もっとくどく検閲について

2008/04/26

Permalink 02:12:52, 著者: Nobuo Sakiyama Email , 423 回閲覧   Japanese (JP)
カテゴリ: 言論・表現の自由

もっとくどく検閲について

bewaadさんの、ある意味無意味なMIAU批判が続いているのだけれども、あえて反論。

そもそも、「検閲」という言葉を、厳密に憲法における「検閲」という語の解釈についての最高裁判例に沿って使わないといけない、と誰が決めたのだろうね。

辞書で「検閲」をひけば、第一の意味としては「しらべあらためること」ぐらいの内容が普通は載っている。そして、歴史的にみれば、検閲という語は、圧倒的に軍隊用語として用いられてきた。近代軍において、兵器や練兵が要求水準を満たしているかどうか検査すること、あるいは軍人個人を試験すること、そういった用法が多い。 自衛隊において現在も用いられている用法だ。「日本法令索引〔明治前期編〕」で「検閲」というキーワードでの検索結果でのそのほとんどは軍事用語。最初のものが「検閲使職務条例 明治8年6月13日 太政官第100号達」で、その後ほとんどが軍隊における上記の意味での検閲。それ以外のものは「〔留萌支庁被廃ニ付宗谷出張所ノ文書等留萌出張所ノ検閲ヲ経ル義〕 明治8年6月20日 開拓使本庁達」「法律規則等ヲ外国語ニ翻訳発布ノ前外務省翻訳局ノ検閲ヲ経セシム 明治18年8月17日 太政官第45号達」であって、両方とも行政内の文書について「しらべあらためる」話。明治19年2月公文式公布以降を「日本法令索引」で検索した場合も、出てくるのは圧倒的に軍隊関連となる。ここまでくると、民間における表現の事前抑制としての検閲を法令名にもつものも入ってくるが、同時に貿易に関する検査なども検閲と呼ばれていて、また、郵便物や電話などの、今日的には信書の秘密や通信の秘密に関わって禁止されるような内容規制についても、検閲と呼ばれている。 なお、Wikipediaの日本における検閲の沿革にある代表的な諸法令では、必ずしも検閲の語は使っていないようだ。ちなみに、中国語で検閲といえば、もっぱら軍隊の話であって、censorshipの訳語は「検査」「審査」(のそれぞれ簡体字)であって、検閲ではない。

また、表現の事前抑制としての検閲を昔はどう呼んでいたかというと、江戸時代の浮世絵等の出版物については寛政の改革で株仲間における民間事前審査の強制があり、それが天保の改革では株仲間が解散ということで名主による直接規制となり、その後またもとに戻っているが、これらは「改(あらため)」と呼ばれ、検閲済証明としての印が「改印」「極印」「名主印」などと時期に応じて呼ばれてきたもので、「検閲」という名称の制度ではなかった。そして、「改」というと、日本において発行される出版物の事前チェックに限定されず、長崎の出島からの蘭学書の国内持ち込み時の検査(キリスト教禁制等のため)や、関所での検査も「改」であり、「江戸時代の検閲制度」の研究者は、なにも浮世絵等の改に限定して検閲と述べているわけではなく、普通に出島の検査や関所の検査も検閲に入れて扱っている。

私は、MIAUはユーザー利益をうったえる団体であって、法解釈をたれるための団体ではないのだから、プレスリリース程度の粒度のさいに、厳密に憲法における検閲という語の解釈についての最高裁判例に沿った用法で検閲という語を用いる必要はなく、censorshipの訳語として用いられる程度の幅で検閲という語を用いて問題ないと思うので、当初の声明にとくに問題を感じていない。だいたい、プレスリリースのどこにも「憲法」の文字はない。「法解釈的に誤解を招く、厳密さを欠く表現」と言われたらそれはそうだが、間違っているという批判を受け入れる必要があるとも思わない。個人で文章を書くならそういう場合は「(広義の)検閲」とかやる場合が多いけどね。

また、えのさんと議論になっている中身のほうだけれども、青少年条例の図書自販機規制をめぐる攻防は、最高裁判例のころとは全く違う状況が生まれていて、ネット規制の文脈で取り上げるのは、いろいろと微妙なものがあるという気がする。最高裁判例のもととなった事件のころは、自販機と言えば金を持っていれば誰でも購入できたものなのだが、タバコの自動販売機のtaspo導入でもわかるように年齢識別/認証装置つきの自販機というのは開発されており、タバコよりも図書等のほうがはるかに先行して導入され、それでまた攻防がある。過去の事例では「免許証読み取り機能はあるが購入者本人との対応が認証されていない」とか「遠隔監視装置(監視カメラで人間が青少年でないことを確認する)の画像が不鮮明」であるとか、運用が適切でないとか、そういった理由で年齢識別/認証装置や遠隔監視装置つきの自販機での有害図書販売を摘発して有罪が維持された下級審判例がある。しかし、さらなる技術の向上を背景にむしろこうした装置を条例上位置付けて義務化する自治体もあり(例えば東京都)、その一方で、まさに「青少年向けの規制の形式をとりつつ広範に流通ルートからの排除を試み青少年以外の者に対する販売すら」大きく制限する、萎縮させる意図を含んで、いかなる水準の年齢識別/認証装置つきの自販機であろうとも、有害図書の収納を禁じ、あるいは図書自販機の設置自体を禁止するという方向に動く自治体もある、というのが現状のようだ。そして、それに挑む事業者も存在する。このあたり、自動販売機と地域経済というブログがとても詳しい(開設者は、書斎研究家ではなくて、県レベルの条例がない長野県でフィールドワークをされている方)。

ところで、ここまで書いて気がついたんだけど、bewaadさんが「広範な代替的コミュニケーションチャネルが開かれていること」が「表現の自由の制約が許される一要件」だとされているロジック、あまりに酷いんじゃないかと思うんだ。だって、引用されているアメリカの最高裁判例の引用部分だけでも、それは「内容中立規制」の場合だってことは明らかなんだもの。その一部分だけ取り出して「規制ok!」と強調するのはどうかと思うよ。さらにいえば、引用されている判決は、裁判所の建物と敷地内の内容中立規制は合理的理由もあるし ok だが、そのまわりの歩道は、他の場所の歩道と区別がつかない "public forum" だし、そこに問題の内容中立規制を拡大解釈して適用してビラ配りとかピケを張ったのとかを検挙したのは違憲だよ、という判決だったりするわけで。

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