« 予告.in の問題について真面目に考えてみるよ池田さんの言動が基本的な事実から離れている件 »

青少年ネット規制法案成立と今後

2008/06/15

Permalink 23:20:21, by Nobuo Sakiyama Email , 5 words   Japanese (JP)
Categories: 検閲, 監視社会, 言論・表現の自由

青少年ネット規制法案成立と今後

ちょっと間があいてしまったが、青少年が安全に安心してインターネットを利用できる環境の整備等に関する法律案(以下青少年ネット規制法案)が成立したので、時期をあんまり過ぎないうちに一言書いておこうかと。

まず、今回の法案成立について、型通りのコメントを述べるとすれば、MIAUの声明の通りになる。で、それはそれとして、個人的にもっとぶっちゃけた話。今回、関係者各位の努力によって今回ぐらいの水準で収まった。もちろん、こんな法律案が成立した、ということ自体に対して、不満はたくさんあるが、しかし、今回、「法案を何も成立させないこと」を勝ち負けの基準に置くとすると、そもそも4月のどこかの時点で、その負けは見えていた。与野党の議員が超党派でなんらかの形で成立させたいと思っている法案を押し止めるというのは、ものすごいパワーの要ることで、それは、私だとかMIAUだとか、あるいはネット業界だとか、だけがジタバタしてどうなるものでもない。

あとでもう一度言及するけれども、共謀罪法案なんてのが、ずーっと成立しないままになっているのは、伝統的な野党支持基盤組織が結束して反対し続けていることもあれば、与党内でも懸念がそれなりに大きいこと、そして、そもそもが全体として条約批准を目的とした立法で成り立ちから国内的な動機に乏しく、政治家として熱心に進めたい人が必ずしも多くない、ということもあるだろう。一時は簡単に成立しても不思議でない状況を乗り切って、参議院で与党が過半数を割って店晒し状態。与党は衆議院再議決をすることだって数字の上では出来るけれども、そこまで懸けて刑法・刑事訴訟法の改正案を通すという無茶をする状況にはない。

対して、青少年ネット規制法案のほうはといえば、政治家主導で進んだ話であり、与野党双方に懸念の声はあったけれども法案提出そのものを潰せるほどの情勢にはなく、各党支持基盤についても、伝統的に保守系のところがこういう法案にどちらかといえば賛成のところが多そうなのは当然として、左派系も、強い反対のところって目立って存在していた印象は無かった。というか、今回、いかにも左派ですね、という人の中で目立っていたのって(議員は別として)日隅弁護士ぐらいじゃないのかな(そして、日隅弁護士は、いかにも左派ですね、という以上にメディアの自由に主要な関心のある方で、そういうくくりであれば、法案に反対していた人は少なくないとも言える)。そもそも「青少年健全育成」的な枠になると国家統制的な動きに左派が甘くなるのか、それとも、単純に、ネットの問題が重要な位置にない人が多いのか、はよく分からないけれども。個人的には、その昔のこともあって、そもそも期待してなくて、ほとんど声かけなかったんだけど、マスメディアでもそれなりに報道されてたんだから、関心があれば動いたはずでしょうということで。ぐたぐだ書いているけれども、とにかく、懸念する方向での関心は、社会全体という単位で言えば、あまりにも薄かった。対して、立法を求める声は、見える形で出されていた。内閣府の、どうみても高市議員が大臣時代に作らせた誘導たっぷりの世論調査とか、京都市の半官半民の運動とか、ツッコミどころは多い内容であれ、規制派は目に見えるかたちを出してきていた。規制の問題点を綿密に訴えるとか、カウンター的な調査結果の公表とか、いろいろあったのは、法案の中身を弱めて実をとるという戦術に関係者多数が突き進む上では大成功だったとはいえるけれども、法案を葬るという意味においては、後手に回っていた。手遅れ。議員にしても、それなりに時間をかけて派手にブチ上げてきた手前、「実は法律は何も要りません」では通らない人が多かっただろう。メディア関係も、新聞協会や民法連が最後の最後になって反対声明を出したが、あのタイミングは、法案の成立に影響を与えないタイミングといってよく、出ないよりはマシだが、という状況。そもそも、主要紙やキー局の報道においてネット規制の問題よりはるかに多くネット規制を煽る論調が多かったなか、アリバイ的でもよく声明を出せたなというところで、廃止を求める民法連声明に至っては、よくぞ踏み込んだとさえ言っていいように思う。そういう中、高市私案とか自民党内閣部会案とかのヤバさを考えれば、よくここまで粘れたものだ、という感じで、最後には参考人質疑にまで呼ばれた楠さんには本当にお疲れ様というほかない。

さて、今回の法案の国会での提案・採決に至るまでの駆け引きの結果から今後の自主規制とかさらなる法改正とかにつながっていく要素っていくつもあって、それぞれまた大変そうなんだけれども、個人的に一番注目すべき点と思うものをここで紹介しておく。

(青少年有害情報の発信が行われた場合における特定サーバー管理者の努力義務)

第二十一条 特定サーバー管理者は、その管理する特定サーバーを利用して他人により青少年有害情報の発信が行われたことを知ったとき又は自ら青少年有害情報の発信を行おうとするときは、当該青少年有害情報について、インターネットを利用して青少年による閲覧ができないようにするための措置(以下「青少年閲覧防止措置」という。)をとるよう努めなければならない。

青少年が安全に安心してインターネットを利用できる環境の整備等に関する法律案

第四条 インターネットを利用して公衆の閲覧に供することが犯罪又は刑罰法令に触れる行為となる情報について、サーバー管理者がその情報の公衆による閲覧を防止する措置を講じた場合における当該サーバー管理者のその情報の発信者に対する損害の賠償の制限の在り方については、この法律の施行後速やかに検討が加えられ、その結果に基づいて必要な措置が講ぜられるものとする。

青少年が安全に安心してインターネットを利用できる環境の整備等に関する法律案: 附則

二十一条の「青少年閲覧防止措置」が「有害情報」を広く対象とするものの努力義務に留まり、一方で、違法情報と判断したものの閲覧防止措置の責任制限が今後の検討として附則となり、先送りされた。このあたり、先送りになる前の段階で一度ふれたことがあるのだけれども、これ、まったく別の意味で、ものすごく難しい話なんだよね。違法情報の閲覧防止って結構な話じゃないか、と、単純に考えれば素直に肯定できそうなのだけれども、違法な情報といってもレベルがいろいろあって、どうでもいいものもあれば、警察としては面倒みきれないけれども閲覧防止しておいてほしい、というレベルのものもあれば、確実に捕まえたいので、むしろ下手なことしてくれるな、という状況もありうる。最後のって、要は、「とても悪い犯罪者」が、「閲覧防止措置」をきっかけに証拠隠滅して逃亡する、という問題。とりあえずの解はあって、「閲覧防止措置」の前に、ログとかの保全をさせましょう、という話がある。サイバー犯罪条約にもそういう条項があり、とりあえずISPなどにログやデータなど証拠になるものを保全してもらっておいて、後から記録を差し押さえましょう、というアプローチになる。ログ保全の段階は、とりあえずのもので警察に渡す段階じゃないから、容疑とか固まっていなくてよくて、後での差し押さえの段階できっちりした令状を出します、という話になっている。もっとも、これでログ保全を乱発されまくるとISPの負担が大変だしユーザーのプライバシーや通信の秘密の観点から問題だね、ということで、保全の日数には制限がつく。現行法にはこういう制度がないので、改正法案が出ている。そこでは、ログ保全は強制ではなく任意の要請という形になっていて、保全日数は90日となっている。そして、この法案の本体は犯罪の国際化及び組織化並びに情報処理の高度化に対処するための刑法等の一部を改正する法律案というやつで、実は共謀罪法案とセットで1本になっている。ということで、目下、成立の見込みはない。条約批准の承認自体は共謀罪部分にしろサイバー条約関係部分にしろすでに通っているのだけれども、立法措置という面で争いがある、という話になっていて、決着がついていない。政府案に対して与党側が野党に歩み寄るための修正案を出していて、対して民主党も修正案を出している。共謀罪の部分だけではなく、上記の保全の日数が与党修正案で60日、民主党修正案で30日になっている。保全と記録差し押さえの部分について、そのほかにも細かい文言の修正が修正案にはある。

一定水準の適正な法執行を確保した上での違法情報の閲覧制限措置っていうのは、要するに共謀罪と一緒に止まっているその部分が存在しないと本来はうまくまわらないはず。現状のインターネットホットラインセンターでの「警察に通報して暫く待ってストップかからなければISP通報」という運用も、実のところ結構微妙なもので、だからこそ警察からの受託事業になっている、という部分もあるはず。ピースが欠けたまま、むやみやたらと拡大をしたり、責任制限が先行して警察の関与しない自主措置が大きくなりすぎると、表面的には「安全」っぽいが、そもそも犯罪が警察の網にかからなくなっているだけ、という事態もありうる。といって、応急保全や記録差し押さえ部分をさっさと片付ける、という話にはならない。ここは基本的人権の観点からは慎重さが求められる。そして、個々の法律が矛盾をきたさないように、整合性のある制度設計を誰かがやる必要がある。もとより青少年特別委員会で扱うような枠を越えている話だったので、先送り自体は正解として、さて、どうするんでしょうね。