« ユニセフ協会に緊急にメールしてみる児童ポルノの定義拡大問題について(2) »

児童ポルノの定義拡大問題について(3)

2008/03/17

Permalink 01:31:09, by Nobuo Sakiyama Email , 59 words   Japanese (JP)
Categories: 言論・表現の自由, 児童ポルノ問題

児童ポルノの定義拡大問題について(3)

前の記事からの続き。ほんとはOCED各国ぐらいについて調査したほうがいいんだろうけど、そろそろしんどいのであとはアメリカの件で各国動向はいったん締め。というか法学系の人がやったほうがいいと思うし。

アメリカの場合、わいせつ物規制とアメリカ合衆国憲法修正第一条の関係は、1973年の連邦最高裁判決で提示された、Miller test というのを基準として判断することになっている。現実の児童を使った児童ポルノ禁止の合憲性はNew York v. Ferberという1982年の最高裁判例で示されている。児童は18歳未満。その後、Child Pornography Prevention Act of 1996(CPPA)という法律が作られて、これで連邦法典における児童ポルノ罪が「バーチャル児童ポルノ」に拡大された。具体的には、児童に「見えるもの」と、児童のような印象を与える形で宣伝などがされたり頒布されているものが対象となった。この法律は、直ちに違憲訴訟の対象となって、2002年にAshcroft v. Free Speech Coalitionとして知られる連邦最高裁判決で、前記の「バーチャル児童ポルノ」に関する部分は違憲無効となった。これを受けて、Prosecutorial Remedies and Other Tools to end the Exploitation of Children Today Act of 2003(略称 PROTECT Act of 2003)という、かなり大きい法律の中に、関係する部分を再改正する条項が盛り込まれた。

現在の連邦法典から定義の部分をみると、「児童に見えるもの」ではなく、「児童と区別がつかないもの」になっていて、絵画や漫画などは該当しないことが明記されている。また、内容としては性器・胸・陰部があらわになった性交等のほか、獣姦、自慰、サドマゾヒズム、性器や陰部の露出、といったものが挙げられている。その上で、何が罪になるかをみると、児童ポルノの頒布や受け取り・所持などが対象になる。この場合、含まれている「児童と区別がつかない人物」が現実の18歳以上の人物か、架空のものであることを訴訟の一定の段階までに証明すれば、訴追対象とはならない。この条文に含まれるもので、他にPROTECT Actで追加されたものをみると、児童に対し、違法な活動への参加を誘う目的で、児童と知って児童ポルノを提供することが罪とされていて、この条文に限っては「児童に見えるもの」が対象になっている。当該児童を性的搾取に誘い込むための材料としてのポルノの利用、ということで定義を拡大しているのだろう。もうひとつ、「わいせつ児童ポルノ」(現実児童に限定されない)か、「現実児童の児童ポルノ」を含むものと相手に信じさせるような宣伝などの行為も、罪とされている。これは憲法訴訟になっているので後述。

PROTECT Actでもうひとつ対象にしているのが、前述の「わいせつ児童ポルノ」で、これはわいせつ物規制の章に新設された条文になっている。前のCPPA違憲判決がMiller testを理由としていたので、それならMiller testによっても修正第1条で保護されない領域については禁止しよう、という方向で作られた。児童の性的に明白な行為の描写でわいせつなものであれば、製造・頒布・所持を、現実の児童ポルノと同様の罪とするもの。さらに、「わいせつ」の解釈の州間でのブレがあるためか、「児童や児童に見えるものが獣姦、サドマゾ行為、性交などをしている画像の描写で、まじめな文学的、芸術的、政治的、あるいは科学的価値を欠くもの」もこれに含めている。

[追記: わかりにくい!という指摘があったので追記すると、上記の「わいせつ児童ポルノ」は現実児童に限定されず、マンガなどを含む定義になっている]

現実の児童の性的搾取に関する内容は児童ポルノ罪とは別の条文で規定されている(こちらが元からある条項)。現実の児童ポルノの製造そのものは児童の性的搾取罪に含まれる。なお、これらの児童ポルノ罪全般について、リンク先の各条文を読めば分かるのだが、実はもいろいろ限定がついて、州間や外国とのやりとり、メールや通信などがからむ必要があり、純粋に州内のface to faceの中で完結しているものは含まれていないのだが、それは連邦法典と州法典の管轄の問題から来ると思われ、実際には各州の法典も見ないと全体像はつかめないのだが、それはとりあえず省略。

とりあえず現行法の説明は以上だが、このPROTECT Actが現在違憲訴訟になっている問題についても簡単に。問題は上述の「宣伝」の罪で、これが現実の児童ポルノの存在を必要としていないので、修正第1条違反に問われる状況になっている。United States. v. Williams という訴訟として知られていて、連邦第11巡回区控訴裁判所で違憲判断が出て、連邦最高裁で審理中になっている。最高裁での原告・被告双方、および法廷助言人による意見書もAmerican Bar Associationのサイトで公開されている。

このほか、アメリカでは州憲法レベルでの違憲訴訟もあった。フロリダ州の16歳の女性と17歳の男性が合意の性行為をして、それを二人でデジカメで撮り、女性のコンピュータから男性のメールアドレスへ電子メールで送付した、という件について、女性が児童ポルノ製造・提供罪、男性が児童ポルノ単純所持罪にそれぞれ問われ、それぞれ有罪となったもの(双方とも保護観察程度で済んだらしいが)。ここでの児童ポルノ罪はフロリダ州のものであって連邦犯罪ではない。女性の弁護側が州憲法のプライバシー権侵害で違憲無効だと控訴していたが、州第1区控訴審の判決では、複製容易なデジカメでの撮影や、コンピュータへの格納、電子メールでの送付といった一連の行為それぞれがプライバシー権の期待を放棄するものとみなして、合憲とされた。Declan McCullagh によるCNET記事が状況をもう少しわかりやすく説明している。

国外事例の説明はこんなところだろうか。最後のフロリダ州の事例は、児童ポルノ禁止をどこまで厳しくするべきか、というのを考えさせられる事例だと思う。