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ECPATはいかにしてユニセフをたらし込んだか

2008/03/21

Permalink 21:22:00, by Nobuo Sakiyama Email , 695 words   Japanese (JP)
Categories: 言論・表現の自由, 児童ポルノ問題

ECPATはいかにしてユニセフをたらし込んだか

今回の児童ポルノ禁止法改正への動きの中で、なんとも不思議なのは、日本ユニセフ協会自身の発表などの中で、じゃぁいったいどうやって単純所持処罰や「子どもポルノマンガ・アニメ」の禁止がEUと言わずより国際的な枠組の中で基礎づけられうるか、ということが、ぼんやりとしか述べられていないことだ。

ということで調べてみた。まず、直近には、昨年12月に国連総会で "Rights of the child" という決議が採択されている。決議本文総会議事録がPDFで取得できる(親ページからリンクをたどらないとアクセス拒否されるかもしれない)。このによれば、投票が行われて、賛成183、反対1(U.S.)、棄権0(他欠席がある模様)となっている。審議が行われたのは総会の第三委員会というところで、そこでの総会に上げるための議決では、賛成176、反対1(U.S.)、棄権0(欠席あり)となっている。委員会のプレスリリースによれば、アメリカの反対は、趣旨ごもっともだが親子の権利バランスなどについて国内法と整合性がとれない、要らんことを書きすぎてるのでそういうことになったよ、というものであった。日本は賛成しているが、起訴便宜主義について、決議が法執行を強めることを求めていることに矛盾するものではないよ、という断りのコメントを残している。具体的には、決議で

Elimination of violence against children

57. Urges all States:

(a) To take effective and appropriate legislative and other measures or, where they exist, strengthen legislation to prohibit and eliminate all forms of violence against children;

Rights of Children: United Nations General Assembly ARES/62/141/

と言っているが、これは全部を例外なく起訴しろという意味じゃないよ、と確認している (諸外国の法制度では、特定の犯罪で起訴しないことを認めなかったり、 法定の下限を下回る量刑を下すあらゆる情状酌量を裁判官が行うことを認めなかったりする条文が存在する場合があり、児童ポルノはじめ児童がらみの性犯罪が対象とされる場合があるが、それは日本ではやってないが決議には反しない、ということ)。前に言及した、日本ユニセフ協会要望書の(4)での処罰強化要求は、日本の司法における、こうしたスタンスへの圧力だと考えられる。

決議全体は、児童の権利や、児童に対する暴力全般についてのものでかなり広い内容だが、児童ポルノについては 以下のように、児童ポルノだけではなく、児童買春やその他もろもろについて、そういったことを目的としたインターネットやその他の情報通信技術の利用についても犯罪化を求めているし、「顧客」を罰するように求めている。 国際的な情報通信企業の責任について言及する項目もある。

Prevention and eradication of the sale of children, child prostitution and child pornography

38. Calls upon all States:

(a) To criminalize and penalize effectively all forms of sexual exploitation and sexual abuse of children, including all acts of paedophilia, including within the family or for commercial purposes, child pornography and child prostitution, child sex tourism, trafficking in children, the sale of children and the use of the Internet and other information and communications technologies for these purposes, and to take effective measures against the criminalization of children who are victims of exploitation;

(f) To combat the existence of a market that encourages such criminal practices against children, including through the adoption, effective application and enforcement of preventive, rehabilitative and punitive measures targeting customers or individuals who sexually exploit or sexually abuse children, as well as by ensuring public awareness;

(g) To give priority to the identification of norms and standards on the responsibilities of transnational corporations and other business enterprises, particularly those involved in information and communications technologies, related to respect for the rights of children, including the right to be protected from sexual abuse and exploitation, particularly in the virtual realm, as prohibited by the relevant legal instruments, and to outline basic measures to be taken for implementation;

Rights of Children: United Nations General Assembly ARES/62/141/

一方、「子どもポルノマンガ・アニメ」だが、この水準の決議文では、そもそも"child pornography"が具体的に何か、という中身について明示的に言及されることはない。「児童の売買、児童買春及び児童ポルノに関する児童の権利に関する条約の選択議定書」を参照しているが、そこではあくまで「現実」か「擬似」であって、マンガ・アニメは(普通に読めば)含まれない。上記(g)では、"virtual realm"での児童の保護もうたっているが、普通に読めばこれはネット上の仮想空間で活動する現実の児童を性的に誘い出したりすることの問題(child groomingとよく呼ばれる)であって、マンガやアニメを問題にしているとは読めない。もっとも、上記引用の84(f)での「市場の存在と闘う」ために、という単純所持処罰につながりうる条項を拡大解釈して、「マンガ・アニメ」も児童ポルノ市場の存在の撲滅のためには叩かなければならない、というふうに、読みたい人は読むのだろう。

この決議が今回、日本ユニセフ協会から紹介されないのは、まぁ、アメリカが反対した決議であり、キャンペーンがアメリカと組んでいるという事情かな、ととりあえず推測しておく。ちなみに、同様の決議は、2006年度の国連総会でもA/RES/61/146として可決されていて(こういうのは年を追って膨れ上がっていくのが相場で、例えば上記に引用した(g)の項目に該当するものは入っていない)、やはりアメリカだけが反対していることが2006年度の決議一覧をみていくと確認できる。もっとも、細かい内容はともかく、決議は毎年やっているようで、とりたてて言うほどのことでもない、という可能性もある。

さて、実はここまでは本題ではない。こうした決議が積み重ねられていくにあたって、国連は気まぐれでやっているわけではない。こういった決議は各種の調査研究事業と結びついていて、決議の中でも具体的に言及される。今問題にしている領域では、昨年の決議では、Promotion and protection of the rights of children (A/62/209)という事務総長覚書に言及している。これは、2005年まで行われていて2006年に国連総会で報告された、The United Nations Secretary General’s Study on Violence against Childrenという調査報告のフォローアップがその内容で、2006年の決議では、調査報告それ自体に言及している。

この調査事業は、Paulo Sérgio Pinheiroという人物を独立専門家としてトップに据えて行われたもので、UNICEF本体もサポート団体のひとつとなっている。こういう事業には、多くのNGOが積極的に参加して報告や提案を上げていくものなのだが、ECPATはこの調査事業における、主要なNGOの一つだ。こうした活動を通して、ECPAT/ストップ子ども買春の会が、マンガ・アニメ叩きの方向性で、日本ユニセフ協会が組織として乗っかれるだけの筋を通す働きかけをしたのではないか、と私は踏んでいる(日本ユニセフ協会自体をアレとする向きもあるけれども、一応ユニセフの看板を背負った公益団体としては、組織論理としての筋の通らないことはできないはずだし、広告塔であるアグネス・チャンの個人的意向でこうなっているわけでもないと判断するべきだろう)。

まず、調査報告について、調査報告書本体から見ていくと、そこでの中心は途上国の深刻な児童へのさまざまな暴力が話題の中心であり、日本とかマンガ・アニメとかは、そもそも存在の余地もない。また、より詳細な報告となるWorld Report on Violence against Childrenでも、マンガへの言及はない。しかし、話はこれでは終わらない。

この調査事業にあたっては、各国政府に質問表を送ったり、世界各地でさまざまな会議を開いたり、Public Submissionといってペーパーを受け付けたり、といったさまざまな形でのインプットが行われた(これ自体は、この種の調査報告としては普通)。そのひとつ、東アジア・太平洋地域会議がここでの話題に関係する。調査事業本体としての会合は、2005年6月14日から16日にかけてタイのバンコクで行われている。子どもとユースのフォーラムが11日と12日。そして、これらに挟まれる形で、Violence against Children in Cyberspaceという、ECPAT International主催のテーマ会合が持たれている。バンコクは、ECPATの本拠地ということで、全体としてECPATの仕切りで会合が行われたわけだ。

地域会合の結果報告の45ページをみると、次のような内容がある。Violence against Children in the Cyberspace and Online Environment というセッションの報告になるが、Dr. Ethel Quale のプレゼンとして、

Dr. Quayle’s presentation focused on sexual violence against children in and via virtual settings, with particular reference to depictions of child sexual abuse (child pornography). She noted that the criminal justice system’s general response has been to focus on the offender rather than the victim. Meanwhile, agreement is lacking within and between communities on definitions, laws and perceptions of what is appropriate, such as when children are sexualised within mainstream media or where abuse images remain legal, as in the case of some manga products in Japan.

Report on The East Asia and Pacific Regional Consultation on Violence Against Children

と、日本のマンガに焦点をあてている。さらに続くセッションの議論をまとめた文章では

The group noted that child pornography includes the recorded abuse of a real child, for example, through photographs, as well as digitally altered images and illustrations such as Japanese manga.

Report on The East Asia and Pacific Regional Consultation on Violence Against Children

と、この認識を共有しあう形となっている。これを問題とする論調は、サマリーレポートの18ページにもある。このセッション自体は、ECPAT/ストップ子ども買春の会のメンバーはそもそも出席していない。しかし、既に述べたように、直前にECPAT主催のテーマ会合がくっついていて、参加者も重なっている。そこで、ECPAT仕切りの「サイバースペース」テーマの会合がどんなだったか、ということになる。

サイバースペースのテーマ会合には、ECPAT/ストップ子ども買春の会のサイトによれば、宮本潤子共同代表とともに、綱野合亜人氏(当時18歳)が参加している。このテーマ会合のECPATが開催にあたって設置したページにある、Concept PaperやKey Issuesといった、事前に用意されたマテリアルには、「マンガ」という言葉は一切出てこない。それが出てくるのは、報告書のほうになる。この報告書も、上で述べてきた国連調査事業のPublic Submissionに提出されている。

さて、このECPAT報告書でマンガがどう扱われているかだが、非常に興味深い、というかアレである。32ページに次のように書かれている。

In some countries, material known as ‘virtual pornography’ is legal and big business. In Japan, for example, a report analysing developments in the country’s computer contents market (including software and publications such as comics) gives an indication of the business value of child abuse illustrations and cartoons in some anime or manga materials. The analysis estimates the market for moe products (books, images and games), which are related to anime and manga, was worth 88.8 billion yen (US$800 million) in 2003. The term moe is used in a neutral sense for economic analysis. But taken literally it refers to a fetishist sexual attraction that some fans of computer games, anime and manga have for female child characters, who may be depicted in pornographic and erotic contexts within games, animations and illustrations. Moe web pages sometimes link to other pages containing images, stories and chats in which very young characters are the objects of sexual violence, abuse and fantasy. A proportion of the moe market may therefore be regarded as related to child sex abuse images. The report expected the market for moe products to expand.

Violence against Children in Cyberspace

ここで参照されている「萌え」レポートは、浜銀総合研究所 信濃伸一氏による2005年4月1日発表の「少子化などにより伸び悩むなか新しい動きがみられるコンテンツ市場」−2003年のコンテンツ市場における「萌え」関連は888億円というレポートだ。このレポートを、ECPATは、まるでそれが、児童を性的に虐待することから日本が莫大な経済的利益を得ようとしているかのような印象を与えるべく紹介している(印象を与えようとしているだけでそう言っているわけではないが)。ここでの攻撃は「子どもポルノマンガ・アニメ」といった枠ですらなく、「萌え」というコンセプト自体に向けられている。こうした論調が、地域会合での「マンガ」言及につながっている。

この論調は、地域会合後のフォローアップ事業として立ち上げられたViolence Against Children East Asia and the Pacificというサイトのオンラインニューズレターでも同様である。これの第4号がECPAT責任編集のサイバースペース問題となっているが、これの4ページに、20歳となった綱野合亜人氏が登場して、意見を述べているが、ここではメイド喫茶、オタク文化といったものが児童の性的虐待を促すものとして否定的に紹介されている。

このように、ECPAT/ストップ子ども買春の会のマンガ・アニメ叩きが国際的なNGOやユニセフのメンバーからなる対児童暴力防止運動の流れの中で一定の賛同を得て、今回の日本ユニセフ協会のキャンペーンでの「準児童ポルノ」違法化の要望へとつなげた流れが、(宗教保守的なブッシュ政権下のアメリカからの流れとは別に)ある、のだと私は考える。とにもかくにも、彼らは極めて熱心に日本のマンガ・アニメカルチャー、にとどまらず、萌え・オタクといった文化領域に、継続的な攻撃を仕掛けてきていたのだ。