アーカイブ: 3月 2008, 20

2008/03/20

Permalink 22:36:20, 著者: Nobuo Sakiyama Email , 1931 回閲覧   Japanese (JP)
カテゴリ: 監視社会, 児童ポルノ問題

日本ユニセフ協会の要望は子どもの権利を考えているのか?

このところこのブログで話題にし続けている日本ユニセフ協会の「なくそう!子どもポルノ」キャンペーンだが、その要望が「子どもを守る」ことについて、ベストな方向性を目指しているのか、やや疑問に思うところがあるので、具体的に述べてみたい。要望書では

(4)検察・裁判所はじめ全ての法曹・司法関係者に対し、子どもポルノが子どもの人権ならびに福祉に対する重大な侵害行為であるとの基本認識の下、児童買春・児童ポルノ等禁止法事犯に対し厳格に同法を適用し、刑を科すよう求めます。

子どもポルノ問題に関する緊急要望書

と述べている。これは一見、ごく当たり前のことを述べているように見える。しかし、実は重大な問題がここにはある。

商業的児童ポルノ販売業者や、児童買春のさいに写真を撮っている人達、子どもを脅したり騙したりして児童ポルノを作成している、あるいは作らせている人達をターゲットとして、こういうことを要求するというのは、それは問題ない。しかし、「児童ポルノ等禁止法事犯に対し厳格に同法を適用」すると、それでは終わらない。

「携帯裏サイト」についてずいぶんと話題となり、そういう場所での18歳未満の児童のあけすけなコミュニケーションにも光が当てられ、それが携帯フィルタリングパニックとなったわけだけれども、そうした中で、携帯電話付属のデジカメで、自身のヌードを自発的に撮影し、掲示板に投稿してしまったり、あるいはメールで交換したり、という児童が、数の問題はともかくとしてそれなりにいることは知れ渡っている。児童ポルノ犯罪の裁判に広くかかわってきたことで知られる奥村徹弁護士のブログでも、「強要する場合もあれば、売買の場合もあれば、自己紹介程度で送ってくることもあるので」といった状況が語られている。「児童買春・児童ポルノ等禁止法事犯に対し厳格に同法を適用し、刑を科す」ということは、そうした児童を児童ポルノ製造罪の正犯としてきっちり刑を科すよう求める、ということにつながる。それは、「子どものため」になるのだろうか?

極めて興味深い話がある。今回の動きには、EUでの動きも関係していることは、規制推進サイドも自ら語るところであったと思う。そのヨーロッパでの動きだ。

ドイツは、前に書いたように、実在か否かという面では厳格な法律になっているが、その一方で、年齢の線引きは「14歳未満」だ。要は、小児性愛は取り締まるが、思春期の子どもの性的関心や行動をむやみに妨げるものではない、という状況になっている。といって、14歳以上がいきなり大人の世界に放り出されているわけではなく、性的自己決定について、14歳から16歳未満、16歳以上で扱いが異なる(一部、18歳が線引きのものもあるようだ)。ちなみに、ドイツで創刊50年以上になる代表的なティーンエイジャー向け雑誌BRAVO(発行部数40万部以上)では、長らく Dr. Sommer(バーチャル人格で、中では複数の専門家が書き継いできた)による性教育コーナーがあり、多くの読者の質問に答えるとともに、14歳以上(大半は16歳以上)20歳ぐらいまでの男女のヌードと彼らへの性生活についてのインタビューを一緒に掲載する、ということが続いている。雑誌全体は、10代向けの音楽やアイドルについての記事が多く、いわゆる「エロ雑誌」ではない。Spiegel国際版の2006年記事(英語)を読むと、雰囲気がわかるのではないかと思う。記事には、BRAVOのDr. Sommerコーナーの写真もついている(Spiegelの国外読者向けに、胸や陰部は大きく塗りつぶしてある)。ドイツ国内では、BRAVOのあり方を非難する声はあまり大きくなく、なによりも多くの成人がそういうBRAVOを読んで育った、という状況のようだ。

そういうドイツの議会で、EUのガイドライン並に規制を強化する法案が、昨年提出された。EUのガイドラインは、「子どもを守る」ためのものだから、児童ポルノの問題だけではなくて、性交同意年齢の引き上げなども含む内容になっていた。これが、10代同士の普通の性関係を大きく阻害するものだ、という強い批判を専門家から浴び、12月に法案が一度撤回された(Spiegel国際版記事Deutsche Welle記事。ともに英語)。アメリカのピッツバーグの15歳の少女が自分のヌード写真を撮ってチャット上での知り合いに送ったら逮捕された、という事例が、「こうなるのはいかがなものか」という文脈で専門家から紹介されたという。結果、法案は見直されるようだ。

ここで言いたいのは、日本もドイツと同じ形に、ということではない。EU加盟国のドイツですら、(アメリカのピューリタン的な)「モラルの植民地化」に素直に従うことはないよ、というのが、強い声として上がっているということだ。日本は日本の状況を調べ、日本の子どもや、経済的な面も含めた社会全体の利益、そしてもちろん個人の基本的人権といったことについて、よく検討した上で、実際に規制をどのような範囲とするべきか、というのを決めていくべきだ、ということだ。

Permalink 03:30:00, 著者: Nobuo Sakiyama Email , 3583 回閲覧   Japanese (JP)
カテゴリ: 監視社会, 児童ポルノ問題

単純所持問題はいったいどう考えたらいいだろね?

日本ユニセフ協会が言い出した「準児童ポルノ」問題に、細かく突っ込むのは前回ぐらいで終わりにしておく。いい具合にアクセスとブクマを集めて、彼らが言うほどに「多くの先進国」の足並みが揃っているわけでもなく、個々の憲法や法的伝統という前提条件も異なり、「よその国もそうならうちも」という問題ではない、というネタの入り口を作れたかなというところで。厳密な話をしようとすれば、それぞれの国の法制度と判例をそれなりの専門性を持った人間が分析・比較しなければならない。私がやけに詳しそうにみえたら、それは Google を使った上げ底に過ぎないので念のため。とある専門家からツッコミが入り始めているので以上断っておく。Googleをどう使えばいいかは、梅田望夫さんとか佐々木俊向さんとか勝間和代さんとかがいくらでも本やネット上で書いていると思うのでそういうのを見るといいと思う。

と、それでもあちこちの国の児童ポルノ禁止法制を読み比べつつ、悩んでしまったのは、(実在児童を前提とした)単純所持処罰の問題。この部分について、懸念が上がっているのは承知であり、私自身も単純に考えるところでは、単純所持処罰は、強制捜索と通信の秘密の制限を止めどなく拡大していくという点において反対ではある。すでに単純所持規制のある国では、児童ポルノが重大な犯罪だということから、通信傍受の対象となっている場合もあり、あるいは予備・共謀罪の対象の場合もある。しかし、まず、抽象的な懸念だけで、この動きを食い止められるのか、というのがひとつ。もうひとつ、具体的ケースに落として懸念を述べている人たちも多いのだが、それが防波堤になるかというと、結構微妙だと思わざるをえないという問題がある。「単純所持処罰」は、いわば劇薬なので、例外規定を設けている国も多い。よく見たのは、普通の人には全く関係ないが、一律禁止にしたら警察も困ったらしい、ということで、捜査・司法関係者など(検挙以降裁判終了に至るまでの弁護人も含むようだ)の正当事由による所持やアクセスを許可する改正を後からやった場合があるようだ。また、被害児童のカウンセラーが被害を把握するために、というのもあったと思う。これ以外でも、「個数が一定以下で適切な方法で削除して通報すればいい」とか、「意図してやった場合に限る」とか、いろいろ限定のつけようはあるようだ。また、自分(子ども)自身や、(片方あるいは両方が年齢上該当で)合法的な合意のカップルや夫婦の私的な範囲での所持を許す場合もある。「単純所持を処罰する改正を行う」という動きが揺るがないとなれば、各国法制を参考にいろいろな例外規定を求めるのに意味はあるが、一方で、各国でそのような例外規定を定めてやりくりしているということは、その手のケースにかかるような事例をもとに単純所持処罰に反対する、というのが、どれだけ意味や効果があるか、というのは、疑問を持たざるをえない。また、厳密に憲法上の問題に落とし込んで、というのも専門家がやる価値があるとは思うけれども、通用するかどうかは微妙なものがあると思う。

そんなわけで、あんまり明るい見通しがないのだが、個人的に「イマココ」の問題として、単純所持処罰がどう困る問題になるか、というと、やっぱり単純所持処罰があるとネットに安心してアクセスできなくなるのが困る。あえて非常にぶっちゃけた話をするのだが、英語圏はイギリスのInternet Watch Foundationあたりがものすごい勢いで通報処理をこなしたからか、とりあえず、GoogleとかマイクロソフトLiveとかの検索で、そう簡単に児童ポルノ画像に行き当たることはない。でも、日本語圏は、まだまだ通報機関がそんなに仕事をこなしておらず、警察もかなり強制捜査対象を厳選しているらしく、あまりに容易に検索経由でアクセスできてしまう。Googleやマイクロソフトのサーバーから児童ポルノのサムネイル画像が多数ブラウザーに読み込まれる、という状況がある。過去数十件の通報をしたけれども、処理に数ヶ月かかり、アメリカへの国際通報ですら明らかに放置されていて処理されないケースもあり、そうこうしているうちに、商業的児童ポルノ業者が、法制度がもっと不十分な国へとサーバーを移しつつある。ユニセフ協賛のヤフーサイトで「警察庁は「児童ポルノ画像自動検索システム」を各都道府県警で稼動させている。…02年の運用開始以降、立件されたのは1件しかない。」とか言っているが、警察庁や各地方警察の限られた予算でクローラーをやってどうするんだ。そんなものは、GoogleとかマイクロソフトLiveとか百度とかの画像検索にマッシュアップで乗っかれば、桁違いの数をこなせるはずだと本気で思うのだ。現状の延長で下手にアクセスを含めて単純所持処罰ということになると、道路がウンコだらけでうっかり踏んづけたら逮捕っていう、そういう状況になりそうで困る。せめてもうちょっとまじめに片付けてからにしてほしいね。

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