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「レイプレイ」叩きに見るポリシーロンダリング(1)

2009/05/16

Permalink 15:59:17, by Nobuo Sakiyama Email , 98 words   Japanese (JP)
Categories: 検閲

「レイプレイ」叩きに見るポリシーロンダリング(1)

「レイプレイ」という、ひとつの、おそらくはマイナーなエロゲーが猛烈な勢いで叩かれた件について、今さらながら書いてみたいと思う。表面的な流れについては、セキュリティmemoの小島さんが手際よくまとめているので、もうちょっと背景的なものを。

単純に追っていくだけでも、抗議を行ったEquality Nowは、一貫して「女性に対する性暴力ゲーム」の禁止を求めており、ゲームで児童の年齢のキャラクターが扱われていることへの言及は、描写されている性暴力の程度を強調するだけのものにすぎないし、日本の児童ポルノ禁止法への言及も、APP研の見解を紹介する形になっている。しかし、読売新聞のキャンペーン支持的な報道では「児童ポルノ」(と言っているが実在の児童と関係しないもの)と強く結びつけられていることがわかる。Equality Nowのメッセージそのままでは広範で強すぎるので、昨年来の日本ユニセフ協会などのキャンペーンと結びつけるように、あえてメッセージを狭めたものだ。しかも、読売新聞では

インターネットで国を越えて情報が流通するなか、子どもを性的に描写した児童ポルノの扱いが国際的な問題になっており、米国や英国などは漫画やコンピューターグラフィックス(CG)の画像なども含めて製造や販売を禁止している。

性暴力ゲーム、規制議論を 読売新聞 2009年5月13日

という、明らかな嘘まで書いている(この点は後述)。

ここから今回の背景に。まず、「レイプレイ」を最初に槍玉に上げたイギリスの事情から。イギリスではこのところ、刑事法規の改正が急ピッチで行われていて、そうした中で、性犯罪や性表現規制が強化されている状況にある。まず、現行の単純所持禁止の「児童ポルノ」の対象を確認すると、「写真」や「擬似写真」、そして、それらのトレース画などとなる。CGが問題となる場合、それはほぼ写真のように見えるリアルなもの。立法目的は描写された児童の存在を刑事訴訟のレベルで証明するという重荷から検察を解放することであって、実在でない描写を取り締まるものではない。トレース画など、実在のものからのトレースなどの「由来物」は、やはり実在児童の被害を前提にするから取り締まろう、ということで追加されたものであって、やはり創作物を取り締まるものではない。それ以外は、従来からのわいせつ物取り締まりの法律であるObscene Publications Act 1959が適用され、deprave and corrupt test と呼ばれるもので判断される。映像の頒布については、Video Recordings Act 1984 により、政府から独立している British Board of Film Classification (BBFC)による事前審査とレイティングが必須とされ、ゲームは映像に含まれているが、子どもを性的に描写したアニメやゲームが発禁になるのは結局のところ obscene と判断される場合で、レイプレイがもし審査されていれば発禁とされた可能性はあるが、全ての子どもを性的に描写したアニメやゲームが当然に発禁になるものではない。また、これらはいずれも出版や頒布を規制するものであって、単純製造を規制するものではない。従って、前述の読売新聞の記述は、現時点では明確に嘘である。なお、米国の場合は、「わいせつ」であることを前提にして視覚的創作物で児童描写の単純所持を禁止している。わいせつかどうかが問題になるので、やはり「子どもを性的に描写した漫画やアニメ」全ての製造販売が禁止されているわけではない。

さて、実のところ、イギリスでは、創作物に関する禁止は、現在の話ではなく、近い未来の話だろう。現在、イギリスの国会には、政府からCoroners and Justice Billという法案が提出されていて、審議経過をみると、すでに下院は通過し、貴族院の審議に入っている。法案の内容 (下院通過バージョン)はかなり幅広いのだが、第52条以下58条までの内容(政府原案では49条以下、となっていて若干ずれる)が、まさに創作物に関する禁止(prohibited images of children) になる。米国の場合、従来のわいせつ物頒布罪などと同一の定義を含めるなどして、従来公表が禁止されていないものをあらたに処罰対象とすることがないようになっていたが、この点、Coroners and Justice Billでは処罰対象を

(2)A prohibited image is an image which—
(a) is pornographic,
(b) falls within subsection (6), and
(c) is grossly offensive, disgusting or otherwise of an obscene character.

としていて(b節の参照先は具体的な描写内容の列挙)、最後のc節は従来のわいせつ物罪を定めた Obscene Publications Act とは異なる書きぶりで、そこのobscene は辞書通りの意味であって Obscene Publications Actを参照するものではない、ということになっている(ただ、どうやら、a,b,c併せてObscene Publications Actの範囲内、ということは前提されているらしい)。そして、55条での「子どもの画像」の定義で、画像に描かれた人物の全体としての印象が18歳未満の子どもであれば、「肉体的特徴」のいくつかが子どものものでなくても、それは子どもとみなす、とされていて、はっきりとある種の漫画をターゲットにしている。ちょっと詳しく立ち入り過ぎたけれども、いずれにせよこの法案はまだ審議中であって、前述のように読売新聞が嘘を書いたことは動かない。

ここで、ひとつ見るべきなのかもしれないのは、ゲームがイギリスで問題にされたタイミングは Coroners and Justice Billの審議が始まったすぐ後だったということだろう。委員会質疑の開始が2月3日で、その日と5日に参考人質疑がまとめて行われていて、Internet Watch Foundationからも参考人が出ていた。イギリスでの「レイプレイ」報道は2月12日から。そして、prohibited images of childrenの条項の集中審議は3月3日に行われている(リンク先は議事録)。イギリスでは Coroners and Justice Bill に問題の条項があることは大きく報道されているから、イギリス国内では法案と関連付けて受け取られた可能性は高いだろう。しかし、日本の報道からはそれは見えない。ただ、prohibited images of childrenは、まさに読売新聞のいう「子どもを性的に描写した児童ポルノの扱いが国際的な問題になっており」という文脈のものではある。

しかし、冒頭に書いたようにEquality Nowは児童描写に限定した話をしていない。ということでさらに続けるのだけれども、この記事はもう十分に長いのでいったんここで切って別記事で続けます。