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表現を縛るのではなく悪意の行動を縛る方向へ

2008/04/13

Permalink 11:01:46, by Nobuo Sakiyama Email , 5 words   Japanese (JP)
Categories: 検閲, 言論・表現の自由

表現を縛るのではなく悪意の行動を縛る方向へ

「有害コンテンツ規制」の法案を押し止めるためには、楠さんが書いている通り、実効的な対案は確かに必要ではあるのだ。

現状、違法コンテンツについての法執行が明らかに徹底されていない状況というのがあり、さらにいえば、ネット上からの排除についても、優先順位もつけずに処理が溢れているというのが現状。2月に行われたインターネット・ホットラインセンターの運用ガイドライン改定案への意見募集の結果が『「ホットライン運用ガイドライン改訂案」に関する意見募集の結果及びホットライン運用ガイドラインの改訂について』として3月末に出ているのだが、提出された意見に対するホットライン運用ガイドライン検討協議会のコメントとして、「児童ポルノを優先処理したりはしません」というのがあって、要は全ての違法情報は平等に処理しますよ、ということである。ひとくちで「違法情報」といっても、その性質はさまざまであり、緊急性・重要性の高いものもあれば低いものもあり、正直どうでもいいものもあるといった状況にある。わいせつ画像の基準で「モザイクを容易に外せる」というのがあり、そりゃ判決はそうだが、モザイクが容易に外せるかどうかのチェックなんかに時間かけている場合なのか、というのが普通に生じる疑問ではるのだが、その基準は堅持するという。通報実績もほとんどないそうだが。そして、通報がオーバーフローしていても、ISP通報後の対処について実効性の乏しい「公序良俗に反する情報」の処理対象はむしろ拡大しているし、対象外情報についての分類作業、例えばどうやら今回の児童ポルノ禁止法改正では外れることとなった「まんが子どもポルノ」の分類なども、このままではやめないのだろう。そんな暇どこにあるのという気がするのだが。

今回、児童ポルノ禁止法改正で単純所持規制の方向が検討されていて、どこまでの規制するかという議論はあるにせよ、改正を完全に見送るのでもなければ、児童ポルノの大規模な収集行為が規制の範囲に入るのは間違いないだろう。そうすると、インターネット・ホットラインセンターは、現状のような民間法人の警察庁の受託事業でよいのだろうか、という問題が生じてくる。罪に問われるかといえば、ホットラインセンターの業務は刑法35条の正当業務だということになるだろうが、そのままでよいかというと疑問だ。個人的には、児童ポルノに限定した業務を扱う機関として、独立行政法人ないし国の機関とするのがいいと思う。こうすることで、業務や取扱い範囲を根拠法に列挙し、情報公開法や独法情報公開法の対象とすることにより運営を透明化し、中立性も確保する。違法でない情報については取扱い範囲外とすることは必須だ。現状のインターネット協会の中の機関はフロントエンドの窓口として残すことも考えられる。児童ポルノを特別扱いするのは理由があって、国際的な要求が高いこともあるし、表現の自由との緊張関係が薄い(全くないわけではあるが)上に、他の違法情報と異なり引用も基本的に許されない特別な性質があるからだ。わいせつ物は、基準をめぐって表現の自由との緊張関係があり、また日本の基準では性器描写を除去・修正すれば引用できる。社会的法益としての性質を考えれば、ゼロ・トレランスに摘発する必要があるものでもない。その他の違法情報は広告・誘引であって、文脈を違える形で合法的に引用できる。だから、機密保持の必要性は薄いし、国の機関で扱うことで表現の自由や検閲といった問題になりやすいので、児童ポルノ以外は民間でよい。ただ、インターネット・ホットラインセンターで独占して扱う必要があるとは思わないし、違法な活動についての広告・誘引などは、むしろ個々のサイト、特に大規模コミュニティサイト事業者であればユーザーからの直接の通報を受け付けて直接警察に通報する体制を自主的に作ったほうがいいのではないだろうか。処理に月単位の日数がかかるホットラインはホットラインと言えないだろうし。

また、公序良俗に反する情報について、対処がなされないからと「有害情報規制」へとつきすすむのは間違った方向で、むしろ個別の領域で違法化すべきものを違法化するべきだろう。ホットラインセンターのガイドラインには「情報自体から、違法行為(けん銃等の譲渡、爆発物の製造、児童ポルノの提供、公文書偽造、殺人、脅迫等)を直接的かつ明示的に請負・仲介・誘引等する情報」とあるが、それぞれの領域で「直接的かつ明示的に請負・仲介・誘引等する行為」を違法とすべきかどうかを検討すべきだ。「児童ポルノの提供の直接的かつ明示的に請負・仲介・誘引等する行為」については、日本ユニセフ協会言うところの準児童ポルノの違法化が見送られる方向となったこともあり、文字だけでは判別がつかないし、アメリカでも PROTECT Act of 2003 違憲問題として争われて控訴審で違憲と出た領域でもあり、なかなか難しい問題があるけれども、その他のものについて構成要件を明確化して違法化することは可能なのではないかと思う(その場合、そもそも立法事実が存在するかは問われるべきで、「爆発物の不正な製造を直接的かつ明示的に助長、教示」なんてのは、事例もあまり多くないのではと思うが。爆発物は正当業務のために製造されることも多く、その情報をコントロールできないしするべきでもなく、原材料のコントロールが徹底されるべきものだろうし)。自殺サイト問題も、自殺の請負広告や集団自殺の呼びかけなど、個別に違法化できる部分はあるはずだ。

青少年の保護、という観点からは、これらだけでは済まないのだが、そこについても、現行法の穴を埋めるのが優先されるべきだろう。例えば、現行の児童買春、児童ポルノ禁止法では、児童買春、児童買春周旋、児童買春勧誘、児童買春等目的人身売買等といったものが処罰対象になっているが、児童を自身の買春の相手方となるように誘引する行為自体は、処罰対象から外れている。議員立法での法律作成のさいに売春防止法をベースに作ってしまって抜け落ちたのではないか。一方で、インターネット異性紹介事業を利用して児童を誘引する行為の規制等に関する法律(出会い系サイト規制法)では、児童を性交等の相手方となるように誘引することや、対償を供与することを示して、児童を異性交際の相手方となるように誘引することを禁止しているが、その範囲は「インターネット異性紹介事業」の利用に関してに止まっている。この法律の改正案が今国会に提出されているが、業法としての規制が大幅に強化される一方で、「インターネット異性紹介事業」の定義が広汎でとくにユーザープロフィールが検索可能で個々のユーザー間で自由に連絡あとれるようなSNSが、とくに異性紹介を目的としていなくても該当と判断されてしまう可能性がある状況は変わっていない。警察庁はガイドライン見直しを表明しているが、その具体的内容は明らかではない。児童の保護の観点からはなるべく広くとったほうが児童を誘引する大人を処罰できることになるが、一方で、広くとる方向に解釈することは、コミュニケーションサービスの事業やその利用者の(性的誘引に関係しない)萎縮を招くことにもなりかねない。ここは、児童買春禁止法のなかで、児童を(児童と知って)買春の相手方となるように誘引することや、児童買春の相手方となる児童を募集する広告を(ネット限定ではなく)罰則つきで禁止するべきだろう。その上で、児童をユーザーとして抱える大規模コミュニティサイトなどでは、サイト上での当該誘引行為について、児童からの通報を積極的に受け付けて、問題ユーザーの退会・資格停止処分に止まらず、警察への通報(通信の秘密の観点からは、個人情報の提供は通報を受け付けた警察からの照会によって行われるべきだろう)を行っていく体制を自主的に作っていくのはどうか。常習的な児童買春目的ユーザーは、ピンポイントに相手を見つけているとも思えず、買春の相手となることを望まない児童にも少なからず誘引のためのメッセージを送っている可能性が高いだろうから、その段階で通報が行われるとなれば、常習的な児童買春目的ユーザーに対する萎縮効果は高いはずだし、それが他の正常な利用への萎縮となるとも思われない。

児童買春以外の児童を性関係に誘う行為はどうなんだ、という話もあるんだけれども、それにはまず、青少年条例での淫行処罰規定を廃止する一方で、性的同意年齢についての見直しをするべきじゃないかと思う。日本の刑法では13歳がひとつの線となっていて、条例での淫行処罰規定における淫行は、最高裁判例で「青少年を誘惑し、威迫し、欺罔し又は困惑させる等その心身の未成熟に乗じた不当な手段により行う性交又は性交類似行為のほか、青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱つているとしか認められないような性交又は性交類似制為をいうもの」と限定解釈されているので、一時の相手を求めることが多そうな出会い系サイトについての規制はともかく、サイト一般、あるいはネットに依存しない誘引へと規制を安易に広げると、「社会通念上およそ処罰の対象として考え難い」性行為への誘引などに処罰対象が広がってしまう。それを法律として行うことには無理がある。現行刑法の線引きは100年遡るわけで、前提とする社会状況が大きく異なる。100年前となると、学校における性教育はほぼ期待できない一方、義務教育といえば尋常小学校のみであって、村落共同体のなかでは若衆宿や娘宿があり、共同体の 閉じた関係のなかで、年齢差のある関係での性行為が共同体内では逸脱と考えられることもなく多く行われていたことは知られていて、民族学者の赤松啓介の著作に詳しいが、その他にも文献などはあるだろう(ただし、実際に何が行われていたかは集落での差異もあり、また、社会階層での差異もあるだろうから、全員が一律にそういう環境にあったとも言えない)。こうした状況が本格的に壊れていったのは戦後の高度成長期と思われる。地方によっては、祭などの行事のなかに痕跡をみることができるかもしれないが、風習の存在を前提とした配慮の必要性は薄れているのではないかという気はする。いまどき、近所のおっさん(昔と違って、濃密な共同体空間のなかの隣人のおっちゃん、ではなくて、郊外的な空間のよく知らないおっさん、ということ)が中学生の娘に「性のてほどき」をすること(近所のおばさんが中学生の息子、というのももちろん対応づけとしてはあるだろう)を容認する親、というのはあまりいないんじゃないか、ということ。性的な要素を含め、コミュニケーションはフラット化・グローバル化していることを前提として、「青少年健全育成」ではなくて、「児童の保護」の観点から、どの程度の規制が適切なのかを考えるべきじゃないかと思う。そこで諸外国の状況をみると、18歳未満のティーンエイジャーに関しては、性的同意について年齢差で規制をかけている事例が多い。例えば2歳以内とか、4歳以内とか、5歳以内といったものを、段階に応じて広げていくアプローチだ。金銭などの報酬によらなくても、年齢差が大きいとコミュニケーション能力の違いなどから、問題のある同意に至りやすいということが規制の理由となる。例えば、13歳以上16歳未満は2歳以内、16歳以上18歳未満は5歳以内年上であえば合意とみなすが、それ以上の年上であれば法定強姦とみなす、という形がありうる。個人的には16歳以上の規制は必ずしもいらないのではないかと思うが、どの程度の線引きが望ましいかはいずれによ専門的な議論が行われないとなんともいえないと思う。カナダでは、2月に性的同意年齢が14歳から16歳に引き上げられたが、14歳以上16歳未満については年齢差規制という形になった(以前は12歳以上14歳未満が年齢差規制の範囲だったが、そこがどうなったかは確認していない)。

年齢差規制のいいところは、これが極めて客観的な規制だということで、それを前提にすれば、容認される年齢差を越えた、あるいはそれを前提とする違法な性行為への誘引などをネットに限定せずに違法とすることに問題は少ないと思うし、前述の児童買春誘引と同じく、大手コミュニティサイトでの自主的通報体制で対処できるのではないかと思う。

有害コンテンツ規制を求める声に対応する別のアプローチということでは、上記で網羅しきれているかというとそうでもない気がするのだが、とりあえずこんなところまでは考えてみました、ということで。