このところこのブログで話題にし続けている日本ユニセフ協会の「なくそう!子どもポルノ」キャンペーンだが、その要望が「子どもを守る」ことについて、ベストな方向性を目指しているのか、やや疑問に思うところがあるので、具体的に述べてみたい。要望書では
(4)検察・裁判所はじめ全ての法曹・司法関係者に対し、子どもポルノが子どもの人権ならびに福祉に対する重大な侵害行為であるとの基本認識の下、児童買春・児童ポルノ等禁止法事犯に対し厳格に同法を適用し、刑を科すよう求めます。
子どもポルノ問題に関する緊急要望書
と述べている。これは一見、ごく当たり前のことを述べているように見える。しかし、実は重大な問題がここにはある。
商業的児童ポルノ販売業者や、児童買春のさいに写真を撮っている人達、子どもを脅したり騙したりして児童ポルノを作成している、あるいは作らせている人達をターゲットとして、こういうことを要求するというのは、それは問題ない。しかし、「児童ポルノ等禁止法事犯に対し厳格に同法を適用」すると、それでは終わらない。
「携帯裏サイト」についてずいぶんと話題となり、そういう場所での18歳未満の児童のあけすけなコミュニケーションにも光が当てられ、それが携帯フィルタリングパニックとなったわけだけれども、そうした中で、携帯電話付属のデジカメで、自身のヌードを自発的に撮影し、掲示板に投稿してしまったり、あるいはメールで交換したり、という児童が、数の問題はともかくとしてそれなりにいることは知れ渡っている。児童ポルノ犯罪の裁判に広くかかわってきたことで知られる奥村徹弁護士のブログでも、「強要する場合もあれば、売買の場合もあれば、自己紹介程度で送ってくることもあるので」といった状況が語られている。「児童買春・児童ポルノ等禁止法事犯に対し厳格に同法を適用し、刑を科す」ということは、そうした児童を児童ポルノ製造罪の正犯としてきっちり刑を科すよう求める、ということにつながる。それは、「子どものため」になるのだろうか?
極めて興味深い話がある。今回の動きには、EUでの動きも関係していることは、規制推進サイドも自ら語るところであったと思う。そのヨーロッパでの動きだ。
ドイツは、前に書いたように、実在か否かという面では厳格な法律になっているが、その一方で、年齢の線引きは「14歳未満」だ。要は、小児性愛は取り締まるが、思春期の子どもの性的関心や行動をむやみに妨げるものではない、という状況になっている。といって、14歳以上がいきなり大人の世界に放り出されているわけではなく、性的自己決定について、14歳から16歳未満、16歳以上で扱いが異なる(一部、18歳が線引きのものもあるようだ)。ちなみに、ドイツで創刊50年以上になる代表的なティーンエイジャー向け雑誌BRAVO(発行部数40万部以上)では、長らく Dr. Sommer(バーチャル人格で、中では複数の専門家が書き継いできた)による性教育コーナーがあり、多くの読者の質問に答えるとともに、14歳以上(大半は16歳以上)20歳ぐらいまでの男女のヌードと彼らへの性生活についてのインタビューを一緒に掲載する、ということが続いている。雑誌全体は、10代向けの音楽やアイドルについての記事が多く、いわゆる「エロ雑誌」ではない。Spiegel国際版の2006年記事(英語)を読むと、雰囲気がわかるのではないかと思う。記事には、BRAVOのDr. Sommerコーナーの写真もついている(Spiegelの国外読者向けに、胸や陰部は大きく塗りつぶしてある)。ドイツ国内では、BRAVOのあり方を非難する声はあまり大きくなく、なによりも多くの成人がそういうBRAVOを読んで育った、という状況のようだ。
そういうドイツの議会で、EUのガイドライン並に規制を強化する法案が、昨年提出された。EUのガイドラインは、「子どもを守る」ためのものだから、児童ポルノの問題だけではなくて、性交同意年齢の引き上げなども含む内容になっていた。これが、10代同士の普通の性関係を大きく阻害するものだ、という強い批判を専門家から浴び、12月に法案が一度撤回された(Spiegel国際版記事、Deutsche Welle記事。ともに英語)。アメリカのピッツバーグの15歳の少女が自分のヌード写真を撮ってチャット上での知り合いに送ったら逮捕された、という事例が、「こうなるのはいかがなものか」という文脈で専門家から紹介されたという。結果、法案は見直されるようだ。
ここで言いたいのは、日本もドイツと同じ形に、ということではない。EU加盟国のドイツですら、(アメリカのピューリタン的な)「モラルの植民地化」に素直に従うことはないよ、というのが、強い声として上がっているということだ。日本は日本の状況を調べ、日本の子どもや、経済的な面も含めた社会全体の利益、そしてもちろん個人の基本的人権といったことについて、よく検討した上で、実際に規制をどのような範囲とするべきか、というのを決めていくべきだ、ということだ。
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