日本のネットでヘイトスピーチが規制される現実的なストーリー

2008/12/17

Permalink 00:18:58, 著者: Nobuo Sakiyama Email , 2266 回閲覧   Japanese (JP)
カテゴリ: 検閲

日本のネットでヘイトスピーチが規制される現実的なストーリー

楠さんが私のところを参照して言及したヘイトスピーチ規制の可能性についてなんだけど、少し考えてみたが、やはり、きっかけは人権擁護法案になるのではないかと思う。ただし、人権擁護法案が直接にヘイトスピーチ全般を法規制する、という話ではない。

2003年に廃案になった政府案を参照すると、ヘイトスピーチは「特定の者」へのものと、「不特定多数の者」へのものと大きく二つに分かれている。前者は「人権侵害」の中のひとつで後者は「差別助長行為等」(法案3条2項)。特定の被害者のいないヘイトスピーチに関しては、後者だけを考えればよい。さらに、この中で二つあるうちの2号は3条1項1号の人権侵害を「する意思を広告、掲示その他これらに類する方法で公然と表示する行為」ということで、行為主体がかなり限られる。「業として対価を得て物品、不動産、権利又は役務を提供する者としての立場」において、女人禁制とか外国人お断りとか表示するというのがそれなりに幅広いが、ただ、それは言論として独立に存在するというよりは、普通に考えて行為と一体になっているだろう。そして、3条2項1号は誰でもできる内容だが、「当該不特定多数の者が当該属性を有することを容易に識別することを可能とする情報を文書の頒布、掲示その他これらに類する方法で公然と摘示する行為」というのは普通に考えるとプライバシー暴露とか、規制対象とするのに無意味な情報(性別とか肌の色とか)とかを除くと、ピンポイントに被差別部落の地名の列挙などをターゲットにしているという話でしかない。そして、第3条での禁止は直罰規定があるものでもない。従って、法規制としては、人権擁護法案それ自体はヨーロッパのヘイトスピーチ規制と比べれば相当に弱い。そして、人権擁護法案が永遠に通らないということはないとして、おそらく、このあたりの条文は動かないだろう。

問題はここから。そもそも、被差別部落の地名の列挙などは法務省人権擁護局がすでに対応し、プロバイダに削除要請を行っている(2007年の概要中に具体的記述あり)。現状は、業界の自主規制で公序良俗に反する情報として扱っているということになる。ホットラインセンターも、取扱い範囲外として人権擁護局に転送する対応となっている。まず、これが「違法情報」に格上げになる。法的根拠があれば、ホットラインセンターのレベルで対処する、というのは現実的に考えられるだろう。また、実際に人権擁護法案が成立して法律になれば、何を「公序良俗に反する」と考えるか、という線が書き換えられるというのも、十分に考えられることだ。「違法・有害情報への対応等に関する契約約款モデル条項」が更新され、ホットラインセンターの運用ガイドラインも更新され、となれば、人権擁護法案の厳密な定義はもはや関係なく規制がすすむということになる。プロバイダがそういう方向に積極的に動くとも思わないが、ホットラインセンター関係者に取扱情報の範囲拡大についての野心を隠さない方がいるのはそれなりに知られていることだし、事件などのきっかけがあれば、警察庁は積極的に「要請」を出して「公序良俗に反する情報」の拡大に勤しむのではないだろうか。

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コメント, トラックバック, ピンバック:

コメント: 東方不敗 [訪問者] Email
そのような制度になった場合、ホットラインセンター(なりそれを監督する委員会なり)は各団体の意見を斟酌して「公序良俗に反する情報」というかヘイトスピーチの定義を選択的に決める形になり、結局それらの団体の発言力の大きさがものを言うことになる。

現時点でホットラインセンターや警察庁に強い影響力を持っていて、かつ南京虐殺否定論の非合法化を主張しているような団体というのはちょっと思いつかないが、さて。
Permalink永続的リンク 2008/12/17 @ 03:15
コメント: TAKI [訪問者] Email
>現時点でホットラインセンターや警察庁に強い影響力を持っていて、かつ南京虐殺否定論の非合法化を主張しているような団体というのはちょっと思いつかないが、さて。

韓国サイバー監視団は?
従軍慰安婦のような歴史認識問題で何か言ってきそうだけど。

というか、公序良俗に反する情報は排除していいってなんでそこまで今の公序良俗を正しいと思えるんだろうね。
Permalink永続的リンク 2008/12/17 @ 10:56
コメント: ひびの まこと [訪問者] Email · http://barairo.net/

いつも読ませていただいています。
部分的な直レスのみでご容赦下さい。

> 「当該不特定多数の者が当該属性を有する
> ことを容易に識別することを可能とする情
> 報を文書の頒布、掲示その他これらに類す
> る方法で公然と摘示する行為」というのは
> 普通に考えるとプライバシー暴露とか、規
> 制対象とするのに無意味な情報(性別とか
> 肌の色とか)とかを除くと、ピンポイント
> に被差別部落の地名の列挙などをターゲッ
> トにしているという話でしかない。

 「当該不特定多数の者が」という限定があるので法にあてはまるかはやや微妙ではありますが、「●●は元男だ」「△△はホントは女だ」というのは、トランスジェンダーに対する典型的かつよくある攻撃の一つです。なので、私は「性別はプライバシー。性別は個人情報。勝手に人の性別を決めつけたり、勝手に『男扱い/女扱い』したり、暴露/アウティングするのは許されない」とか主張したりもします。
 そして当然、同じくトランスジェンダーではない人(シスジェンダー)の性別の開示・暴露も、プライバシー侵害になります。「○○はトランスジェンダーではなく、本当に男なんだ」とかね。
 同様に肌の色も、人種的少数派のパス/リードの問題とか、ダブル/混血の人のアイデンティティーの問題とかを考えると、「人権擁護法の観点」から考えるのであれば、「規制対象となるべきプライバシー侵害」かと思いますが、いかがでしょう。
 ただ、そもそもそういうたぐいのプライバシー侵害などの人権侵害を(法的裏付けの有無にかかわらずそれがプライバシー侵害で人権侵害であることは間違いありません)法で規制して違法化するのがイイのか悪いのか、という点では、丁寧に考えないといけないと思いますし、その点このブログはいつも参考にさせていただいています。
Permalink永続的リンク 2008/12/18 @ 11:55

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