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「レイプレイ」叩きに見るポリシーロンダリング(2)

2009/05/16

Permalink 20:02:38, by Nobuo Sakiyama Email , 387 words   Japanese (JP)
Categories: 検閲

「レイプレイ」叩きに見るポリシーロンダリング(2)

前の記事の続き。

イギリスでレイプレイについて騒いだ国会議員の発言をみると、「子ども」よりも「性暴力」に重点があるようにも見える。イギリスではextreme pornography という形で、過激な暴力ポルノなどの単純所持が違法化されたことは施行直前の去年の時点でも言及したのだけれども、それが今年に入って施行されている。ところが、ここで付け加えるべきことがあって、この文章では、ここまで「イギリス」と書いていて、これは日本語の通常の意味ではUnited Kingdom全体を差すのだけれども、イギリスは名前のとおり「連合王国」なので、法体系が複数あったりする。一般論では、イングランドとウェールズでひとつ、北アイルランドでもうひとつ、スコットランドで三つめ、となっている。詳しくはWikipedia英語版の記事をみてもらうとして、とりあえず、ここで話題にしているような刑罰法規については、北アイルランドはイングランド・ウェールズとほとんど一緒(両方とも連合王国議会が決めるので、新しい法律は基本的に一本の法律で書く)なのに対して、スコットランドは独自性が高い(スコットランド議会が別途決めているし、そもそも大陸法の要素が強いそうだ)。ということで、スコットランド版の extreme pornography 禁止は、今年の3月にスコットランド議会に提出された法案、Criminal Justice and Licensing (Scotland) Billの34条になっている。この中身は、ややイングランド版とは異なる。イングランド版では

63 Possession of extreme pornographic images
(7) An image falls within this subsection if it portrays, in an explicit and realistic way, any of the following—
(a) an act which threatens a person’s life,
(b) an act which results, or is likely to result, in serious injury to a person’s anus, breasts or genitals,
(c) an act which involves sexual interference with a human corpse, or
(d) a person performing an act of intercourse or oral sex with an animal (whether dead or alive),
and a reasonable person looking at the image would think that any such person or animal was real.

Criminal Justice and Immigration Act 2008 (c. 4)

となっているところ、スコットランドの法案は

(6) An image is extreme if it depicts, in an explicit and realistic way any of the following—
(a) an act which takes or threatens a person’s life,
(b) an act which results, or is likely to result, in a person’s severe injury,
(c) rape or other non-consensual penetrative sexual activity,
(d) sexual activity involving (directly or indirectly) a human corpse,
(e) an act which involves sexual activity between a person and an animal (or the carcase of an animal)

Criminal Justice and Licensing (Scotland) Bill

となっている。まず、怪我を負わせる、もしくは負わせうる場合の程度が serious から severe に上がっている一方で、怪我の部位がイングランド版のように「肛門、胸、性器」と限定することはなくなっている。もっとも大きい違いとされるのが、c節にある強姦等の描写の導入で、これは暴力的なものに限らないし、日本で言う準強姦も含まれている。また、イングランド版の "a reasonable person looking at the image would think that any such person or animal was real" という限定がスコットランド版にはない。ただし、これについては "an explicit and realistic way" で実質カバーされるような解説が Explanatory Notes にあり、どの程度の違いかは専門家でない私には判断できない。

イギリスでのextreme pornographyの禁止を大きく後押ししたのは一件の殺人事件だということが広く知られている。事件は、男性が女性をベッドの上で絞殺したもの。この男性が、これを合意の上での「窒息プレイ」で起きた事故だと主張し、男性のコンピュータの閲覧履歴に同種のポルノのWebサイトがあったという(女性がその種のプレイの愛好者であるという証拠はない)。男性は殺人罪(murder)で起訴され有罪となったが、控訴後、殺害の意図が無かったということで故殺罪(manslaughter、日本の傷害致死に近いが同一ではない)に格下げになっている(刑期自体は変わらず)。この女性の遺族が、extreme pornographyの禁止の運動の先頭に立っていた。

問題は、禁止対象が必ずしも現実の殺人や傷害の記録である必要がないこと、同意の上での性行為の描写が少なからず対象になるという点だ。前記の男性が閲覧していたという「窒息プレイ」ポルノにしても、危険な行為であることは否めないにしても両者の合意の上で行っている人達が少なからずいて、また、性器等への傷害についても、BDSMの文脈では、特に「身体改造」のジャンルで合意の上で行われることはある(実際の傷害に至っていない場合を含めればさらに広がる)。また、屍姦的な要素は、ゴス文化の文脈に少なからずある。イギリス国内ではBacklashという、広範なグループからなる反対運動の組織が作られた(Wikipediaでの解説)。BDSM方面の著名人では、Fakir Musafarが、彼自身はアメリカ人だけれども、イギリスでの公演・ワークショップなどの関係でつくったMySpaceのページのブログでBacklashへ加入して反対運動に参加することを呼びかけた。

その一方で、規制賛成派はどういう見解かといえば、まず、政府は、extreme pornographyを「見ること」の有害性を主張して規制を正当だとし、従来の出版規制で合法とされているものは対象でないのだら BDSM コミュニティ抑圧にはあたらないとしている。しかし、単純所持規制は、出版などを予定していない、行為に参加したもの自身の所有が問題になる。この点は、「合意の上」のものについては、行為者自身の所有は処罰対象外(屍姦や獣姦は合意不能なので自己所有の免責はない)。しかし、合意だということと自身が参加者だということの挙証責任は訴追する側ではなく、所持した側にあるとされる。また、現場でいただけの人物は免責対象にはなっていない。一方、Durham大学ロースクール教授のClare McGlynnという人がいて、彼女は規制派として法案作りにも参加したと言われていて、賛成派と反対派の双方が参加した会議のコーディネーターでもあったりするのだが、Northern Echoという新聞系ニュースサイトの記事で、彼女は

Professor McGlynn said: "The conviction of Graham Coutts does not show that there is a casual link between looking at extreme pornography and sexual violence.

"Nevertheless, the prevalence of extreme pornography sustains a culture in which rape and sexual violence are normalised and legitimated; in which a woman's 'no' is not taken seriously, as evidenced by the low conviction rate for rape.

"It is not clear that the horrific rape websites, which are widely and freely available on the internet, are covered by the measures contained in the new Bill.

"We consider that these websites should clearly be covered."

Action urged to tackle extreme internet porn 8:27am Friday 6th July 2007, The Northern Echo

と、個々のextreme pornographyを見ることと実際の性暴力との間の、直接の因果関係は否定しつつ、それは問題ではなく、そういうものを許容する文化が問題だとし、イングランドの法案で強姦描写がカバーされていないことに不満を表明している。彼女はその後、今年に入ってからのスコットランドの法案についての記事で、強姦描写が対象となったことを歓迎している。

ここで注目したいのは、強姦描写が加わったことではなく、因果関係ではなく文化それ自体を問題としている点。これは、今後、実在の人物についてのものだという限定を外す方向を彼女が主張する可能性があると同時に、このロジック自体、彼女がラディカル・フェミニズム系の反ポルノ運動の系譜にあるということを言っているようなものだからだ。実際、昨年彼女が大学で開催したRethinking Rape Law: Akayesu 10 Years Onという国際会議では、招待講演者の一人に、かの Catharine MacKinnonの名があり、それと並んで Equality Now の代表の Jessica Neuwirth の名前もある。

Equality Nowの名前がやっと出てきたところで、以下は別記事にします。