中国の国家フィルタリングを他所の国のことと思えるのは今のうちだけかもしれない

2008/02/15

Permalink 05:25:24, 著者: Nobuo Sakiyama Email , 3107 回閲覧   Japanese (JP)
カテゴリ: 検閲, 児童ポルノ問題

中国の国家フィルタリングを他所の国のことと思えるのは今のうちだけかもしれない

日本の携帯フィルタリング騒動の一方で、世界的には各国家のレベルでユーザーの選択なくフィルタリングをかけるアプローチが強まっているようだ。

日本ではあまり注目されていないが、このほど終了した Mobile World Congress2008で、GSM Association が GSMA Launches Mobile Alliance Against Child Sexual Abuseというプレスリリースを発表し、一時間ほどの記者会見を行っている。日本での報道は、今のところ ITproのサイト に短いものが出ているぐらいだが、英語圏での扱いは大きい。EU各国と大手GSM事業者が中心になって、児童ポルノ対策の自主規制を今後実施していくという内容だ。リリースによると、"child pornography" と呼ばずに "child sexual abuse content" とするのは(ITpro記事にもあるように)被害児童の合意を基にするというニュアンスを排除するという political correctness から来ているという建前だが、もうちょっとよく読むと、"recorded images of children subjected to sexual abuse and exploitation" を差すとその前にあり、これはいわゆるバーチャル児童ポルノを排除する定義となっている。英語圏では結構広く大きく取り上げられている( はてなブックマークにいくつか拾ってある )。

取組の内容は、大手のGSM/3G携帯電話キャリア等の自主的取組として、自社サービス(画像共有サービス等と思われる)における Notice and Take Down のプロセスの実装、といった話もあがっているが、メインはフィルタリングだ。児童ポルノと確認されたコンテンツのブラックリストを共有し、フィルタリングしていくという話になっている。ブラックリスト作成には、参加する各国政府(EUが現時点では中心)が関与する。この話の背景には、世界的にみて携帯電話の匿名性が高い、ということがあるようだ。児童ポルノが単純所持やアクセスを含めて禁止されている国では、通常のPCでのネットアクセスであれば、トレースが容易で盗聴捜査まで含めれば容易にアクセスした人にたどりつける。その一方、携帯電話は、ネットワークから端末の物理的所在までたどるのが難しい。パラダイス鎖国日本では携帯電話は匿名での利用は合法的かつ実用的には極めて困難となっているが、ヨーロッパなどでは国境を越えてGSM/3Gのネットワークが構築されていて、さらに、プリペイドのSIMカードの購入に身分証明が必須となったのはかなり最近の話で、また、いまだに身分証明規制が導入されていない国が広い世界の中にはあり、ネット通販でそれを容易に購入できるようだ。それをローミングして使うことができる(具体的な通販サイトは示さないのでググりましょう)。そして、インターネット側では、児童ポルノの定義は国によっては異なり、あるいは規制が緩い国、法執行ができていない国がある。そういう状況で、携帯電話を児童ポルノへのアクセスに利用するのを網として抑止する、という方向でこのような自主規制になったようだ。

問題は、もちろん、これが国家による広範な検閲につながりかねない、ということで、 記者会見でもそのことが出ている が、この取組はあくまで児童ポルノ対策のためのものだと強調され、ITUのToure事務局長は、"We condemn countries when they do cut off their citizens from any information for ideological reasons" と述べている。ただ、Toure事務局長の返答は、記事等で見る限りでは微妙で、"ideologial reasons" というものの、各国の法執行機関は、どんな内容をブラックリストに加えようと、「違法だから」という話に落とし込む可能性が高いだろう。そして、そのブラックリストがどういうものか、というのは、ことの性質上、外部からのチェックが困難だ。これは「子ども向けフィルタリング」ではないし、アクセス自体を違法とするもののブラックリスト、ということにされているので、公開して透明性を求めるという話になじまない。

実際、このニュースに続いて、法執行機関が作るブラックリストの問題が表に出てきた。 フィンランドからの報道。フィンランドでは国家検察局が「海外児童ポルノサイトのリスト」を持っていて、これによってほとんどのISPでは当該サイトへのアクセスがブロックされているという。このブラックリストはDNSベースで、URL単位でなくホスト単位でのブロックが行われている。その内容をフィンランド在住のアクティビストMatti Nikkiが非公式に入手して 公開してきたページ があるのだが、今回、そのページがブラックリスト入りした、ということだ。「ホスト単位」というのがひとつのポイントで、このNikkiのページでは、各サイトのトップページにリンクを張ったり、ホスト名を書いているだけで、それで児童ポルノにアクセスできるケースはほとんどない、という。にも関わらず、Nikkiのページはブロックされ、検察局は(Nikkiのページのリストが事実かどうかや、そのページ自体がリスト入りしたかどうかはコメントしないままで一般論として)リストの公開は児童ポルノ拡散の幇助にあたると警告している、という状況。これに抗議する Electronic Frontier Finland (Effi)の声明文 が出ている。

児童ポルノ単純所持規制に向けた児童ポルノ禁止法改正の動きが出ている日本でも、これは将来ありうる話としては無視できない話だ。さらにいえば、フィンランドのケースそれ自体も日本は無縁ではない。なぜなら、Nikkiのページのリストに上がっているもののひとつは、IIJ4Uの個人ユーザー向けホームページサービスのホストのひとつだから、そのサイトにある、おそらくほとんどは合法なサイトは、フィンランドの多くのISPでは児童ポルノとしてブロックされているということになる。

追記: フィンランドの件は、フィンランド語だけだった内容が英語でも伝わるようになって、より興味深い事態となっている。本件はすでにYLE(フィンランドのマスメディア)でも報じられているほか、Wikinewsでも取り上げられ、NikkiのサイトについてのWikipediaの項目もできている。これらによれば、フィンランド共和国検察局は、Nikkiのサイトがブラックリストに載っていることを認めたという。さらに、リストの大部分のサーバーが米国やEU諸国にあり、実際に児童ポルノが存在するなら削除・閉鎖措置がとれらるはずであることや、Googleで"gay porn"を検索した結果の上位のサイトが軒並みブラックリスト入りしているということだ。さらに、Mika Pruikkonenのサイトの情報には、ブラックリストのサイトにアクセスしたときのリダイレクト先のページの情報として、そのリストがヨーロッパ各国の同様の取組の中で集められてきたものが含まれていることや、プロジェクトが "European Police Chief Task Force" によって始められたことなどが記されているという。なお、Matti Nikki自身の英語による解説もでてきている。こうして、フィンランドの問題は、Mobile Alliance Against Child Sexual Abuse の話との関連性がより濃く疑われる状況になってきた。

さらに追記: 次の記事に補足を書いた。

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