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「わいせつ物」規制は根底から変えたいね

2007/05/28

Permalink 03:08:20, by Nobuo Sakiyama Email , 28 words   Japanese (JP)
Categories: 言論・表現の自由, 児童ポルノ問題

「わいせつ物」規制は根底から変えたいね

前のエントリからは話題を変えて、法規制がらみの話をしてみたい。

以下、長いので要旨を簡単にまとめておくと、

  • もう「わいせつ」図画禁止なんか意味ないしむしろ有害だからやめようよ
  • ヤバいものはアメリカのポルノに対する記録保持義務を見習えば排除できるはずだよ
  • 記録保持規制義務っていうことは匿名実写アダルト画像掲示板で儲けてウハウハとかありえないからね

このブログでは、昨年度の11月1月に、「わいせつ」表現取締りが、もはや、より優先度の高くあるべき問題の解決の邪魔になっているんじゃないか、といいう観点を述べたが、それ以上については深く述べずにおいた。そうこうしているうちに状況が動き、「バーチャル社会のもたらす弊害から子どもを守る研究会」の同人誌や同人誌即売会批判に対しては自主規制の枠組が存在することをアピールする意味をもったシンポジウムが開かれ(報道例)、その一方で、著名なアダルト系の大規模画像掲示板サイトがわいせつ物陳列で検挙される、という事態に至っている。

画像掲示板サイトがらみの動きは、表面的・短期的には規制強化の流れ、ととるのが自然だろう。しかし、話はそう単純ではない。

神奈川新聞の報道などに「別れた恋人の写真や女子中高生の盗撮写真などが大量に投稿・公開され、苦情や削除依頼が絶えなかったという。」とあり、今回の摘発報道では、多くの一般市民や児童のプライバシーや性的尊厳などへの侵害をとりあげて、それを処罰感情に結び付けている。こういう情報はもちろん警察からもたらされているわけで、単なるわいせつ物陳列を問題にしたわけではない、というイメージが作られているわけだ。しかし、それならば、(刑法における)わいせつであろうがなかろうが権利侵害を問題にするべきであって、「わいせつ物」という切り口は、ずれている。

今回の事件をきっかけとして、既存の法秩序を前提として(賛同であれ批判であれ)あれこれ述べる、ということは、すでに弁護士など専門家の間でも行われているけれども、私としては、もう制度が単に現実に対して不適合を起こしているので全面的に改められるべきだ、とあえて主張したい。

言うまでもなく、「わいせつ」というのは個々の社会固有のものとして立てられていて、現実の問題として、日本の基準はアメリカをはじめとした先進諸国のなかでは厳しい部類に属する(厳密にいえば、アメリカやヨーロッパのほうが厳しい部分もあるが、ここでは大雑把な議論としておく)。一方で、ネットはグローバルであり、また人や物もグローバルに動くのが現代であって、日本国内でいくら頑張ったところで、国外からの日本向けの画像・映像配信サイトがあり、また日本国内でもそうそう頑張れずに、アンダーグラウンドのマーケットが出来ているわけだ。もっと頑張る、ということになれば、中国などのような国家レベルでの検閲ファイヤーウォールを設けて個々の通信を検閲し、裏ビデオ業界を絶滅させるべく北朝鮮のような体制を作り上げる、とでもするしかないわけで、そんなことは憲法の制約以前に現実的に不可能だ。

かくして、国内にそれなりに大きな裏の市場が存在し、また国境をまたいだスキ間がそれなりに栄えてしまっているのが現状だろう。ここでまずいのは、結局のところ「わいせつ」が社会の表に出てきて堂々とされたら困るから叩く、という程度の状況のなかで、深刻な人権侵害である(現実の児童を用いた)児童ポルノの市場が裏やグレーの市場のなかにまぎれこんで存続してしまっている、という事象がみられることだ。児童ポルノといっても、幼児を蹂躙するようなものならともかく、16,7歳を被写体にするようなものとなると、外見では成年と区別がつかない。適宜Web検索するといくらでも見付かってしまうのだが、製作者が摘発されてそのほとんどが児童ポルノだと判明しているようなシリーズものについて、児童ポルノ専門のサイトのみならず、一見した限りでは単なる裏ビデオサイト(サイト設置国の基準では、それだけなら合法)の体裁をとっているところで見るからに児童ポルノとわかるものを除いた形で販売しているとしてサムネイル画像やパッケージをWebサイトに掲載しているところは少なからずあるように見える。こういう事態をなくしていくためには、ほとんどの流通を「表」の産業とするほかないだろう。その一方で、「表」からは児童ポルノを確実に排除する仕掛けを導入すれば、「裏」に残るのは児童ポルノ専門業者となり、国際的な摘発が容易になるはずだ。

先に、どう「表」から確実に児童ポルノを排除するか、ということから。これはアメリカの規制が参考になる。アメリカではChild Protection and Obscenity Enforcement Actという連邦法がある。これは合衆国法典では18編(刑法)の2257条に"Record keeping requirements"として置かれている。これは、(実写)ポルノ作品の製作者が(対象行為を行ったりする)出演者について身元を明らかにし撮影時に18歳以上であることを証明する書類を作成し保管することを求めていて、さらにこの記録の保管場所についてパッケージ等に表示し、また司法当局からの記録の検査を受け入れることを求めている。日本でも合法のアダルトビデオを作成しているところでは、児童がモデルとなることを防ぐために同様のチェックは行いその記録もとっている場合が多いと考えられるが、アメリカではそれを法律で強制している。ただ、ここで問題になるのは、「製作者」(producer)とは誰か、ということ。実際の流通では、例えば雑誌などでの紹介やWebサイトへの(初出ではない)掲載などでの部分的な抽出や改変で加工が行われる。これも、「製作」といえば製作と言えてしまう。実際、1988年に作られた最初の法律ではなくて最近改正されたものと、それに基づく連邦行政規則の組み合わせでは、"secondary producer"としてかなり広範な範囲が定義されて、secondary producerは記録をfirst producer(実際にモデルを使って作品を作ったところ)からコピーすることが許される(俳優のサインを自らもらう必要がない、ということ)ほかは、ほぼ同様の義務を課されることになってしまい(俳優の個人情報保護という観点からはかなり無茶で、児童ポルノ撲滅というよりは単にポルノ叩きをしたいというブッシュ政権の政策の反映)、アダルト系業界団体が違憲訴訟を起こしていたりする。また、法律・行政規則上は"secondary producer"は商業的な者のみのはずだけど司法省が今後どうしていくか判らないし、実際、行政規則のWeb関連の部分は法律の定める範囲を越えている、というEFFの批判もある。また、アブグレイブ刑務所での捕虜虐待画像・映像のようなものを報道目的で利用するさいにまでこの法律が適用されるとまずいよ、という批判もEFFは行っている

そういうわけで、アメリカでの記録保持規制をそのまま日本に移植するのはかなりまずいと思うのだけれども、ポルノの直接の作成者に記録保持義務や表示義務を課す、という規制はかなり有効だと思われるし、それ自体が言論の自由を侵害するとは言い難いだろう。報道目的のものについての免責は、二次的なものであれ、直接の作成(公人や政府等のスキャンダルのスクープ画像・映像がそのような形となる可能性がある)であれ、必要だとは思うけれども。また、二次的な作成者については、元の作成者への「リンク」を保持させるぐらいであれば無茶ではないだろうし、リンクのみであればメタデータとして画像・映像に埋め込んでおけば記録保存は不要として、さらに負担を軽くすることもできるだろう。CGM/UGCがらみでは、運営業者がユーザの個人情報を把握することを条件にして画像・映像を投稿するユーザ個人の住所などを記録保持者として表示しなくて済むようにもできるだろう。運営業者自身ではなくて、ポータルサイトなどがID認証を提供している形も認めるべきだろう。要は、トレースできればいいということ。私は、小倉秀夫弁護士のようにネット上の情報発信全般について一般的な実名登録制度を要求するのには賛成できないのだが、ポルノにあたる実写の画像・映像の被写体の人権保護の利益は(児童ポルノのケース以外の同意無き掲載を含めて)匿名表現の自由を上回ると思う。表現の自由とは何かを考えた場合、(報道目的を除けば)ある画像・映像を表現するのに実在の誰を使うか、というところで、問題のない人だけを使うようにするように制限することは表現の自由を大きく損ねるものではないと思うし、実写を用いずに表現するのであれば、記録保持規制は関係ない、ということになるし。

さて、ここで話を戻して、「裏」をなくす話に。これは簡単で、刑法で「わいせつ図画」を禁止しているのをやめればいい。ただ、単純に削るというのは現実的ではないだろうから、ゾーニング規制への変更ということになるだろう。刑法が作られた大昔ならともかく、現在の生活空間は、青少年条例やそれよりも広範な自主規制で覆われていて、そうそう露骨なポルノをうっかりと見る機会なんかない(同人誌の世界でも自主規制の枠組があって機能しているぞ、というアピールがあったことは前述の通り)から、単に刑法175条のわいせつ物頒布罪を削ったところでそうそう状況は変化しないはずだが、ネット上のものも考慮するとゾーニング規制に変えるぐらいが落としどころになるのだろうな、と思う。

追記: サミットで日本に対する児童ポルノ禁止法の規制強化要求があったことが落合弁護士のblogで話題になっている