「通信・放送の総合的な法体系に関する研究会中間取りまとめ」についてのパブリックコメント

2007/07/21

Permalink 05:02:05, 著者: Nobuo Sakiyama Email , 1745 回閲覧   Japanese (JP)
カテゴリ: 検閲, パブリックコメント, 情報社会, 言論・表現の自由

「通信・放送の総合的な法体系に関する研究会中間取りまとめ」についてのパブリックコメント

要旨

1. コンテンツサービスの分類について、社会的機能・社会的影響力を直接の規律 の根拠とすることに、イノベーションの阻害要因になりえ、事業の予測可能性を 低下させるので反対する。品質保証された「伝達保証性」を保持する量によって 分類し、ベストエフォートのインターネット上のサービスは事業者の希望のある 場合を除き「公然通信」として放送的規律を適用しないようにするべき。

2. 公然コンテンツの内容規律にあたっては、違法コンテンツの中でも世界的に禁 止・規律強化の方向を一致してとれると考えられる部分と、実質的に国内ローカ ルに過ぎない部分を分けて考え、比較的少数である前者について徹底する方向で 法的、人的、金銭的リソースを配分する一方、後者については、むしろ一定の制 限のもと合法とし、規律に服する国内サービスが優位となる方向で制度設計する、 といったことについて、今後検討するべきである。

3.ゾーニング規制については、セルフレイティング規制とし、法的根拠は一部の みとし、基本は自主規制とする。前記の違法コンテンツの規制緩和の条件として ゾーニング規制を用いるという規制緩和としてのゾーニング規制もあわせて検討 するべき。


別紙

意見1.
1頁8行-12行
1.現状認識 (1)日本の情報通信の状況

これを背景に、インターネットコンテンツ配信の「メディア化」も進展 している。ブログ、SNS(Social Networking Service (Site):イン ターネット上の個人間の交流を支援するサービス(サイト))などCG M(ConsumerGenerated Media:消費者生成型メディア)の発展も著しく、 我が国のメディア構造を変革しつつある。

米国を中心とした諸外国の事業者のサービスがこの変革に関与しているという認 識が必要である。

意見2.
1頁13行-15行
1.現状認識 (1)日本の情報通信の状況

その一方で、インターネットの発展は、違法・有害コンテンツ流通の増 大が社会問題化するという負の側面も示している。

違法・有害コンテンツ流通の増大が社会問題化している、という認識それ自体に は異議はないが、インターネットが全世界に拡大・定着しているのに対して、法 律や価値観は各国や地域によって異なるため、我が国において違法・有害コンテ ンツと評価されるものが発信元によっては必ずしも同様の評価を受けるわけでは ない上、通信のみならず人や資本のグローバルな移動や展開していることにより、 問題への対処が本質的に困難であるという認識が必要である。

意見3.
2頁12行-29行
1.現状認識(3)融合・連携問題に対する諸外国の状況
ア 米国の動き

[節全体]

次節のEUの場合と異なり、違法・有害コンテンツ流通対策について記述がない。

米国では、通信についてはCDAやCOPA(双方とも情報発信を規制するもの) が制定 されたが憲法訴訟において違憲判断が下り、その後CIPA(連邦からの補助金を受け 取る学校や図書館でのフィルタリングを成人利用時以外に義務づけるもの)が制定 されこれが合憲と判断されたに留まったという状況にあることは認識する必要が ある。

また、猥褻表現についての基準が連邦のレベルで我が国より緩いことや、州によっ ては州法での規制がない、あるいは実質的にないことについても認識する必要が ある。

その一方、児童ポルノ関連規制のひとつである、The Child Protection and Obscenity Enforcement Act of 1988、すなわち法典18編(刑法)2257条における "Record keeping requirements"によって、商業的に流通する全ての性的に露骨な 実写コンテンツについて被写体の身元情報の記録義務が適用されるといった独自 の規制があることも、規制のありかたとしては参考になると考えられる。

意見4.
5頁8行-13行
2. 通信・放送法制の抜本的再編の方向性(2)基本的方向性
イ ネットワークの国際化への先駆的な取組

このため、「完全デジタル元年」を目途にした法制においては、諸外国 の融合・連携問題に対する対応動向を踏まえつつ、少なくとも国家とし て利用者保護等の観点から最低限必要と考えられる規律を責任をもって 整備すべきであり、その意味でも我が国の取組を先駆的なものとするこ とが必要である。また、我が国において先導的な対応を進めることが、 イノベーションの促進を通じて我が国全体の国際競争力の強化をもたら すとの視点も重要である。

利用者の利益や必要な保護水準が多様であることを考慮して「最低限の規律」に ついて検討するべきである。本中間まとめの延長での規律形成は、この点で最低 限とはいえないと思われる(具体的には後段に譲る)。先駆的な規制強化は、必 ずしもイノベーションの促進につながらないのではないかと考える。

意見5.
6頁1行-2行
2. 通信・放送法制の抜本的再編の方向性
(3)具体的枠組み〜レイヤー型法体系への転換・規律の集約化

このため、コンテンツ面では社会的影響力に応じてメディアとして最低 限維持すべき規律を課す一方、

「社会的影響力に応じて」の部分に異議がある。中間まとめにおいても具体的に は次章となっているので具体的意見はそこで述べる。

意見6.
7頁20行-24行
3. コンテンツに関する法体系のあり方(1)基本的な考え方

通信コンテンツと憲法上の「表現の自由」との関係では、表現活動の価 値をも勘案した衡量の結果として違法として分類されたコンテンツの流 通は、表現の自由の保障の範囲外であり、規律することに問題はない。 また、有害コンテンツ流通に対する規制も、有害図書に関する青少年保 護条例による認定基準が最高裁で合憲とされていることを踏まえれば、 規律の対象とする余地はあると考えられる。

「表現活動の価値をも勘案した衡量の結果として違法として分類されたコンテン ツ」とは、単に法律で違法とされるに留まらず、裁判における憲法判断において 合憲とされたもの、あるいはそれと同様の類型を指していると考えられ、その意 味では、たしかに憲法上、規律することに問題はない。しかし、憲法上規律する ことが問題ないことと、違法コンテンツとされてきたものを今後も違法と評価し、 排除を強める方向で規律することが政策として有効かどうかは、全く別の問題で ある。有害コンテンツ流通に対する規律についても、これは同様である。

意見2で述べたように、インターネットが全世界に拡大・定着しているのに対して、 法律や価値観は各国や地域によって異なるため、我が国において違法・有害コン テンツと評価されるものが発信元によっては必ずしも同様の評価を受けるわけで はない。従って、単純に排除を強める方向で規律すると、そのようなコンテンツ を提供するサービスは外国法人を発信主体として外国サーバを発信元とするもの に移行するだけであると考えられる。そのような外国サービスはそもそも日本国 内の規律に一切服す必要がない一方で、そのコンテンツは実質的に日本国内で受 容されるので、その増加は、安全・安心の観点からは問題があると考えられる。

そのような事態が、単に過渡期の現象に過ぎず諸外国でも同様の内容の法整備が 行われるということであれば、影響は一時的だが、実際には意見3で述べたように、 米国では表現の自由の保護が厚く、外国サービスの問題は将来に渡って続くと判 断するべきである。

なお、外国サービスへの対応としての受信者に対する一律な制限は「通信の秘密 保護」に抵触し、またそのような制限を中国のようにプラットフォームや伝送イ ンフラを通して実現することは、憲法上のみならず、イノベーション促進の観点 からも不可能なはずである。

従って、公然コンテンツの内容規律にあたっては、違法コンテンツの中でも世界 的に禁止・規律強化の方向を一致してとれると考えられる部分と、実質的に国内 ローカルに過ぎない部分を分けて考え、比較的少数である前者について徹底する 方向で法的、人的、金銭的リソースを配分する一方、後者については、むしろ 一定の制限のもと合法とし、規律に服する国内サービスが優位となる方向で 制度設計する、といったことについて、今後検討するべきである。

意見7.
8頁15行-17行
3. コンテンツに関する法体系のあり方
(2)メディアコンテンツ規律の再構成

「メディアサービス」については、EUと同様に技術中立性を基本とし て、現行放送法制を基軸に、対象をインターネット上の映像配信まで含 め、社会的機能・影響力に重点を置いて、コンテンツ規律を再構成すべ きである。

社会的機能・社会的影響力を直接の規律の根拠とすることに反対する。学説上の 見解としてそれらを重視することにとくに意見はないが、異なる規律を適用する サービス分類上の根拠としてのこれらの文言は問題がある。

社会的機能・社会的影響力は、いくらメルクマールを工夫したところで、必ずし も事業者が完全にコントロールできるものではなく、また特定の形態のサービス 事業について、その発展を人工的に阻害する形でイノベーションを阻害する要因 になると考える。また、将来の予測可能性が下がることは利用者と事業者の双方 にとってマイナスである。

事業者が選択可能な基準を用いることを提案する。例えば、「伝達保証性」といっ たものを検討するべきである。有線の伝送インフラにおいても、多数の利用者に 品質の保証された高画質映像を同時配信しようとすれば、そのような品質保証が 可能な契約は各通信事業者単位で一定の希少性があると考えられる。電波の希少性 と有線インフラの希少性を係数を掛けて合算してスコアリングして分類を決める という考えである。

ベストエフォートの伝送インフラのみを用いる場合は伝達保証性がなく、メディ アサービスとならないこととする。

意見8.
9頁22行-28行
3. コンテンツに関する法体系のあり方
(2)メディアコンテンツ規律の再構成
イ 「一般メディアサービス」

「一般メディアサービス」の具体的な範囲については、現在の衛星放送 (CS)や有線テレビジョン放送とともに、従来「通信コンテンツ」と されていたインターネット上で提供される映像配信サービスの中にも、 専用端末を用いテレビと同様に容易なアクセスを実現するなど、視聴者 からみて現在の放送と同等の機能を有するものが現れつつあることなど を踏まえ、現在の放送に類比可能なコンテンツ配信サービスのうち、事 業性があり、かつ一定の社会的機能・影響力を有するものについて対象 とする方向で検討すべきである。

IP技術一般とインターネット上のサービスは分けて考えるべきであり、インター ネット上のコンテンツサービスは、事業者が自ら望む場合を除いて公然通信に留 め、一般メディアサービスとして規律するべきではない。一般論は意見7に述べた が、それに加えて、一般メディアサービスがいくら緩和しても放送的規律の延長 であることを考えると、一般メディアサービスにおいてCGM/UGCを主体としたサー ビスは許容されえないのではないかと考える。

現時点においては VODサービスではあるが、自動抽出された人気の投稿動画をテ レビのようなチャンネル指定のみの操作で視聴できるサービスや、投稿動画に自 由にコメントをつけて共有できるサービスが既に存在しており、このようなサー ビスの延長で、それを同時配信したり生中継映像としたりすることは発想として は容易である。そのようなサービスが仮に多数の視聴者を得て「影響力」をもつ ことを、提案されているコンテンツサービス分類方法は想定していないように思 われる。高度な CGM/UGC の発展を、放送的規律にはめこむためだけに阻害するよ うなことがあってはならないと考える。

なお、社会的影響力をサービス分類上の根拠とすること維持する場合は、一般メ ディアサービス分類を廃止し、特別メディアサービス以外は全て公然通信とする 代案もあわせて提案しておく。

意見9.
10頁20行-25行
3. コンテンツに関する法体系のあり方
(3)「公然通信」

具体的には、「公然通信」に係るコンテンツ流通に関して、各種ガイド ラインやモデル約款等が策定・運用されていることを踏まえ、違法・有 害コンテンツ流通に係る最低限の配慮事項として、関係者全般が遵守す べき「共通ルール」の基本部分を規定し、ISPや業界団体による削除 やレイティング設定等の対応指針を作成する際の法的根拠とすべきであ る。「プロバイダ責任制限法」などICT利用環境整備関係法制度につ いても、可能な限り一元化すべきである。

この部分については、コンテンツの中身について規律しようとしているのか、対 処の手続きについて必要な事項を規律しようとしているのか、明確でないと思わ れる。

違法コンテンツにかかる手続き部分の法整備の必要性については、(財)インター ネット協会が警察庁からの受託事業として実施しているインターネットホットラ インにおいて、違法情報と判断され警察に通報の後で行われるサービス事業者へ の削除依頼において、必ずしも全ての事業者が応じているわけではないことにつ いて、通報経験から実感しており、理解する(インターネットホットラインには 法的裏付けがなく、一方で警察がサービス事業者を捜索・摘発などするケースは 実際には限定されていて、時間もかかるのだと思われる)。

ただし、その具体内容については慎重な検討が必要だと考える。行政委員会の設 置を検討する必要があるようにも思われる。

また、有害コンテンツ流通関連については、「関係者全般が遵守すべき」法的根 拠を伴ったルールの必要性は疑問である。商業的なコンテンツのみを対象とすれ ば十分であり、それは現行の風適法の風俗特殊営業の事業者ぐらいでよいのでは ないかと考える(風適法の映像送信型性風俗特殊営業を情報通信法に移管するとい う方向性を排除するものではない)。一般には自主規制とし、有害コンテンツを情 報発信する表現の自由を尊重するべきである。

「プロバイダ責任制限法」は、紛争解決を軽量化するために ADRを整備するべき。 正規の裁判でないADRにおいては、発信者情報をADR機関に留めておき、申立人に 発信者情報を取得させずに調停し、その一方で ADR への申立ての敷居は現状の 発信者情報開示よりも敷居を下げることを提案する。また、適切な情報発信停止 措置によっても刑事責任を逃れないのではないかという批判があるので、一元化 にあわせて事業者が適切な免責を得られているか見直すべきである。

そのほか、「最低限の規律」として明示されていないが、情報発信者を偽らない ということを導入するべきではないかと考える。ここでいう「情報発信者を偽る」 というのは、コンテンツの中身としてのパロディなど表現の自由の範囲と考えら れるものではなく、技術的には通信コンテンツではあるものの、人間との間では コンテンツとは認識されているものではない、例えばWebブラウザにおけるアドレ スバー表示をスクリプトによって虚偽内容へ書き換える、といったものである。 フィッシングサイトやワンクリック詐欺サイトといったものを直接的に規制可能 にすることが目的である。

意見10.
10頁26行-32行
3. コンテンツに関する法体系のあり方
(3)「公然通信」

その際、特に有害コンテンツ流通について、「自殺の方法」や「爆弾の 作り方」、「ポルノ」など、違法とは必ずしも分類し難い情報ではある が、青少年など特定利用者層に対する関係では一定の規制の必要性があ るものに関しては、有害図書防止条例などの手法を参考にしつつ、いわ ゆる「ゾーニング」規制(特定の行為等に対して一定のゾーン(範囲や 利用方法)に限り規制することを許容する規律手法)を導入することに より、広汎な内容規制の適用を回避しつつコンテンツ流通の健全性を確 保することが可能となるため、その導入の適否を検討する必要がある。

青少年に対する有害コンテンツについては、情報発信そのものを抑止することは 表現の自由の見地から好ましくないので、ゾーニングは情報発信そのものの抑止 よりも望ましい。しかし、現行のCS放送などの成人向け番組で取られているよう な、年齢証明書を提出したユーザに対してのみ有害コンテンツ発信を許容しその 他を禁止するようなゾーニングもまた、公然通信コンテンツの発信者の多様性や ユーザ生成コンテンツの広がりを背景に考えれば、広範な情報発信の抑制につな がり、好ましくない。なお、一定年齢未満であることを識別する方向のゾーニン グも理論的にはありうるが、現実的ではなく、また悪意の情報発信者が青少年と いう弱者を識別しうることが望ましくないのは自明である。

ただし、受信者側での対処を広く行い易くすることは、表現の自由への侵害性は 比較的低いので、その意味ではセルフレイティングの推進をゾーニング規制とし て持ち出すのは許容されると考える。このような目的でのメタデータの書式とし ては、W3C標準のPICSが広く知られており、またこれをより現代的に RDFに置き換 えることもICRA(以前はthe Internet Content Rating Association。現在はthe Family Online Safety Instituteの一部)などで行われている。また、格付けの基 準については、例えば、(財)インターネット協会の策定したSafetyOnline3 は候 補の一つと考えられ、あるいは国際的な動向の中ではICRAの基準が有力な候補で あると考えられる。

ただし、セルフレイティングは全ての情報発信者に対する広範な義務付けは必要 ない。

平成十一年国家公安委員会告示第四号「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に 関する法律施行規則第三十六条の二第二項の規定に基づき、十八歳未満の者が店 舗型性風俗特殊営業の営業所に立ち入ってはならない旨を表示するものとして国 家公安委員会が定める標示を定める件」で規定する標示、いわゆる18禁マークに 準じたロゴ画像を多くの成人向けWebサイトではサイトの入口に表示している。こ の種のロゴは風俗特殊営業の業者のサイトに限定されず、広く用いられている。

このような状況を踏まえれば、例えば映像送信型性風俗特殊営業に対して格付け 用メタデータの使用を義務づけて、その他は適切かつ簡便な方法でこのようなメ タデータを付与が可能になるような技術的手段の提供と啓発活動により、格付け 用メタデータ付与は現状に比べて顕著にすすむのではないかと考える。

また、意見6.で一般論として述べたが、権利侵害のない違法コンテンツ、端的に は刑法175条にかかる猥褻図画について、セルフレイティングを条件に許可すると いう規制緩和の方向でゾーニング規制を適用することも検討するべきである(ゾー ニングとは直接の関係はないが、米国のような記録保持義務を併せて実施するべ きだとも考える)。

なお、本中間まとめにおける有害コンテンツは、性風俗特殊営業にかかるような 性的なものにとどまらず、より広範なものが検討されているとも考えられるが、 「格付け用メタデータの付与」が一部の分野であれ義務付けられれば、他の分 野については自主規制の範疇でも普及させることは十分に可能だと考える。

標準に基づいた格付け用メタデータが付与されていれば、学校等、未成年者が利 用する端末についてはフィルタリングソフトやフィルタリングサービスによる対 処は容易である。 なお、フィルタリングソフトの選択や設定については、技術 的限界があることや、既存のフィルタリングソフトやサービスが社会通念上の 「有害」を越えて過剰なフィルタリングを行うケースが少なくない(例えば、NTT ドコモの携帯電話向けフィルタリングサービスでは、国会における主要政党全て のWebサイトはアクセス制限される)ことを考慮して、あくまでも教育機関や親権 者が決定するとし、特に家庭内での利用や携帯電話については、フィルタリング の使用を義務づけてはならないと考える。

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