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「児童ポルノブロッキング」がどんな世界をつくろうとしているのか白日のもとに晒された日

2008/12/09

Permalink 01:45:54, by Nobuo Sakiyama Email , 40 words   Japanese (JP)
Categories: 検閲, 児童ポルノ問題

「児童ポルノブロッキング」がどんな世界をつくろうとしているのか白日のもとに晒された日

タイトルはやや煽りだけれども、アングラサイトではなくてメジャーサイトにブロッキングが適用されたことで、ぐっと話をしやすくなった。日本語だとCNET日本語版に掲載されているWikipediaがイギリスの児童ポルノブロッキングで大ニュースになった件。英語情報は当のWikipediaに集積され、ニュース記事へのリンクも提供されている。

問題は、英語版Wikipediaで長いキャリアを誇るジャーマンメタルバンドであるスコーピオンズのアルバム、Virgin Killer(邦題「狂熱の蠍団 ヴァージン・キラー」)の記事に、オリジナルのアルバムジャケット写真が掲載されていたことから起きた。このジャケット写真は股を開いたポーズの少女ヌードを大きくフィーチャーしたもので、1976年の発表当時から物議をかもしていくつかの国では写真がメンバー集合写真に差し替えられている(日本ではオリジナルのもの)。現在では、新品のCDとして入手できるのは、すべて差し替え版のジャケット。Wikipedia記事では、差し替え問題の説明のために フェアユースとして両方のジャケット写真を掲載している(日本語版ではフェアユースを採用していないので掲載されていない)。

直近の状況としては、これがイギリスのInternet Watch Foundation(IWF)に通報され、ブロック対象になった。イギリスの刑法上の児童ポルノ(indecent photograph of children)の解釈基準では一番レベルの低いところに Erotic Posing というものがあり、これに該当するという判断が行われたと思われる(児童ヌードでも該当しないものはある)。一方、アメリカの連邦法、およびWikipedia財団のあるフロリダ州法では、これは児童ポルノではない。アメリカの児童ポルノの定義では、単体ヌードが該当する場合は限定されていて、ヴァージン・キラーのジャケット写真では、性器そのものは上に被さったガラスのヒビの描写で覆い隠されていて、性器を露骨に描写しているわけでもなく、全身ポーズとしては股を開いているが、性的ななにかを少女にさせているわけでもない。こういうものは法的には児童ポルノとはされない。このジャケット写真に関しては、アメリカ国内の有名な右派ニュースメディアが、児童ポルノだとして警察に対応を要求したことがあった(このメディアは他のWikipediaの記事での性的事項の記述や成人の性器写真などについても批判的である)が、結局のところ警察が動くことはなく終わっている。なお、実児童の写真という前提のもとでは定義が幅広い日本の児童買春・児童ポルノ禁止法には抵触するような気がするので、このブログ記事から問題のエントリへのダイレクトなリンクは行っていない。

いくつか問題があって、アルバムジャケット写真そのものは、「店頭で販売する」という文脈では単なる違法・合法の線引き以上の抑制が働いているわけで、まず売っていないのだが、昔のLPレコードの中古品の売買は普通に行われていて、Wikipediaを運営するWikimedia財団の声明でも、Amazonでイギリスから普通に買えるぞと言及されている。あと、非常にメジャーなところで扱われていたので、Wikipediaに限らず問題の写真を掲載している Webサイトがあるなか、「通報ベース」とはいえ非常に恣意的に見えた、ということはあるだろう。さらに、そもそも問題なのは「写真だけ」のはずが、ここでは当のアルバムを説明している純粋なテキストまでもが児童ポルノブロッキングに適用されたということだろう。イギリスの児童ポルノブロッキングは、URL単位で行うので「画像だけ」というブロッキングが容易だということになっていた。しかし、現実は画像をインライン表示するテキストページもブロッキングの対象になっていることが白日のもとに晒された。「児童ポルノへの対応」のなかでは、商業的児童ポルノサイトなどへの対応で、あきらかに画像のみではなく幅広いブロッキングを要するケースもあるだろう。しかし、この件はそういう問題ではない。「児童ポルノ」ゆえにブラックリストの内容を公表できないという前提のもと、いったい彼らは何をやっているのか、ということだ。ちなみに、イギリスでは最近Criminal Justice and Immigration Act 2008という法律が成立して順次施行の最中で、すでに児童ポルノについては「トレースやその他の派生物」も対象とする拡大が行われていて、来年1月には、extreme pornography として、屍姦ポルノや過激な暴力ポルノ、獣姦ポルノなど(実際のものかどうかは問われない)が単純所持を含めて禁止され、これらもブロッキング対象になるとみられている。

制度的な部分以外では、技術的な問題点もWikipediaでは指摘されていて、ブロッキングに利用されている透過プロキシの速度が十分でないことや、そもそもプロキシとしてサーバー側からは見えてしまう代物なので イギリスの多くのユーザーのアクセスするIPアドレスが数個に集約されてしまっているといったことが挙げられている。後者は「荒らし対策」の側面では最悪で、多くの非ログインユーザーが他のユーザーとIPアドレスで区別がつかないためにWikipediaの編集ができない状態にあるという(HTTPヘッダでクライアントのIPアドレスを通知しているプロバイダは個別救済されているというがそれから外れているプロバイダもあるという)。