「出会い狩り」問題のやっかいさ

2009/04/13

Permalink 00:39:44, 著者: Nobuo Sakiyama Email , 4195 回閲覧   Japanese (JP)
カテゴリ: 検閲, 通信傍受, 監視社会

「出会い狩り」問題のやっかいさ

楠さんがmixiの出会いコミュ大量削除問題に言及し続報も書いている件、実のところ、かなりやっかいんだよね。

楠さんは今回の出会い系サイト規制法改正に問題があったという認識のようなんだけれども、全ての根は、そもそもの2003年の出会い系サイト規制法の立法に遡る。「ネット上に限った交際相手を募集していても『出会い系』とみなされてしまう」というのは、今回の警察庁の要請に限った話ではなく、規制法の当初の解釈基準において、実際に出会うかどうかではない、と明記されていた。最初の解釈基準もパブリックコメント募集があり、その上で堅持されたものだ。今回の問題は、届け出制によって警察が法執行力を大幅に強化できたから表面化したにすぎない。私は、2003年の法案が出る前の段階でJCA-NETとCPSR/Japanの共同声明を起草して発表して懸念を示した。当時は、今もある某商業コミュニティサイトからの反応を頂いたのだが、私はヤバいと思って声明を出したものの、JCA-NETっていう左翼色の強い市民団体で声明を出す賛同を取り付けるだけならともかく、ネット企業とどう組むか、という話を私が主導権を握って回す状況にもなく、CPSR/Japanも実働はかなり厳しい団体なので、そのまま放置してしまった苦い思い出がある。

異性交際、というか、もう少しぶっちゃければ性的な関心が主導する交際相手探し、というのについて、警察サイドの見方を想像してみると、リアルかバーチャルかは関係ない、というのは、それなりに根拠がある。最終的に防ぎたいのが、児童買春を中心とした「不適切な大人と子どもの性的な関心での出会い」であるとして、それを手前で防ごうとすればどうなるの、ということだ。「通信の秘密」を前提とすると、児童側の通報があるのでなければ、つまり両者の「合意」が継続している限りにおいて、両者の通信内容に警察はタッチできない。そうなると、両者が接触すること自体を防ぐという話になる。実際に出会うことを前提としている場合は当然対象になるとして、「出会わないこと」を当初の前提としていても、通信の秘密で保護された二者の間の通信のなかで、その前提が覆されることはありうる。そして、それが現実であることはここまでに至る事件が証明している。

とはいえ、通信の秘密をアメリカ並に弱くするのと、業法でさらに手前で抑え込むのと、どちらが副作用が弱くみえて容易かといえば、警察からみても圧倒的に後者という話になるだろう。アメリカの話ついででいえば、アメリカでは児童をオンラインで誘う、いわゆるグルーミングについて、おとり捜査がかなり行われていて、端的には捜査員が子どものふりをしていたりするのが少なからず報道されているけれども、おとり捜査の合法性/違法性について、この場合、犯意誘発型と機会提供型のどちらなのかというのもあるけれども、現実の児童でない者を児童と思って誘うことを処罰対象とすることが日本の場合、はたして可能なのかというのもなかなか大きな問題のように思われる。ネット上のやりとりで、両方が児童でないとして、それは児童と思い込んで誘おうとしているのか、Age Play、日本のネット文化圏では「イメチャ」の一種になるだろうが、それと客観的な証拠で区別つけられるのか、といった問題もあるだろう。さらに、あらゆる困難を乗り越えてグルーミング処罰化を実現したとして、警察がどれだけ法執行のリソースを割けるのか、という問題はある。誘う段階の処罰だから、実際の児童買春や青少年条例の淫行処罰規定より、重くできるようには思えない。出会い系サイト規制法の禁止誘引行為の罰則は今のところ100万円以下の罰金に過ぎず、その水準で通信傍受捜査とかおとり捜査とか、ありえないだろう。逆にいうと、淫行処罰規定を構成要件を限定して条例から法律に移行して、全体として児童相手の性犯罪の量刑をアメリカのように大幅に引き上げて、その上でグルーミング処罰化をそれなりに重い罰則でやらないと、実効性はない。そこまでやるという選択が、日本で現実的なんだろうか。

処罰対象を公然と性的目的で児童を誘い出すことに絞る、というのは、それはひとつのアプローチではあるのだろうけれども、児童が全て無垢ではないわけで、それで児童買春や、青少年条例で問題になるような児童と成人との関係を十分に抑制できるかというと、警察を納得させられるものでもないだろう。

出会い系サイト規制法がネット規制という観点からは最低・最悪の部類だというのは、もうずっと前から思ってはいるのだけれども、ではどうしたらいいか、というと、なかなかいい代案が浮かばないんだよなぁ。

この記事へのトラックバック アドレス

http://blog.sakichan.org/htsrv/trackback.php/9b92df85d02feff999c279ef503f06a9f2de41b323da35e6723a19aea5010f0e

コメント, トラックバック, ピンバック:

コメント: TAKI [訪問者] Email
そもそも代案って必要なんでしょうか。
積極主義の意見に対して、積極主義の意見を返さなければならないということはないでしょう。
なにがなんでも対策が必要だというのは、それこそ官僚的思考がもたらす悪癖です。
たとえるなら、とにかくアメリカと戦争しなければならないと思い込んでいた日本海軍のようなものです。
放任にしてはいけない理由ってなんなんですか。
Permalink永続的リンク 2009/04/16 @ 18:52
コメント: Nobuo Sakiyama [メンバー] Email · http://www.sakichan.org/

代案なしに、例えば出会い系サイト規制法を廃止する、という法案が近い将来に議会を通して実現される可能性がどれだけあるか、というと、現実的な判断としてはほとんどないでしょう。もっといえば、廃止法案を国会に提出できる見込みすら立たないといっていい。すでに出会い系サイト規制法が存在しているという前提をひっくり返そうというときに、出会い系サイト規制法が守ろうとしている法益について、全否定する方向での立論で議会の多数派を説得できる具体的な見込みがあるのでなければ、「代案」は必要でしょう。

30年後、50年後、100年後というスパンの話をするのであれば、そもそも論で大人と子どもの性的な出会いを放任してよい、という主張を粘り強くするという思想は世の中にあってもいいと思いますが、出会い系サイト規制法の弊害を取り除きたいという話は、1年は無理としても数年以内に実現したい話です。政治や政策というのは、常に暫定的なものだと私は思っています。

Permalink永続的リンク 2009/04/16 @ 23:52
コメント: TAKI [訪問者] Email
数年でですか…。
それならやはり政局に頼るしかないんじゃないんでしょうか。議会工作といっても、正しい理屈だけで「説得」されてはくれないでしょう。
「拡大しすぎて弊害が大きくなった警察官僚の規制権限を排除する」という名目なら、民主党あたりなら乗ってくるかもしれません。
それか、逆に議員の大多数の無関心を利用して、改正案と銘打っただけの、現行法を骨抜きにした事実上の廃止法案を通してしまうとか。
Permalink永続的リンク 2009/04/17 @ 09:50

コメントを残す:

頂いたメールアドレスはこのサイト上には表示されません
頂いたURLは表示されます。

許可される XHTML タグ: <p, ul, ol, li, dl, dt, dd, address, blockquote, ins, del, span, bdo, br, em, strong, dfn, code, samp, kdb, var, cite, abbr, acronym, q, sub, sup, tt, i, b, big, small>
(改行が自動で <br /> になります)
(名前、メールアドレス、URLを記憶する Cookie を発行します)
(ユーザがメッセージ・フォームを通してあなたに連絡することを許可します (あなたのメール・アドレスは表示されません))

崎山伸夫のBlog

日々の意見やコメント、出来事などを書いていきます。

8月 2010
 << <   > >>
            1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31          

検索

いろいろ

XMLフィード

RSSとは?

オンラインユーザ一覧

  • ゲスト ユーザ: 20

powered by
b2evolution