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予告.in の問題について真面目に考えてみるよ

2008/06/18

Permalink 03:02:07, by Nobuo Sakiyama Email , 16 words   Japanese (JP)
Categories: セキュリティ, プライバシー, 監視社会

予告.in の問題について真面目に考えてみるよ

楠さんが予告.inの素早さに興奮していたところまではいいのだが、その後も予告.inで十分じゃんと言っているのをみると、ちょっと待ってよ、と言いたくなった。

予告.inが2時間でやった仕事のクオリティを否定するつもりはない。多分、ネットにどっぷり浸かっていればこういう発想は、思いつきレベルはわりと出てくると思うのだが、そこから動くサイトを作る決断をして即作る、というのは、(これまでの蓄積が効いているにしても)誰にでもできる話ではない。プロトタイプとしては秀逸。でも待ってほしい。

そもそも、「犯罪予告」をこんなに露骨に可視化することは、望まれていたことなのだろうか。これまでも、ネット上には(密度はともかく数としては)大量の犯罪予告と解釈できる書き込みはあふれていたはずで、その多くは、参照する人も少なく、といって、書いた本人も実際には犯罪を犯すつもりもなく、そのまま放置で終わっていたのだろう。たまに、偶然に注目を浴びる犯罪予告があり、各所に通報され、そのことによって犯罪内容によっては避難や警備強化などの「威力業務妨害」たる実害が発生し、かつ書き込みをした人物が謙虚される、という経過をたどっていたものがあった。そして、それよりもはるかに少ない頻度で、犯罪予告が実行に移された。今回は、この、稀なものにあたる。予告.inは、単に通報するシステムではなくて、可視化することによって、これまで注目されていなかった犯罪予告を無理やり表舞台に引っ張り出したという一面を持っている。そのことによって、「威力業務妨害」程度の実害は、むしろ発生しやすくなっているのではないだろうか。表舞台に引っ張り出された以上、少なくとも書き込みした人物が特定され法執行機関が物理的に接触するまでは、危害を予告された側としては自衛的な対処をするほかなくなるし、そのことで経済的な損害も発生しうる。今回の事件のような通報が行き届かずに深刻な被害に行き着いてしまったような事態の起きる確率を減らすことはできるかもしれないが、しかし、それは敏感なアラートが上がることによる経済的損失とのトレードオフの関係にある。

政府の犯罪予告検知システム開発ニュースのほうは、その意味では報道などをみる限り、予告.in の真逆をいくアプローチが想定されている(ってそう決めたって話でもなく、官僚なり報道しているメディアの想像力がその範囲なのかもしれないが)。集合知ではなくかき集めて全部マシンで処理して判定、という、なんだか Google っぽいなという感じがしなくもないが、そんな話に見える。この場合、一連の動きは表に出てこないまま静かに進み、ある場合は実害なさそうとあえて放置され、ピンポイントにまずそうなものだけを迅速に人物特定して検挙などし、問題の書き込みは静かに削除依頼に出し、静かに消されていく、そして威力業務妨害の実害は極力避けられる、そんなフローが理想として想定されるんじゃないだろうか。こちらの場合、透明性は問題になるだろう。そして、すでに散々言われているように、とても高くつく。

予告.inと政府の想定と言われるもののどちらにしても、システムの存在によって軽微な愉快犯的な犯罪予告は減るだろうが、後で自分はどうなってもいい、というタイプの犯罪予告は、実行する気のあるタイプにせよ無いタイプにせよ、減らすことはできない(抑止効果がどの程度、という定量的な違いはありうるだろうけれども)。また、どちらのアプローチが社会的なコストが安いか、というのは、定量的な問題でもあるから、本格的に比較しないとなんともいえない。ただ、予告.inが作る世界と、官製犯罪予告検知システムが作る世界では、そのありようがずいぶんと異なる、ということは認識しておく必要がある(LessigのCODEの4規制力のうち、アーキテクチャと規範の違い)。

さらに、アプローチはこれだけなのだろうか、という議論もできるだろう。中間的なアプローチとして、例えば、予告.inのように候補情報を集めて集合知で判定するにもかかわらず、可視化しないアプローチも考えられる。各エントリは会員レビュアー10人(これは一例)がチェックしたらそれで終わり、といった感じにする。レビュアーのインセンティブが正義感だけで持たないかもしれないので、そこはポイントをあげることにする、といったことも考えられる。まじめにレビューしてもらうには、モデレーションが必要かもしれない。要は、Amazon Mechanical Turk的な世界。ポイントは、何もAmazon に限らなくても、はてなのポイントでも、モリタポでも、あるいは、多くの携帯ゲームサイトや携帯SNSのポイントシステムでもいい。携帯サイトのポイントは、その携帯サイト内の情報の処理にはすごく馴染むようにも思う。こうすると、高価なシステムは組まなくてもいいし、過剰な可視化も避けられるだろう。ポイントの原資は、政府が直接出さなくていい場合も多いだろうし、あるいは出しても現実にはたいした金額にならないんじゃなかろうか。

そして、現段階で政府が考えるべきことは、いきなり犯罪予告検知システムの仕様を書くことじゃなく、まずはいろんなアイデアを出してもらって、コンペでもするところからなんじゃないだろうか。他にもアプローチはいろいろありそうな気がするわけで。