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むしろ「ケータイ」を変えようよ

2008/07/23

Permalink 02:47:57, by Nobuo Sakiyama Email , 41 words   Japanese (JP)
Categories: セキュリティ, プライバシー

むしろ「ケータイ」を変えようよ

大変な反響を呼んだ高木さんの「日本のインターネットが終了する日」への応答として。日本のネットを終わらせないためには、ケータイビジネスのほうに変化を促す必要があり、そして、そのチャンスは今ちょうど現れている。そして、多分、なるべく早く変化を促すべく仕掛けていったほうがいいのではないかと思う。

高木さんの「ガラパゴス携帯」への問題意識は、もともと契約者固有IDの問題に留まっていない。今回は技術的に別件だからか言及していないけれども、ブラウザーにアドレスバーが存在しない問題にも繰り返し言及している( アドレスバーのない携帯電話はPhishing詐欺に耐えられるか(2004年4月24日)太古の昔、アドレスバーが入力欄でなかったのを知ってるかい?(2004年4月26日)ケータイWebはそろそろ危険(2007年6月24日)アドレスバー百景 その1(2007年7月01日)アドレスバー百景 その2 「iPod Touch」的UIの活用を考える(2007年10月20日)EZwebブラウザの「お気に入り登録」は偽サイトを見分ける手段にならない(2007年12月08日))。

また、高木さんはPhishing対策ツールバーなんていらない! 元々あるIEの機能を使う(2005年12月24日)というエントリで次のように述べていた。

もうひとつの道は、高額料金で「認証」するのではなしに、主観的基準によって、販売先を選ぶという方向性である。これは、携帯電話会社の「公式サイト」のモデルに似ている。しかしそれは、「インターネット的」でない代物だ。

インターネットが旧来の電話会社がやってきたことと根本的に異なっていたのは、常に自由と平等が尊重され、独占を避けるよう技術が設計されてきたことだ。だからこそこれまでのような発展があったはずだ。

(略)

携帯電話上のサービスは所詮、電話会社の恣意的なコントロールの下に置かれたものであり、自由がない代わりに一定の安全が安易に得られている。

インターネットを電話のようにしてしまえという発想をする人もいる。通信路だけでなく、ユーザ認証やコンテンツまで通信会社がコントロールすることで、「インターネットの危険をなくせ」という発想だ。自由を削がれたそれは、もうインターネットとは似て非なるものである。

Phishing対策ツールバーなんていらない! 元々あるIEの機能を使う - 高木浩光@自宅の日記

高木さんがここで述べているように、そもそも、「ケータイWeb」の世界は、公式サイトモデルで作られ、それが(限られた表示領域の中で)閲覧サイトのURLの常時表示がなく、あまつさえ、おそらくはコンテンツ保護的な意識で確実なURL確認すら不可能にした端末のみを許可し供給するキャリアがある、という状況で発展してきた。ついでにいえば、Webサイトの文字列のコピペとか、view source とかもできないキャリア、端末も少なくない。サイトは信頼されていて、ユーザーは信頼されていない前提でもある。

そして、約一年前の「ケータイWebはそろそろ危険」では、「数件程度のブックマークから直接サイトにアクセスして利用している」という前提が、検索サービスの普及で崩れてきたとしてフィッシング詐欺の現実化を憂慮している。ここで高木さんが例示していないけれどももうひとつ問題にしないといけないのが、「青少年ネット規制」で問題にされた子どもが多いコミュニケショーン系CGMでの問題。あえて実際のサービスをひとつ挙げると前略プロフィール(ここはケータイ専用ではない)では、登録ユーザーはプロフィール中に「My リンク」として自由にURLを書くことが出来る。ページに表示されるのはユーザーがリンク先タイトルとして置いた文字列であって、URLそのものは表示されない。他のCGMサービスではケータイでは外部リンクはケータイからは辿れなくしたり、リンクを辿るのに外部サイトへの遷移のための中間ページを置いてURLを見せる配慮をしているものが多いけれども、前略プロフではリンク先へのダイレクトなアクセスが基本となる。標準の足跡帳(ゲストブック)ではリンクは URL が自動的にリンク化されるスタイルをとっているので事前確認ができるけれども、ゲストブックで前略プロフ内に作った「釣りプロフ」に誘導した上で、そこから悪意のサイト(フィッシングに限らず、ワンクリック詐欺とか、単にアクセスするであろうユーザーの意図とは異なるアダルトサイトとかも含む)に誘導することは可能だ。実際、そういう「釣りプロフ」は以前はいくらでも見られたが、青少年ネット規制の論議の高まりの中で運営会社が方針転換して、出会い系サイトへの誘導などは(他の問題があるものと一緒に)消去するようになったようだ。

「釣りプロフ」程度であれば、実のところ内容がおかしかったりするものも少なくないので、技術的な手当てではなく、プロフとしての個々のコンテンツを判断するリテラシーがあればそうそう引っかかる人は多くないかもしれず、むしろ釣られているのは「エッチな女子高生けしからん」といってる一部の大人じゃないのか説もありそうだが(荻上チキ「ネットいじめ」P.190ではその可能性に言及している)、より高度な偽装もありうるだろうし、コンテンツ判断リテラシーの個人差も考えれば問題ないとはいえない。

そもそも、公式サイトを前提としたケータイ文化隆盛を前提として、ニッチとしての勝手サイトビジネスが生まれ、そこがいつのまにか十分な発言力を持つに至り、さらにはPCサイトで発達したサービスがさらなる市場をケータイに求め、そこで楠さんが述べるように公式サイト・勝手サイト間の競争条件の公平化という文脈でさらに歪んでしまった、というのが現状だろう。検索サービス然り、CGM系サービスの公式サイト化然り。歪んでしまったとはいえ、多くの実ユーザーがいるサービスだから、ケータイからインターネットにアクセスできる機能を止めろとか、子どもはケータイ禁止とか、(表現の自由とかアクセスの自由とか以前に)まったくもって現実的ではない。それは多くの人々のコミュニケーションを奪うことになるし、多大な経済的な損失をもたらす。

ゲートウェイ改修というのは個体識別番号に特化した解決法で、とりあえず急いで提案されるべき話だとは思うが、それはそれとして、中・長期的には、そもそもの公式サイト前提のケータイWebアクセスサービスとそれに特化した端末、そしてそれを前提としたケータイコンテンツサービスといった総体を変えていかないといけないと思う。そして、今はそのチャンスなのかもしれないと思う。

Web屋のネタ帳のiPhoneと携帯契約者固有IDと複アカと青少年ネット規制によるケータイ闇ナベ狂想曲がそれを示唆する。「ケータイ文化」と切れている携帯電話端末は、決してiPhoneが最初ではない。先行して、いくつものスマートフォンが出ている。基本的にアドレスバーの問題はないはずだし、「ケータイ文化」向けのゲートウェイを使うのでなければ、個体識別番号送信の問題はないはずだ。ただ、これまでのスマートフォンはニッチだったし、ネットアクセスという意味ではあまりにもPC然としていたから、ケータイコンテンツサービス的には無視できる存在だっただろう。これが、iPhoneとなると、単一機種が大量に出回り、あるいは出回ることが予想される状況で、話題性も含めてコンテンツプロバイダーとしても無視できないだけのボリュームがある。iPhoneはyomoyomoさんがFSFの批判を紹介しているように決して自由な端末ではないが、日本のケータイ文化の文脈とは縛るところが明らかに異なる端末であって、そうした多様性が日本のケータイ文化を市場を通して揺るがし、コンテンツプロバイダーとキャリアの態度を変えさせることに私は期待している。iPhoneの影響で多くのケータイコンテンツプロバイダーがPC的アクセスを許し、あるいは代替物を提供するようになれば、スマートフォンというジャンル全体がニッチから抜け出ることができるかもしれない。そうやって、日本の「ガラパゴス携帯」が5年から10年ぐらいのスパンでまっとうなネット携帯化していけばいいのではないかと思う。