危機と好機は同時に訪れているのかもしれない

2006/11/26

Permalink 02:01:58, 著者: Nobuo Sakiyama Email , 2816 回閲覧   Japanese (JP)
カテゴリ: 言論・表現の自由, 児童ポルノ問題

危機と好機は同時に訪れているのかもしれない

先日、バーチャル社会のもたらす弊害 から子どもを守る研究会が、ついに表現規制に言及し始めた、として話題となっている(例えば山口貴士弁護士のところなど)。

たしかに、山口さんが言及しているように前田雅英座長の発言に極めて問題が多いことには、完全に同意する。ただ、危機ばかりを見つめるだけでは、果実は得られないような気がしている。

この研究会は、あくまでも警察庁の研究会に過ぎないので、携帯電話フィルタリングの件で見られるような自主規制強化のプレッシャーをかける場として使われることはあっても、法務省の法制審議会のように法制化に直結させる場とは、本来されていない。そのかわり、やや「ぶっちゃけた」と言っていい話もされていて、前田座長のさまざまな問題発言も、全てではないにしてもかなり強力に反論されていたりはする。そういう意味では、単なるセレモニーの場ではない。そういう強力な反論をできる人々を委員にもってきた事務局の意図というのを想像すると興味深い。警察庁生活安全局長である竹花豊委員も、その領域は確実にアウトだろ、という案も出しているが、この段階では、憲法的制約も忘れたふりをしてあらゆる選択肢をあげてみたよ、ということをやっているだけにも見える。たとえば、共謀法案を含む刑法・刑事訴訟法の改正議論をやっていた法制審議会刑法部会のサム(くならざるをえな)い議事録に比べれば、かなり生き生きした議事録だと思う。

この議事録を読むと、はっきりそうは言っていないのだけど、もう警察は「わいせつ」表現を取り締まることに「厭き」があるのではないか、そう思わざるをえない。「わいせつ」表現の概念は、彼らは刑法にそれがある以上は、その領域を見極めて法執行していく立場にある。USのように実質的にフリーな状況に判例上なるのならともかく、日本の判例はそうはなっていない。そして、「わいせつ」表現かどうかを問題にしたところで、それは、(ある種の性的な)表現の流通が規制されていてほしいという人々の要望とズレてしまっている。それが「創作物規制」と山口さんが表現しているものへの検討になっているのではないだろうか。 とはいえ、「もうわいせつ表現取り締まりなんていらないんじゃね?」とは、警察庁からは言い出せない話ではあるし、性的表現の自由化が気に入らない前田座長なので、規制強化の方向の議論になってはいるが、事務局説明などからは、現状の判断基準が国民のスタンダードに照らして緩すぎるか厳しすぎるかのどちらの方向にも判断できるものがないことについて問題意識がある、という状況が伺われる。

ここでいったん、別の話に移る。境真良氏の「中国の消費者を海賊版から救いたい」という話。中国の厳しいコンテンツ規制が正規版供給を拒む結果、海賊版が横行する原因のひとつとなっている、という話で、

日本政府は、単に中国政府の海賊版対策不足を責めるのではなく、同時に、正規版商品の流通規制を行っていることの海賊版保護効果を指摘しなければならないと私は思う。

境真良(実名登録)の“とりあえず、前進!” - 中国の消費者を海賊版から救いたい

としている。実は、この議論とまったくパラレルな議論が「エロの敵」(安田理央・雨宮マミ)に載っている。いわゆる裏ビデオの話で、藤木TDC氏の議論を引用して、いわゆる逆輸入物(日本から海外向けに制作・輸出されたポルノビデオが、日本国内に再輸入・不許諾複製されて裏ビデオとなるもの)や輸入物の裏ビデオがメーカーなどの権利を侵害しているため、すでに抗議の声があがっている、という話が紹介されている。中国に正規版流通に向けて規制の「調整」を求めるのであれば、日本も当然、規制の「調整」を求められるだろう。

こういう議論をまじめにすることで、刑法175条のわいせつ物頒布罪をなくしていく、という方向を考えることができるんじゃないかと思うのだがどうだろう?この場合、単に条文を削除して流通を自由にする、という議論にはならないと思う。少なくともゾーニング(法規制なのか自主規制なのかはともかく)によって、既存の生活空間の秩序が崩れない担保が求められることは間違いない。また、「被写体が18歳未満かどうかよくわからない」がゆえに児童ポルノ禁止法ではなくわいせつ物頒布で摘発されてきたような領域について、2257 Regulationsのような規制を用いてカバーしていく必要があるかもしれない。いずれにせよ、「今まで通りか、強化か」ではなくて、表現規制の状況全体を変えていけるチャンスが実はあるのではないか、と思ったりするのだが、これはあまりに楽観的だろうか?

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