アーカイブ: 3月 2008, 16

2008/03/16

Permalink 17:59:37, 著者: Nobuo Sakiyama Email , 4175 回閲覧   Japanese (JP)
カテゴリ: 言論・表現の自由, 児童ポルノ問題

児童ポルノの定義拡大問題について(2)

前の記事からの続き。

アイルランドは小国だけれども、日本ユニセフ協会のキャンペーンサイトに登場するDr. Ethel Quayleがアイルランドということで。アイルランドの憲法40条第6項1-iでは表現の自由をうたってはいるけれども、マスメディアなどを通して「公共の秩序、モラルや国家の権威」が傷つけられることがないように国家が努力すべし、としていたり、冒涜的、煽動的、あるいはみだらな出版などは犯罪として処罰すべし、としていたりして、明示的に表現の自由を制限している。実際、アイルランドには、Irish Film Censor's Office(映画やビデオ対象)と The Censorship of Publications Board (出版物)という2つの独立検閲機関(レイティング機関を兼ねる)があり、広範な言論表現を規制してきた。過去には、同性愛表現や妊娠中絶に関する情報などについても幅広く規制してきたが、同性愛表現の禁止については撤廃されているようだ。妊娠中絶については緩和されているもののまだ規制があるようだ(妊娠中絶はアイルランド憲法で違法とされていて、この条項が渡航の自由や国外での妊娠中絶情報の流通を制限するものではないと憲法に修正条項が追加されたのが1990年代)。カトリックが過去特別な地位にあった国らしいといえばらしい。といったところで本題の児童ポルノだが、Child Trafficking and Pornography Act, 1998に規定され、児童ポルノの製造・頒布・所持が罪となっている。そして、児童ポルノの定義だが、年齢は17歳未満で、視覚表現と聴覚表現の両方が対象とされていて、実際の児童の場合だけではなく、児童として描かれているものは対象になっている。描かれる内容としては、児童の明示的な性的活動のほか、児童に性的活動を見せること、性的目的で児童の性器や肛門の表現を主題とするもの、といったあたりになる。ただし、前述の検閲機関を通ったものは児童ポルノには含まれない。

カナダは、憲法ではかなり単純に表現の自由をうたっている一方、刑法典で性犯罪についてかなり「モラル」に踏み込んだ規定をもともとしている(これは英米法の国では結構多いみたいだ)。その上で、刑法163条の1、で児童ポルノ罪を定めている。年齢は18歳未満、内容についてはアイルランドとだいたい同じだが、「性的活動を児童に見せる」表現は含まれていない(文章についても違いがある)。児童の実在性は問題とされていない。処罰の対象は製造・頒布・所持・アクセス。ただし、カナダでは児童ポルノ禁止の範囲について複数の刑事事件で憲法問題になっていて、その結果、条項が無効とはなっていないものの、一定の範囲で制限をかける解釈が判例で示されている。1つは、カナダで児童ポルノ罪が定められてまもない1993年に、トロントの画家のEli Langerが子どもの性行為を描いた作品を展示したものが罪に問われたもので、1995年に、 児童を現実的に害するものでもなく、芸術的価値がある、ということで、そういうものは憲法が保護するものだから、と無罪になっている。その後、別の事件に関して、2001年にR. v. Sharpeとして知られる最高裁判決があり、想像の産物の個人的利用目的の製造と所持と、合法的な性行為(例えば14歳以上18歳未満同士のもの)を、行為者自身が撮影し自身で所持している場合、の2つの場合は表現の自由とプライバシーの権利で保護されるので児童ポルノ罪に含まれないとされている(被告自身は、新しい解釈基準での差し戻し審で、数は減ったがそれでも児童ポルノ所持はあったということで有罪になっている)。前者の例外は、その前からの「芸術的価値」のテストが外れているというのがポイントになる。

オーストラリアは、憲法で明示的に表現の自由をうたっていない(もし主張するならコモン・ローに頼ることになるようだ)。オーストラリアでは、Classification Act という、レイティングのための法律があり、ここでRefused Classification となると、頒布や上映は禁止される。もうひとつ、オーストラリアは連邦国家として、権限が連邦と 州・特別地域で分離されているので、話が複雑になる。州などをまたぐ頒布や、インターネット経由のアクセスなどは連邦の権限だけれども、州内はもっぱら州政府などの管轄になる。連邦の刑法では、児童ポルノの定義は18歳未満で実在は問わず、性的ポーズをとったり性的行為をしている場合や性的行為などをしている人物と一緒にいる場合の表現、性器や肛門、女性については胸の表現、といったあたりになる。しかし、実はこれはもっぱら通信サービス(事実上インターネット)経由での頒布やアクセスを禁じるに留まる。Classification ActのRefused Classificationに何が分類されるかは、法律本体ではなくてガイドラインになるが、ここでの年齢基準も18歳になっている(しかし、以前は16歳だったようだ)。 リアルワールドでの児童ポルノの製造や所持、頒布の取り締まりは、もっぱら州レベルとなる。 ここで実は基準がさまざまで、クィーンズランド州刑法では、child explotation material としては、16歳未満の実在の児童を基準として、製造・頒布・所持を罪としている。非実在の場合は、わいせつ物頒布罪の中で、16歳未満、12歳未満を描いている場合にそれぞれ罪を加重しているに留まる。ニューサウスウェールズ州刑法の場合も、児童ポルノ罪は16歳未満の実在の場合。非実在の場合は CLASSIFICATION (PUBLICATIONS, FILMS AND COMPUTER GAMES) ENFORCEMENT ACT 1995で連邦のレイティングに基づく頒布・上映の規制や禁止でカバーされるようだ。と、規制のありかたは州によって違うのだが、これを他の州にもわたってみていくのはそろそろ面倒なのだけれども、どうやら、16歳未満という線が現行の規制のようだ(追記: 性交同意年齢が17歳の州があり、そこではおそらくそれが線引きの下限となる)。ただ、連邦レベルの動きをみていくと、これはいずれ18歳へと引き上げられるのではないかという気はする。

あとは、アメリカの話があるのだけれども、それはまた後でということで。

ということで続きはこちらへ

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