アーカイブ: 5月 2009

2009/05/16

Permalink 22:12:14, 著者: Nobuo Sakiyama Email , 2498 回閲覧   Japanese (JP)
カテゴリ: 検閲

「レイプレイ」叩きに見るポリシーロンダリング(3、止)

長いので分けて書いてきた本記事ですが、 その1その2ときて、この記事はその3になります。

ここまでの要約: 「レイプレイ」が最初にイギリスで叩かれたタイミングは、児童の性描写を含む創作物のうちわいせつなものの単純所持を禁止する法案の集中審議の直前で、同時に暴力ポルノの一部の単純所持禁止も開始され、かつ範囲拡大に向けた動きがあり、後者に深く係わった法学者はラディカル・フェミニズム系の反ポルノ運動の系譜にあり、ラディカル・フェミニズム系の反ポルノ運動の代表的な存在のCatharine MacKinnonや、Equality Nowともつながりがある。

さて、Equality Now のそもそものスタンスなのだけれども、まず、Equality Now ではThe Lawyers’ Alliance for Women (LAW) Projectというのをやっていて、「女性の平等権の推進」のために、法改正を求めることを含めて「法を使っていく」というのをやっている。このプロジェクトの共同代表のひとりに、前述のCatharine MacKinnonが就いている。また、LAW Project自体は 2001年からだそうだが、その活動のひとつとされるAmicus Curiae Briefs提出の項の先頭で書かれているのは、LAW Project開始から遡る2000年、カナダのLittle Sisters Book and Art Emporium v. Canadaという最高裁判決への貢献となっている。この判決について説明するには、さらに1992年に遡って R. v. Butler(バトラー判決)という別のカナダ最高裁判決から説明する必要がある。この判決は、わいせつ物規制を「モラル」を理由として行うことは表現の自由を侵害するものとして違憲としつつも、わいせつなポルノは平等権侵害となるのでそれからの保護としての規制は合憲である、というロジックで、わいせつ物規制を肯定したものとされている。ただ、バトラー判決では、具体的には異性愛ポルノについての事件となっていて、直接には「男女平等」を害するという話になっていた。一般に、この判決は、わいせつ性判断において性暴力を大きく考慮する傾向をもたらしたこともあり、反ポルノのフェミニズムのうち、法的規制を肯定する立場の人々にとって、大きな勝利とみなされている。さて、次に Little Sisters Book and Art Emporium v. Canada である。こちらは、同性愛者向けの書店が、アメリカからの書籍輸入を税関で(しばしば)差し止められたものについて、表現の自由を侵害していると国を訴えたものだ。同性愛者むけ書店なので、ここで問題になるのは女性むけのレズビアンポルノグラフィや、男性むけのゲイポルノグラフィになる。より具体的には、SMポルノグラフィが問題となった。判決は、バトラー判決はジェンダー中立だとして規制を合憲だとした。この裁判でEquality Nowは国側を支持する Amicus Curiae Brief を出した。提出されたものそのものは探し出せていないのだが、Equality Nowの年次レポートの2000年版には次のようにある。

From Equality Now’s Factum to the Supreme Court of Canada: Equality Now submits that lesbian and gay male pornography, including sadomasochistic pornography, promotes inequality-based harms, no less than does hetereosexual pornography. Specifically, this material advances and promotes self-hating, aggressive, violent, non-consensual behaviour as positive, normal and liberating. In so doing, it reinforces those social attitudes and behaviours that create systemic inequality on the basis of sex and sexual orientation— misogyny and homophobia alike—by sexually conditioning lesbian women and gay men to those attitudes and practices. The result is harm to individuals who are rendered inferior, vulnerable and unequal on the basis of their gender.

EQUALITY NOW: ANNUAL REPORT 2000

私には、「同性愛者が自身の性的指向に沿ったポルノグラフィを閲覧すると、それがよからぬことを助長して、その結果として社会の同性愛嫌悪が強化されるから有害である」という主張は、およそ転倒したロジックにしか読めないし、そもそもこれ自体が同性愛者をかなりバカにした主張のように読めるのだが、とにかくこの主張のほうをカナダの最高裁は採用した、ということになる。そして、Equality Nowが、行為者の合意にかかわらずSMポルノグラフィをどのようにみているか、よく分かる内容でもある。彼らにとって、「性暴力ポルノ」は、強姦描写にとどまらず、十分な合意があっても、SMポルノグラフィは性暴力ポルノとなる。というか、もっと言えば彼らのスタンスでは、BDSM自体が性暴力として否定されるべきなのだろう。英語版 Wikipedia で Sex-positive feminismや、Anti-pornography movementといった項目に、フェミニストの間でのスタンスの違いについて簡単に書いてあるが、詳しい話は書籍にあたることになるのだろう(たぶん、Macskaさんとかは専門なので詳しい)。

さて、で、レイプレイ叩きの話に戻ると、Equality Nowはニューヨークが本部だけれども、ロンドンにも事務所がある。Wikipediaによれば国際研究センターとヨーロッパでの拠点だそうだが、こういう場所を持っていることで、イギリスの規制強化の流れとの連携も可能だろうし、ネットや一般的な報道以外にもいろいろ聞いて自分達のアクションにつなげた可能性もあるだろう。Equality Now の幹部の一人が角田由紀子弁護士だからって、彼女とAPP研のジサクジエン説をとなえて安心する人達は、ややポイントを外しているのではないかと思ったよ。

Permalink 20:02:38, 著者: Nobuo Sakiyama Email , 2799 回閲覧   Japanese (JP)
カテゴリ: 検閲

「レイプレイ」叩きに見るポリシーロンダリング(2)

前の記事の続き。

イギリスでレイプレイについて騒いだ国会議員の発言をみると、「子ども」よりも「性暴力」に重点があるようにも見える。イギリスではextreme pornography という形で、過激な暴力ポルノなどの単純所持が違法化されたことは施行直前の去年の時点でも言及したのだけれども、それが今年に入って施行されている。ところが、ここで付け加えるべきことがあって、この文章では、ここまで「イギリス」と書いていて、これは日本語の通常の意味ではUnited Kingdom全体を差すのだけれども、イギリスは名前のとおり「連合王国」なので、法体系が複数あったりする。一般論では、イングランドとウェールズでひとつ、北アイルランドでもうひとつ、スコットランドで三つめ、となっている。詳しくはWikipedia英語版の記事をみてもらうとして、とりあえず、ここで話題にしているような刑罰法規については、北アイルランドはイングランド・ウェールズとほとんど一緒(両方とも連合王国議会が決めるので、新しい法律は基本的に一本の法律で書く)なのに対して、スコットランドは独自性が高い(スコットランド議会が別途決めているし、そもそも大陸法の要素が強いそうだ)。ということで、スコットランド版の extreme pornography 禁止は、今年の3月にスコットランド議会に提出された法案、Criminal Justice and Licensing (Scotland) Billの34条になっている。この中身は、ややイングランド版とは異なる。イングランド版では

63 Possession of extreme pornographic images
(7) An image falls within this subsection if it portrays, in an explicit and realistic way, any of the following—
(a) an act which threatens a person’s life,
(b) an act which results, or is likely to result, in serious injury to a person’s anus, breasts or genitals,
(c) an act which involves sexual interference with a human corpse, or
(d) a person performing an act of intercourse or oral sex with an animal (whether dead or alive),
and a reasonable person looking at the image would think that any such person or animal was real.

Criminal Justice and Immigration Act 2008 (c. 4)

となっているところ、スコットランドの法案は

(6) An image is extreme if it depicts, in an explicit and realistic way any of the following—
(a) an act which takes or threatens a person’s life,
(b) an act which results, or is likely to result, in a person’s severe injury,
(c) rape or other non-consensual penetrative sexual activity,
(d) sexual activity involving (directly or indirectly) a human corpse,
(e) an act which involves sexual activity between a person and an animal (or the carcase of an animal)

Criminal Justice and Licensing (Scotland) Bill

となっている。まず、怪我を負わせる、もしくは負わせうる場合の程度が serious から severe に上がっている一方で、怪我の部位がイングランド版のように「肛門、胸、性器」と限定することはなくなっている。もっとも大きい違いとされるのが、c節にある強姦等の描写の導入で、これは暴力的なものに限らないし、日本で言う準強姦も含まれている。また、イングランド版の "a reasonable person looking at the image would think that any such person or animal was real" という限定がスコットランド版にはない。ただし、これについては "an explicit and realistic way" で実質カバーされるような解説が Explanatory Notes にあり、どの程度の違いかは専門家でない私には判断できない。

イギリスでのextreme pornographyの禁止を大きく後押ししたのは一件の殺人事件だということが広く知られている。事件は、男性が女性をベッドの上で絞殺したもの。この男性が、これを合意の上での「窒息プレイ」で起きた事故だと主張し、男性のコンピュータの閲覧履歴に同種のポルノのWebサイトがあったという(女性がその種のプレイの愛好者であるという証拠はない)。男性は殺人罪(murder)で起訴され有罪となったが、控訴後、殺害の意図が無かったということで故殺罪(manslaughter、日本の傷害致死に近いが同一ではない)に格下げになっている(刑期自体は変わらず)。この女性の遺族が、extreme pornographyの禁止の運動の先頭に立っていた。

問題は、禁止対象が必ずしも現実の殺人や傷害の記録である必要がないこと、同意の上での性行為の描写が少なからず対象になるという点だ。前記の男性が閲覧していたという「窒息プレイ」ポルノにしても、危険な行為であることは否めないにしても両者の合意の上で行っている人達が少なからずいて、また、性器等への傷害についても、BDSMの文脈では、特に「身体改造」のジャンルで合意の上で行われることはある(実際の傷害に至っていない場合を含めればさらに広がる)。また、屍姦的な要素は、ゴス文化の文脈に少なからずある。イギリス国内ではBacklashという、広範なグループからなる反対運動の組織が作られた(Wikipediaでの解説)。BDSM方面の著名人では、Fakir Musafarが、彼自身はアメリカ人だけれども、イギリスでの公演・ワークショップなどの関係でつくったMySpaceのページのブログでBacklashへ加入して反対運動に参加することを呼びかけた。

その一方で、規制賛成派はどういう見解かといえば、まず、政府は、extreme pornographyを「見ること」の有害性を主張して規制を正当だとし、従来の出版規制で合法とされているものは対象でないのだら BDSM コミュニティ抑圧にはあたらないとしている。しかし、単純所持規制は、出版などを予定していない、行為に参加したもの自身の所有が問題になる。この点は、「合意の上」のものについては、行為者自身の所有は処罰対象外(屍姦や獣姦は合意不能なので自己所有の免責はない)。しかし、合意だということと自身が参加者だということの挙証責任は訴追する側ではなく、所持した側にあるとされる。また、現場でいただけの人物は免責対象にはなっていない。一方、Durham大学ロースクール教授のClare McGlynnという人がいて、彼女は規制派として法案作りにも参加したと言われていて、賛成派と反対派の双方が参加した会議のコーディネーターでもあったりするのだが、Northern Echoという新聞系ニュースサイトの記事で、彼女は

Professor McGlynn said: "The conviction of Graham Coutts does not show that there is a casual link between looking at extreme pornography and sexual violence.

"Nevertheless, the prevalence of extreme pornography sustains a culture in which rape and sexual violence are normalised and legitimated; in which a woman's 'no' is not taken seriously, as evidenced by the low conviction rate for rape.

"It is not clear that the horrific rape websites, which are widely and freely available on the internet, are covered by the measures contained in the new Bill.

"We consider that these websites should clearly be covered."

Action urged to tackle extreme internet porn 8:27am Friday 6th July 2007, The Northern Echo

と、個々のextreme pornographyを見ることと実際の性暴力との間の、直接の因果関係は否定しつつ、それは問題ではなく、そういうものを許容する文化が問題だとし、イングランドの法案で強姦描写がカバーされていないことに不満を表明している。彼女はその後、今年に入ってからのスコットランドの法案についての記事で、強姦描写が対象となったことを歓迎している。

ここで注目したいのは、強姦描写が加わったことではなく、因果関係ではなく文化それ自体を問題としている点。これは、今後、実在の人物についてのものだという限定を外す方向を彼女が主張する可能性があると同時に、このロジック自体、彼女がラディカル・フェミニズム系の反ポルノ運動の系譜にあるということを言っているようなものだからだ。実際、昨年彼女が大学で開催したRethinking Rape Law: Akayesu 10 Years Onという国際会議では、招待講演者の一人に、かの Catharine MacKinnonの名があり、それと並んで Equality Now の代表の Jessica Neuwirth の名前もある。

Equality Nowの名前がやっと出てきたところで、以下は別記事にします。

Permalink 15:59:17, 著者: Nobuo Sakiyama Email , 8920 回閲覧   Japanese (JP)
カテゴリ: 検閲

「レイプレイ」叩きに見るポリシーロンダリング(1)

「レイプレイ」という、ひとつの、おそらくはマイナーなエロゲーが猛烈な勢いで叩かれた件について、今さらながら書いてみたいと思う。表面的な流れについては、セキュリティmemoの小島さんが手際よくまとめているので、もうちょっと背景的なものを。

単純に追っていくだけでも、抗議を行ったEquality Nowは、一貫して「女性に対する性暴力ゲーム」の禁止を求めており、ゲームで児童の年齢のキャラクターが扱われていることへの言及は、描写されている性暴力の程度を強調するだけのものにすぎないし、日本の児童ポルノ禁止法への言及も、APP研の見解を紹介する形になっている。しかし、読売新聞のキャンペーン支持的な報道では「児童ポルノ」(と言っているが実在の児童と関係しないもの)と強く結びつけられていることがわかる。Equality Nowのメッセージそのままでは広範で強すぎるので、昨年来の日本ユニセフ協会などのキャンペーンと結びつけるように、あえてメッセージを狭めたものだ。しかも、読売新聞では

インターネットで国を越えて情報が流通するなか、子どもを性的に描写した児童ポルノの扱いが国際的な問題になっており、米国や英国などは漫画やコンピューターグラフィックス(CG)の画像なども含めて製造や販売を禁止している。

性暴力ゲーム、規制議論を 読売新聞 2009年5月13日

という、明らかな嘘まで書いている(この点は後述)。

ここから今回の背景に。まず、「レイプレイ」を最初に槍玉に上げたイギリスの事情から。イギリスではこのところ、刑事法規の改正が急ピッチで行われていて、そうした中で、性犯罪や性表現規制が強化されている状況にある。まず、現行の単純所持禁止の「児童ポルノ」の対象を確認すると、「写真」や「擬似写真」、そして、それらのトレース画などとなる。CGが問題となる場合、それはほぼ写真のように見えるリアルなもの。立法目的は描写された児童の存在を刑事訴訟のレベルで証明するという重荷から検察を解放することであって、実在でない描写を取り締まるものではない。トレース画など、実在のものからのトレースなどの「由来物」は、やはり実在児童の被害を前提にするから取り締まろう、ということで追加されたものであって、やはり創作物を取り締まるものではない。それ以外は、従来からのわいせつ物取り締まりの法律であるObscene Publications Act 1959が適用され、deprave and corrupt test と呼ばれるもので判断される。映像の頒布については、Video Recordings Act 1984 により、政府から独立している British Board of Film Classification (BBFC)による事前審査とレイティングが必須とされ、ゲームは映像に含まれているが、子どもを性的に描写したアニメやゲームが発禁になるのは結局のところ obscene と判断される場合で、レイプレイがもし審査されていれば発禁とされた可能性はあるが、全ての子どもを性的に描写したアニメやゲームが当然に発禁になるものではない。また、これらはいずれも出版や頒布を規制するものであって、単純製造を規制するものではない。従って、前述の読売新聞の記述は、現時点では明確に嘘である。なお、米国の場合は、「わいせつ」であることを前提にして視覚的創作物で児童描写の単純所持を禁止している。わいせつかどうかが問題になるので、やはり「子どもを性的に描写した漫画やアニメ」全ての製造販売が禁止されているわけではない。

さて、実のところ、イギリスでは、創作物に関する禁止は、現在の話ではなく、近い未来の話だろう。現在、イギリスの国会には、政府からCoroners and Justice Billという法案が提出されていて、審議経過をみると、すでに下院は通過し、貴族院の審議に入っている。法案の内容 (下院通過バージョン)はかなり幅広いのだが、第52条以下58条までの内容(政府原案では49条以下、となっていて若干ずれる)が、まさに創作物に関する禁止(prohibited images of children) になる。米国の場合、従来のわいせつ物頒布罪などと同一の定義を含めるなどして、従来公表が禁止されていないものをあらたに処罰対象とすることがないようになっていたが、この点、Coroners and Justice Billでは処罰対象を

(2)A prohibited image is an image which—
(a) is pornographic,
(b) falls within subsection (6), and
(c) is grossly offensive, disgusting or otherwise of an obscene character.

としていて(b節の参照先は具体的な描写内容の列挙)、最後のc節は従来のわいせつ物罪を定めた Obscene Publications Act とは異なる書きぶりで、そこのobscene は辞書通りの意味であって Obscene Publications Actを参照するものではない、ということになっている(ただ、どうやら、a,b,c併せてObscene Publications Actの範囲内、ということは前提されているらしい)。そして、55条での「子どもの画像」の定義で、画像に描かれた人物の全体としての印象が18歳未満の子どもであれば、「肉体的特徴」のいくつかが子どものものでなくても、それは子どもとみなす、とされていて、はっきりとある種の漫画をターゲットにしている。ちょっと詳しく立ち入り過ぎたけれども、いずれにせよこの法案はまだ審議中であって、前述のように読売新聞が嘘を書いたことは動かない。

ここで、ひとつ見るべきなのかもしれないのは、ゲームがイギリスで問題にされたタイミングは Coroners and Justice Billの審議が始まったすぐ後だったということだろう。委員会質疑の開始が2月3日で、その日と5日に参考人質疑がまとめて行われていて、Internet Watch Foundationからも参考人が出ていた。イギリスでの「レイプレイ」報道は2月12日から。そして、prohibited images of childrenの条項の集中審議は3月3日に行われている(リンク先は議事録)。イギリスでは Coroners and Justice Bill に問題の条項があることは大きく報道されているから、イギリス国内では法案と関連付けて受け取られた可能性は高いだろう。しかし、日本の報道からはそれは見えない。ただ、prohibited images of childrenは、まさに読売新聞のいう「子どもを性的に描写した児童ポルノの扱いが国際的な問題になっており」という文脈のものではある。

しかし、冒頭に書いたようにEquality Nowは児童描写に限定した話をしていない。ということでさらに続けるのだけれども、この記事はもう十分に長いのでいったんここで切って別記事で続けます。

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