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2008/04/09

Permalink 01:55:50, by Nobuo Sakiyama Email , 55 words   Japanese (JP)
Categories: 検閲, 言論・表現の自由, 児童ポルノ問題

bewaadさんの記事に「少なからず誤りがある」件

bewaadさん、「何故政治にネット規制反対派の声が届かないのか?」の分析結果の結論そのものにケチをつけるつもりはないのだが、しかし、「ネット規制反対派の主張する内容に少なからず誤りがあり、説得力を減じている」とする指摘そのものに、少なからず誤りがあるという状況は、さすがにどうかと思うんで、突っ込んでおくよ。

まず、ヴァルさんが言及している「児童ポルノ規制」、これの文脈をまずはふまえよう。今は、日本で児童買春・児童ポルノ禁止法ができた1999年前後ではではなくて2008年、児童ポルノ法改正の動きとして、単純所持規制や、創作物への定義拡大を求める声が大きく出てきている、という、その文脈をさして「児童ポルノ規制」に言及しているということは、ほぼ自明だ。

次に、Communications Decency Act だが、FCCのサイトにある1996年連邦通信法改正法そのものをみても、そこに "child pornography" という単語は出てこない。違憲裁判で問題になったのは、"obscene, lewd, lascivious, filthy, or indecent" あるいは "obscene or indecent" 、またあるいは "patently offensive" といったフレーズで、そこの obscene(わいせつ)以外は、憲法修正一条で保護される領域であって、不明確・広汎ゆえ無効ではないか、ということが問われた。わいせつとか児童ポルノについて原告は争っちゃいないが、そもそも児童ポルノについては刑法典のほうに処罰規程があり、CDAでは言及すらされていなかった。ただ、被告の連邦政府側は、obscene以外の規制も合憲だと主張するためにも、obscene でない児童ポルノについて主張したりしていた。だから、Reno v. ACLU連邦最高裁判決主文で、下品とか明らかに不快とか、そういうのを取り締まるための条文はそれ自体無効だけど、政府がわいせつや児童ポルノを取り締まる権限を否定したわけじゃないよ、というふうな形で言及されただけで、児童ポルノ自体は裁判の争点でもなんでもない。だから、この裁判ではそもそも児童ポルノの定義についての議論はないし、CDAは単純所持を取り締まる法律でもないので、CDAと2008年の日本における児童ポルノ禁止法改正の議論は、単に無関係とするのが正しい。なお、CDAの問題の部分がその後どうなったかというと、2003年のPROTECT Actで「わいせつか児童ポルノ」と並べる記述に改正して決着している。

その上で児童ポルノの定義についての話をしておくと、CDAと同じ1996年にChild Pornography Prevention Actという法律が通っていて、これで、いわゆる有体物縛りを外したんだけれども、それと同時に「バーチャル児童ポルノ」を児童ポルノに入れた。ここまでだと、ほらやっぱりbewaadさん正しい!と早合点しがちだが、単にCDAで争う範囲じゃないというだけ。別の訴訟としてCDA同様に最初から差し止め訴訟になった Reno v. Free Speech Coalition というのがあって、これで下級審・控訴審と争って、最後の連邦最高裁のときは政権交代があって司法長官が代わったので名称が変わりAshcroft v. Free Speech Coalitionとして2002年に「バーチャル」を取り締まるのは違憲だろと決着した。その後PROTECT Act で「実写と区別がつかないもの」と「わいせつ児童ポルノ(マンガ込み)」の処罰が盛り込まれて、後者の条文の「わいせつ」からはみ出した部分や単純所持禁止に違憲の可能性があるけど、まだ違憲性を争った具体例がないのは以前言及した。

こうやってちゃんと事実をおさえていくと、bewaadさんが、「ネット規制反対派の主張する内容に少なからず誤りがあり」とする具体例に、誤りと歪曲があると言っていいと思うし、正直、ちょっと酷いんじゃないかな、と思うんだ。町田徹氏の記事が間違ってるんじゃね?という話は、そもそも池田氏の記事の初期バージョンでも言及されていたし、私自身言及していたことではある。「反対派」の水準底上げが必要であることは否定しないが、そもそも世の中の議論で誤りを含む水準の低い議論をしてしまう人が一定数いることは避けがたく、たまたま一人が変なこと書いたから反対派バーカってのはなんだかな、という感じがするね。

多少追記しておくと、池田さんがCDAに言及しているのを、法案の具体的な中身、というふうにとらえてしまうと、若干問題があることになる。自民党の法案の中身は、その後のCOPAやその違憲訴訟の内容を研究して作ったことが明らかな内容だから。ただ、池田さんは、条文の細かい話よりは、アメリカがネットの「有害コンテンツの法規制」に取り組み始めた(そして失敗した)象徴としてCDAに言及しているので、そう読めばCDAへの言及は適切だろう。

2008/04/05

Permalink 18:14:25, by Nobuo Sakiyama Email , 23 words   Japanese (JP)
Categories: 検閲, 言論・表現の自由

選択か検閲か

最近、児童ポルノ禁止法改正案ネタを続けていて、そちらの話題がないわけではないのだけれども、民主党と自民党が広汎なネット規制法案を準備しているという話題がここにきて一気に弾けてきた。

私もMIAUの幹事として、関係資料に目を通せているのだが、前提として、この種の資料はすべて未定稿として複数のルートで一定の範囲に出回っていて、その性質上、細かいバージョンの違いがありえる。MIAU幹事は共通して見ている資料が存在するが、個々のMIAU幹事によっては異なるバージョンを見ている場合もありえ、また、ましてMIAU幹事以外と同じものを見ている保証もない。池田さんは町田氏が古い資料を見ているのでは、としているけれども、同じぐらいの時期の資料を読み違えている可能性もある、とも思う。池田さんが明示的に紹介されている条文については、番号と内容では一致していて本質的な違いはないが、より細かく書かれていて、命令違反に対する刑事罰は存在するが、それは情報発信者ではなく接続事業者やネットカフェ事業者に対するものとなっていて、渋井氏の高市議員インタビューと符合するものになっている。池田さんのほうが古くMIAUのほうが新しいと主張するつもりはない。が、いずれにせよ出回っているものは不確定要素がまだ多く、おそらく自民党内でも総務部会との調整で変更される可能性があるだろうから、細かすぎる部分についてはあえてふれずに、ここではおおざっぱに問題点をみていこうと思う。

「青少年有害情報」が曖昧・広汎かどうか、という点については、私のみているものは池田さんの引用しているものよりもやや細かい(すべてについて「〜という情報で、〜するもの」という形になっていて、前半に内容を限定 する文言が入っている)が、いずれにせよ曖昧・広汎だと思う。

サイト管理者については厳密には「削除義務」となることを避ける構成となっていて、「青少年により青少年有害情報の閲覧がされないようにする措置」となっている。しかし、「青少年でない旨の証明をしたものでなければ」閲覧ができないようにする措置というのは、それなりに厳格な本人確認を伴う会員制サイトでなければありえず、クレジットカード制のアダルト有料サイトならともかく、ごく普通のサイトの大半は達成不能、という意味では削除を求められるに等しいとは言えるだろう。もっとも、「フィルタリングソフトウェアによる選別に資するための措置」をとればそれでいいともとれ、こちらは、これがセルフラベリングなどを意味するのであれば、影響範囲や表現の自由の観点からの問題を脇に置いてみた場合、個々の情報発信者にとっての敷居はそれほど高くないかもしれない。サイトにアクセスを提供するISPについて、「知ったとき」に前述の措置を求めたり、(それが実施されない場合に)「青少年により青少年有害情報の閲覧がされないようにする措置」を自らとる義務が生じているのは、これは大きな問題になりうる。ISPとしては、わざわざ透過プロキシでも設置するのでもなければ、回線を切断するか、あるいはポート単位でブロックするほかないように思われ、「削除義務」よりも強い措置になる。

携帯電話フィルタリングについては、現在の総務大臣要請で実施されている携帯電話事業者による「原則化」、および、その後の落としどころを検討している総務省検討会での多くの努力を、強権的に上書きするものと読める。現状では、サービス利用の「未成年ユーザーへの原則化」であるため、告知を行って未成年契約者について保護者によるオプトアウトが認められているが、法案では「全ユーザーへの原則化」であり、18歳以上のユーザーで、かつ希望しない申出をした場合に限ってのオプトアウトとなる。つまり、自民党案では現状のオプトアウトについて「やっぱり許さん」というポジションとなる。保護者が許可することは禁止、ということになっている。これまでの関係者の多大な努力を水泡と化し、さらに、なんだかんだいって成人のほうが多いはずの全携帯電話ユーザーを多大なコストをかけて巻き込む、ということになっている。

さらに、パソコンの製造事業者へのフィルタリングソフトの「組み込み」の努力義務がかかっている。この「組み込み」は、現状の家庭向けパソコンでよくあるような、フィルタリングソフトの試用版のインストール用ファイルをデスクトップに置いておく、といったものでは済まないだろう。「組み込み」なのだから。これが、企業向けパソコンにも一律に適用される。企業の場合、ゲートウェイでフィルタリングする場合も多いだろうし、あるいはモバイル用途も考えて企業としてのポリシーを一律設定できるような企業向け製品をボリュームライセンスで購入して用いる場合もあるだろうし、あるいは全くフィルタリングを使わない場合もあるだろうが、いずれにせよ、製造事業者の「組み込み」のものは、不要か機能が重複するため無駄なものになる。組み込む以上は試用版では済まないだろうから、ハードディスクへの著作権補償金どころではない、調達コスト上昇要因となるだろう。この努力義務は、努力義務とはいえ、フィルタリングソフトやフィルタリングサービスの事業者への努力義務と併せ、「規定を遵守していない」事業者に主務大臣が「必要な措置を講ずるよう要請」することができるとしているので、かなり強い努力義務となっている。ここまで書かれてしまうと、ビジネス用途だろうが大人が使うとわかっていようが、OSをインストールしていないパソコンや、組み込み対象のフィルタリングソフトがないようなOSを組み込んだパソコンの製造・販売は、「コンプライアンス」上、ほとんど禁止に等しい状況になる。

そして、インターネットカフェでは、青少年の客に対して、フィルタリングソフトが有効となっている端末の提供義務のみではなく、「他から見通すことのできる客席」の提供義務が掛けられている。従業員からのみならず、他の客からも見通せる状態が要求されているとなると、青少年はインターネットカフェではプライバシーの期待は一切持つな、ということになる(従業員は雇用契約上の秘密保持義務を課すことができるが、客の間ではそれは無理)。

「青少年健全育成推進委員会」は、基準を定めるとされているが、委員会メンバーは内閣が選ぶ国会同意人事となっている。端的にいって「高潔な有識者」を選ぶものであって、ネット利用者や事業者の利害が基準策定に反映されるとは見えず、むしろそこから遠い場所で決めるものとなっていると思う。「青少年健全育成推進委員会」は独立した存在としてその基準に異議を挟む余地はなさそうだ(個別のサイトが直接に指定されるわけではないので、行政訴訟の対象にはならないのではないか)。

実際の個別の「青少年有害情報」(をめぐる意見の不一致からくる係争)を扱うことになる紛争処理機関は、裁判とは異なり、手続きが非公開とされている。紛争処理機関が「相当と認める者」に傍聴を許すことができるとされているが、何をもって相当とするかは明らかとされていない。「ネットの有害性」を喧伝する新聞記者や、ネット規制の推進を願う団体の構成員は、法律の目的と合致する意図を持つから傍聴が許され、一方、ネットの自由を擁護する論者は、法律の目的と合致しない意図を持つからと傍聴を許されない、といったことが、あるともないとも言えない。また、これに限らず、全体として、主務大臣(実務的には所轄官庁)に情報を集めるが、それを公開していく精神が、この法案には存在していない。青少年健全育成推進委員会は情報公開法の対象だが、紛争処理機関は民間機関なので対象外だ。具体的な紛争処理を通して、「有害性」がどのように認定され、あるいはされないのか、そういった情報を係争外の一般の人たちが知り、共有し、おかしいと思えば声をあげていく、そういったシステムはそこには存在していない。

こうして全体をみていくと、この法案は、やはり(広義の)検閲を指向していると言わざるをえない。トップダウンで画一的な基準が定められ、個別の紛争は非公開で処理され、表に出てこない。静かに、「有害」とされた情報の発信やアクセスが制限されていく世界を作ろうとしている。

対して、総務省のインターネット上の違法・有害情報への対応に関する検討会は、ここにきて、紆余曲折の末に穏健な落としどころに向かっているように見える。Internet Watchの報道などによれば、「『画一性・非選択性』から『多様性・選択性』へ」ということで、「ユーザーが個別ニーズに応じてカスタマイズを行なう」ことができる方向を打ち出している。個別のサイトのフィルタリングからの解除を含めて、中長期的に妥当な方向を打ち出している。私自身は、フィルタリングソフトやフィルタリングサービスの透明性の無さから、具体的な個別サービスに支持できるものはないが、(青少年と保護者をセットにした)「利用者の選択」をサポートするという方向で軌道修正されていくのであれば、そういう政策自体はおおいに支持に値すると考える。しかし、自民党案にせよ(若干趣きは違うが)民主党案にせよ、そこにあるのは多様な価値の尊重ではなく、特定の立場からみた価値の押し付けであって、保護者に選択することすら許さないものに見える。それは、検閲以外のなにものでもない。

2008/03/25

「親告罪」児童ポルノはスジが悪い

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楠私案についてそろそろひとこと言っておくか

楠さんの「ネットで子どもの安全を守る包括的な政策パッケージ私案」について、コメント。

「保護法益と政策目標を明確化して政策評価の枠組みを構築する」、というのには、なるほど、とは思った。モラルパニックを防ぐには持続的な評価や調査は不可欠だろう。ただ、そもそもが因果関係すら微妙な部分も少なくないのだから、そういう部分の基礎的な調査研究の枠組が必要だろう。

「有害コンテンツを廃止して違法コンテンツの範囲拡大を図る」というのは、やや疑問。まず、「有害コンテンツ」という言葉の定義の不確かさから、これはインターネットホットラインセンターでいう「公序良俗に反する情報」だと判断して話をすすめるが、基本的にこの種のものを「コンテンツとして」違法化するのは、表現の自由の観点から問題だと考える。インターネットホットラインセンターの分類は、「児童ポルノ判定を下し切れなかったもの」(これを違法化するという議論は児童ポルノの定義の議論に帰着すべき)を除くと、表現それ自体が問題だというよりは「違法行為を直接的かつ明示的に請負・仲介・誘引等」しているという、表現よりは行動としての面が問題になるので、「コンテンツ」だけで判断できるようなものではなく、極めて文脈依存なのであったりする(現状の「違法情報」でも、このようなものはあるが)。そんなものを一般に違法化しようとするのは無理があるだろう。インターネットホットラインセンターの統計では「公序良俗に反する情報」については大分類しか示されておらず細かい分類との対応が分からないのだが、そもそも一覧に「爆弾の製造法」とかあるのは、センセーショナルな「インタネットは有害だ報道」への対応という気がしなくもなく、実際に意味があるかというと微妙すぎるだろう。いずれにせよ、「明白かつ現在の危険」がありそうな情報については警察が個別の違法行為についての容疑(予備罪なども含む)で動かざるをえないだろうし、そうでもないものはどうでもいいだろう。幇助云々は、構成としては事業者に負わせる義務が重すぎるのではないか。現状、プロバイダ等への違法通報に対する対応義務が存在していない点を改善すれば足りる。

「サイバー犯罪の窓口機関を機能強化して民間事業者の参入を推進する」というが、とりあえずインターネットホットラインセンターは違法情報を含めた民間通報の受付窓口をやっているのだから、前提が少し間違っている。現状のインターネットホットラインセンターも、法律に基づいて設置されたわけではないから第三者参入を妨げるものではないが、どちらかというと窓口の乱立による混乱を防ぐ意識のほうが現状は先にあるのではないかとは思う。ただ、ポータルサイトやISPが総合ワンストップサービスを提供する意義はそれとは独立にあるとは思うが。とりあえず、インターネットホットラインの通報窓口の使いにくさはなんともいえないものがあるので、そういう部分は改善されるだろうし。ただ、違法判定部分について、違法情報の蓄積をしていかないと効率が上がらないだろうから、警察からの情報提供を可能にするという方向と、一定のセキュリティレベルを確保し反社会的な人間が運営に関与しないように縛りをかけるという方向と、両方の意味で法的に担保していくアプローチはあるだろう。出会い系サイト規制法の改正案に、「出会い系サイト」という限定領域での試みがある(天下り先増殖法に見える問題はあるが)。

「違法コンテンツへのアクセスに届出制を導入する」というのは、普通に考えて通信の秘密の侵害でアウト。たとえ情報発信が違法とされる内容でも、その全般へのアクセスや受信を原則違法化するのはダメだろう。「届出の行われた正当な業務目的」という縛りでは、その検閲への自由な検証は確保されえない。児童ポルノの単純所持違法化の議論も現在あるわけだが、仮に児童ポルノへの原則アクセス禁止を正当化できたとしても、それを「違法コンテンツ」全般に拡張するのは、無理があるだろう。

「ネット安全利用技術の評価手法を確立し有効な技術を推奨する」とのことだが、そもそもフィルタリング技術やゾーニング技術の「実現すべき機能や品質検証」の、どの程度までが価値中立なもので、どこから先が価値観に踏み込んだ領域なのか、という問題がある。前者の有効性は否定しないが、楠さんの以前の書き方をみていると、価値観部分に踏み込んでいるように思う。

「本人確認サービスを制度化し年齢属性証明の普及を図る」という部分は、事業者のビジネスを促す部分まではいいが、利用しないことに管理責任を問うというのは、やり過ぎだろう。年齢属性証明のない従来からの一般のコミュニティサイト(普通のブログも含むよ)を、そのままならつぶせといっているようなものだもの。管理責任を問うというのは、現実的な水準での対処ではなくて、大きな萎縮効果をもたらしうるだろうから。仮にSNSのようなユーザーコミュニケーションに重点のあるものをうまく定義づけるとしても、それはどうだろうというか。児童を中心とする若いユーザーが集まるコミュニティサイトに安心できる機能として加えていくという話であれば、それこそゾーニングとして、基準を満たしたサイトですよというラベルがついていればいいという話ではないのか。

全体として、「高めのボール」といっても高すぎるのではないか。そして、高くしようとして高くしたものの、それが効果的に高いというよりは、無駄に高いボールになっているような。

2008/03/21

Permalink 21:22:00, by Nobuo Sakiyama Email , 695 words   Japanese (JP)
Categories: 言論・表現の自由, 児童ポルノ問題

ECPATはいかにしてユニセフをたらし込んだか

今回の児童ポルノ禁止法改正への動きの中で、なんとも不思議なのは、日本ユニセフ協会自身の発表などの中で、じゃぁいったいどうやって単純所持処罰や「子どもポルノマンガ・アニメ」の禁止がEUと言わずより国際的な枠組の中で基礎づけられうるか、ということが、ぼんやりとしか述べられていないことだ。

ということで調べてみた。まず、直近には、昨年12月に国連総会で "Rights of the child" という決議が採択されている。決議本文総会議事録がPDFで取得できる(親ページからリンクをたどらないとアクセス拒否されるかもしれない)。このによれば、投票が行われて、賛成183、反対1(U.S.)、棄権0(他欠席がある模様)となっている。審議が行われたのは総会の第三委員会というところで、そこでの総会に上げるための議決では、賛成176、反対1(U.S.)、棄権0(欠席あり)となっている。委員会のプレスリリースによれば、アメリカの反対は、趣旨ごもっともだが親子の権利バランスなどについて国内法と整合性がとれない、要らんことを書きすぎてるのでそういうことになったよ、というものであった。日本は賛成しているが、起訴便宜主義について、決議が法執行を強めることを求めていることに矛盾するものではないよ、という断りのコメントを残している。具体的には、決議で

Elimination of violence against children

57. Urges all States:

(a) To take effective and appropriate legislative and other measures or, where they exist, strengthen legislation to prohibit and eliminate all forms of violence against children;

Rights of Children: United Nations General Assembly ARES/62/141/

と言っているが、これは全部を例外なく起訴しろという意味じゃないよ、と確認している (諸外国の法制度では、特定の犯罪で起訴しないことを認めなかったり、 法定の下限を下回る量刑を下すあらゆる情状酌量を裁判官が行うことを認めなかったりする条文が存在する場合があり、児童ポルノはじめ児童がらみの性犯罪が対象とされる場合があるが、それは日本ではやってないが決議には反しない、ということ)。前に言及した、日本ユニセフ協会要望書の(4)での処罰強化要求は、日本の司法における、こうしたスタンスへの圧力だと考えられる。

決議全体は、児童の権利や、児童に対する暴力全般についてのものでかなり広い内容だが、児童ポルノについては 以下のように、児童ポルノだけではなく、児童買春やその他もろもろについて、そういったことを目的としたインターネットやその他の情報通信技術の利用についても犯罪化を求めているし、「顧客」を罰するように求めている。 国際的な情報通信企業の責任について言及する項目もある。

Prevention and eradication of the sale of children, child prostitution and child pornography

38. Calls upon all States:

(a) To criminalize and penalize effectively all forms of sexual exploitation and sexual abuse of children, including all acts of paedophilia, including within the family or for commercial purposes, child pornography and child prostitution, child sex tourism, trafficking in children, the sale of children and the use of the Internet and other information and communications technologies for these purposes, and to take effective measures against the criminalization of children who are victims of exploitation;

(f) To combat the existence of a market that encourages such criminal practices against children, including through the adoption, effective application and enforcement of preventive, rehabilitative and punitive measures targeting customers or individuals who sexually exploit or sexually abuse children, as well as by ensuring public awareness;

(g) To give priority to the identification of norms and standards on the responsibilities of transnational corporations and other business enterprises, particularly those involved in information and communications technologies, related to respect for the rights of children, including the right to be protected from sexual abuse and exploitation, particularly in the virtual realm, as prohibited by the relevant legal instruments, and to outline basic measures to be taken for implementation;

Rights of Children: United Nations General Assembly ARES/62/141/

一方、「子どもポルノマンガ・アニメ」だが、この水準の決議文では、そもそも"child pornography"が具体的に何か、という中身について明示的に言及されることはない。「児童の売買、児童買春及び児童ポルノに関する児童の権利に関する条約の選択議定書」を参照しているが、そこではあくまで「現実」か「擬似」であって、マンガ・アニメは(普通に読めば)含まれない。上記(g)では、"virtual realm"での児童の保護もうたっているが、普通に読めばこれはネット上の仮想空間で活動する現実の児童を性的に誘い出したりすることの問題(child groomingとよく呼ばれる)であって、マンガやアニメを問題にしているとは読めない。もっとも、上記引用の84(f)での「市場の存在と闘う」ために、という単純所持処罰につながりうる条項を拡大解釈して、「マンガ・アニメ」も児童ポルノ市場の存在の撲滅のためには叩かなければならない、というふうに、読みたい人は読むのだろう。

この決議が今回、日本ユニセフ協会から紹介されないのは、まぁ、アメリカが反対した決議であり、キャンペーンがアメリカと組んでいるという事情かな、ととりあえず推測しておく。ちなみに、同様の決議は、2006年度の国連総会でもA/RES/61/146として可決されていて(こういうのは年を追って膨れ上がっていくのが相場で、例えば上記に引用した(g)の項目に該当するものは入っていない)、やはりアメリカだけが反対していることが2006年度の決議一覧をみていくと確認できる。もっとも、細かい内容はともかく、決議は毎年やっているようで、とりたてて言うほどのことでもない、という可能性もある。

さて、実はここまでは本題ではない。こうした決議が積み重ねられていくにあたって、国連は気まぐれでやっているわけではない。こういった決議は各種の調査研究事業と結びついていて、決議の中でも具体的に言及される。今問題にしている領域では、昨年の決議では、Promotion and protection of the rights of children (A/62/209)という事務総長覚書に言及している。これは、2005年まで行われていて2006年に国連総会で報告された、The United Nations Secretary General’s Study on Violence against Childrenという調査報告のフォローアップがその内容で、2006年の決議では、調査報告それ自体に言及している。

この調査事業は、Paulo Sérgio Pinheiroという人物を独立専門家としてトップに据えて行われたもので、UNICEF本体もサポート団体のひとつとなっている。こういう事業には、多くのNGOが積極的に参加して報告や提案を上げていくものなのだが、ECPATはこの調査事業における、主要なNGOの一つだ。こうした活動を通して、ECPAT/ストップ子ども買春の会が、マンガ・アニメ叩きの方向性で、日本ユニセフ協会が組織として乗っかれるだけの筋を通す働きかけをしたのではないか、と私は踏んでいる(日本ユニセフ協会自体をアレとする向きもあるけれども、一応ユニセフの看板を背負った公益団体としては、組織論理としての筋の通らないことはできないはずだし、広告塔であるアグネス・チャンの個人的意向でこうなっているわけでもないと判断するべきだろう)。

まず、調査報告について、調査報告書本体から見ていくと、そこでの中心は途上国の深刻な児童へのさまざまな暴力が話題の中心であり、日本とかマンガ・アニメとかは、そもそも存在の余地もない。また、より詳細な報告となるWorld Report on Violence against Childrenでも、マンガへの言及はない。しかし、話はこれでは終わらない。

この調査事業にあたっては、各国政府に質問表を送ったり、世界各地でさまざまな会議を開いたり、Public Submissionといってペーパーを受け付けたり、といったさまざまな形でのインプットが行われた(これ自体は、この種の調査報告としては普通)。そのひとつ、東アジア・太平洋地域会議がここでの話題に関係する。調査事業本体としての会合は、2005年6月14日から16日にかけてタイのバンコクで行われている。子どもとユースのフォーラムが11日と12日。そして、これらに挟まれる形で、Violence against Children in Cyberspaceという、ECPAT International主催のテーマ会合が持たれている。バンコクは、ECPATの本拠地ということで、全体としてECPATの仕切りで会合が行われたわけだ。

地域会合の結果報告の45ページをみると、次のような内容がある。Violence against Children in the Cyberspace and Online Environment というセッションの報告になるが、Dr. Ethel Quale のプレゼンとして、

Dr. Quayle’s presentation focused on sexual violence against children in and via virtual settings, with particular reference to depictions of child sexual abuse (child pornography). She noted that the criminal justice system’s general response has been to focus on the offender rather than the victim. Meanwhile, agreement is lacking within and between communities on definitions, laws and perceptions of what is appropriate, such as when children are sexualised within mainstream media or where abuse images remain legal, as in the case of some manga products in Japan.

Report on The East Asia and Pacific Regional Consultation on Violence Against Children

と、日本のマンガに焦点をあてている。さらに続くセッションの議論をまとめた文章では

The group noted that child pornography includes the recorded abuse of a real child, for example, through photographs, as well as digitally altered images and illustrations such as Japanese manga.

Report on The East Asia and Pacific Regional Consultation on Violence Against Children

と、この認識を共有しあう形となっている。これを問題とする論調は、サマリーレポートの18ページにもある。このセッション自体は、ECPAT/ストップ子ども買春の会のメンバーはそもそも出席していない。しかし、既に述べたように、直前にECPAT主催のテーマ会合がくっついていて、参加者も重なっている。そこで、ECPAT仕切りの「サイバースペース」テーマの会合がどんなだったか、ということになる。

サイバースペースのテーマ会合には、ECPAT/ストップ子ども買春の会のサイトによれば、宮本潤子共同代表とともに、綱野合亜人氏(当時18歳)が参加している。このテーマ会合のECPATが開催にあたって設置したページにある、Concept PaperやKey Issuesといった、事前に用意されたマテリアルには、「マンガ」という言葉は一切出てこない。それが出てくるのは、報告書のほうになる。この報告書も、上で述べてきた国連調査事業のPublic Submissionに提出されている。

さて、このECPAT報告書でマンガがどう扱われているかだが、非常に興味深い、というかアレである。32ページに次のように書かれている。

In some countries, material known as ‘virtual pornography’ is legal and big business. In Japan, for example, a report analysing developments in the country’s computer contents market (including software and publications such as comics) gives an indication of the business value of child abuse illustrations and cartoons in some anime or manga materials. The analysis estimates the market for moe products (books, images and games), which are related to anime and manga, was worth 88.8 billion yen (US$800 million) in 2003. The term moe is used in a neutral sense for economic analysis. But taken literally it refers to a fetishist sexual attraction that some fans of computer games, anime and manga have for female child characters, who may be depicted in pornographic and erotic contexts within games, animations and illustrations. Moe web pages sometimes link to other pages containing images, stories and chats in which very young characters are the objects of sexual violence, abuse and fantasy. A proportion of the moe market may therefore be regarded as related to child sex abuse images. The report expected the market for moe products to expand.

Violence against Children in Cyberspace

ここで参照されている「萌え」レポートは、浜銀総合研究所 信濃伸一氏による2005年4月1日発表の「少子化などにより伸び悩むなか新しい動きがみられるコンテンツ市場」−2003年のコンテンツ市場における「萌え」関連は888億円というレポートだ。このレポートを、ECPATは、まるでそれが、児童を性的に虐待することから日本が莫大な経済的利益を得ようとしているかのような印象を与えるべく紹介している(印象を与えようとしているだけでそう言っているわけではないが)。ここでの攻撃は「子どもポルノマンガ・アニメ」といった枠ですらなく、「萌え」というコンセプト自体に向けられている。こうした論調が、地域会合での「マンガ」言及につながっている。

この論調は、地域会合後のフォローアップ事業として立ち上げられたViolence Against Children East Asia and the Pacificというサイトのオンラインニューズレターでも同様である。これの第4号がECPAT責任編集のサイバースペース問題となっているが、これの4ページに、20歳となった綱野合亜人氏が登場して、意見を述べているが、ここではメイド喫茶、オタク文化といったものが児童の性的虐待を促すものとして否定的に紹介されている。

このように、ECPAT/ストップ子ども買春の会のマンガ・アニメ叩きが国際的なNGOやユニセフのメンバーからなる対児童暴力防止運動の流れの中で一定の賛同を得て、今回の日本ユニセフ協会のキャンペーンでの「準児童ポルノ」違法化の要望へとつなげた流れが、(宗教保守的なブッシュ政権下のアメリカからの流れとは別に)ある、のだと私は考える。とにもかくにも、彼らは極めて熱心に日本のマンガ・アニメカルチャー、にとどまらず、萌え・オタクといった文化領域に、継続的な攻撃を仕掛けてきていたのだ。

Permalink 01:14:34, by Nobuo Sakiyama Email , 1 words   Japanese (JP)
Categories: Blogすること, 児童ポルノ問題

お知らせ: 「児童ポルノ問題」カテゴリを作りました

児童ポルノ禁止法改正がらみの話でのエントリが増えたので、専用カテゴリを作って過去の記事で該当しそうなものは入れておきました。どこぞのwikiとかでここにリンクをはっているケースはこちらが従来カテゴリより便利だと思うのでご活用ください。

2008/03/20

Permalink 22:36:20, by Nobuo Sakiyama Email , 17 words   Japanese (JP)
Categories: 監視社会, 児童ポルノ問題

日本ユニセフ協会の要望は子どもの権利を考えているのか?

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Permalink 03:30:00, by Nobuo Sakiyama Email , 10 words   Japanese (JP)
Categories: 監視社会, 児童ポルノ問題

単純所持問題はいったいどう考えたらいいだろね?

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