日本ユニセフ協会の言い分に突っ込んでみよう

2008/03/19

Permalink 04:07:11, 著者: Nobuo Sakiyama Email , 3398 回閲覧   Japanese (JP)
カテゴリ: 検閲, 言論・表現の自由, 児童ポルノ問題

日本ユニセフ協会の言い分に突っ込んでみよう

日本ユニセフ協会の2008年3月17日の言い分の事実関係のひとつにしつこく論理的に突っ込んでみよう。

少なくともスウェーデン、カナダ、米国(連邦法)が、法律でこうした「子どもポルノ」を禁じています。…また、カナダでは2005年、米国でも2006年に、日本製の子どもポルノマンガ・アニメの所持に対する有罪判決が出ています。

子どもたちの権利を守るために、皆様のご理解とご協力をお願いします 【2008年3月17日 東京発】(財)日本ユニセフ協会

前に書いた内容でスウェーデンについてふれなかったが、ざっくり簡単にいうと、スウェーデンは不文憲法の国で、基本法は4つあって、うち2つが言論・表現の自由に関するもの(紙メディア対象の出版自由法と、それ以外のものに適用される言論自由法とに分かれている)。とても長い文章で表現の自由をうたっているから「素晴らしい」と思いきや、この領域ではどちらかといえば「ニュースピーク」だといっていい状況。長い基本法で改正が比較的容易という状況で、いろいろと表現の自由に制約をはめやすくなっている。表現の自由の制約を基本法に全て列挙してあるとも言えるのだが、その分、幅広い。スウェーデンでは公的な映画の事前検閲制度があり、これも言論自由法に基づく。これらの規制に違反した場合の訴追手続きは、結構慎重な手続きが両基本法に定められているのだが、架空のものを含めた児童ポルノについては、そもそも両基本法の適用外にする条項が両基本法の基礎的な部分に書かれている(出版自由法の場合言論自由法の場合)。さすがに政体法という最も基本となる基本法の基本的人権の他の条項の適用までは吹っ飛ばされないが。児童ポルノの基本法適用除外が実施されたのが1998年。罰則規定は正確なところはよくわからないが、前述の映画検閲機関のサイトに載っている関連条文には、頒布と頒布目的製造しか載っておらず、単純所持はない。別の条文かもしれないが。

こうしたスウェーデンの状況全体をひっぱってきてみれば分かるが、そもそもが表現に関する規制そのものの枠組が全く異なる国の話をもってきて、手本にしろと言われたところで、それは困るのだ。

カナダの件は、前に書いた芸術的価値(判決文によればartistic merit)による適用除外に触れないのは問題だ。

アメリカの件は、立法レベルと適用レベルでそれぞれに問題がある。日本ユニセフ協会は「子どもポルノ」と述べているが、実際にマンガやアニメに適用されうるのは「わいせつ児童ポルノ」(米国連邦法典第18編第1466A条: Obscene visual representations of the sexual abuse of children)であって、その射程は「子どもポルノ」よりも狭い。そして、その定義のうち、「わいせつ」という言葉を使っていない1466A(a)(2), 1466A(b)(2)の定義は、「わいせつ」でない、実在しない子どもの描写に適用された場合の違憲の疑いが出ている(米国議会調査局レポートRL31744、同95-406 A、同95-804 A。また、"The Aftermath of Free Speech: A New Definition for Child Pornography", Brian Slocum and Wendy Waldron, The United States Attorneys' Bulletin volume 52 Number 2, 2004にも指摘がある)。また、適用レベルでは、「2006年の有罪判決」の被告Dwight Whorley は、そもそも過去の性犯罪歴(実在児童ポルノ所持)で有罪になった後の仮釈放中に条件にいろいろ違反して子どもの集まる場所をうろついたあげくに図書館で問題の画像にアクセスしてプリントアウトして捕まったというかなり特異な事例で、捜索では問題の「日本製の子どもポルノマンガ・アニメ」以外に実在児童ポルノ画像の多数所持も発覚している。そして、「日本のマンガ子どもポルノ」については、1466A(b)(1)の「わいせつ」該当だと判定されているという事例である。1466A(b)(1)だけであれば、実はわいせつ物単純所持の処罰は違憲判例があるので争う余地がありそうな気がするのだけれども、本件は実在児童ポルノの所持もあったのでそうはなっていない事例と思われ、そもそも「日本製の子どもポルノマンガ・アニメ所持」が有罪になったとして宣伝するのが適切なのかどうか疑問がある(もちろん、摘発側は宣伝に使えることを狙ったはずだけど)。

実のところ、単純所持の問題を置いておくとすれば、アメリカの事例のような「わいせつ」なものであれば、日本での頒布や公然陳列は刑法175条が適用できるから、そもそも法改正は要らない。

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コメント: マッケンゼン [訪問者] Email · http://www.geocities.jp/mackensen_class/
はじめまして。
マッケンゼンという者です。

この2008/03/19付の記事を、私のサイトでも引用、紹介させていただきたいのですが、よろしいでしょうか。

あと、文中で、Dwight Whorleyなる人物が逮捕された経緯
(仮釈放中に条件にいろいろ違反して図書館で問題の画像にアクセスしてプリントアウトして捕まったというかなり特異な事例)
が挙げられていますが、情報元を教えていただけるとうれしいです。

管理人様のメールアドレスに同文のメールをお送りしましたが、どうも私のメールアドレスはスパム発信源扱いになってるみたいで、弾かれて届かないかもしれませんので、こちらにも書かせていただきます。
お返事はコメントでもメールでも結構ですので。それでは。
Permalink永続的リンク 2008/04/05 @ 09:52
コメント: Nobuo Sakiyama [メンバー] Email · http://www.sakichan.org/

Dwight Whorleyの件ですが、本文でリンクをはってあるWikipediaのエントリの議論ページに、連邦司法省の The United States Attorneys' Bulletin という定期刊行物へのリンクがあり、そこに検事が執筆した "Prosecuting Obscene Representations of the Sexual Abuse of Children", Sara E. Flannery and Damon A. King という文章が載っています。URLは
http://www.usdoj.gov/usao/eousa/foia_reading_room/usab5407.pdf になります。そこの49ページから52ページに掲載されています。


引用はご自由に。

Permalink永続的リンク 2008/04/05 @ 10:59
コメント: マッケンゼン [訪問者] Email
>管理人様
ご親切にありがとうございました
Permalink永続的リンク 2008/04/06 @ 20:24

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