アーカイブ: 2008

2008/07/07

Permalink 01:55:39, 著者: Nobuo Sakiyama Email , 20 回閲覧   Japanese (JP)
カテゴリ: 政治, 言論・表現の自由

日本の「公安」ってソフト・パワーの観点でやばくね?

世の中、G8北海道洞爺湖サミットということで大騒ぎなこのごろ。

個人的には、サミットってそんなに関心ない、というのは、各国政府首脳も思いつきでトンでもないことをいきなり約束できたりはしないし、何か決まることがあれば、事前にさまざまなな折衝がなされるわけで、そりゃその場で首相とか大統領とかが集まって何か出せば重みはあるし、ギリギリのところの政治決断がそこで行われるのかもしれないが、だからといって予測不能なほど派手なことは起こりようがない。「非公式かつ自由闊達な意見交換を通じてコンセンサスを形成し、トップダウンで物事を決定します」と言ったところで、独裁国の集まりじゃないわけで。地球環境問題が最大のテーマということは、裏返せば差し迫った大テーマはないってことだろうしね。過去のサミット(1999年まで2000年以降)では、熱かった時もあるだろうけれども、今、G8で外交問題で熱い話題でその場の組み合わせで劇的な展開がありそうな話題ってないんじゃなかろうか。派手なことがないからどうでもいいというつもりはないけど。

そんなわけで、個人的にサミットに関心が薄いので、それにわざわざ反対するのって、奇特な人達だなぁ、と、率直には思う。まぁ、実際には、彼らもサミットというイベント数日それ自体というよりは、G8諸国が日々積み上げている外交や政策の中身全般に不満があり、それへの反対運動を、カウンターイベントとして並行実施して盛り上げる、というのが、そういう人達のやりたいことで、それはそれで戦略的な宣伝活動なわけです。当たり前だけど。個人的には、そういった主張の数々について是々非々で賛否や無関心、ものによっては積極的なコミットを考えることが出来るかもしれない(表現の自由や国家の市民一般の活動への監視からの自由、といった領域は関心事だし)が、まとまったパッケージとなった「オルタナティブ」「反グローバリズム」には、相当に疑問というか、それで貧しくなく平和な世界が出来れば誰も苦労しないわけで、リアリティを感じて時間と人生を割く気にはなれず。というか、もうちょっとぶっちゃけると、巨大なオフ会やって楽しんでますね、あいにく私の趣味じゃないです、ぐらいの気分。もちろん、個々の人にはそれぞれの抱える現実や人生があるので、そこで訴えることに意義があるテーマを抱える人もいるのでしょう。

といった立ち位置表明をあらかじめしておいて本題なんだけど、札幌のデモで逮捕者が出ているわけです(参加者報告それを受けた参加してない人の記事報道紹介参加者一部に問題あったんじゃね?という参加者側記事)。逮捕者の一人は理由はどうあれロイター通信のジャーナリスト。デモ参加者の逮捕については、警官がデモ参加のトラックの窓を叩き割って引きずりだしているところとか、海外のテレビのクルーが撮影して中継放映されたようです。たまたま見たサンデースクランブルで現場でモニター画面を見せてもらうところを放映とかやっていたので日本のお茶の間にも流れてますが。あれ、映像として、警察が当たり前に違法行為を取り締まったように見る人っているんですかね。事実はどうあれ、どうみてもあの映像はデモ弾圧にしか見えません。

それ以前に、外国からの反G8サミット会合参加者について、入国拒否とか入国手続きでものすごく待たせるとか、イベントのパネリストだって分かった上でそのイベントに参加できない出国期限をつけちゃうとか、活動家だけじゃなくてジャーナリスト相手にやってると騒がれていると。

背景としては、公安警察が「サミット成功」を掲げた猛烈なシフトをひいていることは首都圏の駅のゴミ箱封鎖をみてもわかるように自明だけど、テロや暴動の警戒をするのはいいんだけど、反対運動潰し方向に行きすぎてるように見えちゃうのって、「国益」を考えてもそまずいんじゃないのと思うんだ。ソフト・パワーっていう概念があって、「その国の有する文化や政治的価値観、政策の魅力などに対する支持や理解、共感を得ることにより、国際社会からの信頼や、発言力を獲得し得る力」ということなんだけれども、これには、例えば、市民的自由が尊重されている国、といったことも含まれてくる。政権とそれ以外の非国家勢力の関係では、インターネットが普及したことでさまざまなプレイヤーが情報発信をして影響力を行使しうる状況にあるといったことも考慮する必要がある。こういう条件のもと、日本の公安警察は、反グローバル勢力と一般市民の「分断」(って分断しなきゃいけないほど反グローバル勢力がそもそも一般市民から魅力ある存在と見られているかという問題はある)に熱心なあまり、日本のソフト・パワーを損ねる事態になってるんじゃないだろうか。今回の件は普通に国際的に見たまんま報道されているし、反グローバル勢力の国際的なネットワークを通しても伝えられているし、各種Web2.0系メディアで大量の画像・映像や文字でのレポートが文字通り世界に向けて送り出されている。

こういう事態って、今回のサミットの少し前からあって、グリーンピースジャパン(GPJ)の職員が調査捕鯨の鯨肉の横領疑惑だといって運送会社から荷物を持ち出して届けた件で窃盗容疑で逮捕されて勾留延長になって今なお釈放・保釈されず、一方で告発した疑惑のほうは素早く幕引きになった件もそう。西欧各国の報道をGoogle Newsでざっくり見た感じでは、どうみても政治犯的な扱いが多いし、そもそも報道のたびにGPJ職員の非よりもGPJの告発内容や「日本は鯨を殺し続けてます」的な解説のほうがスペースが大きいわけですよ。反捕鯨運動が強いオーストラリアだけじゃなくて、アメリカでもそういうトーンの報道は少なくなかった。日本国内には「グリーンピースざまぁ。警察GJ」的なブログが圧倒的に目立ったけれども、鯨肉は機会があればおいしく頂くがぶっちゃけ捕鯨問題の先行き自体には関心が薄い身としては、こんな形で日本のイメージが悪くなるほうが困るわけで。問題の事案が窃盗罪かどうか微妙という話はグリーンピース側でない第三者的な弁護士からも出ていたと思うが、だからといって捜査しない方向はありえないとして、それでも、この内容で勾留決定と勾留延長とあわせて20日の勾留(このノリだと起訴後保釈も異議を出して蹴っ飛ばす方向が十分ありうる)とか、GPJ事務所の家宅捜索で総ざらい的な押収とか、グリーンピースの国際的な情報発信力で世界中に状況は伝えられているわけで、GPJにダメージを食らわすことは公安的にはやりたかったことかもしれないが、トータルで日本の国益にかなったことなのかどうか、かなり疑問。マイルドに騒がれないようにやる手はあったはずなんだけどね。

公安警察の中のひとは、昔通りの手法を今に適用しているだけなのだろうけど、冷戦が終わって伝統的な左翼勢力が退潮しても仮想敵の大きさを維持してこんなことになってるんだろう。警察って捜査機関っていう性質上、外部からの適切なコントロールが難しいのだろうけど、実際問題、日本のイメージを悪くしているんだから、もうちょっと政治がなんとかしてほしいね。

2008/06/18

Permalink 03:02:07, 著者: Nobuo Sakiyama Email , 572 回閲覧   Japanese (JP)
カテゴリ: セキュリティ, プライバシー, 監視社会

予告.in の問題について真面目に考えてみるよ

楠さんが予告.inの素早さに興奮していたところまではいいのだが、その後も予告.inで十分じゃんと言っているのをみると、ちょっと待ってよ、と言いたくなった。

予告.inが2時間でやった仕事のクオリティを否定するつもりはない。多分、ネットにどっぷり浸かっていればこういう発想は、思いつきレベルはわりと出てくると思うのだが、そこから動くサイトを作る決断をして即作る、というのは、(これまでの蓄積が効いているにしても)誰にでもできる話ではない。プロトタイプとしては秀逸。でも待ってほしい。

そもそも、「犯罪予告」をこんなに露骨に可視化することは、望まれていたことなのだろうか。これまでも、ネット上には(密度はともかく数としては)大量の犯罪予告と解釈できる書き込みはあふれていたはずで、その多くは、参照する人も少なく、といって、書いた本人も実際には犯罪を犯すつもりもなく、そのまま放置で終わっていたのだろう。たまに、偶然に注目を浴びる犯罪予告があり、各所に通報され、そのことによって犯罪内容によっては避難や警備強化などの「威力業務妨害」たる実害が発生し、かつ書き込みをした人物が謙虚される、という経過をたどっていたものがあった。そして、それよりもはるかに少ない頻度で、犯罪予告が実行に移された。今回は、この、稀なものにあたる。予告.inは、単に通報するシステムではなくて、可視化することによって、これまで注目されていなかった犯罪予告を無理やり表舞台に引っ張り出したという一面を持っている。そのことによって、「威力業務妨害」程度の実害は、むしろ発生しやすくなっているのではないだろうか。表舞台に引っ張り出された以上、少なくとも書き込みした人物が特定され法執行機関が物理的に接触するまでは、危害を予告された側としては自衛的な対処をするほかなくなるし、そのことで経済的な損害も発生しうる。今回の事件のような通報が行き届かずに深刻な被害に行き着いてしまったような事態の起きる確率を減らすことはできるかもしれないが、しかし、それは敏感なアラートが上がることによる経済的損失とのトレードオフの関係にある。

政府の犯罪予告検知システム開発ニュースのほうは、その意味では報道などをみる限り、予告.in の真逆をいくアプローチが想定されている(ってそう決めたって話でもなく、官僚なり報道しているメディアの想像力がその範囲なのかもしれないが)。集合知ではなくかき集めて全部マシンで処理して判定、という、なんだか Google っぽいなという感じがしなくもないが、そんな話に見える。この場合、一連の動きは表に出てこないまま静かに進み、ある場合は実害なさそうとあえて放置され、ピンポイントにまずそうなものだけを迅速に人物特定して検挙などし、問題の書き込みは静かに削除依頼に出し、静かに消されていく、そして威力業務妨害の実害は極力避けられる、そんなフローが理想として想定されるんじゃないだろうか。こちらの場合、透明性は問題になるだろう。そして、すでに散々言われているように、とても高くつく。

予告.inと政府の想定と言われるもののどちらにしても、システムの存在によって軽微な愉快犯的な犯罪予告は減るだろうが、後で自分はどうなってもいい、というタイプの犯罪予告は、実行する気のあるタイプにせよ無いタイプにせよ、減らすことはできない(抑止効果がどの程度、という定量的な違いはありうるだろうけれども)。また、どちらのアプローチが社会的なコストが安いか、というのは、定量的な問題でもあるから、本格的に比較しないとなんともいえない。ただ、予告.inが作る世界と、官製犯罪予告検知システムが作る世界では、そのありようがずいぶんと異なる、ということは認識しておく必要がある(LessigのCODEの4規制力のうち、アーキテクチャと規範の違い)。

さらに、アプローチはこれだけなのだろうか、という議論もできるだろう。中間的なアプローチとして、例えば、予告.inのように候補情報を集めて集合知で判定するにもかかわらず、可視化しないアプローチも考えられる。各エントリは会員レビュアー10人(これは一例)がチェックしたらそれで終わり、といった感じにする。レビュアーのインセンティブが正義感だけで持たないかもしれないので、そこはポイントをあげることにする、といったことも考えられる。まじめにレビューしてもらうには、モデレーションが必要かもしれない。要は、Amazon Mechanical Turk的な世界。ポイントは、何もAmazon に限らなくても、はてなのポイントでも、モリタポでも、あるいは、多くの携帯ゲームサイトや携帯SNSのポイントシステムでもいい。携帯サイトのポイントは、その携帯サイト内の情報の処理にはすごく馴染むようにも思う。こうすると、高価なシステムは組まなくてもいいし、過剰な可視化も避けられるだろう。ポイントの原資は、政府が直接出さなくていい場合も多いだろうし、あるいは出しても現実にはたいした金額にならないんじゃなかろうか。

そして、現段階で政府が考えるべきことは、いきなり犯罪予告検知システムの仕様を書くことじゃなく、まずはいろんなアイデアを出してもらって、コンペでもするところからなんじゃないだろうか。他にもアプローチはいろいろありそうな気がするわけで。

2008/06/15

Permalink 23:20:21, 著者: Nobuo Sakiyama Email , 422 回閲覧   Japanese (JP)
カテゴリ: 検閲, 監視社会, 言論・表現の自由

青少年ネット規制法案成立と今後

ちょっと間があいてしまったが、青少年が安全に安心してインターネットを利用できる環境の整備等に関する法律案(以下青少年ネット規制法案)が成立したので、時期をあんまり過ぎないうちに一言書いておこうかと。

まず、今回の法案成立について、型通りのコメントを述べるとすれば、MIAUの声明の通りになる。で、それはそれとして、個人的にもっとぶっちゃけた話。今回、関係者各位の努力によって今回ぐらいの水準で収まった。もちろん、こんな法律案が成立した、ということ自体に対して、不満はたくさんあるが、しかし、今回、「法案を何も成立させないこと」を勝ち負けの基準に置くとすると、そもそも4月のどこかの時点で、その負けは見えていた。与野党の議員が超党派でなんらかの形で成立させたいと思っている法案を押し止めるというのは、ものすごいパワーの要ることで、それは、私だとかMIAUだとか、あるいはネット業界だとか、だけがジタバタしてどうなるものでもない。

あとでもう一度言及するけれども、共謀罪法案なんてのが、ずーっと成立しないままになっているのは、伝統的な野党支持基盤組織が結束して反対し続けていることもあれば、与党内でも懸念がそれなりに大きいこと、そして、そもそもが全体として条約批准を目的とした立法で成り立ちから国内的な動機に乏しく、政治家として熱心に進めたい人が必ずしも多くない、ということもあるだろう。一時は簡単に成立しても不思議でない状況を乗り切って、参議院で与党が過半数を割って店晒し状態。与党は衆議院再議決をすることだって数字の上では出来るけれども、そこまで懸けて刑法・刑事訴訟法の改正案を通すという無茶をする状況にはない。

対して、青少年ネット規制法案のほうはといえば、政治家主導で進んだ話であり、与野党双方に懸念の声はあったけれども法案提出そのものを潰せるほどの情勢にはなく、各党支持基盤についても、伝統的に保守系のところがこういう法案にどちらかといえば賛成のところが多そうなのは当然として、左派系も、強い反対のところって目立って存在していた印象は無かった。というか、今回、いかにも左派ですね、という人の中で目立っていたのって(議員は別として)日隅弁護士ぐらいじゃないのかな(そして、日隅弁護士は、いかにも左派ですね、という以上にメディアの自由に主要な関心のある方で、そういうくくりであれば、法案に反対していた人は少なくないとも言える)。そもそも「青少年健全育成」的な枠になると国家統制的な動きに左派が甘くなるのか、それとも、単純に、ネットの問題が重要な位置にない人が多いのか、はよく分からないけれども。個人的には、その昔のこともあって、そもそも期待してなくて、ほとんど声かけなかったんだけど、マスメディアでもそれなりに報道されてたんだから、関心があれば動いたはずでしょうということで。ぐたぐだ書いているけれども、とにかく、懸念する方向での関心は、社会全体という単位で言えば、あまりにも薄かった。対して、立法を求める声は、見える形で出されていた。内閣府の、どうみても高市議員が大臣時代に作らせた誘導たっぷりの世論調査とか、京都市の半官半民の運動とか、ツッコミどころは多い内容であれ、規制派は目に見えるかたちを出してきていた。規制の問題点を綿密に訴えるとか、カウンター的な調査結果の公表とか、いろいろあったのは、法案の中身を弱めて実をとるという戦術に関係者多数が突き進む上では大成功だったとはいえるけれども、法案を葬るという意味においては、後手に回っていた。手遅れ。議員にしても、それなりに時間をかけて派手にブチ上げてきた手前、「実は法律は何も要りません」では通らない人が多かっただろう。メディア関係も、新聞協会や民法連が最後の最後になって反対声明を出したが、あのタイミングは、法案の成立に影響を与えないタイミングといってよく、出ないよりはマシだが、という状況。そもそも、主要紙やキー局の報道においてネット規制の問題よりはるかに多くネット規制を煽る論調が多かったなか、アリバイ的でもよく声明を出せたなというところで、廃止を求める民法連声明に至っては、よくぞ踏み込んだとさえ言っていいように思う。そういう中、高市私案とか自民党内閣部会案とかのヤバさを考えれば、よくここまで粘れたものだ、という感じで、最後には参考人質疑にまで呼ばれた楠さんには本当にお疲れ様というほかない。

さて、今回の法案の国会での提案・採決に至るまでの駆け引きの結果から今後の自主規制とかさらなる法改正とかにつながっていく要素っていくつもあって、それぞれまた大変そうなんだけれども、個人的に一番注目すべき点と思うものをここで紹介しておく。

(青少年有害情報の発信が行われた場合における特定サーバー管理者の努力義務)

第二十一条 特定サーバー管理者は、その管理する特定サーバーを利用して他人により青少年有害情報の発信が行われたことを知ったとき又は自ら青少年有害情報の発信を行おうとするときは、当該青少年有害情報について、インターネットを利用して青少年による閲覧ができないようにするための措置(以下「青少年閲覧防止措置」という。)をとるよう努めなければならない。

青少年が安全に安心してインターネットを利用できる環境の整備等に関する法律案

第四条 インターネットを利用して公衆の閲覧に供することが犯罪又は刑罰法令に触れる行為となる情報について、サーバー管理者がその情報の公衆による閲覧を防止する措置を講じた場合における当該サーバー管理者のその情報の発信者に対する損害の賠償の制限の在り方については、この法律の施行後速やかに検討が加えられ、その結果に基づいて必要な措置が講ぜられるものとする。

青少年が安全に安心してインターネットを利用できる環境の整備等に関する法律案: 附則

二十一条の「青少年閲覧防止措置」が「有害情報」を広く対象とするものの努力義務に留まり、一方で、違法情報と判断したものの閲覧防止措置の責任制限が今後の検討として附則となり、先送りされた。このあたり、先送りになる前の段階で一度ふれたことがあるのだけれども、これ、まったく別の意味で、ものすごく難しい話なんだよね。違法情報の閲覧防止って結構な話じゃないか、と、単純に考えれば素直に肯定できそうなのだけれども、違法な情報といってもレベルがいろいろあって、どうでもいいものもあれば、警察としては面倒みきれないけれども閲覧防止しておいてほしい、というレベルのものもあれば、確実に捕まえたいので、むしろ下手なことしてくれるな、という状況もありうる。最後のって、要は、「とても悪い犯罪者」が、「閲覧防止措置」をきっかけに証拠隠滅して逃亡する、という問題。とりあえずの解はあって、「閲覧防止措置」の前に、ログとかの保全をさせましょう、という話がある。サイバー犯罪条約にもそういう条項があり、とりあえずISPなどにログやデータなど証拠になるものを保全してもらっておいて、後から記録を差し押さえましょう、というアプローチになる。ログ保全の段階は、とりあえずのもので警察に渡す段階じゃないから、容疑とか固まっていなくてよくて、後での差し押さえの段階できっちりした令状を出します、という話になっている。もっとも、これでログ保全を乱発されまくるとISPの負担が大変だしユーザーのプライバシーや通信の秘密の観点から問題だね、ということで、保全の日数には制限がつく。現行法にはこういう制度がないので、改正法案が出ている。そこでは、ログ保全は強制ではなく任意の要請という形になっていて、保全日数は90日となっている。そして、この法案の本体は犯罪の国際化及び組織化並びに情報処理の高度化に対処するための刑法等の一部を改正する法律案というやつで、実は共謀罪法案とセットで1本になっている。ということで、目下、成立の見込みはない。条約批准の承認自体は共謀罪部分にしろサイバー条約関係部分にしろすでに通っているのだけれども、立法措置という面で争いがある、という話になっていて、決着がついていない。政府案に対して与党側が野党に歩み寄るための修正案を出していて、対して民主党も修正案を出している。共謀罪の部分だけではなく、上記の保全の日数が与党修正案で60日、民主党修正案で30日になっている。保全と記録差し押さえの部分について、そのほかにも細かい文言の修正が修正案にはある。

一定水準の適正な法執行を確保した上での違法情報の閲覧制限措置っていうのは、要するに共謀罪と一緒に止まっているその部分が存在しないと本来はうまくまわらないはず。現状のインターネットホットラインセンターでの「警察に通報して暫く待ってストップかからなければISP通報」という運用も、実のところ結構微妙なもので、だからこそ警察からの受託事業になっている、という部分もあるはず。ピースが欠けたまま、むやみやたらと拡大をしたり、責任制限が先行して警察の関与しない自主措置が大きくなりすぎると、表面的には「安全」っぽいが、そもそも犯罪が警察の網にかからなくなっているだけ、という事態もありうる。といって、応急保全や記録差し押さえ部分をさっさと片付ける、という話にはならない。ここは基本的人権の観点からは慎重さが求められる。そして、個々の法律が矛盾をきたさないように、整合性のある制度設計を誰かがやる必要がある。もとより青少年特別委員会で扱うような枠を越えている話だったので、先送り自体は正解として、さて、どうするんでしょうね。

2008/06/09

Permalink 05:52:44, 著者: Nobuo Sakiyama Email , 1289 回閲覧   Japanese (JP)
カテゴリ: 検閲, 言論・表現の自由

池田さんの言動が基本的な事実から離れている件

池田信夫さんは、ときにとても鋭いことを書くのだけれども、なぜか日本語が理解できていないのではないかというレベルで困ったことを書いていることがある。

率直にいって、これは自主規制の限界である。ISPでフィルタリングが始まれば、2ちゃんねるがその対象になることは確実だが、そうすると「うちは2ちゃんねるが見られます」というのを売り物にするISPが出てくるだろう。もちろん彼らは自主規制団体に入らないから、制裁もできない。

自主規制をどうワークさせるか - 池田信夫 blog

基本的な話だが、「選択の余地なく、あるサイトを見られなく」するような規制は、表現の自由や通信の秘密、ネットワーク中立性などの観点で重大な問題を孕む。そういうわけで、今回の青少年ネット規制法案でも、携帯電話のフィルタリングでも、対象は18歳未満であり、親の申し出で外せる、という総務大臣要請の形からは外れていない。ISPの義務についても、国会に提出されたものそれ自体は見ちゃいないが(いまだに衆議院サイトに議案が出てないでこのまま成立かね?)、その手前と報道の内容、楠さんのITMedia寄稿記事からすれば、ISPは「顧客の求めに応じて」フィルタリングソフトの提供とか、フィルタリングつきのプロキシーサーバーの利用サービスなどを提供すればいい(無料・標準である必要もない)のであって、すべてのWebの通信をフィルタリングするような自主規制は求めていないし、現実にそのようなことが自主規制として行われる、というわけでもないだろう。もちろん、ISPによっては、ぷららのように、URLフィルタリングサービスを実質的に標準サービスの一部として提供してデフォルトで有効としている場合もあるが、これはあくまでデフォルトに過ぎず契約者の家庭でオフにできる。そして、そもそもこれはぷららの他のISPに対する差異化要素であって、こういう世の中にみんななるという前提ではない。大手ISPではオプションでプロキシーによるサービスを提供しているところも多いが、中小ISPならフィルタリングソフト販売代理店を兼ねてダウンロード販売とか課金代行をやるとか、そんな対応になるのではないか。

また、別途、自民党が提案する児童ポルノ禁止法改正案で児童ポルノサイトのブロッキング(全利用者が解除できないフィルタリング)についての研究について盛り込まれると報道されているが、イギリスや北欧の例でもそれはISP自主規制の体裁で行われているのが大半だが、いずれにせよそれらは「児童ポルノ」というネット上の「違法情報」のそのまた一部の話であり、「有害情報」という話ではない。とりあえず、高市議員の心の中までは知らないが、彼女にしても「大人が2ちゃんねるを見られなくなるような規制」を今回の法案に関係して公に求めたことはないのであって、今回の「青少年」ネット規制法の枠組では、基本的には関係ない。

だいたい、今回は青少年健全育成とか、青少年の保護とか、そういう話での規制法の流れなのだから、大のおとな同士の誹謗中傷等(かどうかの事実は判断していない。片方はそういう認識だということ)に関しては、そもそも議論にあがっていない。プロバイダ責任制限法を使うなり、それで十分でなければ民事訴訟を起こすなり、粛々と対処するメカニズムは一応あり、それに欠陥があるという話であれば、それは「別に」やらなければならない。そして、プロバイダ責任制限法は「通告があった場合に業者が違法なファイルを削除すること」を義務づけるものではなく、民事的な権利侵害について、明確なケースだけを扱うものであって、明確でなければ訴訟を通じた解決しかありえず(明確かどうかの線引きに判断ミスがあったということであれば、それは被害者がプロバイダも民事訴訟で訴える対象とすることになる)、刑法的な違法情報の削除義務がどれだけのレベルの判断を必要とするかは、これまでは結構微妙で、 今回の立法で「法的義務の形式的根拠を得たことになる」と奥村弁護士は述べているが、現実問題としての線引きが変わるような話にも見えない。

自主規制機関は、EMAのような、おもに管理されたコミュニティサイトを携帯電話フィルタリングのブラックリストから外すことに主眼を置いた団体が2ちゃんねるを扱わないのは自明といっていいが、逆に「有害性」を判定するような自主規制機関が2ちゃんねるを対象とするかどうかは自明ではない。仮に3類型をベースとしたミニマムな有害性判断基準を作ったとして、それらに2ちゃんねるが該当するかといえば、「板」単位でも該当しないところが少なくないだろうし、スレッド単位なら平和なスレッドはいくらでもあるという話になる。PC向け需要を考えて、登録フィルタリング推進機関とすることを目的としてこれから組織と基準を作って実績を積んで登録したっていいわけで。2ちゃんねるやしたらば掲示板、ミルクカフェといった、匿名性の高いコミュニティサイトを細かくレイティングしてフィルタリング可能とすることはそれなりに技術上・運営上の課題がありそうだが、立法が後押しとなって市場が広がれば、需要を当て込んで始める事業者が出ても不思議はないだろう。

2008/06/05

Permalink 01:27:58, 著者: Nobuo Sakiyama Email , 239 回閲覧   Japanese (JP)
カテゴリ: 監視社会, 児童ポルノ問題

アメリカの児童ポルノ誘引罪合憲判決

つい先日の5月19日、アメリカの児童ポルノ取り締まり法のひとつについて、最高裁で逆転合憲判決があった。 青少年ネット規制法案の動きがいろいろあったのでスルーしていたのだが、以前ブログでふれたこともあるのでフォローしておく。

United States v. Williamsという名前で知られてきた裁判で、報道についてはAP電New York Timesをとりあえず紹介。最高裁判決はネット上に出ている(HTMLで読めるコーネル大版PDFの米国連邦最高裁公式サイト版)。

問題となっていたのは、panderingと言われる、児童ポルノの宣伝、誘引などを(児童ポルノ画像等の実在性にかかわらず)犯罪とする条項である米国連邦法典第18編第2252A条(a)(3)(B)。

(3)knowingly-

(B) advertises, promotes, presents, distributes, or solicits through the mails, or in interstate or foreign commerce by any means, including by computer, any material or purported material in a manner that reflects the belief, or that is intended to cause another to believe, that the material or purported material is, or contains—

(i) an obscene visual depiction of a minor engaging in sexually explicit conduct; or
(ii) a visual depiction of an actual minor engaging in sexually explicit conduct;

US CODE: TITLE 18,2252A. Certain activities relating to material constituting or containing child pornography

具体的な事件としては、児童ポルノ画像のやりとりをしていると思われたネットのチャットルームに潜入捜査官が入ってきて、探りを入れに接触してきたチャットルームのメンバーの一人と児童ポルノではない子どもの画像の交換を繰り返したのち、このメンバーが「こいつはポリだから本物だせないぞ。俺はだせるぞ(URL)」といった内容のメッセージをチャットルームに投げて正体をばらしたところで、提示されたURL先の画像が児童ポルノだったのでFBIは早速令状をとって家宅捜索を実施、児童ポルノ画像がたくさん出てきました…、といったもの。画像の単純所持とは別に捜査官とのやりとりの最後の部分が pandering として起訴されて2罪で有罪となったため、pandering部分だけ違憲訴訟が起こせることになったということのようだ。

判決の多数意見のロジックをざっくり追うと、こんな感じ。ざっくりと追っただけなので、正確なところは法律の専門家に聞いてね。まぁ、そのうち解説記事がどこかに出るかもしれないし。

まず、これはかなり限定している条項だぞ、と。「知って」とあたまについているし、"advertises, promotes, presents, distributes, or solicits" というのは、児童ポルノの具体的な授受(実際に行われる必要はないが)に関するものに限定して解釈すべきだし、"in a manner that reflects the belief" というのは、罪の対象となる人が主観的に「児童ポルノだと」と信じて宣伝等していなければならず、同時に、その様子が客観的にそう思って宣伝等しているように見えないといけない、とする。これと or の関係になっている "(in a manner) that is intended to cause another to believe" というのは、他人に信じさせようというとことだから、対象者の主観的要素のみで決まるとしている。けれども、証拠は普通をそれを客観的に裏付けるものが必要だね、と。

その上で、"sexually explicit conduct" の定義(2256条(2)(A))で、"actual or simulated-"とあたまについてるうちの "simulated" の意味について、これは、「実は行為をしていないのだがはっきりそう描かれているもの」ということだとしている(explicitがついているので、示唆する程度のものは入らない)。そして、わいせつなものは憲法の保護の外だし、わいせつよりも広い定義となる(2252A(3)(B)(ii)は実在の児童のことであってバーチャル児童ポルノや幼く見える大人は含まれないとする。こういう解釈のもと、広範だから憲法修正1条違反だとして弁護側などが出した具体例は基本的に該当しない、としている。「本物だと思い込んで宣伝していたけれども実はバーチャル児童ポルノだった」というケースは、麻薬の売人が麻薬と思ってそうでないものを宣伝しているような場合も違法なのだから、それと同様で違法として問題ないとしている(贋物と知って売り込みをかけているような場合は、そもそも詐欺行為だから保護に値しないともしている)。

もうひとつ、曖昧だから憲法修正4条に由来するデュ-プロセスに違反するのではないか、という論点も出ていた。前述の "in a manner" 云々、の部分についてだ。これについても、控訴審判決で提示されていた例は、それってそもそも普通有罪って判断されないだろ、と述べている。その上で、そもそもが曖昧さの問題ではなくて、「合理的疑いを越える証明」の問題であり、「下品な」といった定義そのものが曖昧なものとは根本的に異なるとして、控訴審の判断を覆している。

少数意見のほうは、あんまりちゃんと読んでいないけれども、やはり、実在児童ポルノではない、修正一条で保護されるものを宣伝等するのがひっかかる場合があるのはおかしいのではないか、ということのようだ。麻薬の広告等とは違うぞ、と述べているようだ。

2008/06/02

Permalink 01:57:06, 著者: Nobuo Sakiyama Email , 209 回閲覧   Japanese (JP)
カテゴリ: セキュリティ, 情報社会, 児童ポルノ問題

政府の役割

むしろ政府の役割は、着実に違法行為を摘発することだ。

フィルタリングより肝なネット時代の自助教育 - 雑種路線でいこう

この問題は確実にあって、特定の違法行為がろくに摘発されず、自主規制のメカニズムからもこぼれ落ちていれば、おそらくはアンダーグラウンドの評判メカニズムが働き、弱い場所を確信的な違法事業の業者は徹底的に利用する。現状だと、アンダーグラウンドとまで行かず2ちゃんねるに出ていたりするが。

以前、12月下旬にホットラインセンターに通報した児童ポルノDVD販売サイトの情報が2月下旬に通報としては処理されて3月上旬にサイトの閉鎖に至ったという話を紹介したが、その後、このサイトはどうやら数日のうちにまったく同内容で復活していたようで、4月29日に再通報した。まだ再通報の処理はされていない。ドメイン名でググると、2ちゃんねるその他の掲示板で大量に宣伝的にURLが貼られていたことが確認でき(つまり、誰も知らないマイナーなサイト、という状態とは言えない)、また、サイト自体は、ごく最近、日本からの通報ではなくイギリスの Internet Watch Foundationからの通報で Google の検索結果からは除外されるようになった。

ドメイン登録情報のうち、サイトを特定しないよう一部を伏せ字にした情報を出すとこのようになっている。

Domain Name: *****.com
Registrar: GMO INTERNET, INC. DBA ONAMAE.COM AND DISCOUNT-DOMAIN.COM
Whois Server: whois.discount-domain.com
Last Updated On: 2008-03-1* **:**:**.*
Status: ACTIVE
Registrant Name: Domain Management Representative
Registrant Organization: paperboy and co.
Registrant Email: privacy@whoisprivacyprotection.info

COMドメインだが、レジストラは国内で、直接の登録にはどうやらムームードメインサービスを使っているようだ。料金支払いがコンビニ決済や銀行振込やゆうちょ振替でできるため、クレジットカード支払いよりもはるかに匿名性が高いし、whois情報はサービス会社のものとすることができるので、この Registrant Email でググるとスパマーや詐欺的なサイトにも愛用されてきたようだ。

その上で、サーバーは別の国内の会社のホスティングサービスとなっている(これは公表しない)。最初の通報のときとは、異なる業者だ(これも国内)。最初のサーバーではたしかに take down したが、すぐに別のサーバーで同内容を再現してDNSも変更した、ということになる。

通報が法執行につながっていればこのようなことにはならないはずで、ホットラインセンターからの通報を受け取った法執行機関が強制捜査を行っていない、あるいはそれが不十分だったことは明らかだ。COMドメインのレジストリこそ海外だが、レジストラやドメイン取得代行業者は国内なのだから、基本的に国内に閉じた問題と言える。

ここで、それではレジストラやドメイン取得代行業者もホットラインセンターのスキームに入れればいいか、というと、そう簡単ではない。ムームードメインサービスのWHOIS関連の見解にあるように、ドメイン利用自体の停止はサーバー提供の停止に比べて法的にハードルが高い。フィッシングに関するJPRS堀田氏の講演でも、現状では課題があることが述べられているし、また、違法性と高さと緊急性の高さは必ずしも一致するものではないから、緊急性が高い場合に認められる措置が、違法性が高い全ての場合に認められるかどうかは自明ではない。といって、ドメインの場合、幅広い違法情報の発信について(情報に対する管理可能性のない)レジストラやドメイン取得代行業者に義務を課したり登録者に対する責任制限を認めたりする立法をするというのは問題が多いという話にもなるだろう。

そう考えると、やはり、これは警察・検察がきちんと摘発をする、ということが必要だろう。そうすることで、はじめて民間事業者が動ける部分もあるわけで。単にかけ声で終わらせるのではなくて実効的なものとするには、現状行われるべき法執行がなぜすすまないでいるのか、ということに焦点をあてて調査研究が行われて、それに基づいた政策立案が行われるべきだろう。

2008/05/30

Permalink 02:19:50, 著者: Nobuo Sakiyama Email , 1632 回閲覧   Japanese (JP)
カテゴリ: 検閲, 言論・表現の自由

「青少年閲覧防止措置」はとんだ毒饅頭かもしれないな

自民党「青少年による青少年有害情報の閲覧の防止等に関する法律案」/民主党「子どもが安全に安心してインターネットを利用できる環境の整備等に関する法律案」が来週にも一本化して表に出たら議論しないで通すっぽい報道が出ていて、かなり危機感を覚えている。追いかけきれていないけれども、変なものが出たらほんとに困る。

とりあえず、手元の自民党案要綱も微妙に更新されたけれども、これが最新かどうかは知らない。とりあえず、公布日施行とか言ってたのはやめたようで、「青少年閲覧防止措置」の政府からの要請も「違法情報について」という限定は入り、情報発信者に対するサーバー管理者の損害賠償責任の制限も同様の趣旨で限定はされた。しかし、ここからが問題で、「違法情報」と言っているのだけれども、これには、厳密な意味で公然陳列等が違法となる情報ばかりではなく、「犯罪又は自殺を直接的かつ明示的に請負、仲介又は誘引をする情報」が含まれている。

昨今の「殺人請負人が登場してしまう闇仕事サイト」といったものや自殺サイトといったものを念頭に、そういうものを制限しよう、という考えなのだろう。でも、「犯罪又は自殺を直接的かつ明示的に請負、仲介又は誘引をする情報」の発信は、それ自体は今のところ、違法じゃない。それを制限するのは表現の自由の制約で問題だ。

…と言ったところで、「闇サイト殺人」とか「硫化水素自殺の続発」とか、そういうのを防ぐのには表現の自由の制約も仕方ないのではないか、という意見は当然強くあるだろう。それに、現行法でも、売春広告や違法薬物売買の広告は違法だから、公共の福祉によって表現の自由はある程度制約できる、という人も多いだろう。

しかし、ここで踏みとどまって考えてほしいのだが、まず、ここで出てくるような「青少年閲覧防止措置」は、ターゲットを絞り込んだように見える文面ゆえに、実務的には、結局、当該情報の発信を停止させる措置として運用される可能性がより高まっているのではないか。私が見ている自民党案では、サーバー管理者の責任制限について「当該措置が青少年間覧防止措置として必要な限度において行われたものである場合」という限定があるけれども、社会的に一定の地位のあり、かつ、現状でアダルト系のためのアクセス制限のシステムをもっていないサーバー事業者にしてみれば、「違法情報」のために「青少年の閲覧を防止しつつ成人には閲覧ができるようにする措置」のためのシステムを組む動機は乏しい。措置が「必要な限度」かどうかは、サーバー管理者がどのようなシステムを持っているかどうかにも依存するはずだしね。

その上で「犯罪又は自殺を直接的かつ明示的に請負、仲介又は誘引をする情報」というのを考えてみるのだけれども、この案では、「犯罪」の内容について限定がない。殺人・傷害・誘拐、といったものを列挙してみると、なるほど仕方ないな、という雰囲気が漂ってくるのだけれども、犯罪って一番広くいえば、違反すると刑事罰を課せられる違法行為がみんな含まれてくる。政治的なビラのマンションのドアポストへの投函で住居侵入罪で有罪になって最高裁で確定した場合もあれば、高校の卒業式で君が代斉唱時に着席するよう式典中に呼びかけた元教諭が威力業務妨害罪で高裁でも有罪になった、というニュースがちょうど流れている。あるいは、日本では公務員のストは違法で、有罪判決もたくさんあって、最近は公務員スト自体かなり減ったがそれでもたまにある。で、行為が犯罪になるかどうかはそれはまた別の問題として、そういったジャンルにおける「直接的かつ明示的に請負、仲介又は誘引をする情報」というのが、「違法情報」扱いを受けて表現の自由を制限される可能性を帯びるとなると、特に野党や野党支持者のみなさんにとってはそれはどういうことか、ということをよく考えてほしい。

直接刑罰の対象となるという話ではないが、「共謀罪」の議論と話は似てくる部分もあるのではないか。ここで、対象犯罪の列挙と個別検討なしに「犯罪又は自殺を直接的かつ明示的に請負、仲介又は誘引をする情報」の制限を広く認めてしまうというのはあまりに問題が大きい。そういう検討は、今の日程では不可能だから、どうしても「青少年間覧防止措置」というのをこの国会でやりたければ、ホットラインセンターで現在「違法情報」として処理しているような厳密な違法情報の限定列挙だけにするべきだ。可能ならまるごと先送りしてじっくりと検討するべきだけどね。

2008/05/25

Permalink 00:52:10, 著者: Nobuo Sakiyama Email , 6915 回閲覧   Japanese (JP)
カテゴリ: 検閲, 言論・表現の自由

自民党のネット規制法案がなおヤバい件

フィルタリング法案がここにきて進展をみせていて、民主党が骨子をサイト上で発表する一方、自民党は、サイト上にはないが報道はされている。自民党案は、困ったことにきっちりと公表されておらず、ニュアンスも報道によって違いがある。リンクをしたスポニチ報道は、通信社記事だと思うが自民案は民主案に比べて「国の関与が強まる」ことが明確となっている。すなわち、

  • 有害情報の基準策定や有害サイトを判定する民間機関を政府が審査・登録する
  • 首相や官房長官も加わる関係閣僚会議を新設する
  • 有害サイトの閲覧を制限するフィルタリングサービスを普及促進するための基本計画を策定する

といったあたり。日刊スポーツにも同内容あり。このあたり、朝日・読売・毎日といった三大紙は、なぜか弱めのニュアンスの報道。

というわけで、かなり新しい自民党案の要綱を見ているのだけれども、これはまずい。規制推進派がかなり巻き返した印象。

報道にある部分では、「有害情報の基準策定や有害サイトを判定する民間機関を政府が審査・登録する」というのが問題。ここの「民間機関」の権限が、フィルタリングソフトの適合認定を含んでいて、それが携帯電話ISPのフィルタリング提供義務やISPのフィルタリング提供努力義務、PCメーカーのフィルタリングソフト組み込み義務とリンクしている。一段間接的になっているけれども、政府がかなりのコントロールをできる内容になっている。「有害サイトを判定する」という部分にも問題があるのだけど、後述。

この法案は、さらに「青少年閲覧防止措置」というのを定めていて、サーバー管理者が「知ったとき」に措置する努力義務を、とりあえずは違法情報に対して課している。のだけれども、政府が「通報処理団体」(審査・登録される民間機関と重なる部分もあるけれども同一ではない模様)からの「申出」に応じてサーバー管理者に「要請」する場合、その対象情報がどのようなものであるかは限定されていないようだ。「申出」については「青少年の健全育成のために必要があると認めるとき」であれば、情報の種類は問うてないように見える。前述のように、政府が審査・登録した民間機関が有害サイト情報を収集してサイトに通知し、さらに政府要請の対象とすべく申出できるということで、サーバー管理者の努力義務とは別に、「青少年閲覧防止措置」は幅広いものだと想定されている。そして、サーバー管理者は、「青少年閲覧防止措置」について情報発信者からの損害賠償責任について免責をされるのだが、これが無限定の免責になっているようだ。情報発信者にとっては著しい不利益が発生する可能性がある。プロバイダ責任制限法第三条2項二号のように、情報発信者の同意を得る機会を設けるなどのデュープロセスを課すような内容になっていない。

そして、そもそも論的には、「青少年有害情報」というのが定義されている(これは報道とは異なる)のだが、民主党案にあるように「著しく〜」という限定をつけることなく、「性欲を興奮させ又は刺激する情報」や「残虐な内容の情報」というのが含まれている。「青少年有害情報」は、サーバー管理者の努力義務とはリンクしていないのだが、その他の部分には広く影響するものとなっている。程度を問わないということは、社会的に問題ないとされるような性教育教材も対象とされる可能性があるし、残虐な内容については戦争被害についての教材なども該当してしまう可能性があるだろう。そして、よくよく見れば、「その他青少年の健全な成長を阻害するおそれがある情報」というキャッチオールの文言まであり、「青少年有害情報」は、謙抑的な意味で定義されていないのではなく、なんでもありの規制をかけられる方向で曖昧な定義になっているように見える。

また、誤解甚だしいと思われるのは「青少年有害情報フィルタリングソフトウェア」の定義で、インターネット上の情報について「利用者の発達段階に応じた一定の基準に基づき選別した上で」とあるのだが、一般に流通しているフィルタリングソフトウェアの多くの前提は、事業者は、インターネット上の情報をある程度客観的な属性で分類した上で、利用者側の設定で情報の分類に基づいて閲覧許可・不許可を判定することで情報の閲覧を制限するプログラムを提供している、というものだ。これは、携帯電話フィルタリングのデータを提供しているネットスターからしてそうだ。つまり、「利用者の発達段階に応じた一定の基準に基づき選別」することは行われておらず、利用者側に委ねられているということ。推奨設定として利用者の発達段階に応じた閲覧許可・不許可の設定を提供している製品も多いけれども、それらは推奨値に過ぎない。また、現時点では一律の基準となっている携帯電話フィルタリングサービスや、その他のフィルタリングサービスで利用者側でのカスタマイズができず一律の基準や発達程度に応じた設定が提供されている場合もあるけれども、それらは技術上・サービス提供上の制約としてそのような形態になっているに過ぎず、「利用者の発達段階に応じた一定の基準に基づき選別」が行われているわけではない。つまり、法案の定める「青少年有害情報フィルタリングソフトウェア」には、多くのフィルタリングソフトは該当しないのだ。

フィルタリングソフトは、そもそもが一律な情報受信の法規制に対するオルタナティブとして、受信者側の設定での選択を重視するソリューションとして出てきたものだ(それの建前と本音の差とか理念と現実の乖離とか透明性の問題とかはとりあえず置いておく)。民主党案はそこを理解して「子ども用フィルタリングソフトウェア」を定義しているが、自民党案では「選択」の視点がない。

おまけ的には、民間機関と関係閣僚会議の設置以外の部分が公布日施行って、どうみてもいきなり回らない仕掛けなので即日で日本のネット産業死亡とかそういうことをしたいのかしらと素で疑ってしまうよ。

2008/05/24

Permalink 22:35:38, 著者: Nobuo Sakiyama Email , 576 回閲覧   Japanese (JP)
カテゴリ: 検閲, 言論・表現の自由

自主規制機関をどうコントロールすべきか

楠さんが指摘する自主規制機関のガバナンス問題というのは、実に困難かつ深刻な問題なんだよね。

仮に第三者機関としてSafety Onlineを策定しているインターネット協会を念頭に置いているとすると、窓口機関業務に関する警察庁との受発注関係など4月末の警察庁による「硫化水素」有害指定で顕在化したガバナンスの問題を整理する必要がある。

神は細部に宿る - 雑種路線でいこう

日本の場合、インターネット協会のその出自からして、法人化のタイミングで日本インターネット協会と電子ネットワーク協議会の合併があったが、それ自体が主務官庁の強力な要請、というか財団法人としての認可の条件だったという話があり、自主規制関係の部門はほとんど電子ネットワーク協議会から取り込まれた経緯がある。

国分明男副理事長が電子ネットワーク協議会時代からその部分は一貫して統括しているけれども、彼の公的な言動からは、インターネット協会の取り組みが業界団体としての企業利益や、あるいは実際にネットを使っているネットユーザーの利益を反映する、という面は、率直にいって希薄で、ネット規制の積極推進派的なものが目立っている(もっとも、さすがに国会での参考人質疑となると法規制に慎重な態度とはなっているが)。それが、彼個人の考えなのか、そのぐらいのポジションをとらないと主務官庁からのプレッシャーに対して組織を守っていけないのかは定かではない。私が知っているインターネット協会関係者の話からすると、インターネット協会の自主規制事業(レイティング事業やインターネットホットラインセンターなど)は、主務官庁や警察庁の意向を背景として、会員企業の声を反映することなくやりたい放題と なってきた趣きがあり、携帯フィルタリング原則化騒動のあとのSafetyOnline4検討開始にあたっては、レイティング/フィルタリング連絡協議会からの宮本潤子氏(ECPAT/ストップ子ども買春の会)のパージといった、ある程度まともなガバナンスが働いた話も聞こえたけれども、NHKニュースにこの件で登場した国分氏の発言は、受信者側の自主的な選択に資する、というのとはかなり異なる方向性を向いたものといわざるを得ず、困ったものだと思った。

世界的には、イギリスの違法コンテンツ通報機関として Internet Watch Foundationが有名で、ここが児童ポルノブロッキングのURLリスト作成などもしているが、2006年末のThe Register記事によれば、イギリスでも政府の規制強化の圧力のもとガバナンス構造の変質があり、組織の透明性や説明責任は大きな問題となっているようだ。IWFは設立当初はネット業界関係者のコミットがきちんとあったのだが、実質的な規制能力の高まりと共に、ネット業界からのチェックは入れにくい形に変質し、だからといって代替できるチェックの仕組みが育っているわけでもない、という状況のようだ(なお、The Register誌のサイトは、IWFやイギリスの児童ポルノブロッキングについて良質な記事が大量にあるようなので、関心のある人にはググって一通り読むことをおすすめする)。

2008/05/23

Permalink 03:04:56, 著者: Nobuo Sakiyama Email , 4266 回閲覧   Japanese (JP)
カテゴリ: 政治, 検閲, 言論・表現の自由

鳩山法相がまともなことを言っている件

検索していて参議院法務委員会の5月8日の議事録にいきあたって、以前ちょっとふれた松浦大悟議員がフィルタリングとLGBT差別の問題について質問していて、最終的に鳩山法相が答弁しているのだけど、結構まともな答弁になっていたので以下に紹介。まずは松浦議員の質問からだけど、文字になってると結構長いので途中を端折った。全文は議事録をみてほしい。基本的に、私が以前問題にしたの(のらさんのところに転載されたmixiのコミュでの話のほうが分かりやすいかな)と問題意識は同じ。

○松浦大悟君 何が言いたいかといいますと、実は現在、携帯電話会社各社は、子供に対して違法、有害なサイトから子供を守るためとしてフィルタリングサービスの提供を行っています。……

 このように、現在、急速に未成年者の携帯電話へのフィルタリングの適用が進んでいるのですが、実はここで一つ指摘しておきたいことは、現在のフィルタリングの一部が性同一性障害者や同性愛者といったセクシュアルマイノリティーの人権を侵害しているということなんです。

 どういうことかといいますと、携帯電話会社四社のうち大手を含め二社では、フィルタリングで排除するカテゴリーにライフスタイルというのを設けているんです。このライフスタイルというのがどういうものかといいますと、ゲイ、レズビアン、トランスジェンダー、いわゆる性同一性障害などの生活スタイルに関する各種情報の提供ということになっているんですね。

……

 民間企業であるとはいえ、今や携帯電話会社はかなり公共性の強い事業であり、社会的影響の大きさからいってかなり問題のあるやり方ではないかというふうに思うのですが、法務省としてこうした企業に対し指導すべきだと思いますが、その辺りのお考えをお聞かせください。

これに対して、政府参考人の法務省人権擁護局長は、「具体的な事案を見てみないと」分からない、と逃げる答弁を続けていたのだけれども、これに対して鳩山法相は次のように答弁した(これもやや長いので若干端折った)。

○国務大臣(鳩山邦夫君) ……

 そうしますと、同性愛の方や性同一云々の方の人権というのも、それは立派に守っていかなければならない。松浦さんが先ほどからおっしゃっていることの論旨は、私は決して間違っていないと思います。ただ問題は、そのフィルタリングして有害情報を排除したいというのは国民全体の願いだろうと思います。むしろ、だから性同一障害とか同性愛というのはおかしいんだ、おかしいんだというめちゃくちゃな書き込みがあれば、そういうページこそ本当は除外をしたいということですから、あくまでも中身の問題ということになるわけでしょうが。

 今後フィルタリングの問題が本格化してくる。現在総務省で、今年の秋までにはインターネット上の違法・有害情報への対応に関する検討会が結論を出そうとしている。その結論を受けて携帯電話やインターネットの会社に対してどういうフィルタリングを求めていくかということになっていくんだろうと、こう思います。ただ、そういう中で、性同一の問題あるいは同性愛の方々の問題を、これは明示的にフィルタリングするようなことがあれば、これはあってはいけないことでございますから、人権擁護の観点で我々は物を言わなければならないだろうと。それは、人権局長はなかなか苦しい答弁をしておりますけど、私はその辺はある程度は割り切ってもいいのではないかと、こう思っております。

 ただ、内容が問題ですからね、本当は。内容は一つずつ本当は大問題なんだけど、一つずつフィルタリングするということはこれは絶対不可能ですから。そう考えた場合に、一つの概念として性同一の方の情報をフィルターに掛ける、あるいは同性愛の方々のことをフィルターに掛けるということは基本的にはあってはならないことと思っています。

明確に、「有害サイト規制」としてのフィルタリングにおいて、LGBTを対象としたフィルタリングを「あってはならないこと」と答弁している。国会質問の内容は基本的に事前通告されていることを考えると、どこまでを官僚が答弁をし、どこからが政治家として大臣が答弁するかは事前に考えられていたとも思われ、明確な答弁が鳩山法相から出た、というのは政府の明確な態度だと言えるはずで、これは実にいい仕事だなぁ、と率直に思った(踏み込んだ内容だから大臣から述べるべき、ということだったのだろうと思う)。

2008/05/15

Permalink 02:23:27, 著者: Nobuo Sakiyama Email , 1263 回閲覧   Japanese (JP)
カテゴリ: 検閲, 言論・表現の自由

高市法案がいまだ死んでいないらしい件

高市早苗議員がここにきて「青少年をインターネット上の有害情報から守る為の法律案骨子について」とか「インターネット関係業者による法案反対記者会見への回答」とか、自分のサイトに上げる事態になっていて、必死になっています。で、まだこの線が完全には死んでいないという困った事態らしいです。

この骨子、自分で載せてるんだから過去のものと違って間違いなく最新版でしょう。もうほんとにこの線の息の根は誰か止めてほしいなぁ。ただ、本人が何を維持したいのかは、分かりやすくはなった。

「青少年有害情報等の定義」から。青少年条例と一緒だろ、と高市議員はおっしゃるわけなんだけど、「著しく」というのが情報内容の程度にかかっているのか、「影響」にかかっているのかで、全然違う話になる、というのは、以前書いた。さらに5月1日のMIAUシンポで話した内容(資料はここに。MIAUのサイトでの公開も他の発表者資料とあわせて追ってあるはず)をふまえていうと、これにCOPA違憲訴訟再審の地裁違憲判決のロジックを使って突っ込むことができるように思う。「十八歳に満たない」青少年には、17歳も、12歳も含まれる。もちろん、乳幼児も含まれる。高市法案の「青少年有害情報」の定義では、個々の表現の程度は問われていない。青少年に対し「著しい」影響があるとするとき、その「青少年」は総体として問われているので、16、7歳程度にとって「著しい」影響があるとまではいえない内容に対しても、「著しい」影響があるといえてしまう場合があるだろう。より細かくいえば、そういう判断をすることを政令で定める基準として設けることを排除しない内容になっている。そして、とくに「性に関する価値観の形成に著しく悪影響を及ぼすもの」という表現は客観的なものではなく、広範に18歳未満の者の情報へのアクセス権を阻害する可能性がある。「その他の性欲を興奮させ又は刺激する内容の情報」についても程度を問わないということになれば、性教育や避妊に関する情報を広く規制対象とすることすら可能だろう(「青少年インターネット環境整備審議会」の意見聴取で一定の配慮をしているつもりなのだろうけれども、そういう問題ではない)。

「ウェブサイト上の青少年有害情報が青少年に閲覧されないようにするための措置」は、ISPの責任制限は入ったが、ISPに罰則つきで義務を課している点は相変わらず。携帯電話フィルタリングについて、親が外すオプションを許さない点も変わらず。

「青少年有害情報フィルタリングソフトウェア」について「青少年の発達段階及び利用者の選択に応じ、きめ細かく設定できる」ことを求めているのは、法案の定義する「青少年有害情報」にまで至らないものを対象としていて、「青少年有害情報」はカスタマイズによらず「閲覧が制限されないものをできるだけ少なくする」ことを求めている。

高市議員は、「保護者の子どもの教育に関する決定権」について「配慮」しているとしつつ、しかし、制限することを肯定している。表現の自由に対する制約の面も現状認められている程度だとしているけれども、すでにみたように同じ程度でもない(カテゴリも増えているし)。「削除義務」ではない、とするけれども、「フィルタリングソフトへの連動措置」でさえも言論表現一般に対して求めるのは表現の自由への大きな制約だろう(風営適正化法を改正して、すでに規制対象の商業的アダルトサイト(映像送信型性風俗特殊営業)に関してサイト入り口を含めた「フィルタリングソフトへの連動措置」を求める程度であれば、出会い系サイト規制法の改正案がすんなりと全会一致で衆議院を通過しているように、おそらく大きな抵抗はないだろうから、そうじゃなくて広汎な規制をしたいんですよねぇ…)。

2008/05/07

Permalink 00:04:17, 著者: Nobuo Sakiyama Email , 1516 回閲覧   Japanese (JP)
カテゴリ: 児童ポルノ問題

児童ポルノ単純所持違法の国での無罪判決

児童ポルノ禁止法の単純所持処罰の改正の動きで、与党PTから「性的好奇心を満たす目的」に処罰するという案が出ているという報道について、奥村弁護士が「ほんとにできれば、性欲刺激要件とダブルので、限定にならないような気がします」と述べている。実際問題、全体からみればごく一部であろうとはいえ、成人ポルノと児童ポルノを確たる区別なく配布しているネット上のサイトはそれなりにあり、要件を「性的好奇心を満たす目的」としたところで、成人ポルノを目的としてアクセスして児童ポルノを所持してしまった場合、処罰される恐れがあるように思う。

最近、アイルランドで興味深い事例があった。 アイルランドのウェストミース州アスローンの地元紙 Athlone Advertiser によると、190枚の静止画と7つの動画で児童ポルノ所持罪に問われていた男性が無罪となった。この男性、実は「巨乳が好き」ということで、検索して出てきた有料サイトに登録して画像を自動的にダウンロードしてハードディスクに溜め込んだりCD-ROMに複製したりしていたところ、その中に児童ポルノが混ざっていて罪に問われた、ということのようだ。そして、「アジア系の(女子高生に見える)制服姿の女性」の画像について、しばしば大人が演じているから、そのような姿だからといって児童ポルノだと判断できるわけではない、と主張した。また、大量の画像について、そもそも中身を確認しないで複製することが少なくなかったとしている。こうした主張が通り、また、動画のほうは少なくとも1つがアイルランドの国内検閲制度を通過した映画からのものだ、ということが分かり、無罪となった(ただし、この訴追を通じて男性が職場である大学のネット環境をポルノ入手のために濫用していたことも明るみになってしまい、辞職に追い込まれている)。

楠さんが簡単にふれている英米の場合のような過酷・過剰な制裁を伴う場合もあれば、この例のように、非常に慎重な「疑わしきは被告人の利益に」を地で行く判断を陪審が下す環境にある国もあり、その程度は様々だと言える。日本での単純所持罪も関しても、その気がない人を罰するような定義が成されてはならないと思う。

2008/04/28

Permalink 02:54:47, 著者: Nobuo Sakiyama Email , 898 回閲覧   Japanese (JP)
カテゴリ: 検閲, 言論・表現の自由

宗教右翼に対する懸念は現実のもの

小倉さんが

高市私案が通ったとして,どうやったら,統一協会的な純潔概念を私や楠さんに押しつけることができるとでもいうのですか?国会承認人事で,特定の宗教勢力から過半数の委員を選任することが実際にあり得るとお考えなのでしょうか。

それぞれができることをやる

と言っているのだけれども、小倉さんが否定する懸念は「ありえない」とするほどには小さくない。

「統一協会的な純潔概念」といってしまうとそれは狭すぎることになるが、もう少しラフに純潔概念の押し付けということでいえば、日本会議に代表される日本の保守・右翼勢力の影響力も大きい。高市議員自体、そうした勢力とのつながりは知られているし、そういった勢力による「ジャンダーフリーバッシング」が国政にも影響を与えて男女共同参画に関する政策を歪める努力をしていてそれがある程度は成功している。青少年への情報伝達の規制といえば、例えば2002年の厚生労働省『思春期のためのラブ&ボディBook』絶版と在庫回収は、まさに国会や地方議会を巻き込んだバッシングの結果であって、そのようなバッシングがノイジーマイノリティーによるものであれば結果は違ったはずで、そう考えると国会同意人事なら問題ないと言えるようなものではないと考えている。高市案では、対象情報は性交や性器の描写に限定されず「性欲を興奮させ又は刺激する」なら文章でも該当する(青少年条例でよくある「性的感情を著しく刺激する」よりも敷居が低い可能性がある)し、「性に関する価値観の形成」への「著しい悪影響」を問題にしているのだから、性教育コンテンツはむしろターゲットとされやすいし、保守系の方々のお気に召さない男女の固定的な性役割に反するような内容や、同性愛肯定的な内容もターゲットとされやすいのではないか。民間自主規制団体ではそういうバイアスがあるかというとそうでもないかもしれないが、内閣府のもとで人選する国会同意人事という文脈では、やはり政権の影響を受けやすいと思う。多少偏った人事だったところで、与党はそのまま受け入れるに決まっているから、現状のような参議院で野党が多数という状況が続かなければ、偏った人事にストップがかかる要素はない。小倉さんは保守勢力の「過激な性教育」バッシングを甘くみているのではないか。

アメリカでも、「青少年に有害な情報」の規制推進のコアにいる人達は、プラクティカルな意味での子どもの安全を守りたい人達というよりは、「家族の価値」を高く掲げる宗教右翼なんだよね。

2008/04/26

Permalink 02:12:52, 著者: Nobuo Sakiyama Email , 532 回閲覧   Japanese (JP)
カテゴリ: 言論・表現の自由

もっとくどく検閲について

bewaadさんの、ある意味無意味なMIAU批判が続いているのだけれども、あえて反論。

そもそも、「検閲」という言葉を、厳密に憲法における「検閲」という語の解釈についての最高裁判例に沿って使わないといけない、と誰が決めたのだろうね。

辞書で「検閲」をひけば、第一の意味としては「しらべあらためること」ぐらいの内容が普通は載っている。そして、歴史的にみれば、検閲という語は、圧倒的に軍隊用語として用いられてきた。近代軍において、兵器や練兵が要求水準を満たしているかどうか検査すること、あるいは軍人個人を試験すること、そういった用法が多い。 自衛隊において現在も用いられている用法だ。「日本法令索引〔明治前期編〕」で「検閲」というキーワードでの検索結果でのそのほとんどは軍事用語。最初のものが「検閲使職務条例 明治8年6月13日 太政官第100号達」で、その後ほとんどが軍隊における上記の意味での検閲。それ以外のものは「〔留萌支庁被廃ニ付宗谷出張所ノ文書等留萌出張所ノ検閲ヲ経ル義〕 明治8年6月20日 開拓使本庁達」「法律規則等ヲ外国語ニ翻訳発布ノ前外務省翻訳局ノ検閲ヲ経セシム 明治18年8月17日 太政官第45号達」であって、両方とも行政内の文書について「しらべあらためる」話。明治19年2月公文式公布以降を「日本法令索引」で検索した場合も、出てくるのは圧倒的に軍隊関連となる。ここまでくると、民間における表現の事前抑制としての検閲を法令名にもつものも入ってくるが、同時に貿易に関する検査なども検閲と呼ばれていて、また、郵便物や電話などの、今日的には信書の秘密や通信の秘密に関わって禁止されるような内容規制についても、検閲と呼ばれている。 なお、Wikipediaの日本における検閲の沿革にある代表的な諸法令では、必ずしも検閲の語は使っていないようだ。ちなみに、中国語で検閲といえば、もっぱら軍隊の話であって、censorshipの訳語は「検査」「審査」(のそれぞれ簡体字)であって、検閲ではない。

また、表現の事前抑制としての検閲を昔はどう呼んでいたかというと、江戸時代の浮世絵等の出版物については寛政の改革で株仲間における民間事前審査の強制があり、それが天保の改革では株仲間が解散ということで名主による直接規制となり、その後またもとに戻っているが、これらは「改(あらため)」と呼ばれ、検閲済証明としての印が「改印」「極印」「名主印」などと時期に応じて呼ばれてきたもので、「検閲」という名称の制度ではなかった。そして、「改」というと、日本において発行される出版物の事前チェックに限定されず、長崎の出島からの蘭学書の国内持ち込み時の検査(キリスト教禁制等のため)や、関所での検査も「改」であり、「江戸時代の検閲制度」の研究者は、なにも浮世絵等の改に限定して検閲と述べているわけではなく、普通に出島の検査や関所の検査も検閲に入れて扱っている。

私は、MIAUはユーザー利益をうったえる団体であって、法解釈をたれるための団体ではないのだから、プレスリリース程度の粒度のさいに、厳密に憲法における検閲という語の解釈についての最高裁判例に沿った用法で検閲という語を用いる必要はなく、censorshipの訳語として用いられる程度の幅で検閲という語を用いて問題ないと思うので、当初の声明にとくに問題を感じていない。だいたい、プレスリリースのどこにも「憲法」の文字はない。「法解釈的に誤解を招く、厳密さを欠く表現」と言われたらそれはそうだが、間違っているという批判を受け入れる必要があるとも思わない。個人で文章を書くならそういう場合は「(広義の)検閲」とかやる場合が多いけどね。

また、えのさんと議論になっている中身のほうだけれども、青少年条例の図書自販機規制をめぐる攻防は、最高裁判例のころとは全く違う状況が生まれていて、ネット規制の文脈で取り上げるのは、いろいろと微妙なものがあるという気がする。最高裁判例のもととなった事件のころは、自販機と言えば金を持っていれば誰でも購入できたものなのだが、タバコの自動販売機のtaspo導入でもわかるように年齢識別/認証装置つきの自販機というのは開発されており、タバコよりも図書等のほうがはるかに先行して導入され、それでまた攻防がある。過去の事例では「免許証読み取り機能はあるが購入者本人との対応が認証されていない」とか「遠隔監視装置(監視カメラで人間が青少年でないことを確認する)の画像が不鮮明」であるとか、運用が適切でないとか、そういった理由で年齢識別/認証装置や遠隔監視装置つきの自販機での有害図書販売を摘発して有罪が維持された下級審判例がある。しかし、さらなる技術の向上を背景にむしろこうした装置を条例上位置付けて義務化する自治体もあり(例えば東京都)、その一方で、まさに「青少年向けの規制の形式をとりつつ広範に流通ルートからの排除を試み青少年以外の者に対する販売すら」大きく制限する、萎縮させる意図を含んで、いかなる水準の年齢識別/認証装置つきの自販機であろうとも、有害図書の収納を禁じ、あるいは図書自販機の設置自体を禁止するという方向に動く自治体もある、というのが現状のようだ。そして、それに挑む事業者も存在する。このあたり、自動販売機と地域経済というブログがとても詳しい(開設者は、書斎研究家ではなくて、県レベルの条例がない長野県でフィールドワークをされている方)。

ところで、ここまで書いて気がついたんだけど、bewaadさんが「広範な代替的コミュニケーションチャネルが開かれていること」が「表現の自由の制約が許される一要件」だとされているロジック、あまりに酷いんじゃないかと思うんだ。だって、引用されているアメリカの最高裁判例の引用部分だけでも、それは「内容中立規制」の場合だってことは明らかなんだもの。その一部分だけ取り出して「規制ok!」と強調するのはどうかと思うよ。さらにいえば、引用されている判決は、裁判所の建物と敷地内の内容中立規制は合理的理由もあるし ok だが、そのまわりの歩道は、他の場所の歩道と区別がつかない "public forum" だし、そこに問題の内容中立規制を拡大解釈して適用してビラ配りとかピケを張ったのとかを検挙したのは違憲だよ、という判決だったりするわけで。

2008/04/24

Permalink 00:58:58, 著者: Nobuo Sakiyama Email , 640 回閲覧   Japanese (JP)
カテゴリ: 監視社会, 児童ポルノ問題

FBI児童ポルノおとり捜査は(あまり)影響ないのでは

児童ポルノ単純所持がらみのFBIおとり捜査が日本在住者に与える影響の件だけれども、個人的にはこれはそれほど心配するほどのことではないと思っている。逆に、心配しなければいけないレベルの法改正が行われるとすれば、それは現在の単純所持処罰の検討でされている議論をはるかに越えた、広範な行為を処罰対象とする議論として、より大きな問題としなければならないと思う。

どういうことかというと、そもそも最近話題になった「おとり捜査」では、えのさんが書いているような「サムネイル画像」のもとになる画像がFBIから提供されたわけではない。児童ポルノは被害児童がいる犯罪である以上、麻薬と違っておとり捜査でも現物を用いることは許されない(直ちに検挙できなければ、さらなる画像の拡散を招くことが確実)。

事実関係をGIGAZINE記事(元ネタはCNETのDeclan McCullagh記事)でみれば分かるが、この件は、児童ポルノが存在しないサイトをFBIが用意し、そのサイトに児童ポルノがあるよという偽記事をリンク込みであちこちにばらまいて誘導した、偽リンクによるおとり捜査となっている。アメリカの連邦法で具体的にどのようなことになっているかというと

(b) (1) Whoever violates, or attempts or conspires to violate, paragraph (1), (2), (3), (4), or (6) of subsection (a) shall be fined under this title and imprisoned not less than 5 years and not more than 20 years, but,...

US CODE: Title 18,2252A. Certain activities relating to material constituting or containing child pornography

という具合に、明示的に未遂や共謀を含めた形で処罰対象としている。ここでは(州間通信における)受信の「未遂」(attempt)を容疑として強制捜査の端緒としたことになる(2259A(b)(2)が一定条件での単純所持(未遂など同様に含む)の罰則だが、これは問題のおとり捜査での家宅捜索令状請求の根拠とはならない)。

仮に当該おとり捜査のIPアドレスを警察庁が保持していたとして、そのアクセスでは児童ポルノの取得は行われていないのだから、それ自体が単純所持の原因とはなりえない。また、仮に児童買春・児童ポルノ禁止法の改正において単純所持処罰に加えて未遂罪をも入れたとして、それで処罰することは法の不遡及ゆえに許されない。万一、当該のおとり捜査のデータで強制捜査が行われたら、それ自体が違法だと思う。だから、現時点ではあまり心配しても意味がないのかなというところだ。ただし、おとり捜査のリンクをばらまいた場所が常習的な児童ポルノ交換用のフォーラムなどに限定されていたら、上記の理由付けは通らないかもしれない。正確なところは刑法や刑事訴訟法の専門家や弁護士に尋ねるべきかな。

あと、ひっかかったっぽい人が現状で何も心配しなくていいかというとそういうことはなくて、日本とアメリカの間では日米刑事共助条約が結ばれていてすでに批准されており、ここでは「双罰性」が緩和されている。アメリカで犯罪であれば日本で犯罪でなくてもアメリカからの要請で任意捜査まではできることになっている。捜査関係事項照会書での個人情報開示は警察にとっては任意捜査だから、ISPがそれで開示すれば、アメリカに出かけて入国したら逮捕、という展開が待っている可能性が、現状でもありえないわけではない。

2008/04/22

Permalink 01:52:45, 著者: Nobuo Sakiyama Email , 1540 回閲覧   Japanese (JP)
カテゴリ: 検閲

はてダのゲストコメント制限はiモード公式サイトだから

はてなの中の人に確認をとったわけじゃないが、「モバイル版はてなダイアリーのゲストコメント制限について」という発表とその3日後の「モバイル版はてなダイアリーでのゲストコメント制限を実装いたしました」という発表は、直接には、携帯フィルタリングというよりは、昨年の7月17日からiモードの公式サイトになっているからだと思うよ。

多くの他の国内市場向けのブログサービスは、同等の制限をしているかというとしていない。それらのサイトも、一般のサイトとしての携帯電話対応をしているものは多いし、未成年携帯フィルタリングの影響を受けていないはずがないけれども、今回のはてなの動きに沿う話がとくに出てきているともいえない。

その一方、iモード公式サイトとしての「ポケットはてな」は、NTTドコモのiMenuからたどった「メニューリスト」の中では「コミュニケーション/SNS」というカテゴリに分類されていて、そこで一覧されているサイトをみると、網羅的に確認したわけではないけれども、会員登録無しに書き込みやコメントが出来るサイトは存在していないように見える。NTTドコモのサイトのiモードメニュー掲載基準というページには、「iモードユーザーが安心して利用できるサービスであること」という項目の細目として

  • コンテンツがコミュニティの要素を含む場合は、以下の規定を充足していること

    • チャット・掲示板等、コンテンツのサービス利用者間でのコミュニティの形成を目的とするサービスについては、個人のプライバシーの保護に特に配慮し