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契約者固有ID送信義務化規制なしに日本のインターネットが終了する可能性について

2008/07/29

Permalink 00:49:52, by Nobuo Sakiyama Email , 58 words   Japanese (JP)
Categories: セキュリティ, プライバシー

契約者固有ID送信義務化規制なしに日本のインターネットが終了する可能性について

日本のインターネットが終了する日」を読み返しつつ、ここで描かれた最悪のストーリーが『「PCもケータイWeb同様に固有IDの送信を義務づける」という法案が浮上する』ことなく、成立しうることに気づいたので書いておく。

通信技術、とくに公衆移動通信技術というのは、検討開始から標準化、そしてサービス開始してそれが広く行き渡るまで、ものすごく長い時間がかかる。というわけで、携帯電話のネットワークは、やっと3Gが本格化したところで、3.9Gとか4Gとかいった次世代の話の検討が続けられている。インフラにかけたコストの回収に時間がかかるから、4Gは長く3Gと共存するらしいけれども。こうした次世代規格は、これまでの携帯電話と違って IPネイティブになるそうだ。サービス開始するころには、IPv4はとっくに枯渇しているし、おそらくはその他のネットワーク層での進歩を取り込むためにも IPv6 が前提。

一方、別口では、Fixed Mobile Convergence(FMC)といって、固定網と移動網を統合するような話がある。古くは電話的サービスに主眼があったようだけれども、少なくとも現状や今後はそれと同等以上の水準で、Webとか動画配信などのサービスも(現状の携帯電話サービス同様)重視されるだろう。マーケット用語としてはFMCというのはものすごく幅が広いのでとらえようがないのだけれども、とりあえず家庭用途としてはNTTドコモのホームUというサービスがスタートしている(技術的にどんなことになっているかは、ITpro記事が参考になる)。将来ビジョンについては、KDDIが固定網と移動網に、さらに放送(Broadcast)を加えた FMBCというビジョンを打ち出している(Wireless Japan 2008でのKDDI小野寺社長講演のケータイWatch記事ITpro記事)。ホームUのサービスでは、インターネットへのアクセスも、無線LANルーターから普通にインターネットに出るのではなく、VPNのむこうのiモードネットワーク経由のアクセスとなっている。こうすることで、「ケータイ」として物理的なネットワークによらずWebアクセスのたびにiモードIDがつく環境が実現されている。FMCは少なくとも日本ではケータイキャリア主導ですすめられていて、ケータイ的なものを固定網に持ち込むものになっている。また、KDDI社長講演の中身では、端末が携帯電話であることが前提のようだが、FMCというくくりでは、端末が携帯電話である必然性はない。通信事業者は、結局端末で儲けているのではなくて通信やコンテンツサービス、そして認証プラットフォームで儲けているので、ケータイ通信事業者の考える意味でのセキュアな環境がPCの上に作れるのであれば、それもありだろう。極端な話、契約者本人相手に固定網認証専用のSIMはいくらでも発行し(不正譲渡を防ぐ技術的・法的手当がなされていると仮定)、それがノートパソコンや情報家電、そして家庭用ルーターに刺さり、そして機器と利用者はすべて認証されて動く、という枠組は、5年後はともかく10年後となると、ありえない話ではないと思う。

日本の場合、ISPがそもそもものすごくたくさんありますね、という話があり、それが前提であれば、「ケータイを無線LANでもつなぎたい」という程度のFMCはともかく、ケータイ的な前提が固定網を完全侵食するというのはありえないようにも、一見思える。でも、楠さんが先日指摘したように、日本のアクセスISPの多さってNTT法とフレッツサービスが作り出している、かなり人為的なものに過ぎないわけで、そこの制度が変われば、物理的にアクセス網を持っている少数の会社にアクセスISPが収斂されていく可能性がそれなりにあり、そして、移動通信事業者と少数のアクセスISPの関係が濃ければ、ケータイの世界の侵食は、かなり容易なことになるのではないかと思う。ケータイと固定網ISPサービスとFMCが一つの契約で料金安くて他にインターネットに出るためのISP契約が要らない、という状況が仮に生まれたとして、そこであえてFMCしないとか、インターネットのために別のISP契約をするとか、そういう選択は、ごく少数派のものになり、そして日本むけWebサービスがPC向けも含めて契約者固有IDの送信を求める方向に動いてしまえば、「PCもケータイWeb同様に固有IDの送信を義務づける」という法案が無くても、あとはネットワーク外部性で市場の中で「日本のインターネットが終了する」ということは、ありえないことではないだろう。

なお、本稿は仮定に仮定を重ねて最悪のストーリーを考えてみたに過ぎず、必ずこうなるといった話をしているわけではないことに注意。