを見る専門のチームみたいなものに分かれて活動をしているということになります。
バーチャル社会のもたらす弊害から子どもを守る研究会 第5回 議事要旨
つまり、中国で法輪功サイトや反中国共産党サイトの閲覧を阻止するためのデータベース化作業は、日本企業によって日本国内で行われています。
さて、ここで、最初に紹介したCNET記事から、Ciscoの幹部の反論を引用しておきましょう。
しかしCiscoのある幹部は、同社のルータは特定のインターネットアドレスを遮断するように設定することも可能だが、同社が中国政府のために同社製ルータをカスタマイズしたことはないと語った。Ciscoの戦略的技術ポリシー担当シニアディレクターのArt Reilly氏は、「これは、われわれが販売活動を行っている世界の国々で販売しているルータと同じものだ」とし、さらに「何の違いもない」と付け加えた。
CNET: 中国ネット検閲問題:協力企業に国連サミットで批判相次ぐ--グーグルの対策も明らかに
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