アーカイブ: 2009

2009/08/30

Permalink 16:07:36, 著者: Nobuo Sakiyama Email , 1661 回閲覧   Japanese (JP)
カテゴリ: プライバシー, 検閲, 情報社会, 著作権

高木さんがMIAU非難にノリノリな件

高木浩光さんがMIAUについての所感という日記記事を書いていて、その前後からはてなブックマークでも、ノリノリでMIAU叩きをしていて、そもそもMIAUとして何も意見表明していない楽天ad4Uの件までもMIAU叩きに使っているという状況になっている。ブックマークの件はとりあえず置いておくとしても、日記記事については、誤解や、人が組織を作って活動するということについての根本的な無理解があるのではないかと思うので、コメントしておく。

まず、「ダウンロード違法化」の件。一般には簡単に「ダウンロード違法化」と呼ばれているけれども、中身は、著作権の制限としての私的複製から(音楽と映画について)「著作権を侵害する公衆送信からの私的な複製」を除外するという話だ(実際にはもう少し限定する条件がつく)。そもそも著作権というのは有体物の所有権と比べると非常に人工的に作られてきた権利で、権利者と利用者の間でどうバランスをとるかという問題がそもそもある。ダウンロード違法化というのは、「私的複製」という、個人の利用者にとっては非常に大きな、かつ長らく確立されてきた領域を犯すものだから、利用者立場の団体が、それ以上の「具体的な弊害」に言及することなく批判するというのは、ポジショントークとしては当たり前だと言える。法案審議に関係したロビイングの中で具体的な修正案も用意したけれども、与野党の交渉に乗ることすらなく消えたものを具体的に公表することが、今まさにフェアユースなどの利用者側の利便を高める方向の検討が行われている状況で適切かどうかどうかという問題がある。まぁ、それでも、先日の小倉弁護士との勉強会で口頭で言っちゃっているので簡単にふれておけば、国外サイトの判断について日本の著作権法をあてはめて判断する(=現地では著作権の制限の範囲で合法でも違法公衆送信として扱う場合がある)という点と、権利者団体によるLマークの普及で「合法と信じられるサイト」のホワイトリスト的なものが形成されそれ以外のサイト(必ずしも違法ではない)の利用を抑制・抑圧するような社会規範が作られかねないという点から、それぞれの弊害を低減するような修正案を書いた、というぐらいのことは述べても問題ないのかな。

児童ポルノ単純所持の問題だけれども、そもそも、Winnyはそんなに大きい問題なのだろうか。もちろん、個々の被害者にとってみれば甚大な被害であることは間違いないけれども、現状、ググるだけで児童ポルノDVD販売サイトや児童ポルノ動画配信サイト、そしてそれらの広告ブログが大量にみつかり、それらのサイトでサムネイル画像という形で児童ポルノ画像が公衆送信されている。インターネットホットラインセンターへの通報で摘発につながっていると思われるケースもあるけれども、少なくとも、警察主導で根こそぎ摘発・閉鎖に追い込んでいるという状況はない。動画配信サイトで摘発されて大きく報道されたケースもあるけれども、摘発当時の報道からこれと推測されるサイトは、予告をしてから名称とドメインを変更する、ということを複数回行うという形で存続しているし、ドメイン変更が決済業者による規約違反に基づく契約解除だとされている点や、サムネイル画像未公表の「VIP専用」コンテンツの説明文に児童ポルノと疑わしい内容があることから、問題の摘発は末端の人間を捕まえただけに終わった可能性が高い。高木さん自身が公表されている Winny利用者数を考えても、Winnyのほうが深刻、と断言できる状況でもなく、技術的にも法的にも(撮影者が特定・検挙され児童が特定され有罪判決で確定しているものに該当性判断の上の困難はないはず)難しい点は何もないであろう Web ベースの児童ポルノ公衆送信を、まずは物量かけてきっちり取り締まれ、という議論をすることは、Winny を持ち出して非難されるいわれはないと思う。

ストリートビュー問題について。まず、プライバシー問題一般については、単純に現状のMIAUにリソースがないという問題はあり、いったいよちよち歩きの小規模団体に勝手な期待をしたあげくにそれをはたせないからと非難というのは、なんだかなという感じがする。極端な話、高木さんがネットのプライバシー問題をやりたいからとMIAUにコミットするという手はあったと思うよ。ノリノリに叩くポジションをとられた今となっては無理に見えるけどね。

そして、ストリートビューの問題だけれども、そもそも、MIAUというのは「インターネットユーザー」の利害を政策に反映させようということで作られた人工的な組織だ。当たり前のことだけれども、全生活がインターネット利用そのものであるという「純粋インターネットユーザー」というのはどこにもいない。人は、禄を喰むための仕事をしたり、あるいは学生なら勉強をしたり、ネットとは別に生活空間の暮らしというものが当たり前にある。そして、ネット以外の部分の利害反映については、既存の団体がいくらでもある。ストリートビューのプライバシー問題というのは、そのほとんどはインターネット利用ではなく生活空間上の問題だから、そもそもMIAUという枠組で何か言うべきなのかというと、言うことがないというのは、ごく自然なことだ。それでも、MIAUはストリートビューのシンポジウムを開いて注意喚起の火付け役の一翼を担った。その結果として、中川氏が総務省のWGに呼ばれた。彼と私ではストリートビューそのものの評価は異なり、たぶん私のほうがネガティブだが、中川氏は「ネットユーザー目線」を期待されて呼ばれたのであって、期待された役割は果たしたのだと思う。

ストリートビュー問題を含むパブリックコメントには、結果としてストリートビューへの批判が集まり、それを受けて総務省が対応を要請へ、という流れになっているけれども、それはそれで、「ネットユーザー目線」以外の意見が集まってよかったですねというところだと思う。細かくいえば、総務省に権限あるのかとか、権限が仮にないとして権限を持たせるのが適切かどうかというのは、別途検討が必要だろうし、あるいは、グーグルが要請に対応するとして、パブコメで強く指摘されていた差別や誹謗中傷目的のグーグルマップサービス(ストリートビューに限定されないだろう)の二次利用について、利用規約で制限をかけ、規約違反二次利用による著作権侵害としてあちこちの CGMサイトに削除依頼を出していくということになった場合、その運用が行き過ぎにならないかどうかは、気になるところではある。

2009/06/28

Permalink 14:30:30, 著者: Nobuo Sakiyama Email , 6660 回閲覧   Japanese (JP)
カテゴリ: プライバシー, 検閲, 通信傍受, 言論・表現の自由, 児童ポルノ問題

あなたにも分かる児童ポルノ単純所持処罰化の未来

前ふたつのエントリ、児童ポルノ禁止法改正に関して、 ブロッキングが拡大する危険性と、通信の秘密が大幅に侵される危険性について書いてみたのだけれども、長くて読みにくいよ、ということらしいので、両方合わせてもっと簡単に書くことにした。簡単に書くので仮定が入ってるってことやロジックの飛躍が出るけど、それはそういうものだと思ってね。あと、微妙に新しく気づいたネタも少し入れます。


児童ポルノ禁止法の自公案は、附則で「インターネットを利用した児童ポルノに係る情報の閲覧等を制限するための措置」の技術の開発の促進というのに言及して、三年後改正で技術開発の状況をみて、「必要な措置」つまり義務化を法改正で盛り込みたいっていっていて、これがトンでもなくヤバい。この技術的制限、というのが、一般には「児童ポルノブロッキング」と呼ばれている。

それから、国会質疑であきらかになったように、自公案の目的は、児童の被害を防ぐことではなく、「ペドファイルとのたたかい」だ。これもヤバい。

まず、自公案でも民主案でも同じなのだけれども、改正後の摘発には、必ず「ケータイ児童ポルノサイトの利用者の摘発」が含まれてくる。だって、ケータイってドコモとかAUとかソフトバンクのシステムの中に、Web閲覧履歴が残ってるんだもの。これをURLベースで総ざらいするのって、技術的には簡単だし、令状はきっと出るよ。

次は、「ケータイだと徹底して取り締まれるのにPCだと取り締まれない」という不満の声が警察から出るよ。一部マスコミも同調するよ。そのころには、ブロッキングが現実の日程に入ってきているので、「PCからのWebアクセスも全部ISPでログ取れ」という話になっていたりするだろうよ。ブロッキングのシステム構成によっては、これは簡単。

同時に、「ペドファイルとのたたかい」の「国際標準」にあわせろという声として「未遂・予備」を取り締まれという話になるよ。「自己の性的好奇心を満たす目的」が認定できれば、例えばブロッキングされてばっかりで一枚も児童ポルノを入手できていなくても、逮捕すべき、という議論だ。FBIおとり捜査とかって、そういうことだし。そういう面も、「全部ログ取れ」の主張を補強するし、ブロッキングされて児童ポルノを入手しなかったからといって安心できず、むしろブロッキングされたらそのうち警察から人が来て捜索・逮捕がおかしくない、ぐらいになるよ。

そして、そもそも、ブロッキングって憲法的にどうなの、みたいな話、推進派のひとたちは、問題だと思ってないみたいだよ。「児童ポルノはとっても悪いからやれ」とは言っていても、「原則ダメだけど、児童ポルノだから例外」とは言ってないみたいだよ。

ブロッキング推進派のひとたちは、被害児童の人権だけじゃなくて、「社会的法益」もよく言っているよ。でも、社会的法益でブロッキングしていいなら、児童ポルノだけじゃなくて、創作物はもちろん、あちこちのオトーサンが楽しんでいたりするカリビアンコムとかの海外無修正ポルノサイトだってブロッキングしていいっていう話になるよ。海外無修正ポルノサイトを見たりそこからダウンロードしたりすること自体は、今は違法性を帯びないけれども、刑法改正でそのへん微妙になってくるし、その延長の法改正が提案される可能性もあるよ。

で、今の関税法の輸入禁制品の一覧をみるとわいせつ物輸入を禁止しているのは「公安又は風俗を害すべき」物品というカテゴリーだから、そもそも、「違法コンテンツ」ですらないものだって、法的に海外からの流入を阻止してもいいっていう議論は必ず起きて、エロ以外にもブロッキングの対象は広げられる危険はあるよ。

ここまで全部の話、憲法の表現の自由とか通信の秘密とか、いったいどこへ行ったんだ、って感じだけれども、暴走されたら日本の裁判所が「法令違憲」と言って仕組を全部吹っ飛ばす可能性は、たぶんないよ。コンテンツ単位の「適用違憲」はありうると思うけどね。

Permalink 02:28:24, 著者: Nobuo Sakiyama Email , 2700 回閲覧   Japanese (JP)
カテゴリ: プライバシー, 検閲, 通信傍受, 児童ポルノ問題

児童ポルノブロッキングで黄昏ていくであろう通信の秘密

いよいよ始まった児童買春・児童ポルノ禁止法改正案の審議、いきなり最初から、自公案の提案者の葉梨議員が、いろいろと飛ばした発言をして話題となっているけれども、ここで注目したいのは、彼が連呼した「ペドファイルとのたたかい」という言葉。枝野議員が軽くツッコミを入れていたけれども、これはとても重要なポイント。実在の児童への人権侵害という「罪」を憎むだけでは足りず、内心において「ペドファイル」であれば、外部にいかなる影響を与えていなかろうと、社会から排除していこうという姿勢だ。これは、日本のみの話ではなく、米国や英国で先行している話であり、「創作物規制」の検討というのはそういう文脈で出てきていることは、この問題に一定の関心があれば、規制強化に賛成側であろうが反対側であろうが、気づいている人が多いのではないかと思う。

で、「ペドファイルとのたたかい」の強化の方向性は、もちろん、禁制品の定義の拡大だけではない。米国刑法典の児童ポルノ処罰の条項では、未遂・予備や共謀も、既遂と同等の罰則が定められている(連邦法では「単純所持」を問えるのは管轄上ワシントンD.C.やその他の直轄地域などの特別な場合に限られるが、州間ないし外国からの取得はカバーされている)。参考人質疑で保坂議員が共謀罪に言及したのはこれが念頭にあったと思われるが、いまいち参考人の前田教授に伝わりきらずにピントが定まらない返事が返ってきた。今回の改正の範囲ではなくとも、罪を憎むのではなく人を憎む方向を肯定するのであれば、将来の改正において、共謀はともかくとして未遂・予備を対象に含める動きは出るだろう。関税法による児童ポルノ輸入罪では、すでにこれらはカバーされている。こういうありうる将来がいかなる結果をもたらすか、というのがこのエントリーのテーマだ。

自民党案であれ民主党案であれどちらでもいいのだが、改正が成立したとして、いかなる児童ポルノ取得が実際に摘発されていくのか、ということを考えた場合、そのうちのひとつには、間違いなく、携帯電話向けサイトが含まれるだろう。摘発例として、「さくらんぼ女学院」という名称のサイトに関するものが報道されたが、そういう類のものだ。

そもそも、携帯電話でのWeb閲覧は、通信の秘密というものが非常に弱い。いわゆるケータイの世界では、Webのアクセスはすべてゲートウェイ経由となっている。そして、アクセスしたURLは、すべてログに残る。例えば、NTTドコモの「iモードアクセス履歴検索サービス」は、要申し込みのサービスだが、申し込んだ時点で「31日前まで」の履歴を閲覧することができる。つまり、申し込んでいなくても最低限それだけの履歴は蓄積されているということだ。こうした履歴は、もちろん契約者本人以外に開示されることは原則としてないが、警察が捜査令状を持ってくれば、もちろん開示する。NTTドコモの場合、プライバシーポリシーにも明記されている。報道でも、事件がらみで携帯電話のサイト閲覧履歴に言及されることは、少なくない。

ここに、仮に携帯電話向け児童ポルノ配信サイトがひとつあって警察がその存在を認知し、配信元が国外などで強制捜査やそれに基づく情報入手にやや困難があったり、あるいは配信元の摘発前に閲覧者情報を集めておきたいと考えたら、どうするかといえば、「被疑者不詳」の児童ポルノ単純所持、ないし有料・反復取得の事件として、サイトURL閲覧者一覧を得るような捜査令状を請求するのではないか。そういう網羅的な令状を許可する裁判官はおそらくいるだろうし、携帯電話事業者も、最初こそ問題視して不服申し立てをするかもしれないが、おそらく通らず、次からは素通しということになるだろう。そして、必要な一覧を生成するデータベース操作は、難しくない。そうして得た一覧から、例えば有料エリアのURLをアクセスしているとか、あるいは繰り返しアクセスしているとか、そういう端末の利用者を摘発していくということになる。萎縮効果を狙って、捜査手法は捜査の差し障りにならない程度に発表され、そして「ケータイからの児童ポルノサイトアクセス」は激減していく。

ここまで、まだ児童ポルノブロッキングは出てこない。しかし、発表のタイミングは、まさにブロッキングの導入の是非の議論が本格的になっている段階で行われるだろう。それは、児童ポルノブロッキングの「方式」をめぐる議論に影響を与えるためだ。

児童ポルノブロッキングで、すでに外国で導入されているものでメジャーなのは、DNSポイズニングと、ハイブリッドフィルタリングだ。DNSポイズニングは、ホスト名単位で児童ポルノサイトについて嘘のIPアドレスを返すようにする方式。ハイブリッドフィルタリングは、まずはホスト名からIPアドレスを返すところまでは真正のもので、その後、児童ポルノサイトや画像を含むホストへの経路を曲げ、透過プロキシーサーバを通し、そのプロキシーサーバでURL単位でフィルタリングを行う。DNS単位のブロッキングは、無関係なものもブロックしてしまうオーバーブロッキングが起こりやすい。しかし、DNSの問い合わせは、通常の運用ではログは残らない。また、残ったところで、それと「児童ポルノサイトへのアクセスの意図」との結びつきを証明するとも言い難い。一方、ハイブリッドフィルタリングの場合、プロキーシーサーバを通ったものは、通常の運用でログが残る。ただし、事前にIPアドレスで振り分けられている。

ハイブリッドフィルタリングが用いられている背景は、対象サイトが少数という前提の場合、全ユーザーの全HTTPトラフィックをプロキシーサーバーに通すよりも、設備投資の面で合理的だということにある。しかし、やっていることは複雑だから、例えば3号児童ポルノが現行法どおり残ることになって海外合法サイト多数をブロッキング対象から外せなくなり、さらに創作物が加わって、ということになって対象サイトが多くなりそう、ということになった場合、どこまでコスト面の優位性があるかは不透明だ。ISP内で経路をルーティングするルータ上に、細かいIPアドレス1つずつをプロキシーサーバに通す経路情報を加えていくと、性能上の問題が出る場合がある。IPアドレスをブロック単位でまとめるようにすれば、プロキシーサーバの性能強化が必要になる。いっそのこと、ユーザーのアクセス線から近いところに比較的安価な機器をたくさん置いて、全トラフィックをフィルタリングしたほうが楽、という話が出てくるかもしれない。そうしたタイミングで「全トラフィックのログがあったほうがペドファイルとのたたかいに望ましい」という議論が出てくる可能性がある。 全トラフィックのログがあれば、例えばサイト通報でブラックリストにサイトを追加したさい、今後のアクセスをブロックするだけではなくて、遡及的にログと突き合わせてアクセスした人物を特定していくことができる、といった議論だ。もちろん、「スマートフォンやPCが、ケータイから逃げたペドファイルの居場所になっている」という掛け声がついてくる。また、「未遂・予備」が処罰対象になると、ブロッキングの意味合いも異なってくる。そうしたものが処罰対象でなければ、ブロッキングには、「ユーザが違法行為を犯してしまうことから守る」というパターなりスティックな効果もあるのだが、未遂・予備罪のある状況では、ブロッキングされたということは、自らが捜査対象となる覚悟をしなさい、という話になる。

そして、ユーザーの全HTTPトラフィックがプロキシーサーバ経由となり、すべてログをとられるようになれば、そのログの捜査令状が児童ポルノ捜査目的のみということはおそらくなく、あらゆる犯罪捜査目的に「活用」されていくだろう。こうして、私たちの「通信の秘密」は、大幅に損なわれていく。これは、ありうる未来のひとつだと、私は思っている。

2009/06/26

Permalink 04:07:42, 著者: Nobuo Sakiyama Email , 2975 回閲覧   Japanese (JP)
カテゴリ: 検閲, 通信傍受, 児童ポルノ問題

Great Firewall of Japan が構築される可能性について

今回書く内容には、あえて物騒なタイトルをつけた。これは、ひとつの論理的な可能性であって、私が具体的な動きを認知しているわけではない、というのは念のために冒頭で述べておく。

6月26日から、児童買春・児童ポルノ禁止法改正案の審議が始まる。与党案と民主党案の間に大きな開きがあり、明らかに衆議院解散が近く、その後の議会構成が大幅に変わることが分かりきっている状況、そして、犯罪を新設する重い法案であり、かつ、憲法上の問題もクリアにしておく必要がある、ということを考えれば、強行採決→再可決による与党案成立、というのを、反対運動の人々の力で「今国会で」阻止することは不可能ではないだろうし、与党と民主党との修正案を含めた妥協の成立を時間切れに持ち込むこともまた、可能性はなくはないだろう。ただ、ざっくり言って、それを永続化できるかといえば、結構厳しいんじゃないかとは思っている。

ネットの問題を考えるさいに本当に悩ましいのはその先、で、すでにいろいろ話題となっている「児童ポルノブロッキング」の問題だ。ブロッキングは、ユーザの HTTP でのISP外への通信すべてについて、根こそぎ調べて「児童ポルノとして登録されたサイト/URLか」を判断するわけで、児童ポルノに関係あろうがなかろうが事実上すべてのネットユーザに関係する問題であり、個人的には、そのような通信への介入は基本的人権という面で到底受け入れがたいし、技術的にも問題が多く、無関係のはずの多数のユーザの利用に悪影響を与えると思っている。後者については、MIAUからの総務省報告書へのパブコメでかなりの内容を突っ込んだかいもあり、「ブロッキング」のフィージビリティが今後調査されるさいのハードルをかなり上げることができたのではないか、と思っている。とはいえ、ブロッキング導入派の熱心さはおそるべきものがあり、はたして、数年後の日本のISPがおしなべてブロッキングを導入するはめに陥っているか、あるいは一部ISPにとどまるか、はたまた「無かったこと」になるかは、まったく読めない。ここで重要なのは、ブロッキングが導入されるかどうか以上に、ブロッキングとユーザの権利との関係が、いかなる形で決着されるかだ。

日本の憲法には「通信の秘密」があり、また電気通信事業法にも「通信の秘密」があり、これらは篤く保護されてきた。もっとも、例外はあり、1999年に通信傍受法が成立して実際に使われている。私自身は、通信傍受法は違憲だとずっと思っているけれども、最高裁判所が違憲判断を出す現実的な可能性はない。ただ、通信傍受法の成立に至る過程で、これは極めて例外的な基本的人権の制限だということから、実施は厳格な制限のもと行われる枠組となっているし、適用犯罪の拡大も、今のところはないとは言える。

ところが、ブロッキングについての推進派のここらへんへの主張はというと、ゆるゆる、だ。単純所持禁止などの法案が国会に出て成立、というのを待たずに話が出ていることもあり、現行法のもとで可能、という議論をしている。そして、児童ポルノ拡散の害悪がブロッキングの必要性として縷々語られるが、ユーザの権利との関係について、「原則ダメだが児童ポルノという特別なものだから例外的に優先」というロジックは、見られない、ないし希薄だ。「原則ダメ」とは言っていない。とくに、児童ポルノ拡散の害悪について、社会的法益の面が強く語られるというのが問題で、それなら児童ポルノでブロッキングできるのなら、他の「重大な社会法益」を理由としたブロッキングもできるだろう、という議論が、児童ポルノ関係以外のところで起こる。そういう話を始めている人達はいるらしい。単純所持規制の導入を前提に、児童ポルノに架空の創作物を足したいという議論が広く行われているが、ことブロッキングについてはそれで止まるのかね?ということだ。

ポルノといえば、児童ポルノや「児童を描いた創作物ポルノ」に限らない。犯罪の国際化及び組織化並びに情報処理の高度化に対処するための刑法等の一部を改正する法律案という内閣提出法案がある。これは巨大な法案で、その一部が「共謀罪法案」ということで、野党の大反対があり、過去の国会では審議が行われたこともあったが、「ねじれ国会」を反映して実質審議が止まっている。法案の性質上、衆議院再可決で強行するのは無理筋で、普通に考えて、衆議院解散で廃案になるだろう。ただ、与野党で意見対立があるのは、共謀罪のほか、サイバー犯罪条約関連での電磁的記録の保全や差し押さえ、通信ログの保全などで、サイバー犯罪条約関連での野党の要求は手続きの厳格化やログ保全日数の短縮で、完全反対論ではない。総選挙後の国会で、共謀罪を切り離した法案が提出されれば、遠からず成立するだろう。この法案に、次のような条項がある。

第百七十五条中「図画」の下に「、電磁的記録に係る記録媒体」を加え、「、販売し」を削り、「又は二百五十万円以下の罰金若しくは科料に処する」を「若しくは二百五十万円以下の罰金若しくは科料に処し、又は懲役及び罰金を併科する」に改め、同条後段を次のように改める。

電気通信の送信によりわいせつな電磁的記録その他の記録を頒布した者も、同様とする。

第百七十五条に次の一項を加える。

2 有償で頒布する目的で、前項の物を所持し、又は同項の電磁的記録を保管した者も、同項と同様とする。

犯罪の国際化及び組織化並びに情報処理の高度化に対処するための刑法等の一部を改正する法律案

「情報処理の高度化」に対応するために、刑法のわいせつ物頒布、公然陳列の罪について、現在は「物」有体物にこだわっているところ、「電磁的記録の頒布」という概念を持ち込もう、というものだ。この法案が最初に出たころ言われたのは、「メールマガジンでのポルノ画像の頒布を対象にできる」といったことだ。現在の法解釈では、例えば「Webサーバのハードディスク」が公然陳列されている、という判断となっている。電子メールの場合、個々のメールは個別のユーザに送られていて、公然陳列されているハードディスクはない。物を送ってないから、頒布でもない。これが、「電磁的記録の頒布」となれば取り締まり可能だと言われている。もっとも、すでに取り締まられて法解釈を争ってないケースは世の中あるのかもしれないが。

で、それで止まるかというと違う可能性がある、と考えている。海外にWebサーバを設置して、日本では「わいせつ物公然陳列」となるような映像配信サービス、というのを日本に対して行っている事業は現実にある。これを、日本在住の人間とか日本法人がやれば罪に問われるが、そこは迂回して「合法的」にやっているというやつだ。ビデオリサーチインタラクティブのデータの上位にも、そういうサイトはある。これは、今は国外の会社が国外で勝手にやっているものを、日本在住者が見に行っているだけ、だ。「公然陳列」の場所は日本の主権の及ばない国外であって、実行行為のどこも日本に関係なければ、日本が犯罪に問う対象ではなく、それを日本在住者が電気通信で受信しているだけだ。これが、刑法が改正されると、「わいせつな電磁的記録が日本国外から日本国内に頒布されている」という形で、問題化しやすくなるのではないだろうか。次のステップは、「わいせつな電磁的記録の輸入の禁止」だ。現在、「わいせつな写真集」や「わいせつなDVD」を、貨物として国内に輸入しようとして税関検査で発覚すれば、よくて放棄させられ、悪ければ罪に問われる。これは、関税法の「輸入してはならない貨物」に「公安又は風俗を害すべき書籍、図画、彫刻物その他の物品」とあるからだ(児童ポルノは別扱い。なお、昔は関税定率法だったので、そちらで覚えている人も多いと思う)。関税法の枠組は貨物という有体物のためのものだから、その中で「電気通信の受信によるわいせつな電磁的記録の輸入の禁止」を行うことは、およそ考えられない。しかし、輸出入の規制を行う法律は関税法に限らない。外国為替及び外国貿易法(外為法)では、対象となる貿易取引は有体物に限定されていない。外為法にわいせつな電磁的記録の輸入の禁止を入れるのは無理筋のようにも思うが、国境を越えたデータのコピーを輸出入として扱う法的枠組はすでにあるのだから、「わいせつな電磁的記録の輸入の禁止」を定める法律を技術的に作れないとは思われない。なお、最近のWIRED VISION記事にあるように、アメリカではわいせつなデータの州をまたぐやりとりは違法であり、これは条文をみると国境をまたぐ場合も同様だ。

ここまで想像を広げて話を戻すと、社会的法益を理由として「わいせつな電磁的記録の輸入の禁止」が定められた場合、すでに「児童ポルノブロッキング」が導入されていて、そこに「原則ダメだが児童ポルノという特別なものだから」というロジックが欠けていた場合、「わいせつな電磁的記録」もまたブロッキングの対象に加えるという提案に、抗することができるのだろうかというと、難しいだろう。また、関税法をいま一度見れば、そういう拡大が「公安又は風俗を害すべき」電磁的記録へとさらなる拡大を呼び込むこともまた、可能性としてはあるだろう。また、詳細はここまで論じていないが、ブロッキングを実施するとなれば、方式によって程度は異なるが、ユーザの閲覧履歴がISPのサーバにログとして残る。このログは、捜査当局の保全・差し押さえ対象となることにも留意したい。ここまで至れば、「児童ポルノブロッキング」と呼んでいたものは、Great Firewall of Japan へと変貌をとげる。

ここまでの話、ワーストケースとして考えてみたのだが、しかし、ブロッキング対象の拡大という話は、すでにブロッキングが導入されているヨーロッパの国では現実のアジェンダとしてあがり始めている。児童ポルノブロッキングは、こうした全面的な検閲体制への一里塚になる可能性が十分にあるから、なるべくなら阻止すべきだし、仮に阻止できなくとも、きっちりと児童ポルノに限定されるような形にする必要がある。

2009/05/16

Permalink 22:12:14, 著者: Nobuo Sakiyama Email , 2889 回閲覧   Japanese (JP)
カテゴリ: 検閲

「レイプレイ」叩きに見るポリシーロンダリング(3、止)

長いので分けて書いてきた本記事ですが、 その1その2ときて、この記事はその3になります。

ここまでの要約: 「レイプレイ」が最初にイギリスで叩かれたタイミングは、児童の性描写を含む創作物のうちわいせつなものの単純所持を禁止する法案の集中審議の直前で、同時に暴力ポルノの一部の単純所持禁止も開始され、かつ範囲拡大に向けた動きがあり、後者に深く係わった法学者はラディカル・フェミニズム系の反ポルノ運動の系譜にあり、ラディカル・フェミニズム系の反ポルノ運動の代表的な存在のCatharine MacKinnonや、Equality Nowともつながりがある。

さて、Equality Now のそもそものスタンスなのだけれども、まず、Equality Now ではThe Lawyers’ Alliance for Women (LAW) Projectというのをやっていて、「女性の平等権の推進」のために、法改正を求めることを含めて「法を使っていく」というのをやっている。このプロジェクトの共同代表のひとりに、前述のCatharine MacKinnonが就いている。また、LAW Project自体は 2001年からだそうだが、その活動のひとつとされるAmicus Curiae Briefs提出の項の先頭で書かれているのは、LAW Project開始から遡る2000年、カナダのLittle Sisters Book and Art Emporium v. Canadaという最高裁判決への貢献となっている。この判決について説明するには、さらに1992年に遡って R. v. Butler(バトラー判決)という別のカナダ最高裁判決から説明する必要がある。この判決は、わいせつ物規制を「モラル」を理由として行うことは表現の自由を侵害するものとして違憲としつつも、わいせつなポルノは平等権侵害となるのでそれからの保護としての規制は合憲である、というロジックで、わいせつ物規制を肯定したものとされている。ただ、バトラー判決では、具体的には異性愛ポルノについての事件となっていて、直接には「男女平等」を害するという話になっていた。一般に、この判決は、わいせつ性判断において性暴力を大きく考慮する傾向をもたらしたこともあり、反ポルノのフェミニズムのうち、法的規制を肯定する立場の人々にとって、大きな勝利とみなされている。さて、次に Little Sisters Book and Art Emporium v. Canada である。こちらは、同性愛者向けの書店が、アメリカからの書籍輸入を税関で(しばしば)差し止められたものについて、表現の自由を侵害していると国を訴えたものだ。同性愛者むけ書店なので、ここで問題になるのは女性むけのレズビアンポルノグラフィや、男性むけのゲイポルノグラフィになる。より具体的には、SMポルノグラフィが問題となった。判決は、バトラー判決はジェンダー中立だとして規制を合憲だとした。この裁判でEquality Nowは国側を支持する Amicus Curiae Brief を出した。提出されたものそのものは探し出せていないのだが、Equality Nowの年次レポートの2000年版には次のようにある。

From Equality Now’s Factum to the Supreme Court of Canada: Equality Now submits that lesbian and gay male pornography, including sadomasochistic pornography, promotes inequality-based harms, no less than does hetereosexual pornography. Specifically, this material advances and promotes self-hating, aggressive, violent, non-consensual behaviour as positive, normal and liberating. In so doing, it reinforces those social attitudes and behaviours that create systemic inequality on the basis of sex and sexual orientation— misogyny and homophobia alike—by sexually conditioning lesbian women and gay men to those attitudes and practices. The result is harm to individuals who are rendered inferior, vulnerable and unequal on the basis of their gender.

EQUALITY NOW: ANNUAL REPORT 2000

私には、「同性愛者が自身の性的指向に沿ったポルノグラフィを閲覧すると、それがよからぬことを助長して、その結果として社会の同性愛嫌悪が強化されるから有害である」という主張は、およそ転倒したロジックにしか読めないし、そもそもこれ自体が同性愛者をかなりバカにした主張のように読めるのだが、とにかくこの主張のほうをカナダの最高裁は採用した、ということになる。そして、Equality Nowが、行為者の合意にかかわらずSMポルノグラフィをどのようにみているか、よく分かる内容でもある。彼らにとって、「性暴力ポルノ」は、強姦描写にとどまらず、十分な合意があっても、SMポルノグラフィは性暴力ポルノとなる。というか、もっと言えば彼らのスタンスでは、BDSM自体が性暴力として否定されるべきなのだろう。英語版 Wikipedia で Sex-positive feminismや、Anti-pornography movementといった項目に、フェミニストの間でのスタンスの違いについて簡単に書いてあるが、詳しい話は書籍にあたることになるのだろう(たぶん、Macskaさんとかは専門なので詳しい)。

さて、で、レイプレイ叩きの話に戻ると、Equality Nowはニューヨークが本部だけれども、ロンドンにも事務所がある。Wikipediaによれば国際研究センターとヨーロッパでの拠点だそうだが、こういう場所を持っていることで、イギリスの規制強化の流れとの連携も可能だろうし、ネットや一般的な報道以外にもいろいろ聞いて自分達のアクションにつなげた可能性もあるだろう。Equality Now の幹部の一人が角田由紀子弁護士だからって、彼女とAPP研のジサクジエン説をとなえて安心する人達は、ややポイントを外しているのではないかと思ったよ。

Permalink 20:02:38, 著者: Nobuo Sakiyama Email , 3212 回閲覧   Japanese (JP)
カテゴリ: 検閲

「レイプレイ」叩きに見るポリシーロンダリング(2)

前の記事の続き。

イギリスでレイプレイについて騒いだ国会議員の発言をみると、「子ども」よりも「性暴力」に重点があるようにも見える。イギリスではextreme pornography という形で、過激な暴力ポルノなどの単純所持が違法化されたことは施行直前の去年の時点でも言及したのだけれども、それが今年に入って施行されている。ところが、ここで付け加えるべきことがあって、この文章では、ここまで「イギリス」と書いていて、これは日本語の通常の意味ではUnited Kingdom全体を差すのだけれども、イギリスは名前のとおり「連合王国」なので、法体系が複数あったりする。一般論では、イングランドとウェールズでひとつ、北アイルランドでもうひとつ、スコットランドで三つめ、となっている。詳しくはWikipedia英語版の記事をみてもらうとして、とりあえず、ここで話題にしているような刑罰法規については、北アイルランドはイングランド・ウェールズとほとんど一緒(両方とも連合王国議会が決めるので、新しい法律は基本的に一本の法律で書く)なのに対して、スコットランドは独自性が高い(スコットランド議会が別途決めているし、そもそも大陸法の要素が強いそうだ)。ということで、スコットランド版の extreme pornography 禁止は、今年の3月にスコットランド議会に提出された法案、Criminal Justice and Licensing (Scotland) Billの34条になっている。この中身は、ややイングランド版とは異なる。イングランド版では

63 Possession of extreme pornographic images
(7) An image falls within this subsection if it portrays, in an explicit and realistic way, any of the following—
(a) an act which threatens a person’s life,
(b) an act which results, or is likely to result, in serious injury to a person’s anus, breasts or genitals,
(c) an act which involves sexual interference with a human corpse, or
(d) a person performing an act of intercourse or oral sex with an animal (whether dead or alive),
and a reasonable person looking at the image would think that any such person or animal was real.

Criminal Justice and Immigration Act 2008 (c. 4)

となっているところ、スコットランドの法案は

(6) An image is extreme if it depicts, in an explicit and realistic way any of the following—
(a) an act which takes or threatens a person’s life,
(b) an act which results, or is likely to result, in a person’s severe injury,
(c) rape or other non-consensual penetrative sexual activity,
(d) sexual activity involving (directly or indirectly) a human corpse,
(e) an act which involves sexual activity between a person and an animal (or the carcase of an animal)

Criminal Justice and Licensing (Scotland) Bill

となっている。まず、怪我を負わせる、もしくは負わせうる場合の程度が serious から severe に上がっている一方で、怪我の部位がイングランド版のように「肛門、胸、性器」と限定することはなくなっている。もっとも大きい違いとされるのが、c節にある強姦等の描写の導入で、これは暴力的なものに限らないし、日本で言う準強姦も含まれている。また、イングランド版の "a reasonable person looking at the image would think that any such person or animal was real" という限定がスコットランド版にはない。ただし、これについては "an explicit and realistic way" で実質カバーされるような解説が Explanatory Notes にあり、どの程度の違いかは専門家でない私には判断できない。

イギリスでのextreme pornographyの禁止を大きく後押ししたのは一件の殺人事件だということが広く知られている。事件は、男性が女性をベッドの上で絞殺したもの。この男性が、これを合意の上での「窒息プレイ」で起きた事故だと主張し、男性のコンピュータの閲覧履歴に同種のポルノのWebサイトがあったという(女性がその種のプレイの愛好者であるという証拠はない)。男性は殺人罪(murder)で起訴され有罪となったが、控訴後、殺害の意図が無かったということで故殺罪(manslaughter、日本の傷害致死に近いが同一ではない)に格下げになっている(刑期自体は変わらず)。この女性の遺族が、extreme pornographyの禁止の運動の先頭に立っていた。

問題は、禁止対象が必ずしも現実の殺人や傷害の記録である必要がないこと、同意の上での性行為の描写が少なからず対象になるという点だ。前記の男性が閲覧していたという「窒息プレイ」ポルノにしても、危険な行為であることは否めないにしても両者の合意の上で行っている人達が少なからずいて、また、性器等への傷害についても、BDSMの文脈では、特に「身体改造」のジャンルで合意の上で行われることはある(実際の傷害に至っていない場合を含めればさらに広がる)。また、屍姦的な要素は、ゴス文化の文脈に少なからずある。イギリス国内ではBacklashという、広範なグループからなる反対運動の組織が作られた(Wikipediaでの解説)。BDSM方面の著名人では、Fakir Musafarが、彼自身はアメリカ人だけれども、イギリスでの公演・ワークショップなどの関係でつくったMySpaceのページのブログでBacklashへ加入して反対運動に参加することを呼びかけた。

その一方で、規制賛成派はどういう見解かといえば、まず、政府は、extreme pornographyを「見ること」の有害性を主張して規制を正当だとし、従来の出版規制で合法とされているものは対象でないのだら BDSM コミュニティ抑圧にはあたらないとしている。しかし、単純所持規制は、出版などを予定していない、行為に参加したもの自身の所有が問題になる。この点は、「合意の上」のものについては、行為者自身の所有は処罰対象外(屍姦や獣姦は合意不能なので自己所有の免責はない)。しかし、合意だということと自身が参加者だということの挙証責任は訴追する側ではなく、所持した側にあるとされる。また、現場でいただけの人物は免責対象にはなっていない。一方、Durham大学ロースクール教授のClare McGlynnという人がいて、彼女は規制派として法案作りにも参加したと言われていて、賛成派と反対派の双方が参加した会議のコーディネーターでもあったりするのだが、Northern Echoという新聞系ニュースサイトの記事で、彼女は

Professor McGlynn said: "The conviction of Graham Coutts does not show that there is a casual link between looking at extreme pornography and sexual violence.

"Nevertheless, the prevalence of extreme pornography sustains a culture in which rape and sexual violence are normalised and legitimated; in which a woman's 'no' is not taken seriously, as evidenced by the low conviction rate for rape.

"It is not clear that the horrific rape websites, which are widely and freely available on the internet, are covered by the measures contained in the new Bill.

"We consider that these websites should clearly be covered."

Action urged to tackle extreme internet porn 8:27am Friday 6th July 2007, The Northern Echo

と、個々のextreme pornographyを見ることと実際の性暴力との間の、直接の因果関係は否定しつつ、それは問題ではなく、そういうものを許容する文化が問題だとし、イングランドの法案で強姦描写がカバーされていないことに不満を表明している。彼女はその後、今年に入ってからのスコットランドの法案についての記事で、強姦描写が対象となったことを歓迎している。

ここで注目したいのは、強姦描写が加わったことではなく、因果関係ではなく文化それ自体を問題としている点。これは、今後、実在の人物についてのものだという限定を外す方向を彼女が主張する可能性があると同時に、このロジック自体、彼女がラディカル・フェミニズム系の反ポルノ運動の系譜にあるということを言っているようなものだからだ。実際、昨年彼女が大学で開催したRethinking Rape Law: Akayesu 10 Years Onという国際会議では、招待講演者の一人に、かの Catharine MacKinnonの名があり、それと並んで Equality Now の代表の Jessica Neuwirth の名前もある。

Equality Nowの名前がやっと出てきたところで、以下は別記事にします。

Permalink 15:59:17, 著者: Nobuo Sakiyama Email , 9552 回閲覧   Japanese (JP)
カテゴリ: 検閲

「レイプレイ」叩きに見るポリシーロンダリング(1)

「レイプレイ」という、ひとつの、おそらくはマイナーなエロゲーが猛烈な勢いで叩かれた件について、今さらながら書いてみたいと思う。表面的な流れについては、セキュリティmemoの小島さんが手際よくまとめているので、もうちょっと背景的なものを。

単純に追っていくだけでも、抗議を行ったEquality Nowは、一貫して「女性に対する性暴力ゲーム」の禁止を求めており、ゲームで児童の年齢のキャラクターが扱われていることへの言及は、描写されている性暴力の程度を強調するだけのものにすぎないし、日本の児童ポルノ禁止法への言及も、APP研の見解を紹介する形になっている。しかし、読売新聞のキャンペーン支持的な報道では「児童ポルノ」(と言っているが実在の児童と関係しないもの)と強く結びつけられていることがわかる。Equality Nowのメッセージそのままでは広範で強すぎるので、昨年来の日本ユニセフ協会などのキャンペーンと結びつけるように、あえてメッセージを狭めたものだ。しかも、読売新聞では

インターネットで国を越えて情報が流通するなか、子どもを性的に描写した児童ポルノの扱いが国際的な問題になっており、米国や英国などは漫画やコンピューターグラフィックス(CG)の画像なども含めて製造や販売を禁止している。

性暴力ゲーム、規制議論を 読売新聞 2009年5月13日

という、明らかな嘘まで書いている(この点は後述)。

ここから今回の背景に。まず、「レイプレイ」を最初に槍玉に上げたイギリスの事情から。イギリスではこのところ、刑事法規の改正が急ピッチで行われていて、そうした中で、性犯罪や性表現規制が強化されている状況にある。まず、現行の単純所持禁止の「児童ポルノ」の対象を確認すると、「写真」や「擬似写真」、そして、それらのトレース画などとなる。CGが問題となる場合、それはほぼ写真のように見えるリアルなもの。立法目的は描写された児童の存在を刑事訴訟のレベルで証明するという重荷から検察を解放することであって、実在でない描写を取り締まるものではない。トレース画など、実在のものからのトレースなどの「由来物」は、やはり実在児童の被害を前提にするから取り締まろう、ということで追加されたものであって、やはり創作物を取り締まるものではない。それ以外は、従来からのわいせつ物取り締まりの法律であるObscene Publications Act 1959が適用され、deprave and corrupt test と呼ばれるもので判断される。映像の頒布については、Video Recordings Act 1984 により、政府から独立している British Board of Film Classification (BBFC)による事前審査とレイティングが必須とされ、ゲームは映像に含まれているが、子どもを性的に描写したアニメやゲームが発禁になるのは結局のところ obscene と判断される場合で、レイプレイがもし審査されていれば発禁とされた可能性はあるが、全ての子どもを性的に描写したアニメやゲームが当然に発禁になるものではない。また、これらはいずれも出版や頒布を規制するものであって、単純製造を規制するものではない。従って、前述の読売新聞の記述は、現時点では明確に嘘である。なお、米国の場合は、「わいせつ」であることを前提にして視覚的創作物で児童描写の単純所持を禁止している。わいせつかどうかが問題になるので、やはり「子どもを性的に描写した漫画やアニメ」全ての製造販売が禁止されているわけではない。

さて、実のところ、イギリスでは、創作物に関する禁止は、現在の話ではなく、近い未来の話だろう。現在、イギリスの国会には、政府からCoroners and Justice Billという法案が提出されていて、審議経過をみると、すでに下院は通過し、貴族院の審議に入っている。法案の内容 (下院通過バージョン)はかなり幅広いのだが、第52条以下58条までの内容(政府原案では49条以下、となっていて若干ずれる)が、まさに創作物に関する禁止(prohibited images of children) になる。米国の場合、従来のわいせつ物頒布罪などと同一の定義を含めるなどして、従来公表が禁止されていないものをあらたに処罰対象とすることがないようになっていたが、この点、Coroners and Justice Billでは処罰対象を

(2)A prohibited image is an image which—
(a) is pornographic,
(b) falls within subsection (6), and
(c) is grossly offensive, disgusting or otherwise of an obscene character.

としていて(b節の参照先は具体的な描写内容の列挙)、最後のc節は従来のわいせつ物罪を定めた Obscene Publications Act とは異なる書きぶりで、そこのobscene は辞書通りの意味であって Obscene Publications Actを参照するものではない、ということになっている(ただ、どうやら、a,b,c併せてObscene Publications Actの範囲内、ということは前提されているらしい)。そして、55条での「子どもの画像」の定義で、画像に描かれた人物の全体としての印象が18歳未満の子どもであれば、「肉体的特徴」のいくつかが子どものものでなくても、それは子どもとみなす、とされていて、はっきりとある種の漫画をターゲットにしている。ちょっと詳しく立ち入り過ぎたけれども、いずれにせよこの法案はまだ審議中であって、前述のように読売新聞が嘘を書いたことは動かない。

ここで、ひとつ見るべきなのかもしれないのは、ゲームがイギリスで問題にされたタイミングは Coroners and Justice Billの審議が始まったすぐ後だったということだろう。委員会質疑の開始が2月3日で、その日と5日に参考人質疑がまとめて行われていて、Internet Watch Foundationからも参考人が出ていた。イギリスでの「レイプレイ」報道は2月12日から。そして、prohibited images of childrenの条項の集中審議は3月3日に行われている(リンク先は議事録)。イギリスでは Coroners and Justice Bill に問題の条項があることは大きく報道されているから、イギリス国内では法案と関連付けて受け取られた可能性は高いだろう。しかし、日本の報道からはそれは見えない。ただ、prohibited images of childrenは、まさに読売新聞のいう「子どもを性的に描写した児童ポルノの扱いが国際的な問題になっており」という文脈のものではある。

しかし、冒頭に書いたようにEquality Nowは児童描写に限定した話をしていない。ということでさらに続けるのだけれども、この記事はもう十分に長いのでいったんここで切って別記事で続けます。

2009/04/23

Permalink 10:45:38, 著者: Nobuo Sakiyama Email , 2626 回閲覧   Japanese (JP)
カテゴリ: 検閲, 情報社会, 児童ポルノ問題

「ネットは検閲をダメージと解釈し、それを回避する」

タイトルは有名な1993年のジョン・ギルモア(EFFの創設者の一人)の言葉だけれども、うん、楠さんが日経で書いた出会い系規制でSNSを標的にした警察の動きに対しても、そういう事態が現在進行形で起きているようだ。

4月2日に警視庁が出会い系の書き込みの削除を要請したSNSなどという6社のうち、社名が報じられた4社のサイトはEMA認定サイトだけれども、他の2社は名前が出ていない。口頭要請だったとはいえ、関係する内部文書を情報公開請求でもすれば分かるかな、という気はするが、それはおいておく。数日して、これは神奈川県警なのだけれども、「児童買春:25歳消防士逮捕」という記事があり、

2人は「エスタ」と呼ばれる携帯電話のコミュニティーサイトを通じて知り合ったという。

児童買春:25歳消防士逮捕 神奈川県警 - 毎日新聞 2009年4月6日 21時52分
「エスタ」とサイトの名前が出ている。エスタ(ケータイからのみアクセス可能)は、携帯電話コンテンツの事業を行っている株式会社アブサンが運営する「コンテンツ搭載型SNS」で、当初は掲示板サイトだったらしいが、2007年にリニューアルして会員数をそこそこ増やしてきていたということらしい。簡単に言えば、モバゲータウンやグリーと同類サービスということになる。エスタの特徴は、同業他社の多くがアバターを使っているところ、各利用者が携帯電話で撮ってメールで送る写真、「写メ」を積極的に利用してもらおう、という点にあった。

株式会社アブサンは、2006年設立の資本金1000万円の企業で、本社所在地を検索してみると、レンタルオフィスで間取りをみる感じ、数人がやっとという感じになる。スタートアップ企業がネットサービスをやるというとこんな規模というのは珍しくないだろうが、とりあえず、「健全化」のために大手企業のような人海戦術をやる、というのはどう見ても無理、という状況で、事実として、野放しに近い運用だったようだ。ユーザー登録しなくても登録利用者のメンバー検索や、そこから日記を見るなどはできるので覗いてみると、友達数の多いユーザーのかなりの割合が自分の裸をさらしていらっしゃっていて、18歳未満の年齢も多い。「出会い」的な自己紹介も見ることができる。前記の事件は、そういう環境で起きている。で、その結果、「健全化」をものすごい勢いで警察から要求された、ように見える。が、前述のように、運営者はそのリソースがある企業ではない。

ということで、株式会社アブサンは、一度、エスタを4月末日で「運営終了」するというアナウンスをエスタの中で出したそうだ(これ自体は私は直接みていないが、後述するように現在もそれが事実であることは分かる。登録利用者にはメールも送られたかもしれない。私は運営終了がサイト外で話題になっていたのに気づいて追いかけている)。結果、何が起きたか。

SNSのユーザーは、利用者同士の結びつきがあって、継続的なコミュニケーションをとっている。サイトが無くなるということは、この結びつきを壊すことになる。ということで、実のところ、ゲームとかマンガとかのコンテンツはどうでもいいがコミュニケーションは続けたいユーザーの考えることは、他のSNSへの移動だ。ただ、前記のようなフリーダムすぎるコミュニケーションぶりを、例えばモバゲータウンに移ってやろうとしても無理なことは自明だ。ということで、以前のOpenPNEブームのころに作られた「アダルトSNS」のうち、招待制でないところを、誰かが移転先として選んで広まった。移転先SNSについて調べてみると、OpenPNEの開発元の手嶋屋のASPサービスを利用していた。ということで捨てアカウントを作って検索をかけてみると、相変わらずフリーダムすぎて18歳未満で登録して性器無修正の写メを大量投稿して運営者に通報されてアカウント削除されるといった具合。しかしそのうち学習して、年齢はとりあえず18歳未満でも18歳にするとか、自己紹介欄を修正するとか、そうやって定着していきそうな雰囲気になっていた。

一方、株式会社アブサンのほうだが、事業の買い手でもついたのか、

過日より今月末日をもって運営停止の告知をさせていただきましたが、このたび、来月5月1日より運営を株式会社デジタルマートに移管することとなりました。

(略)

来月以降も今までと変わらず運営を続けて参りますのでご安心下さい。

なお、今後はユーザーの皆様に快適にご利用いただくために、悪質な投稿により一層、監視体制を強化して参ります。携帯を巡る未成年の事件が頻発する世相に鑑み、不可欠の措置ですのでご理解賜りますようお願いいたします。

このたびは、まぎわらしい終了告知の件、皆様にはご迷惑をおかけして申し訳ございません。

今後とも変わらぬご愛顧をいただきますよう、引き続きよろしくお願い申し上げます。

というアナウンスをサイト内に出した。これで登録ユーザーの移転騒ぎはいったん落ち着いたようにも見える。問題は移管先だ。「デジタルマート」という商号、検索すると家電量販店が複数ひっかかるのは関係ないとして、アダルトサイト関係でひとつ同じ商号の会社がある。ただ、よくある名前なので同一かどうかは分からないし、既存事業が何であろうと「監視体制を強化」できればそれでいいとは言える。ただ、これで疑念をもったという状況ではある。ということで、上で略したところ、「株式会社デジタルマート」の住所と電話番号、FAX番号があったので、これを調べてみることにした。住所は「東京都千代田区九段南4-7-22」。Googleで検索すると、上位にバーチャルオフィス九段南・南青山というサイトが出てくる。バーチャルオフィスということで、電話転送や郵便物受け取りをして、登記も置かせてくれるが机はない、という形態のサービスだ。もっとも、同じ住所で店舗などもあるので、これだけでは断定できない。ということで、FAX番号で検索したところ…、同じFAX番号の企業が少なからずあり、上記のバーチャルオフィスを利用していると明記しているところが含まれていた。ということで、移管先の企業の実態が公表された住所にないことは確実だ。その後、エスタ内の告知は更新され、電話番号とFAX番号は削除された。この状況で「監視体制を強化して参ります」という言葉を額面どおりに受け取れるかというと、無理だろう。そして、多分ユーザーもそれを望んでいないし。

ユーザーの動き、事業者の動き、両方とも、素直に警察の過剰な要請を受け入れる話にはなっておらず、今はまだ稚拙な動きに見えるが、遠からず、海外流出は現実のものになるのではないだろうか。

2009/04/18

Permalink 22:39:36, 著者: Nobuo Sakiyama Email , 1817 回閲覧   Japanese (JP)
カテゴリ: 検閲

問題はトレンドマイクロだけじゃない

ネットスターの人にウイルスバスターは関係ないと言われてしまった前エントリだが、それはそれとして、「活動家グループ/反体制的団体」がフィルタリングソフトでブロックされるというのは、ウイルスバスターに限った話ではない。フィルタリングソフト業界も淘汰やM&Aがいろいろあり、新規参入もあるので昔の情報だけでは問題があるので、メジャーなものをいくつか簡単に調べて同様の状況があるかどうか見てみた。

簡単にみつかるところで、企業向けで有名なSmartFilterがある。SmartFilterを開発・販売してきたSecure Computingの日本法人サイトにはほとんど情報がない のだが、リセラーであるバーテックスリンクが用意したサイトには、カテゴリ一覧が説明つきであり、"Non-Profit Organizations/Advocacy Groups"というカテゴリがあることが分かる。このカテゴリ一覧だけだといまいち位置づけが分からないが、SmartFilter含め複数のSecure Computingで使われているデータベースであるTrustedSource(これは単なるコンテンツに対するURLリストではないとのこと)のTrustedSource Web Database Reference Guideという文書を参照すると、フィルタリング用のカテゴリについて、リスクの種類に応じたグループ分けがされていて、"Non-Profit Organizations/Advocacy Groups"カテゴリは Information というリスクグループで、ポルノなどのコンテンツが Liability というリスクグループに分類されているのとは異なる位置づけだということが明確になっている。TrustedSourceではURLがどのカテゴリに入っているかの検索機能を一般に提供していて、日本生活協同組合連合会サイトが当該カテゴリである一方、みやぎ生協はMarketing/Merchandisingになっていることなどが分かる。なお、リンク先を適宜みるとすぐに分かることだけれども、Secure Computingは昨年秋にMcAfeeに買収されていて、TrustedSourceもMcAfeeブランドに移行している。ただ、SmartFilter はMcAfee ブランドにはまだなっておらず、McAfeeサイト上にはほとんど情報がない。マカフィーの日本向けの個人向け製品の2009年版には、「保護者機能」としてURLフィルタリングを含むものが搭載されているけれども、同じ機能は以前から Parental Control として提供されているし買収時期のことを考慮すると買収効果が反映されているかというと、まだのようにも思う(判断する情報はない)。個人向け製品としてウイルスバスターと競合するものなので、「保護者機能」の詳細がどうなっているかと思ったら、サイトの説明をみる限りでは、年齢設定のみでカテゴリのカスタマイズなどはないようだ(個別のサイトをブロック対象に入れたり外したりという機能はある)。よく分からない。

もうひとつ、さらに企業向け製品として、Websenseというのがある。ここは歴史が長いところで、そもそも、ネットスターでサイト分類作業を行っている、仙台の「URLリサーチセンター」は、もともとはネットスターの設立前、親会社のアルプスシステムインテグレーション(ALSI)がWebsenseの国内代理店をやっていたころに、日本語コンテンツの分類を担当していたことに遡る。その後、ALSIはWebsenseとの契約を段階的に解消する一方で自社フィルタリングソフト InterSafe を発表し、URL分類作業とデータベース化の部分を分離してトレンドマイクロと合弁してネットスターを設立、という流れになる。そういう経緯から、Websenseのカテゴリとネットスターのカテゴリは共通のルーツをもつため似ているが、その後の双方のカテゴリ改訂で別のものになっている。Websense と InterSafe に分かれたころに聞いた話では、Websense が企業向けにフォーカスする方針の一方、ALSI は教育・家庭市場をめざした、ということのようだった。で、このWebsenseなのだが、Master Databaseといって、URLのほか、プロトコルやアプリケーションも分類したデータベースを持っている(Websenseは企業向けとして、HTTPのフィルタリング以外にも他のさまざまなプロトコルへの対応や、企業内パソコンにインストールされ動作するアプリケーションの監視といった機能まで提供している)のだが、URLカテゴリとして、次のように説明している。

Adult Material

Parent category that contains the categories:

  • Adult Content - (引用時略)
  • Lingerie and Swimsuit - (引用時略)
  • Nudity - (引用時略)
  • Sex - (引用時略)
  • Sex Education -(引用時略)
  • Advocacy Groups - Sites that promote change or reform in public policy, public opinion, social practice, economic activities, and relationships.
Websense.com — URL Categories

つまり、Websenseでは、「活動家グループ」のコンテンツは明確に「成人向けマテリアル」とされ、未成年のアクセスは制限されるべきという意味でカテゴリ分けされている。なんだか、ウイルスバスターの場合と似た状況ではないだろうか。「フィルタリング業界」的には、こういうスタンスは珍しくないということだろうか。なお、Websenseでは、MyWebsenseといって、登録ユーザにさまざまな情報を提供するサイトを用意していて、ここで個別のURLがどのようなカテゴリに属するかも確認できるそうだけれども、MyWebsenseの登録ユーザとなれるのは、製品の有効なアクティベーションキーを持っている場合に限るので、実際にどういうサイトが「成人向けマテリアル」としての「活動家グループ」に属するかの確認はしなかった(30日体験版の申し込みをして確認するという手段もありそうだけれども、製品そのものをインストールして評価する気でないのに申し込むのはどうかと思ってやってない)。ケーススタディによれば、玉川学園や東京都庁で使われているようだ。

2009/04/17

Permalink 23:43:55, 著者: Nobuo Sakiyama Email , 4309 回閲覧   Japanese (JP)
カテゴリ: 検閲

根深い「ウイルスバスターによる誤判定」問題

最後に重大な追記あり:

数日前、トレンドマイクロのウイルスバスター2009について、生協関連のウェブサイトが、軒並み有害サイトとしてアクセスが規制されたという報道があり、報道で表沙汰になってまもなく規制が解除されたという報道があった。これは、トレンドマイクロの弁解するような「何らかのミス」というよりも、フィルタリングをめぐる政治的な動きの一端として極めて興味深い。

報道によれば、生協のウェブサイトが分類されていたのは、「活動家グループ/反体制的団体」だったという。トレンドマイクロは、自社でURLの分類を行っているのではなく、自社が40%の株式を有するネットスターのデータベースを使っていると考えられる。企業向けのプロキシタイプのフィルタリングソフトである Interscan Web Manager の説明では明記されている一方、ウイルスバスターに関しては明記されていないが、違うものを使う理由はあまりないだろう。ただ、「活動家グループ/反体制的団体」という分類は、有名になった携帯フィルタリングのカテゴリには出てこない。ネットスターの「URLリスとを用いたソリューションビジネス」におけるカテゴリ一覧にも問題の分類はないが、説明をよくみれば、この分類はあくまで代表的なもので、内部でより詳細な分類を行っていて異なった見せ方をする可能性があることが分かる。実際、ネットスターのデータベースを使っている各社の個別の製品やソリューションをみると、フィルタリングカテゴリは共通要素は多いが統一されているわけではない。「活動家グループ/反体制的団体」という分類は、新しいものか、従来のものを再分類したのだろう。追記: と思っていたら、ネットスターの方から、ウイルスバスターではネットスターのデータベースは利用していないとのことで、独自か別会社のものということに。

一方、ウイルスバスターのURLフィルタのカテゴリ全体がどうなっているかというと、ウイルスバスター2006ウイルスバスター2007ウイルスバスター2008ウイルスバスター2009と、全てサポートサイトに情報がある。2008と2009で比較すると、以前は「性教育/同性愛」だったカテゴリから同性愛が落ちて「性教育」となり、「アドウェア/ジョークプログラム/クッキー」というカテゴリは無くなり(おそらくウイルスバスターの別の機能でカバーされる)、「ピアツーピア」カテゴリが「ファイル共有」カテゴリに改名され、「インターネット電話」「翻訳」「着信メロディ/携帯電話向けダウンロードサービス」などとともに 「活動家グループ/反体制的団体」カテゴリが追加されている。

ここで紹介したカテゴリは、アクセスブロック可能なカテゴリであって、実際にはさらにどれをブロックするかという設定が別にある。ウイルスバスター2009についてどのような設定かはやはりサポートサイトに情報がある。「高: 13歳未満の児童に適さないWebサイトをブロックします。」という設定の場合、ブロック候補のカテゴリのものは全部ブロックされる。「中: 10代の青少年と児童に適さないWebサイトをブロックします。」では、ある程度ブロック対象が絞られるが、なお「活動家グループ/反体制的団体」カテゴリはブロック対象となる。公共端末やネットカフェなどで想定される設定でこのようになる。さらに緩い「低: 暴力、ポルノ、または悪意のあるWebサイトのみをブロックします。」や「最低限: 悪意のあるWebサイト以外はブロックしません。」では「活動家グループ/反体制的団体」カテゴリはブロックされない。このほか、ユーザーが完全に任意にカテゴリ設定をして保存しておく「カスタム」がある。要は、「活動家グループ/反体制的団体」カテゴリは、未成年には見せるべきでない、というかなり強い設定をトレンドマイクロ社としては推奨しているといえる。

ここまでみて、いくつか問題があって、まずは「活動家グループ/反体制的団体」というのはどの程度のものを想定しているのか、というのがある。とりあえず字義だけではいえば、生協は消費者運動の一種としての生協運動というのが原点としてあって、今はともかく昔は対企業のデモなどもよくやっていた。そういう経緯もあって、大学によっては大学生協の設立を認めないところもある(現在では「過激派」セクトとの関係で生協を潰した大学もあるが、例えば筑波大学などは設立当初からの学生自治否定の文脈で生協を認めなかった)。フィルタリングソフトのカテゴリ追加を熱心に依頼する層のイデオロギー的偏りを想像すると、生協がここに入れられることは、そもそも不思議なことではない。

次に、なぜウイルスバスターの「改良」として「活動家グループ/反体制的団体」がブロック推奨カテゴリに追加されたのだろうかという問題がある。やはり、以前紹介したように千葉学芸高校の高橋邦夫校長に代表されるように、思想信条、宗教に関わるようなフィルタリングを望む「現場の声」があるのだろうか?そして、携帯フィルタリングの「主張一般」カテゴリに特定の政治的意見を突っ込むことが問題視されるや個別に外す状況になっていることに対して、カテゴリ定義としてフィルタリングを外さないで突っぱねられる状況が求められているのだろうか?

ウイルスバスターの利用者のほとんどは、おそらく、どのようにURLフィルタリングの内容が変わったか、ということを明示的には知らされていないだろう。そもそも、URLフィルタリングがメインの製品でもないし。そういうところで、いったい何が起きているのか、明らかにしてほしいよね。

追記: ネットスターの方から連絡があり、ウイルスバスターではネットスターのデータベースは使ってないとのことです。

2009/04/13

Permalink 00:39:44, 著者: Nobuo Sakiyama Email , 4195 回閲覧   Japanese (JP)
カテゴリ: 検閲, 通信傍受, 監視社会

「出会い狩り」問題のやっかいさ

楠さんがmixiの出会いコミュ大量削除問題に言及し続報も書いている件、実のところ、かなりやっかいんだよね。

楠さんは今回の出会い系サイト規制法改正に問題があったという認識のようなんだけれども、全ての根は、そもそもの2003年の出会い系サイト規制法の立法に遡る。「ネット上に限った交際相手を募集していても『出会い系』とみなされてしまう」というのは、今回の警察庁の要請に限った話ではなく、規制法の当初の解釈基準において、実際に出会うかどうかではない、と明記されていた。最初の解釈基準もパブリックコメント募集があり、その上で堅持されたものだ。今回の問題は、届け出制によって警察が法執行力を大幅に強化できたから表面化したにすぎない。私は、2003年の法案が出る前の段階でJCA-NETとCPSR/Japanの共同声明を起草して発表して懸念を示した。当時は、今もある某商業コミュニティサイトからの反応を頂いたのだが、私はヤバいと思って声明を出したものの、JCA-NETっていう左翼色の強い市民団体で声明を出す賛同を取り付けるだけならともかく、ネット企業とどう組むか、という話を私が主導権を握って回す状況にもなく、CPSR/Japanも実働はかなり厳しい団体なので、そのまま放置してしまった苦い思い出がある。

異性交際、というか、もう少しぶっちゃければ性的な関心が主導する交際相手探し、というのについて、警察サイドの見方を想像してみると、リアルかバーチャルかは関係ない、というのは、それなりに根拠がある。最終的に防ぎたいのが、児童買春を中心とした「不適切な大人と子どもの性的な関心での出会い」であるとして、それを手前で防ごうとすればどうなるの、ということだ。「通信の秘密」を前提とすると、児童側の通報があるのでなければ、つまり両者の「合意」が継続している限りにおいて、両者の通信内容に警察はタッチできない。そうなると、両者が接触すること自体を防ぐという話になる。実際に出会うことを前提としている場合は当然対象になるとして、「出会わないこと」を当初の前提としていても、通信の秘密で保護された二者の間の通信のなかで、その前提が覆されることはありうる。そして、それが現実であることはここまでに至る事件が証明している。

とはいえ、通信の秘密をアメリカ並に弱くするのと、業法でさらに手前で抑え込むのと、どちらが副作用が弱くみえて容易かといえば、警察からみても圧倒的に後者という話になるだろう。アメリカの話ついででいえば、アメリカでは児童をオンラインで誘う、いわゆるグルーミングについて、おとり捜査がかなり行われていて、端的には捜査員が子どものふりをしていたりするのが少なからず報道されているけれども、おとり捜査の合法性/違法性について、この場合、犯意誘発型と機会提供型のどちらなのかというのもあるけれども、現実の児童でない者を児童と思って誘うことを処罰対象とすることが日本の場合、はたして可能なのかというのもなかなか大きな問題のように思われる。ネット上のやりとりで、両方が児童でないとして、それは児童と思い込んで誘おうとしているのか、Age Play、日本のネット文化圏では「イメチャ」の一種になるだろうが、それと客観的な証拠で区別つけられるのか、といった問題もあるだろう。さらに、あらゆる困難を乗り越えてグルーミング処罰化を実現したとして、警察がどれだけ法執行のリソースを割けるのか、という問題はある。誘う段階の処罰だから、実際の児童買春や青少年条例の淫行処罰規定より、重くできるようには思えない。出会い系サイト規制法の禁止誘引行為の罰則は今のところ100万円以下の罰金に過ぎず、その水準で通信傍受捜査とかおとり捜査とか、ありえないだろう。逆にいうと、淫行処罰規定を構成要件を限定して条例から法律に移行して、全体として児童相手の性犯罪の量刑をアメリカのように大幅に引き上げて、その上でグルーミング処罰化をそれなりに重い罰則でやらないと、実効性はない。そこまでやるという選択が、日本で現実的なんだろうか。

処罰対象を公然と性的目的で児童を誘い出すことに絞る、というのは、それはひとつのアプローチではあるのだろうけれども、児童が全て無垢ではないわけで、それで児童買春や、青少年条例で問題になるような児童と成人との関係を十分に抑制できるかというと、警察を納得させられるものでもないだろう。

出会い系サイト規制法がネット規制という観点からは最低・最悪の部類だというのは、もうずっと前から思ってはいるのだけれども、ではどうしたらいいか、というと、なかなかいい代案が浮かばないんだよなぁ。

2009/03/24

Permalink 00:55:11, 著者: Nobuo Sakiyama Email , 2909 回閲覧   Japanese (JP)
カテゴリ: 政治

自民党厚労族の医薬品ネット販売潰しの本気ぶりについて

慶應大学の国領教授が自民党の「医薬品のネット販売に関する議員連盟」のヒアリングを受けてきた話をブログに書いている。省令によるネット販売規制についての違憲論について「この議論に対するスタンスによって、親規制改革会議か、反規制改革会議かが決まるということらしく、そのようなことを考えもせず出かけていった自分の政治センスのなさ」云々とおっしゃっていて、逆にそういう「政治的」なポジションで規制強化に動いている議員が少なからずいる、ということが伺われる。

前回この問題について書いたときよりも情報がネット上にあがってきているので、いくつかみてみると、自民党厚労族の本気ぶりがわかる。

まず、「産科医療のこれから」という現役医師の3月11日付ブログの記事に、日刊薬業という業界ニュースからの転載があった。これによれば、議員連盟の事務局長である渡嘉敷奈緒美衆院議員が、薬剤師会主催の会合の講演で「今国会での議員立法も視野に入れてネット販売規制活動を進めていく」とし、さらに「個人的見解としては、第1~3類すべてのネット販売を禁止し、消費者教育をきちんと行ってから、(第3類薬のネット販売解禁など)ステップを踏んだ議論を進めていくべきだ」と、ネットでの医薬品販売の全面禁止をしてネット薬局を一度全部潰していつ終わるともしれない消費者教育が終わってから、今回の省令の範囲に限ったような限定的な販売について解禁する議論を始めるべき、といった見解を述べたということで、前回の記事での懸念はかなり現実的なものとなっている。

また、国領教授が出席した3月18日のヒアリングについては、薬事ニュース社

ヒアリングで招いた楽天、日本オンラインドラッグ協会らが、薬のネット販売を第三類以外認めない省令は「違憲」と発言したことに対し、「法廷で別途議論すべき」(尾辻秀久会長)と応じたことを明かした。

薬事ニュース 行政ヘッドライン

と報じている。ヒアリングでの意見陳述に対して「法廷で別途議論すべき」と議員連盟側が述べているということは、つまりは敵対的な対応だろう。違憲という意見を、自分たちとしては考慮に値しないと宣言しているわけだから。

それにしても、この議員達は、「国民の安全」を本気で考えているのだろうか?渡嘉敷議員は前出の記事で、「現段階でリスクを背負うことを消費者が知らないままネット販売を解禁すると、トラブルは増え、訴訟も増える。逆に薬のネット販売の道を遠のかせてしまうことになってしまうだろう」としているのだけれども、個人輸入代行業者とか日本向け海外通販サイトは、今、喜んで「うちには影響ありません」というアナウンスを出しているのだけれども。

2009/03/20

Permalink 02:06:19, 著者: Nobuo Sakiyama Email , 2460 回閲覧   Japanese (JP)
カテゴリ: 検閲

青少年ネット規制法が早くも改正されようとしている

ふと気づいたんだけれども、今開いている通常国会で、青少年ネット規制法が施行前から早くも改正されようとしている。

具体的には、内閣から提出されている閣法「青少年総合対策推進法案」(審議経過情報法案)に、青少年ネット規制法の改正が含まれている。

青少年ネット規制法では「インターネット青少年有害情報対策・環境整備推進会議」というのを内閣府に設置して「青少年が安全に安心してインターネットを利用できるようにするための施策に関する基本的な計画」というのを定める、ということになっている。ここの「会議」の機能を、青少年総合対策推進法案で定める「青少年総合対策推進本部」で置き換えることや、青少年規制法では基本計画を「定める」だけだったのに対して、青少年総合対策推進法案では「本部」が「実施を推進する」ことも定められている。

気になるのは、青少年総合対策推進法案では、青少年ネット規制法では意図的に避けられていたといってよい「青少年の健全な育成」が正面から掲げられており、青少年総合対策推進本部はそのために「青少年総合対策推進大綱」を作成することになっていることだ。現行の「青少年育成推進本部」は閣議決定で設置されているに過ぎず、現行の「青少年育成大綱」もそのレベルのものだけれども、青少年総合対策推進法案でレベルアップすることになる。

この法改正があろうとなかろうと、「インターネット青少年有害情報対策・環境整備推進会議」と「青少年総合対策推進本部」の構成員(どちらも内閣総理大臣が長で構成員は関係閣僚)はさして違わないし、実際のお膳立てをすることになる官僚の顔ぶれが変わるわけでもないだろうけれども、しかし、青少年総合対策推進法案が成立すれば青少年ネット規制法は微妙に位置づけが変わるようにも思え、気になるところだ。実際問題、どういう話なのだろう?

2009/03/11

Permalink 00:23:30, 著者: Nobuo Sakiyama Email , 1271 回閲覧   Japanese (JP)
カテゴリ: 政治

医薬品ネット販売規制のさらなる強化に自民党厚労族がアップを始めたようです

あんまり話題になってない小ネタニュースで気づいたんだけど。3月5日の産経ニュースの報道で、自民党で、「医薬品のネット販売に関する議員連盟」というのが3月5日に設立されているというのを知った。

今年6月の改正薬事法の施行に伴って大半の一般用医薬品(大衆薬)が、インターネットを含む通信での販売が規制される問題で、自民党の有志議員が5日、ネット販売などの是非を考える議員連盟を立ち上げ、党本部で初会合を開いた。販売の是非に関する意見書をまとめ、党内の医療委員会に提出する方針を確認した。

(以下略)

薬のネット販売可否問う 自民有志が議連 意見書提出へ - MSN産経ニュース

この記事は、議員連盟の名前がはっきりしていないし、議員連盟が「これから意見をまとめる」としている建前を尊重してか、議員連盟全体のスタンスははっきりさせていない。それでも、「規制支持の意見が多くを占めた」とか、「一部議員は」「省令公布後の検討会設置に疑問を呈した」と、そのニュアンスが分かるもの。初会合でネット販売規制派団体だけヒアリングして、規制反対派は次回、というのも会の性質を伝えてはいるだろう。

ただ、いまいちピンボケた記事だったので、他の報道をチェックしたら、もっと明解な規制強化が目標のようだ。

自民党の「医薬品のネット販売に関する議員連盟」(代表・尾辻秀久参院議員会長)の初会合が5日開かれた。議連事務局によると、6月に始まる一般用医薬品(市販薬)の大半のネット販売禁止を支持する多くの議員が参加。今後まとめる提言も禁止に賛成する内容になる見通しで、必要なら法改正も検討するという。この日は28人の議員が出席。薬害被害者など禁止に賛成する5団体から意見を聞いた。次回は楽天 <4755> や伝統薬業者など反対派から意見を聞く。

自民議連、薬ネット販売禁止を提言へ=法改正も視野 (時事通信) - Yahoo!ニュース

そもそもこの議員連盟は今年の1月と2月の二度に渡って開催された「医薬品のネット販売に関する勉強会」が母体になっていて、その勉強会には厚生労働省やネット販売規制派団体だけが呼ばれていて、規制反対側は呼ばれなかった模様。特に、2月18日の第二回勉強会は、薬事ニュース社医薬経済社のヘッドラインニュースによれば、設立を了承された議員連盟はネット販売の罰則規定立法化などを目指すものであり(薬事法施行規則では最大限で行政処分まで)、また「楽天・三木谷社長の「参戦」容認の厚労省にダメ出しするものであったようだ(なお、両ニュースはバックナンバーや記事本体がとても高額な有料制であり、とくに薬事ニュース社は購読対象を業界関係者に限定しているので、検索結果に表示される抜粋から読み取った)。

記事には明記されていないが、「薬害被害者など禁止に賛成する5団体」のうち、少なくとも薬害被害者系団体と消費者団体は、改正施行規則の規制では満足しておらず、第3類を含む全て、水溶性ビタミン剤などを含む全ての一般医薬品のネット販売禁止を求めてきた経緯があり(薬害オンブスパースン会議サイトにある要望書)、議員連盟のトーンもこの線である可能性は十分にある。

なお、勉強会と議員連盟の代表は元厚生労働大臣でその方面の議員連盟複数のトップをつとめる尾辻秀久参議院議員。そして 薬剤師求人サイトに掲載されている薬事日報記事によると事務局長をつとめているという渡嘉敷奈緒美衆議院議員は薬学部出身で薬剤師免許を取得して社会人としてのキャリアを製薬会社でもある資生堂でスタートしている(そもそも資生堂は調剤薬局として創始された企業)。現在、厚生労働委員会の委員をつとめていて、>自身のサイトに2008年2月の厚生労働委員会で新薬事法施行について与党議員として質疑を行っている議事録を掲載している。

2009/03/08

Permalink 13:06:27, 著者: Nobuo Sakiyama Email , 695 回閲覧   Japanese (JP)
カテゴリ: 政治

薬事法施行規則の改正についての手続き的な疑義

そもそも、今回の薬事法施行規則の改正、個人的には手続き的な疑義が生じてきた。

「悪しき業者行政」の改革として行政手続法によるパブリックコメント制度などが整備されてきたわけなのだけれども、そうした改革のひとつに政策評価制度がある。政策評価制度自体は事後評価が中心かつ先行して行われてきたのだけれども、第二段階として試行ののち「規制の事前評価」が導入され、規制の導入や改廃については規制影響分析を実施することが2007年から義務づけられている。

そこで、厚生省の平成20年度規制影響分析書一覧をみてみたのだが、医薬品の通販禁止、という項目や、それが含まれそうな項目はない。試行時期を含めて遡っても、掲載されていない。通販の禁止で医薬品ネット通販業者のみならず、多くの伝統薬の製薬会社が存亡の危機というのは、あきらかに国民の権利に大きな影響を与える事態で、規制影響分析が行われないというのは不適切な事態のように思われた。

ただ、規制の事前評価を義務付けた行政機関が行う政策の評価に関する法律施行令の第3条第6号には

六  法律又は法律の委任に基づく政令の制定又は改廃により、規制(国民の権利を制限し、又はこれに義務を課する作用(租税、裁判手続、補助金の交付の申請手続その他の総務省令で定めるものに係る作用を除く。)をいう。以下この号において同じ。)を新設し、若しくは廃止し、又は規制の内容の変更(提出すべき書類の種類、記載事項又は様式の軽微な変更その他の国民生活又は社会経済に相当程度の影響を及ぼすことが見込まれないものとして総務省令で定める変更を除く。)をすることを目的とする政策

行政機関が行う政策の評価に関する法律施行令

とあり、一方で薬事法施行規則改正は「厚生労働省令」という省令で行われていて、義務づけの範囲に入っている、とは必ずしもいえない(私は行政法の勉強をしたわけではないので、厳密なところは分からない)。政令ではない施行規則改正で規制を導入しつつ事前評価をしていないというのは、最近では「インターネット異性紹介事業を利用して児童を誘引する行為の規制等に関する法律施行規則」の改正での年齢認証強化など他にもあるので、事前評価がないからとただちに違法だとはいえない。「インターネット異性紹介事業を利用して児童を誘引する行為の規制等に関する法律施行規則」改正については、「インターネット異性紹介事業を利用して児童を誘引する行為の規制等に関する法律」の改正の前に規制影響評価が行われていて、その範囲の話だ、と読むこともできるが、一方で薬事法改正は2006年で事前影響評価の義務付けの前の話であったりする。

しかしながら、少なくとも今回の薬事法施行規則の改正は薬事法本体の改正から自明に導かれる程度を越えた規制を導入しているわけだし、行政機関政策評価法施行令と同時に閣議決定により改正された政策評価に関する基本方針によれば、「規制の事前評価については、その実施が義務付けられている規制以外のものについても、積極的かつ自主的に事前評価を行うよう努めるものとする。」とのことだから、今回、規制影響分析が行われていないのは不適切であるように思う。

こういったことを踏まえると、手続き面と実質面と両面で問題があるのだから、厚生労働省が頑なであり、再検討の委員会に希望が持てなさそうであれば、総務省行政評価局に政策評価制度についての要望をあげたり行政相談を使ってみたりすることも並行してやっていったほうがいいんじゃないかと思った。

Permalink 12:06:56, 著者: Nobuo Sakiyama Email , 721 回閲覧   Japanese (JP)
カテゴリ: 政治

医薬品流通制限と憲法の問題は厚生労働省も認識しているはず

薬事法施行規則での医薬品ネット販売禁止問題って、ネット通販の個人輸入に流れるだけだろというのは以前書いたとおりで、実態はもう進んでいて、花粉症シーズンのこの時期、とあるアメリカ住所の日本語通販サイトで日本だと処方薬だけれどもアメリカではOTCになっているクラリチンのジェネリック版がものすごい勢いで売れていて、一日あたりの単価が一番安い、コストコのプライベートブランドの300錠が送料込み2000円強というのが売りきれて、次は30錠800円弱というのが売れ筋商品になっているこのごろ、というのが実態。コストコのやつは300錠って一日一錠として10ヶ月弱分、法令上許可が要らないのが2ヶ月とか処方薬で1ヶ月とかなので、なんで厚生労働省の個別の許可がなくて通関できてるのか謎だけれども、実態はそんなもんです。会社半日休んで初診料・再診料払って診察受けて処方箋もらって調剤薬局に行き、というのを避ける人たちが大勢いるのは、まぁ、それはそうだろという感じ。普通の風邪薬なども国内ドラッグストアなみの値段だし、ブランドも、コンタックみたいに日本と共通してるものって多いから、6月以降は間違いなく医薬品をネット通販で買っている人たちのかなりの部分はこうしたサイトに流れるだけで終わるんじゃなかろうか。

厚生労働省も、何も考えていないわけではなく、2007年の「有効で安全な医薬品を迅速に提供するための検討会」報告書というのをみると、医師等以外による個人輸入を制限していきたい、という話にはなってはいる。

(2)個人輸入の制限等

医薬品の個人輸入については、国内でその品質や安全性が確認されていない医薬品であっても、海外で受けた治療の継続や、国内未承認の抗がん剤などを使用した治療法等への配慮から、①他者に販売や授与をしないことを前提に、②自己の疾病治療等に必要な医薬品について、③自らの責任で使用するために個人輸入することまでは薬事法において禁止していない。

しかしながら、医薬品の個人輸入により入手したシルデナフィルを服用した男性が死亡した事例や経口妊娠中絶薬を服用した女性に健康被害が発生した事例等がみられるほか、インターネットの急速な普及に伴い、インターネット上で医薬品の輸入代行を行う旨の広告が氾濫するなど、本来は医師等の専門家が関与すべき医薬品でありながら、それ以外の者がインターネット等を通じ安易に個人輸入し、使用することによる健康被害の発生が危惧される。

このようなことから、医薬品の安易な個人輸入を行わないよう、注意喚起を図るとともに、上記のような医師等以外の者による個人輸入については、保健衛生上の観点から一定の制限を加えるべきである。

有効で安全な医薬品を迅速に提供するための検討会 報告書 - 平成19年7月27日

とはいえ、医薬品の個人輸入を原則レベルで制限することは、少なくとも現行の業法としての薬事法の枠組では不可能だし、以下のように憲法問題になることも認識されていて、上記報告書の工程表には、個人輸入の制限については記載がない。

○ 高久座長

 結論としては、薬監証明を必要とするような薬については、個人輸入は基本的には認めないようにすると。そういう方向に行くということで。それから、医師個人輸入の場合に、これはこれから具体的にどうするかが問題であるにしても、外国の例を参考にすると、品質の確保という意味では薬剤師の関与を十分に考慮するということで。ちょうど時間になりました。どうぞ。

○ 高橋医薬食品局長

 ちょっとその辺はよくお考えいただかないといけないのですが、この個人輸入はある意味では野放しではないかという、ありていに言えばそういうようなお話になるのかもしれませんが、個人によるこういったものの所持や輸入がだめだということは、これはある意味では非常に大きい問題なので、例えば麻薬とかああいうものに、こういうものを持ってはいけないという罰則つきで完全禁止をするような話になるかどうかなんですね。その場合、ちょっとぐらい品質が悪いからだめなんだとか、個人には情報が十分いっていないからやはり禁止する方向がいいんだということは、これはある面憲法問題になりますので、本当にそこまで非常に危険だという証明ができるかどうかというのは、ちょっと私の方の目からいうとかなり難しいのかなという気はいたします。ですから、実態として現実には個人は余り情報を持っていませんから、できるだけ普及・啓蒙をやると同時に、できるだけお医者さんの方がきちっと管理をする方向で進めていくという方向は全く問題がないと思いますが、今問題になっている最後に禁止ということになるとかなり難しい側面があるということはひとつ御理解いただきたいと思います。

 それから、先ほどの13ページ、個人の輸入で届出があるものと同時に、届出が必要ないものがあります。これは山のようにあります。薬か食品かもわからないようなものがいっぱいあります。そこを全部何か国がチェックしろといったら、これはもう行政事務が大変なことになりますので、そこはあと個人責任でどう考えるかという問題が一つあるというのは御理解いただきたいと思います。

 それからもう一つは、輸入する場合に、では医者が責任を持って輸入するんだと。同時にあと内容のチェックというお話が出ましたが、医者が責任を持っているというのは、現行の法制度で医者が今の医療制度の中で、患者に対して全責任を負っているという格好になっているわけです。これは全体の法律の組み立てが。そのとき例えばそこで今度は品質の方もちゃんとチェックを誰かがやろうという話になれば、それは参加する誰かがもしかすると責任をともに担う立場になるわけで、それはいいときはいいですが、悪いときになったら必ずそこには責任を負うという問題が発生します。そこはよく慎重に考えていただかないといけないということを、ちょっと御理解いただきたいと思います。

○ 高久座長

 確かに禁止になると非常に大きな問題になるから、今おっしゃったようにPRをしてだんだん減らす方向に行くということしか仕方がないと思います。それから、薬剤師の方がどの程度関与するかということは、これは今後の検討課題になるのではないかと思います。よろしいでしょうか。おっしゃるとおりだと思います。どうもありがとうございました。

07/04/19 有効で安全な医薬品を迅速に提供するための検討会 第6回速記録

こういう経過のあとで、今回のネット通販禁止の話が出てきている。このとき、少なくとも買うほうについては、「その場合、ちょっとぐらい品質が悪いからだめなんだとか、個人には情報が十分いっていないからやはり禁止する方向がいいんだということは、これはある面憲法問題になりますので、本当にそこまで非常に危険だという証明ができるかどうかというのは、ちょっと私の方の目からいうとかなり難しいのかな」と、医薬食品局長が述べているというのは、厚生省側の発言として注目すべきだろう。今回の薬事法施行規則改正が業法の枠組の中であるとはいえ、上記の局長発言との整合性はツッコミに値するのではないか。

2009/02/27

Permalink 02:45:55, 著者: Nobuo Sakiyama Email , 714 回閲覧   Japanese (JP)
カテゴリ: 検閲, 児童ポルノ問題

鳩山総務大臣の答弁内容には反対だがそんなに「的外れ」ではない

楠さんが的外れと評していた鳩山総務大臣の答弁を含む2月18日予算委員会議事録が出ている。これ、読むとそんなに的外れじゃないと思うんだ。

丸谷議員の質問は、骨格部分は「インターネット上に児童ポルノをアップロードさせないこと」について「まずは産学連携主導で、その上で政府が協力する、若干消極的な印象も受けておりますが、総務省としてはどのように取り組んでいかれるのか」というものだ。これに対して「できる限り前向きに、先手を打ってこの問題を解決できるように、どこまでできるか、これからも研究したいと思っております。ですが、その前提として言えることは、それは断固として単純所持を禁止するべきなんです。」というのが、答弁の骨格。「単純所持禁止」という前提があって、はじめて「ブロッキング」などを官主導に、より「前向き」に検討できるというのがここの内容だ。単純所持禁止なり、民主党案の「取得禁止」なりをさらなる対策の前提とすること自体は論理的には至極当たり前のことで、単純所持禁止を盛り込む改正案制定の有無にかかわらずブロッキングなどの規制をすすめていこうとする動きがあるほうがむしろ危うい。

鳩山大臣答弁では続いて「表現の自由で守られる法益と児童ポルノによって失われる人権というものとの比較」とで「表現の自由という部分が大幅に削られて構わない」としていて、ここでアニメという言葉を出して揉めているのだけれども、そもそもが与党の改正案でもアニメなどは入っていないし、「すぐ『表現の自由』、『アニメの場合は』という表現がすぐ出てきますが」(議事録にない二重かぎ括弧をあえて補ってみた)という文脈で、アニメを直接どうしようとは言っていないので、それはとりあえずスルーして「比較」されている表現の自由は何か、ということを考えてみる。表現の自由というと一義的には発信者側の自由としてとらえられるので、それで「的外れ」という評価が出てくると思うのだけれども、はたして総務大臣がそこに限定して意識しているのか、というと違う可能性は十分にある。

国際人権規約という日本も批准している基本的な人権条約があって、これのB規約というのが自由権をまとめたものになる。そこの第19条が表現の自由だ。

第十九条

1 すべての者は、干渉されることなく意見を持つ権利を有する。

2 すべての者は、表現の自由についての権利を有する。この権利には、口頭、手書き若しくは印刷、芸術の形態又は自ら選択する他の方法により、国境とのかかわりなく、あらゆる種類の情報及び考えを求め、受け及び伝える自由を含む。

3 2の権利の行使には、特別の義務及び責任を伴う。したがって、この権利の行使については、一定の制限を課すことができる。ただし、その制限は、法律によって定められ、かつ、次の目的のために必要とされるものに限る。

(a) 他の者の権利又は信用の尊重
(b) 国の安全、公の秩序又は公衆の健康若しくは道徳の保護
国際人権B規約 第3部

この第19条2項の意味において、「表現の自由」には「自ら選択する」「方法により」「国境とのかかわりなく」「あらゆる種類の情報及び考えを求め、受け」る自由が含まれている。「あらゆる種類の情報」には、児童ポルノも、もちろん含まれることになる。続く3項にあるように、この自由は「一定の制限を課すことができる」から、第19条2項をもって「児童ポルノの単純所持を禁止することはすなわち国際人権B規約違反だ」という主張は当然のことながら成り立たないのだが、しかし、その制限は「法律によって定められ」る必要があるし、「次の目的のために必要とされる」程度のものである必要はある。鳩山大臣が政治的主張として表現の自由と「児童ポルノによって失われる人権」を理由として「単純所持に刑法罰」と主張するのは、その意味では筋が通っているし、ブロッキングなどに先行して法規制の必要性を述べるのも、人権規約との整合性はとれている。おそらく、丸谷議員の質問は事前通告されていて、それなりに筋が通るように事前チェックした内容を答弁したのではないかと思う。

ここで終わらせてはしょうもないので、私の問題意識を。そもそも論のレベルで単純所持禁止や民主党案の取得禁止それぞれについて反対だし、児童ポルノブロッキングも反対だが、それで終わらせてしまうことなく、ブロッキングまわりでもっと微妙な議論をしたい。そもそも、ブロッキングといって国際通信に介入して情報取得を制限する、という方法は、相当な劇薬であるわけなんだけれども、導入を求めるサイドにしても、これを「児童ポルノの深刻な問題を前にして導入もやむを得ない」と考えるのか、「主権国家たるもの国民の違法情報取得を制限できることが当たり前であってそれができていない現状がおかしい」と考えるのかで、相当な開きはあるだろう。総務省の「インターネット上の違法・有害情報への対応に関する検討会」の最終とりまとめ案へのパブコメでブロッキングの全ISPへの法律による強制を力強く主張していた「後藤コンプライアンス法律事務所」って、元警察官僚で現在は弁護士の後藤啓二氏の事務所だけれども、彼のトーンはどっちかというと後者なんじゃなかろうか。後藤氏は警察庁総合セキュリティ対策会議の今年度委員でもあって、児童ポルノブロッキングの議論自体は総務省よりも警察庁のほうがスタートが先だったと思われることもあるので、気になるところではある。

なぜこんな話をしているかというと、児童ポルノを禁止している国々においても、児童ポルノの定義はさまざまだということがある。ある国では児童ポルノと評価されるものが、別の国ではメインストリームの文化の一要素であったり、芸術として捉えられていたり、というのはごく普通のことだ。例えば実在の幼児を強姦している様子を露骨に撮った画像・映像が児童ポルノであることは、児童ポルノを法律で定義している国の間では間違いなく共有されるとしても、どの程度のものまでが児童ポルノで、どこから先がそうでないのか、あるいは児童か否かを分ける年齢、といったものは、国ごとで異なる。年齢は18歳未満ということに収斂していくだろうとしても、内容については、結局のところ、各国の文化に依存せざるをえない。先住民が伝統的なライフスタイルを貫いているとみな裸に近い状態であったりするところで思春期の少女の胸の露出を「児童ポルノ」と評価することはおよそナンセンスであろうし、逆に日本や西洋ではおよそポルノとみなされないような水着姿の女性をポルノとみなす国・地域もあるだろう。そこまでの極論をしないまでも、G8諸国の間でも、児童ポルノの定義というのは一致していない。人間というのは文化的生物なんで、どこまでがまっとうな表現活動で、どこから先が人権蹂躙になるかっていうのは、それぞれの被写体児童の文化的文脈に依存してしまう。

児童の人権が問題であるなら、ある児童ポルノをきちんと禁止している国で合法の範囲としているものを、別の児童ポルノ禁止国で「単純所持禁止」とか「閲覧防止措置」とか、そういうことをやる必要があるのだろうか、と思うのだ。ブロッキングで先行しているイギリスで、アメリカにサーバのあるWikipediaをブロッキングして騒動になったのは、大きくみればそういうことだ。そのアメリカからみて、ドイツの発行部数数十万のティーン向け雑誌のサイトが、児童ポルノ処罰の観点から安全でないサイトになっていたりする。それぞれの国内で児童の人権が蹂躙されていると認識されているわけでもないのに、これは馬鹿げた事態だと思うんだ。

もし、「やむを得ない」ブロッキングであれば、定義を問わず児童ポルノの頒布などを禁止する法律があるかどうかと法執行の実態の両面で各国の状況を調べて、そこがきちんとしていない国についてのみブロッキング対象とするというのだってありえるのではないか。論理的には、児童ポルノ限定でなくポルノ全般を禁止している国で法執行がきちんとしている国もブロッキングの必要はないだろう。国内の児童ポルノを取り締まる国が増えていけば、ブロッキング対象国は減少し、理念的には将来のどこかでブロッキングは廃止される。これが問題であるとすると、それは「ブロッキングありき」の情報流通制限インフラを導入するネタとして児童ポルノを扱っているという話になるのではないか。児童ポルノの定義が国によって異なる問題は根本的に解決不可能だから、自国の定義を基準にブロッキングするという話は、永続的なブロッキングを意味するし、永続的であることを前提に導入されたインフラは他の用途にも転用されやすいだろう。

まぁ、こういう議論は、日本においてポルノアニメに限らない「萌え」全般、アメリカやヨーロッパにおいてファッションブランドの広告表現などで、「18歳未満」を題材として少しでも性を連想させる表現をしているものすべてを糾弾の対象としている反児童ポルノ運動の団体からするとおおよそ受け入れられないだろうけどね。

2009/02/12

Permalink 01:04:11, 著者: Nobuo Sakiyama Email , 2702 回閲覧   Japanese (JP)
カテゴリ: 児童ポルノ問題

ドイツの児童ポルノ禁止強化の中身が実際のところよく分からないなぁ

昨年末、MIAUで出した「インターネット上の違法・有害情報への対応に関する検討会」最終とりまとめへのパブコメのさいに、ドイツの児童ポルノ禁止強化の内容を調べてパブコメにも書いた。その部分は、単純に根拠条文の問題でとりまとめ案に不適切な部分があったので修正を入れてもらった感じで、たいした話でもないのだけれども、それは法律レベルの話で実際のところ、よく分からないことがある。

まず、昨年あったドイツでの法改正は、従来の児童ポルノ(kinderpornographischer Schriften)が14歳未満を被写体とするものであったところをいじらず、あらたに jugendpornographischer Schriften (少年少女ポルノ、とでも訳す?)という14歳以上18歳未満を被写体とするものを作って、そこで禁止している。18歳未満が被写体同意のもとで単純所持することが単純所持禁止の例外になるとか、罰則が従来の児童ポルノより軽い、といったことで別条文になっているだけなので、一般的な状況で何が禁止されるか、ということには違いはない。

よく分からないのが、結局何がここでいうポルノなのだろうかということ。以前もふれたのだけれども、ドイツのBRAVO(リンク先はWikipediaの説明)という発行部数40万部以上の代表的なティーン誌では、長らく、男女のヌードと彼らへの性生活についてのインタビューを一緒に掲載するという連載が続いている。年齢は、以前は14歳以上からだったが、数年前から16歳から20歳ということになっている。まず、この連載のモデル募集が、今年になっても変わっていない。

Willst Du auch mitmachen?

Bist Du zwichen 16 und 20? Dann schick
Deine Bewerbung mit Foto [Ganzkörper] an:
Redaktion BRAVO -- Kennwort „That's me“,
(住所略)

Bei Veröffentlichung gibt es ein Honorar
von circa 400 Euro!

BRAVO Magazine

という内容で、現在も18歳未満をヌードモデルとして募集していることに気づいた。ただ、この連載は単体ヌードで、写真自体にも猥褻さはないので、変わらない、ということはよく考えれば不思議ではなかった。とはいえ、これは気になったきっかけ。この連載はDr. Sommer(バーチャル人格)による性教育コーナーの一部で、コーナーの中では、過去に10代のカップルのペッティング写真を使った連載もあった。ということで、BRAVOの50周年記念のデジタルアーカイブサイト(全記事があるわけではない)を確認してみたところ、Dr. Sommer のコーナーは1960年代からあり、ヌードは1970年代から現れはじめ、少なくとも1980年代には10代に見えるカップルのペッティング写真があり、1990年代では、カップルの少なくとも片方について18歳未満の年齢が明記されている同様の写真があった。細かい話をすると、単体ヌードや、立って軽く抱き合っているぐらいのポーズでは性器が露になっていても、ペッティング写真においては裸ではあっても性器が見えないポーズになっている、ということで、ハードコアポルノグラフィとは明らかに一線を画していて、さらに「性教育」の文脈で制作されていることから、そもそもペッティング写真ですら、猥褻さ、卑猥さを感じさせるものではない。そういう意味では、おそらくドイツでの文化的な意味では「ポルノグラフィ」ではないのだけれども、しかし、前述のような法改正をへて、なお堂々と公式のアーカイブサイトに置かれ続けている、というのは少々驚いた。

日本における現行の児童買春・児童ポルノ禁止法の定義では、上記で述べているBRAVOの写真のうち18歳未満が被写体となっているものはほとんどが児童ポルノとされるだろう(だから、ここにはBRAVOの公式サイトやアーカイブサイトへのリンクは置いていない)し、民主党案が定義を狭めているといっても、さすがにペッティング写真は救済されなさそうな気がする。BRAVOはドイツのメインストリーム文化の中に居座り続けている雑誌だから、日本の10代の少年少女が親の転勤などでドイツに在住して手にとることが十分ありうるので、法改正で「単純所持禁止」や「有償・反復取得禁止」などに国外犯規定がついたらどうなることやらと考えてしまうし、ブロッキングといってアンダーグラウンドのサイトではなくてドイツのメインストリーム文化に属するサイトをブロックするのがいったい誰のためになるのかしらとも思ったりする。というか、児童ポルノ規制強化推進に勤しんでいる方々は、ドイツの状況について率直なところいったいどう思っているのだろう?

2009/02/09

Permalink 00:23:48, 著者: Nobuo Sakiyama Email , 3604 回閲覧   Japanese (JP)
カテゴリ: コンピュータとインターネット, 政治

改正薬事法施行規則は個人輸入を拡大してしまうのではないだろうか

ブログをしばらく更新していなかった。いろいろネタはあるけれども、とりあえず前のエントリの続きで薬のネット販売規制の問題から。結局、「薬事法施行規則等の一部を改正する省令」は、ネット販売規制部分はそのまま出てきた。

省令が出る前の楠さんのコラムに次のように書いてあった。

ネット通販に関しては、大衆薬の販売以上に、未認可の漢方薬や処方薬が販売され薬害で死者を出すことの問題が深刻だ。こうした悪質な事案にさえ対処できていない現状にあって、コンビニで売ることのできる薬までネットでの販売を禁止することは、かえって真面目な事業者を市場から退出させ、成長の続く医薬品のネット通販市場を、規制の届かない海外や違法サイトに潜らせてしまう懸念が大きい。

医薬品のネット販売禁止、フェアな議論の場で再考を - インターネット- 最新ニュース: IT-PLUS

違法はともかくとして、規制の届かない海外、という問題はけっこう大きいのではないかという気がする。厚生労働省サイトの「医薬品等の個人輸入について」という文書によれは、医薬品の個人輸入は「特例的に、税関の確認を受けたうえで輸入することができ」るとのことなのだけれども、この特例には、とりあえずは分量の制限以内であればあてはまる。その上で、ブラックリストがあるということになる。ひとつは「医師の処方せん又は指示によらない個人の自己使用によって、重大な健康被害の起きるおそれがある医薬品」として列挙されたものが要処方箋で、もうひとつの大きなカテゴリとして「麻薬及び向精神薬」などが挙がっている。けれども、逆にいえばそれだけ。ワシントン条約違反とか知的財産侵害物品とかは、医薬品としてというのとはちょっと違う。

とりあえず、英語で適当に検索してみたところ、「処方箋なしで処方箋薬を売ります」というサイトはけっこうな数がみつかる。これ、アメリカを市場としているサイトなのだけれども、サイトの国籍はアメリカではない。アメリカではFDAの規制と監視、業界自主規制で、処方箋薬は処方箋無しでは売らない。日本と違って処方箋のファックス等送付での通販は認められてはいるけれども、処方箋は必要ということになっている。「処方箋なしで処方箋薬を売ります」の会社は、いくつか見たところではカナダやイギリスの住所を連絡先として出していて、薬そのものはジェネリック医薬品生産の大国として知られるインドから直接配送するとしている。この手のサイトで一番売れているのはどうやらよくあるspamそのまんまにバイアグラの類や毛生え薬、ホルモンなどのようだが、その方面に特化しているサイトでなければ、実になんでも売っている。抗うつ薬などもあれば(これは個人輸入すると違法ですね)、抗生物質、抗HIV薬もあったりする。そして、ネット販売禁止される第二類医薬品にあるような、アセトアミノフェン、イブプロフェンやインドメタシンなどの鎮痛剤なども普通に売っている。値段も、ものによっては送料を加えてもこの円高のおりかなり安いように見える。

多くの医薬品のネット販売を禁じたら、ある程度はたしかにコンビニなどの新たに認められた場所で買うようになるかもしれない。ただ、所詮、政令は新たな販売手段を「可能にする」ものであって、はたしてスペースに限りのあるコンビニに政令で定める枠組でどれだけの医薬品が置かれるか、というとかなり怪しいのではないだろうか。以前の医薬品から医薬部外品へのスイッチという規制緩和で、たしかにコンビニでうがい薬や薬効成分入りののど飴が置かれるようになったが、だからといって個人が欲しいと思う医薬部外品がなんでも近所のコンビニにあるかというとそういうものではない。結局、輸入だろうがなんだろうがネットで買えるなら買う人が増えるのではないだろうか。

医薬品の個人輸入のひとつの壁となるのは言語の問題だろう。日本人は英語に苦手意識を持つ人が多すぎるし、まして医薬品の名称や英語の効能書きとなればなおさらだ。個人輸入代行業というビジネスは、そういうところを狙っているのだろう。そして、厚生労働省も個人輸入代行業については厳しく規制し取り締まっている。しかし、問題はそれで終わるのか、ということだ。ネットで医薬品を今まで買えていたものが買えなくなる、という状況を作り出せば、それを埋めるというのは、ビジネスとしては十分に考えられることだろう。それは、これまでのような、特殊な薬を輸入したいと思うが英語や海外サイトとのやりとりが苦手な人達がそれなりのマージンを払って輸入代行してもらうのとは、全く違う話になる。例えば、海外の通販サイトが自ら日本語対応を行う場合もあるだろうし、あるいは、日本語でアフィリエイトサイトを作る人達も出てくるだろう。実際、「処方箋なしで処方箋薬を売ります」というサイトでアフィリエイト募集をしているところはいくつかあるようだ。前述の厚生労働省の個人輸入代行業規制の枠組や、あるいは薬事法そのものでも無承認医薬品の広告を禁止するなど厳しい規制がある(だからこの記事では具体的な医薬品販売サイトの例示は一切行っていない)というけれども、外国に存在するサーバーで日本語アフィリエイトサイトを作られたところで、違法行為として責任追及できるとも思えない。

こういう事態を招かないためには、6月より前に安全性を確保する手続きを確立して国内のネット医薬品通販の市場を潰さないことが必要なんじゃないかと思う。

2009/01/01

Permalink 14:39:48, 著者: Nobuo Sakiyama Email , 1841 回閲覧   Japanese (JP)
カテゴリ: コンピュータとインターネット, 政治

薬のネット販売規制問題については過去から学べるものがある

薬のネット販売規制の問題、MIAUでも「現在厚生労働省から提案されているような内容での、一般用医薬品のネット販売の規制には、反対」という声明を出しているのだけれども、個人的には、MIAU内部での検討過程の初期では軽くブレーキをかけつつ、この声明には反対しないというスタンスをとった。現状の販売方法に細部に渡ってまで問題がないとはいえないだろうが、それってドラッグストアも似たようなものだし、ネットだけをターゲットにして売るなというのはおかしいからね。医薬品のドラッグストアでの販売方法には薬の種類によっては規制強化することになっているけれども、そこはザルにならざるをえないだろうなかで、いかにもバランス悪いよねと。

こういうことって過去にも無かったのだろうか、というと、ある。薬事法薬局距離制限規定違憲事件というのがあって、日本国憲法の法令違憲判決の数少ないひとつ。営業の自由を侵害したとして昭和38年の薬事法改正(昭和38年法律第135号)での薬局距離制限規定が違憲とされた事例。ちなみに原告がスーパーマーケット内に薬局を設置しようとしたのは、まさに立法がターゲットとしたものであったりする(後述)。

問題の改正法の立法過程はというと、議員立法で出されていて、参議院先議。衆議院ではあまり細かく審議されていない。参議院でも、昭和38年3月26日に趣旨説明があり、同28日には審議から委員会採決に至っている。実質的な審議は後者に集中している。ここで槍玉にあがっているのは、都市部における医薬品の「乱売」、しかもスーパーマーケットでのそれであって、国民の健康と安全が錦の御旗となり、それまでの管理薬剤師(現行第七条)に加えて従事する薬剤師数の規制(現行第五条二号)が入り、さらに薬局距離制限規定も入った。そして、後者が違憲となったということになる。社会的な背景としては、当時はサリドマイド薬害の深刻な被害が明らかになっていたころで、薬事法改正の審議の枠の外ではあるのだけれども、3月26日の議事録でも「社会保障制度に関する調査(サリドマイド禍及び中性洗剤の毒性に関する件)」という案件のもとこの改正案が肯定的に参照されていたりする。同じ委員会では同時期に麻薬取締法改正などもあがっていて、「薬物乱用」について警戒する空気が盛り上がっていたこともわかる。未来からの目で28日の議事録を読むと実に興味深い。

当時も今も、薬害問題が営業規制を盛り上げる口実に使われていることに変わりはない(しかも、かつてのサリドマイド禍と現在の「ネット薬局」が関係したと言われる問題とは、規模も具体的内容も比べようもなく昔の問題のほうが大きかったと言える)し、「もともと医療・製薬業界って薬や治療法の許認可だけでなく保健医療の医療費・薬価を国が決めているから政策の裁量が非常に大きく」と楠さんが述べているのがロビイングの効果という側面だけならいいが政策でどこまでやっていいかという点については以下のようなトーンで導入された規制の大部分が違憲でひっくり返ったということをよく考えてみるべきなんだと思う。そして、ひっくり返すのにかつては10年以上かかったわけだけど、今のスピード感でそんな悠長でいいのだろうか。

それから、スーパー・マケットの問題でございますが、なるほどスーパー・マーケットは実際重宝だと思います。重宝だと思いますが、私はアメリカのスーパー・マーケットを見て参りましたが、日本はほとんどまねしながら、全く性格が違っている。アメリカのスーパー・マーケットは商店街にはほとんどございません。パン屋もなければ牛乳屋もない、肉屋もないというようなことが住宅街か団地でございます。そうして日常雑貨を売っている。ところが、日本のスーパ・マーケットはそういうような住宅街とか、あるいは団地とかいう所にもありましょうけれども、多くは小売商店が蟄居しているそのどまん中にスーパー・マーケットというものを作って、そうして小売商店の営業を圧迫しているのが日本のスーパー・マーケットのほんとうの実情だと思う。これは小売営業者の育成保護という立場からも考慮しなければならないのですけれども、金網のかごを持って自分の好きなものを買う、スリッパを買う、あるいはこっちへ行って化粧品を買う、医薬品を買う、こういうようなことは、医薬品以外のものについては差しつかえございませんが、先ほど申し上げました、しろうとの価値判断でできる問題でございますから、差しつかえないが、医薬品につきましては、後段の阿具根先生の御質問にも該当するわけでございますが、医薬品を、一々薬のことを知らないお客がそこの薬だなから金網のかごに入れて、そうして勘定場にそれを持って行きまして幾らだと、ほかの肉や缶詰と一緒に金を払うやり方は、これは現在の制度では違法になります。やはりいわゆる待命制度といいますか、その場におっていろいろなことを聞いて、あるいは教えて販売する建前をとらない限りは、非常に危険です。ところが、これは私どもは、かつて阿具根先生も一緒だったと思いますが、各地のスーパー・マーケットを見て回ったことがありますが、ある県庁に行きましたら、待命販売をやらせるということで許可したという話でした。それで、その薬務課長を案内役に立てて見に行って、私はバッチを隠して、この薬はどうするかと言ったら、女の子がおって、そこにかごがありますから、欲しい薬は何でもかごに入れて勘定場に持って行って払うのですと、こう言っておった。薬務課長は非常に赤面いたしましたが、こういうようなことは非常に多い。そこへ薬剤師を置かなければいけないというのです。大阪等を見て回っても、やはりそうです。しかも、薬剤師の女の子をスーパー・マーケットの勘定場に置いて勘定をやらせている。そうして詭弁を弄して薬剤師の方にこういう勘定場の仕事をやらせている。そうして製品を見て勘定するのですから、待命販売と同じことになるんじゃないかと詭弁を弄している、こういうやり方が実態であります。スーパー・マーケットのこういうやり方は危険性を持っている。

 そこで、第三番目のお話に、もう製品になっている、ここにも書いてある、テレビ、ラジオでも報道する、新聞にも広告してある、そういうことでやればいいじゃないかということでありますけれども、だれにも書いてあるとおり使えるものもあれば、非常に危険を伴うものもあるのが化学的製品の——昨日も中性洗剤のときに私申し上げたとおり、化学的製品の非常に危険なところであります。したがって、いつ危険が起こるかわからないということを常に念頭に置いてやはり扱わなければならない。でありますから、薬局、一般販売業には薬剤師を置かなければならない。薬種商は、薬種商のそういう試験を受けて薬種商の仕事をやはりやっているわけでございます。そこで、例をあげますれば、総合ビタミン剤を盛んに売っている。どこのビタミンも同じじゃないか、買おうか、こうは言っても、甲の会社で出している総合ビタミン剤と乙の会社で出している乙なる総合ビタミン剤とはやはり違う、同じ総合ビタミン剤でも。これはビタミンBに重点がある、これはビタミンAに重点がある、あるいはビタミンKに重点がある、みんな違っている。そういった点は、やはり専門家の業者に意見を聞いて、私はこうこうこういう考えで総合ビタミン剤がほしいのですが、どれがいいかということを聞けば、良識ある業者は、良識に基づいて、いろいろありますが、あなたにはこの総合ビタミン剤のほうが向くでしょう、こういうことを言う。そこまで大事をとらなくてもいいものもありましょうが、本質的にはそこまで大事をとって、価値判断のできないお客に対して価値判断を与えてやる、これが私は医薬品取り扱いの本質だろうと思う。でありますから、これは薬剤師でなくても勝手にやっていいというわけには参りませんので、やはり化学的製品は、いついかなるときに危険を伴うかもしれない。しかも、良識ある経営安定ができた薬局等でビタミン剤を売ります場合には、これは番号で、どこの会社で何年何月ごろ製造されたということがすぐわかる。ビタミン剤は、御承知のとおり、非常に破壊される、分解される。ですから、決して害毒じゃないけれども、効力が非常に減退される。ある年月たちますと、そうすると良識ある薬局等でありますれば、これは古い総合ビタミン剤で効力半減している、だめじゃないが、まだ五〇%の効力があるけれども、それよりも先月仕入れた総合ビタミン剤、これは効力が九十何。パーセントぐらいあるはずだと判断して、古い品物はどんどん送り返してやる。そういう分解作用を起こさずに、効力をそのまま持っている新しい製品であるということを判定いたしまして売る、こういうことをしなければならないと思う。そういうことが、スーパー・マーケットの販売の仕方、つまり勝手に自分の好きなものをかごに入れて勘定だけ済ませばいいという場合には、とうていそれは期待できない。ことに専門家でない者が勝手に取り扱うという場合には、なおさら危険を伴う、こういうように考えますので、これが第二段目のスーパー・マーケットに対する考え方と、それから、しろうとでもそのまま見ればわかるじゃないかとおっしゃる御質問に対する一応の私の答弁でございます。

高野一夫答弁: 参議院社会労働委員会 昭和38年3月28日

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