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bewaadさんの記事に「少なからず誤りがある」件

2008/04/09

Permalink 01:55:50, by Nobuo Sakiyama Email , 55 words   Japanese (JP)
Categories: 検閲, 言論・表現の自由, 児童ポルノ問題

bewaadさんの記事に「少なからず誤りがある」件

bewaadさん、「何故政治にネット規制反対派の声が届かないのか?」の分析結果の結論そのものにケチをつけるつもりはないのだが、しかし、「ネット規制反対派の主張する内容に少なからず誤りがあり、説得力を減じている」とする指摘そのものに、少なからず誤りがあるという状況は、さすがにどうかと思うんで、突っ込んでおくよ。

まず、ヴァルさんが言及している「児童ポルノ規制」、これの文脈をまずはふまえよう。今は、日本で児童買春・児童ポルノ禁止法ができた1999年前後ではではなくて2008年、児童ポルノ法改正の動きとして、単純所持規制や、創作物への定義拡大を求める声が大きく出てきている、という、その文脈をさして「児童ポルノ規制」に言及しているということは、ほぼ自明だ。

次に、Communications Decency Act だが、FCCのサイトにある1996年連邦通信法改正法そのものをみても、そこに "child pornography" という単語は出てこない。違憲裁判で問題になったのは、"obscene, lewd, lascivious, filthy, or indecent" あるいは "obscene or indecent" 、またあるいは "patently offensive" といったフレーズで、そこの obscene(わいせつ)以外は、憲法修正一条で保護される領域であって、不明確・広汎ゆえ無効ではないか、ということが問われた。わいせつとか児童ポルノについて原告は争っちゃいないが、そもそも児童ポルノについては刑法典のほうに処罰規程があり、CDAでは言及すらされていなかった。ただ、被告の連邦政府側は、obscene以外の規制も合憲だと主張するためにも、obscene でない児童ポルノについて主張したりしていた。だから、Reno v. ACLU連邦最高裁判決主文で、下品とか明らかに不快とか、そういうのを取り締まるための条文はそれ自体無効だけど、政府がわいせつや児童ポルノを取り締まる権限を否定したわけじゃないよ、というふうな形で言及されただけで、児童ポルノ自体は裁判の争点でもなんでもない。だから、この裁判ではそもそも児童ポルノの定義についての議論はないし、CDAは単純所持を取り締まる法律でもないので、CDAと2008年の日本における児童ポルノ禁止法改正の議論は、単に無関係とするのが正しい。なお、CDAの問題の部分がその後どうなったかというと、2003年のPROTECT Actで「わいせつか児童ポルノ」と並べる記述に改正して決着している。

その上で児童ポルノの定義についての話をしておくと、CDAと同じ1996年にChild Pornography Prevention Actという法律が通っていて、これで、いわゆる有体物縛りを外したんだけれども、それと同時に「バーチャル児童ポルノ」を児童ポルノに入れた。ここまでだと、ほらやっぱりbewaadさん正しい!と早合点しがちだが、単にCDAで争う範囲じゃないというだけ。別の訴訟としてCDA同様に最初から差し止め訴訟になった Reno v. Free Speech Coalition というのがあって、これで下級審・控訴審と争って、最後の連邦最高裁のときは政権交代があって司法長官が代わったので名称が変わりAshcroft v. Free Speech Coalitionとして2002年に「バーチャル」を取り締まるのは違憲だろと決着した。その後PROTECT Act で「実写と区別がつかないもの」と「わいせつ児童ポルノ(マンガ込み)」の処罰が盛り込まれて、後者の条文の「わいせつ」からはみ出した部分や単純所持禁止に違憲の可能性があるけど、まだ違憲性を争った具体例がないのは以前言及した。

こうやってちゃんと事実をおさえていくと、bewaadさんが、「ネット規制反対派の主張する内容に少なからず誤りがあり」とする具体例に、誤りと歪曲があると言っていいと思うし、正直、ちょっと酷いんじゃないかな、と思うんだ。町田徹氏の記事が間違ってるんじゃね?という話は、そもそも池田氏の記事の初期バージョンでも言及されていたし、私自身言及していたことではある。「反対派」の水準底上げが必要であることは否定しないが、そもそも世の中の議論で誤りを含む水準の低い議論をしてしまう人が一定数いることは避けがたく、たまたま一人が変なこと書いたから反対派バーカってのはなんだかな、という感じがするね。

多少追記しておくと、池田さんがCDAに言及しているのを、法案の具体的な中身、というふうにとらえてしまうと、若干問題があることになる。自民党の法案の中身は、その後のCOPAやその違憲訴訟の内容を研究して作ったことが明らかな内容だから。ただ、池田さんは、条文の細かい話よりは、アメリカがネットの「有害コンテンツの法規制」に取り組み始めた(そして失敗した)象徴としてCDAに言及しているので、そう読めばCDAへの言及は適切だろう。