通報を処理しきれない警察という観点からコンテンツ規制をみる

2007/01/02

Permalink 01:58:57, 著者: Nobuo Sakiyama Email , 3943 回閲覧   Japanese (JP)
カテゴリ: 検閲, 言論・表現の自由, 児童ポルノ問題

通報を処理しきれない警察という観点からコンテンツ規制をみる

すでに昨年のことになるが、 「危機と好機は同時に訪れているのかもしれない」というエントリをこのブログに書いたのだが、あまり反応が無かった。考えてみれば、あまりに一次情報の少ない憶測的な内容だったので、そういうものだろう。そのエントリで書いたことの根拠は、実は他にもあったのだが、それを明かすことについてはまだ躊躇する事情があった。しかし、状況が変わったので、もう少し突っ込んで書いてみようと思う。

警察庁のサイトで総合セキュリティ対策会議平成18年度第1回総合セキュリティ対策会議(平成18年7月5日)発言要旨、及び平成18年度第2回総合セキュリティ対策会議(平成18年9月15日)発言要旨というものが、12月18日に公表されている。いずれも主要議題は「インターネット・ホットラインセンター」 についてである。個人的に注目するべきと感ずるのは、生活安全局長の竹花豊氏の次の発言であろうか。

○ 局長 違法情報として情報提供を受けたものについては、犯罪として適切に処理することが重要であると考えている一方で、捜査においては人的な制約もあり、より悪質なものを摘発するという方向で考えていかなければならない。ホットラインセンターから通報を受けた違法情報について警察がどう対処したのか、また、捜査上も大きな役割を担っているといったことについても、報告できればと考えている。

平成18年度第1回総合セキュリティ対策会議発言要旨

○ 局長 ホットラインセンターの運用状況に関する報告を受け、違法情報の捜査がなかなか簡単には進まないという現状を考えると、捜査に必要な証拠保全をできるだけ早く講じ、それが終了したものについては迅速に削除を依頼するといった方向での検討が必要であると考えている。

他方で、ホットラインセンターからプロバイダ等に削除依頼を行った情報の中には、削除されないまま放置されているものもあることから、こうした点についても検討した上で、それなりの対応を講じられるようにしていくことが、ホットライン制度の重要なポイントではないだろうか。

平成18年度第2回総合セキュリティ対策会議発言要旨

○ 局長 ホットラインセンターとして措置を取ったものが1万1,309分の1,000件足らずという状況であり、通報された方が、通報しても何ら措置がなされないということを感じ始めると、ホットラインセンターの活動が先細りになっていくという懸念もある。

やはり、通報内容を分析し、できるだけ取り上げられるようにしていくという工夫もあってもいいのではないか。

平成18年度第2回総合セキュリティ対策会議発言要旨

会議の発言要旨はこの後の回のものはまだ公開されていないが、ホットラインセンターでの措置については次のようなニュースが12月31日にあった。

インターネットの接続業者などが平成18年6月に設立した「インターネット・ホットラインセンター」は、(中略)この半年間にセンターに通報があった違法なホームページは、あわせて2226件で、(中略)このうち、国内のサーバーを使用していたホームページについて、センターが警察に届けたりサーバーの管理者に削除を要請したりした結果、3分の1以上の860件余りが削除されたということです。

NHKニュース: ネット違法情報 2200件超

このニュースのなかで、ホットラインセンターの運営にかかわっているWEB110の吉川誠司氏は「3分の1以上」という数字について、予想以上に削除された旨の発言をしていた。

さて、ここで冷静に考えてみてほしいのだが、ホットラインセンターの取扱対象とされる「違法情報」は、違法であることが比較的自明なものであるはずだ。それが警察に通報され、証拠保全ののち、あるいはそれとともにISPなどに通報されて削除される、ということが残りの3分の2あまりについては、行われていないのだ。ホットラインセンターではIPアドレスベースで国内サイトであることを確認して取り扱っているので、ネット特有の越境性、といったことはこの場合には理由にならない。

結局のところ、この通報が警察の現場の対応能力を越える通報件数をもたらしているのではないか、という状況が疑われる。竹花局長が「違法情報として情報提供を受けたものについては、犯罪として適切に処理することが重要であると考えている一方で、捜査においては人的な制約もあり、より悪質なものを摘発するという方向で考えていかなければならない。」と述べているのだが、この優先順位付けが大量通報によって損なわれているのではないか、という問題である。

これらの資料は12月に公開されたのだが、ホットラインセンターの統計情報から個人的には早い時点からホットラインセンターの大量処理の問題を疑っていた。ということで、ホットラインセンターの通報がどの程度機能しているのか、すでに試していた。具体的に通報してそのプロセスをみれば、ある程度見えてくるものがあると考えた。

10月下旬に、PC・携帯電話両用のレンタル画像掲示板サービス(国内設置)を利用した掲示板で、児童に裸体をさらすように誘う書き込みが行われていて実際にそういう状況が存在するサイトを5つ探した。どう探したかは明示しないが、Googleの検索で容易に発見できるようなものである。サービス事業者は3つで、掲示板のうち3つがひとつの事業者のもとにあった。仮に掲示板A1,A2,A3,B1,C1、としておく(A,B,Cはサービス事業者種別)。通報には、一目で女児の裸体や性器であるとわかる画像URLを明示しておいた。これらのうち4つが違法情報として警察に通報、という判定となり、残り1つ(A1)は有害情報扱いに留まった。警察へ通報されたもののうち1つだけ(B1)は数日して削除されたが、残りはいまもって現存している。一部の画像のみがピンポイントに削除されたというようにも見えない。なお、B1の運営者は別途事業者Aのところに同趣旨の掲示板A4を運営していたが、B1の削除とほぼ同時期にA4の設定を変更している(A4の使い勝手が悪い、という趣旨でA4の新規投稿許可を停止した上でB1を使っていたようだが、そのロックが解除されている)ので、検挙されたようでもない。なお、事業者AのサービスのドメインについてGoogle検索を行うと、今もって同種の趣旨の掲示板がときたま作成されている状況が確認できる。運営者はいずれも匿名だが、自分について成人を名乗っているか高校生や中学生を名乗っているかについてはさまざまであるようだ。

これらが「悪質」であるかどうかはわからないが、昨年の秋までには、児童が脅迫されて自分で撮った裸体を脅迫者に送るであるとか画像掲示板に掲載するであるとかいった事件がいくつか摘発されて報道もされていたはずで、表面上にそういう状況が見えていなくてもそういうことを疑う必要はあるだろうし、あるいは脅迫などなくても児童が自発的に、ないし掲示板に書き込む人々のリクエストに乗せられて裸体や性器を撮っては載せていく状況というのは、強制的な介入が行われて児童は適切に保護されるべきはずだが、とりあえず放置され続け、というのが現状である。「児童ポルノ」ではない、大量の「わいせつ」についての通報のせいじゃないだろうか?と個人的には疑うところ大である。まぁ、こういう話を含めて、「危機と好機は同時に訪れているのかもしれない」に書いたような話を、じつは11月に少し人前で話したのだけれども、ホットラインへの通報云々は、考慮するところがあって警察庁やホットラインセンターからの情報がある程度出るまではおおっぴらにはしていなかった。警察自らやホットラインが通報処理をこなせてないよという事実を公表するまでは、面子潰しともとられかねない内容だったし。

さて、こういう状況をふまえて、その上で、総合セキュリティ対策会議よりも少し先をみているバーチャル社会のもたらす弊害から子どもを守る研究会におけるような、「わいせつ規制」から「子どもを守る」へのシフト、というのを、うまく使っていけるか、というのは、重要なポイントだと思っている。研究会の最終報告書について、山口貴士弁護士が「ダイレクトに法規制という方向に行かなかったことは、進歩であり、一定の評価には値します。」としているけれども、ポイントはそこだけではなくて、第6回での前田雅英座長の

従来は刑罰を科すには、保護法益として何か犯罪抑止につながるとか実効性のあるものしか犯罪にしちゃいけないという議論があったんですけど、必ずしもそうじゃないんじゃないかと。みんながまずいと思って、みんなでやめようよと。やめさせる手段として刑罰が有効なら刑罰を使うというのも1つあり得るんだと思うんですけどね。

バーチャル社会のもたらす弊害から子どもを守る研究会 第6回議事要旨

といった極めて問題のある持論については徹底スルーして盛りこまれていないあたりも重要であろうと思う。「子どもを守る」という(わりと具体的な)保護法益をベースにすることが崩れなければ、因果関係を議論の対象とできるからだ(これが「美しい国であるために」とかだと困っちゃうわけです)。ちなみに、山口さんはカタルシス論に言及していないことについて疑問を呈しているけれども、カタルシス論は第6回で言及があった上で、第7回のゲストスピーカーの渋谷明子氏(委員の坂元章氏との共同研究あり)によって、

5番目のカタルシス理論は全く逆で、フラストレーションを発散し、攻撃行動が抑制される、これはある意味でいいことだとされています。

研究者の間では5番目は正直現在のところ余り問題にされていません。

バーチャル社会のもたらす弊害から子どもを守る研究会 第7回議事要旨

と切り捨てられ、これに坂元氏(とみられる委員)が

他にも、幾つか付け加えさせていただきたいんですが、渋谷さんから、社会的学習説すなわち暴力シーンが暴力性を高めるという説と、暴力シーンがかえって暴力性を低めるというカタルシス説の対立のお話をされました。カタルシス説を研究者は余り相手にしていない、評価していないというお話をされたわけですが、実際にカタルシス説を支持するような研究の方法に問題点があることが研究者の間で指摘され、評価されなくなって参りました。

また、一つの説明として見られますのは、カタルシス説で言うようにフラストレーションが低下して、その結果、暴力性が低下するということがあるとしても、欲求不満の低減というのはあくまで短期的なことと考えられます。それに対して社会的学習説で言っているような価値観の学習、すなわち、暴力というのは悪いものではないとか、暴力で問題解決をすることは有効であるということを学習するとは長期的なものであって、大事なのは結局長期的にどうかということになりますから、最終的に社会的学習の方を重視すべきではないかという見方があるようにも思います。

バーチャル社会のもたらす弊害から子どもを守る研究会 第7回議事要旨

と補足しているので、カタルシス論に言及しないのは研究会の結論としてはいわば当然ということになる。従って、カタルシス論を肯定的に認めされるには今後それなりの努力が必要だし、あるいはカタルシス論を前提しないでロジックを組み立てていく必要もあるだろうと思う。

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コメント: - [訪問者]
とは言え、社保庁問題のfault treeにいきなり自治労を出してくるような方を相手にするわけだから、せんないですなぁ。
Permalink永続的リンク 2007/01/02 @ 16:57

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