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自民党のネット規制法案がなおヤバい件

2008/05/25

Permalink 00:52:10, by Nobuo Sakiyama Email , 3 words   Japanese (JP)
Categories: 検閲, 言論・表現の自由

自民党のネット規制法案がなおヤバい件

フィルタリング法案がここにきて進展をみせていて、民主党が骨子をサイト上で発表する一方、自民党は、サイト上にはないが報道はされている。自民党案は、困ったことにきっちりと公表されておらず、ニュアンスも報道によって違いがある。リンクをしたスポニチ報道は、通信社記事だと思うが自民案は民主案に比べて「国の関与が強まる」ことが明確となっている。すなわち、

  • 有害情報の基準策定や有害サイトを判定する民間機関を政府が審査・登録する
  • 首相や官房長官も加わる関係閣僚会議を新設する
  • 有害サイトの閲覧を制限するフィルタリングサービスを普及促進するための基本計画を策定する

といったあたり。日刊スポーツにも同内容あり。このあたり、朝日・読売・毎日といった三大紙は、なぜか弱めのニュアンスの報道。

というわけで、かなり新しい自民党案の要綱を見ているのだけれども、これはまずい。規制推進派がかなり巻き返した印象。

報道にある部分では、「有害情報の基準策定や有害サイトを判定する民間機関を政府が審査・登録する」というのが問題。ここの「民間機関」の権限が、フィルタリングソフトの適合認定を含んでいて、それが携帯電話ISPのフィルタリング提供義務やISPのフィルタリング提供努力義務、PCメーカーのフィルタリングソフト組み込み義務とリンクしている。一段間接的になっているけれども、政府がかなりのコントロールをできる内容になっている。「有害サイトを判定する」という部分にも問題があるのだけど、後述。

この法案は、さらに「青少年閲覧防止措置」というのを定めていて、サーバー管理者が「知ったとき」に措置する努力義務を、とりあえずは違法情報に対して課している。のだけれども、政府が「通報処理団体」(審査・登録される民間機関と重なる部分もあるけれども同一ではない模様)からの「申出」に応じてサーバー管理者に「要請」する場合、その対象情報がどのようなものであるかは限定されていないようだ。「申出」については「青少年の健全育成のために必要があると認めるとき」であれば、情報の種類は問うてないように見える。前述のように、政府が審査・登録した民間機関が有害サイト情報を収集してサイトに通知し、さらに政府要請の対象とすべく申出できるということで、サーバー管理者の努力義務とは別に、「青少年閲覧防止措置」は幅広いものだと想定されている。そして、サーバー管理者は、「青少年閲覧防止措置」について情報発信者からの損害賠償責任について免責をされるのだが、これが無限定の免責になっているようだ。情報発信者にとっては著しい不利益が発生する可能性がある。プロバイダ責任制限法第三条2項二号のように、情報発信者の同意を得る機会を設けるなどのデュープロセスを課すような内容になっていない。

そして、そもそも論的には、「青少年有害情報」というのが定義されている(これは報道とは異なる)のだが、民主党案にあるように「著しく〜」という限定をつけることなく、「性欲を興奮させ又は刺激する情報」や「残虐な内容の情報」というのが含まれている。「青少年有害情報」は、サーバー管理者の努力義務とはリンクしていないのだが、その他の部分には広く影響するものとなっている。程度を問わないということは、社会的に問題ないとされるような性教育教材も対象とされる可能性があるし、残虐な内容については戦争被害についての教材なども該当してしまう可能性があるだろう。そして、よくよく見れば、「その他青少年の健全な成長を阻害するおそれがある情報」というキャッチオールの文言まであり、「青少年有害情報」は、謙抑的な意味で定義されていないのではなく、なんでもありの規制をかけられる方向で曖昧な定義になっているように見える。

また、誤解甚だしいと思われるのは「青少年有害情報フィルタリングソフトウェア」の定義で、インターネット上の情報について「利用者の発達段階に応じた一定の基準に基づき選別した上で」とあるのだが、一般に流通しているフィルタリングソフトウェアの多くの前提は、事業者は、インターネット上の情報をある程度客観的な属性で分類した上で、利用者側の設定で情報の分類に基づいて閲覧許可・不許可を判定することで情報の閲覧を制限するプログラムを提供している、というものだ。これは、携帯電話フィルタリングのデータを提供しているネットスターからしてそうだ。つまり、「利用者の発達段階に応じた一定の基準に基づき選別」することは行われておらず、利用者側に委ねられているということ。推奨設定として利用者の発達段階に応じた閲覧許可・不許可の設定を提供している製品も多いけれども、それらは推奨値に過ぎない。また、現時点では一律の基準となっている携帯電話フィルタリングサービスや、その他のフィルタリングサービスで利用者側でのカスタマイズができず一律の基準や発達程度に応じた設定が提供されている場合もあるけれども、それらは技術上・サービス提供上の制約としてそのような形態になっているに過ぎず、「利用者の発達段階に応じた一定の基準に基づき選別」が行われているわけではない。つまり、法案の定める「青少年有害情報フィルタリングソフトウェア」には、多くのフィルタリングソフトは該当しないのだ。

フィルタリングソフトは、そもそもが一律な情報受信の法規制に対するオルタナティブとして、受信者側の設定での選択を重視するソリューションとして出てきたものだ(それの建前と本音の差とか理念と現実の乖離とか透明性の問題とかはとりあえず置いておく)。民主党案はそこを理解して「子ども用フィルタリングソフトウェア」を定義しているが、自民党案では「選択」の視点がない。

おまけ的には、民間機関と関係閣僚会議の設置以外の部分が公布日施行って、どうみてもいきなり回らない仕掛けなので即日で日本のネット産業死亡とかそういうことをしたいのかしらと素で疑ってしまうよ。