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「ネットは検閲をダメージと解釈し、それを回避する」

2009/04/23

Permalink 10:45:38, by Nobuo Sakiyama Email , 20 words   Japanese (JP)
Categories: 検閲, 情報社会, 児童ポルノ問題

「ネットは検閲をダメージと解釈し、それを回避する」

タイトルは有名な1993年のジョン・ギルモア(EFFの創設者の一人)の言葉だけれども、うん、楠さんが日経で書いた出会い系規制でSNSを標的にした警察の動きに対しても、そういう事態が現在進行形で起きているようだ。

4月2日に警視庁が出会い系の書き込みの削除を要請したSNSなどという6社のうち、社名が報じられた4社のサイトはEMA認定サイトだけれども、他の2社は名前が出ていない。口頭要請だったとはいえ、関係する内部文書を情報公開請求でもすれば分かるかな、という気はするが、それはおいておく。数日して、これは神奈川県警なのだけれども、「児童買春:25歳消防士逮捕」という記事があり、

2人は「エスタ」と呼ばれる携帯電話のコミュニティーサイトを通じて知り合ったという。

児童買春:25歳消防士逮捕 神奈川県警 - 毎日新聞 2009年4月6日 21時52分
「エスタ」とサイトの名前が出ている。エスタ(ケータイからのみアクセス可能)は、携帯電話コンテンツの事業を行っている株式会社アブサンが運営する「コンテンツ搭載型SNS」で、当初は掲示板サイトだったらしいが、2007年にリニューアルして会員数をそこそこ増やしてきていたということらしい。簡単に言えば、モバゲータウンやグリーと同類サービスということになる。エスタの特徴は、同業他社の多くがアバターを使っているところ、各利用者が携帯電話で撮ってメールで送る写真、「写メ」を積極的に利用してもらおう、という点にあった。

株式会社アブサンは、2006年設立の資本金1000万円の企業で、本社所在地を検索してみると、レンタルオフィスで間取りをみる感じ、数人がやっとという感じになる。スタートアップ企業がネットサービスをやるというとこんな規模というのは珍しくないだろうが、とりあえず、「健全化」のために大手企業のような人海戦術をやる、というのはどう見ても無理、という状況で、事実として、野放しに近い運用だったようだ。ユーザー登録しなくても登録利用者のメンバー検索や、そこから日記を見るなどはできるので覗いてみると、友達数の多いユーザーのかなりの割合が自分の裸をさらしていらっしゃっていて、18歳未満の年齢も多い。「出会い」的な自己紹介も見ることができる。前記の事件は、そういう環境で起きている。で、その結果、「健全化」をものすごい勢いで警察から要求された、ように見える。が、前述のように、運営者はそのリソースがある企業ではない。

ということで、株式会社アブサンは、一度、エスタを4月末日で「運営終了」するというアナウンスをエスタの中で出したそうだ(これ自体は私は直接みていないが、後述するように現在もそれが事実であることは分かる。登録利用者にはメールも送られたかもしれない。私は運営終了がサイト外で話題になっていたのに気づいて追いかけている)。結果、何が起きたか。

SNSのユーザーは、利用者同士の結びつきがあって、継続的なコミュニケーションをとっている。サイトが無くなるということは、この結びつきを壊すことになる。ということで、実のところ、ゲームとかマンガとかのコンテンツはどうでもいいがコミュニケーションは続けたいユーザーの考えることは、他のSNSへの移動だ。ただ、前記のようなフリーダムすぎるコミュニケーションぶりを、例えばモバゲータウンに移ってやろうとしても無理なことは自明だ。ということで、以前のOpenPNEブームのころに作られた「アダルトSNS」のうち、招待制でないところを、誰かが移転先として選んで広まった。移転先SNSについて調べてみると、OpenPNEの開発元の手嶋屋のASPサービスを利用していた。ということで捨てアカウントを作って検索をかけてみると、相変わらずフリーダムすぎて18歳未満で登録して性器無修正の写メを大量投稿して運営者に通報されてアカウント削除されるといった具合。しかしそのうち学習して、年齢はとりあえず18歳未満でも18歳にするとか、自己紹介欄を修正するとか、そうやって定着していきそうな雰囲気になっていた。

一方、株式会社アブサンのほうだが、事業の買い手でもついたのか、

過日より今月末日をもって運営停止の告知をさせていただきましたが、このたび、来月5月1日より運営を株式会社デジタルマートに移管することとなりました。

(略)

来月以降も今までと変わらず運営を続けて参りますのでご安心下さい。

なお、今後はユーザーの皆様に快適にご利用いただくために、悪質な投稿により一層、監視体制を強化して参ります。携帯を巡る未成年の事件が頻発する世相に鑑み、不可欠の措置ですのでご理解賜りますようお願いいたします。

このたびは、まぎわらしい終了告知の件、皆様にはご迷惑をおかけして申し訳ございません。

今後とも変わらぬご愛顧をいただきますよう、引き続きよろしくお願い申し上げます。

というアナウンスをサイト内に出した。これで登録ユーザーの移転騒ぎはいったん落ち着いたようにも見える。問題は移管先だ。「デジタルマート」という商号、検索すると家電量販店が複数ひっかかるのは関係ないとして、アダルトサイト関係でひとつ同じ商号の会社がある。ただ、よくある名前なので同一かどうかは分からないし、既存事業が何であろうと「監視体制を強化」できればそれでいいとは言える。ただ、これで疑念をもったという状況ではある。ということで、上で略したところ、「株式会社デジタルマート」の住所と電話番号、FAX番号があったので、これを調べてみることにした。住所は「東京都千代田区九段南4-7-22」。Googleで検索すると、上位にバーチャルオフィス九段南・南青山というサイトが出てくる。バーチャルオフィスということで、電話転送や郵便物受け取りをして、登記も置かせてくれるが机はない、という形態のサービスだ。もっとも、同じ住所で店舗などもあるので、これだけでは断定できない。ということで、FAX番号で検索したところ…、同じFAX番号の企業が少なからずあり、上記のバーチャルオフィスを利用していると明記しているところが含まれていた。ということで、移管先の企業の実態が公表された住所にないことは確実だ。その後、エスタ内の告知は更新され、電話番号とFAX番号は削除された。この状況で「監視体制を強化して参ります」という言葉を額面どおりに受け取れるかというと、無理だろう。そして、多分ユーザーもそれを望んでいないし。

ユーザーの動き、事業者の動き、両方とも、素直に警察の過剰な要請を受け入れる話にはなっておらず、今はまだ稚拙な動きに見えるが、遠からず、海外流出は現実のものになるのではないだろうか。